「──逃亡したクーズ帝国軍将兵はロデニウス大陸北東の群島を根城に海賊となって皇国船を襲撃、フェン、ガハラの漁村を襲撃しているとの事……
そしてその逃亡兵をロウリア軍が大量に引き入れ、中には砲艦ごとロウリア軍に引き入れられた模様です」
「簡単に言ってくれる! 我々すら渡せていない砲艦や兵器を引き入れて奴らは増長しているのだぞ‼」
イノスは汗をかきながらパルソを叱咤する。先程パタジンに対しクーズ帝国将兵を傘下に入れたとしても皇国の指示に従うよう忠告をしたところ柄に手をかけながら気にも留めないというような返事をしてきたのだ。
「……くそ! このまま戦争が始まってしまえば利益がどうとか以前に邪魔者として殺されかねんぞ!」
既にロウリアという名の弾み車は、クーズという想定外の力により国家戦略局の手に負えない存在となっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ロウリア城 ハ―ク城
「パタジンよ、害獣駆除……もとい大陸統一戦争についての作戦はどうなっている」
松明が揺らめく薄暗い作戦室で国王ハ―ク・ロウリア34世は白銀の鎧に身を包んだ将軍パタジンに問う。
「はッ、現在クワ・トイネ国境の町、ギムの町に向けて砲撃を行っており、開戦と同時に侵攻します。そして同時刻にマイハーク港をクーズ帝国軍を含めた5000船の軍船によって攻撃、占領致します」
「勝算はあるのか? ETO軍の事もあるが」
「唯一の懸念はそこですが、現在ETO軍は旧クーズ領の治安回復に出払っており、クワ・トイネの援軍として来るのは時間が掛かる事と思われます」
「うむ、では勝利は間違いないのだな? ……今宵は我が人生最良の日だ! クワ・トイネ、クイラ両国に対する戦争を許可する!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「なに……ロウリア王国がクワ・トイネ公国に宣戦布告……既にギムとマイハークが陥ちただと……! ああぁ……」
「陛下! お気を確かに!」
突如として訪れた報に思わず私は座り込んでしまう。
(なんという事だ……話が進み過ぎている!)
パーパルディアが原作での破滅を防ぐ為に、穏当な手段で周辺国家を纏めようと奔走したつもりがあろう事かロデニウス大陸の戦争が五年早まってしまうなんて!
私は立ち上がると水を飲んで気持ちを落ち着かせる。
「ETO加盟国として早急に援軍を出さればならない。今、軍はどうなっている」
「はっ、現在ETO軍は旧クーズ領の治安維持、賊の掃討に出ており、今からではとてもではないですが十分な数の軍は遅れません。皇国本軍ですら風神の涙を全力でかっ飛ばせば何とかという……」
くそォ……どうしたもんだか……このままだとゼロ戦がぶっ壊されちまうぞ……それこそ船が飛ぶ勢いで兵士を送らねば……船が……飛ぶ……!!!!!!!!!!!!!!!!
◇◆◇◆◇◆◇◆
占領されたマイハーク港は現在、ロウリア軍の基地がおかれワイバーンによる哨戒を行っていた。
そんな中、騎士はあり得ないものを目にしてしまう。
「なんて事だ! 船が飛んでいるぞ!」
騎士は魔信に手をかけるも……
「……ッ! ワイバーンロードッ!」
「はッはッはッ!! これはなかなかに爽快だな!」
アルタラスから合流した竜母のワイバーンロードを引き連れて五隻の飛空船はマイハーク上空を駆け抜ける。
「急げ! 一刻も早くエジェイに援軍を届けるのだ!」
「クッソ! 皇国め! 貴重な飛空船を札束でぶん殴りやがって!」
皇国軍の司令官に飛空船の艦長は悪態をつく。
そう、ルディアスはパンドーラ大魔法公国の飛空船を買い取ったのだ。
パンドーラから発った飛空船はエストシラントで兵を乗せ、アルタラスで補給の後エジェイへ向かった。
金と魔導石を湯水の如く使った為通常よりもスピードが出ている、というよりこの戦いで使い潰すつもりだ。
「駄目だ旦那! このままじゃ魔導回路が焼き付いちまう! 帰れねぇぞ!」
「構わん!! エジェイに着けばそれでよい!」
「狂ってやがる!」
歓声を上げるマイハーク市民をよそに空中艦隊はエジェイへ向かう。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「見えたぞッエージェイ山だッ! おぅおぅロウリアの奴らもいるぞ!」
エージェイ山の眼下に聳える城塞都市エジェイが見える、そこから少し離れた所にロウリア軍の陣地も見えた。
「……よぉし。奴らまだ陣地から出ていない様だな……全艦、陣地を取り囲め!」
飛空船は陣地を中心として取り囲むようにして飛ぶ。
ジューンフィルアはこの光景に体を震わせ狼狽する。
「……空中戦艦パル・キマイラ! 完成していたのですか!」
伝え聞いた魔帝の超兵器が来たと勘違いしていると、飛んでいる飛空船が砲撃を行ってきた。
「うわぁ!!」
魔導砲による上空からの砲撃は圧倒的優位だった筈のロウリア軍を恐怖のどん底に叩き落すには十分すぎた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「……空中戦艦パル・キマイラ! 完成していたのね!」
マイハークの戦いで這う這うの体で撤退し、エジェイに合流していたイーネは呟く。
地上の兵は手出し出来ずに逃げまどい、空から魔導砲を打ち込み陣地を地獄に変えるその姿はまさに終末そのものだった。
「見ろ! ロウリアの奴ら逃げていくぞ!!」
兵の歓声が城を包む。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「旦那!! もう無理だ! 回路が焼き付いた! 落ちるぜ!!」
「滑空して奴らの陣地のど真ん中に降りろ!! こうなりゃ地獄まで付き合ってもらうぞ!」
艦長は祈りを捧げると帆を操り逃げるロウリア軍の進路上に胴体着陸するように指示を出す。
既に近くの川に向かおうとしている船や退却している船がいる中、司令官の乗せた船はロウリア軍に向かっていく。
既にジューンフィルア亡き侵攻軍はギムへと撤退していたが、そこに覆いかぶさるように飛空船が墜落してくる。
挽肉にされていく兵士たちによって船底は真紅に染まる、そして半壊しながらも飛空船は即席の砦へ変貌し、逃げ惑うロウリア軍に砲撃を浴びせる。
その様子を見ていたノウは暫く唖然としていたが、これを好機とみるや騎兵隊による追撃を命じる。
門が開け放たれるや否や騎兵隊が洪水の如くロウリア軍残党に襲い掛かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「エジェイ防衛には成功した……しかしマイハークもギムも未だロウリアの手中だ……クーズ領の問題も残っている」
私は今回の防衛戦の報告書を確認していた。今回出した飛空船は想像以上の効果を発揮したと言えよう、ロウリア軍の活動が完全に沈静化している。まさかあんな方法で援軍を送り込んでくるとは思わなかっただろう。
「今頃お風呂34世は風呂でおしっこでも漏らしているんじゃないかしら」
ハハハと笑うと扉がノックされる。
「皇帝陛下、レミール殿下がお見えです」
「……こんな時間に?」
既に零時を超えている時計を見ながら入室を許可する。
「レミール、何か急用でもあったか?」
「……いえ、その、ここ最近陛下が働きづめでわたくし心配で……」
「ああぁ……」
そういえばルディアスは先代の仕事を摂政としてこなして過労で倒れた可能性があるとか言ってたっけ。
「わたくし、ルディアス様がまた倒れてしまったらと思うと……」
そう言うとレミールは咽び泣いてしまう。
(む、心配させて泣かせてしまったな……いかんいかん……)
「……心配させてすまんな、国の為、平和の為と言いながら、女性を泣かせてしまうとはいかん皇帝だよ」
「! 、いえルディアス陛下は悪くありません! 申し訳ありません出過ぎた真似を……」
「構わんよ別に、……私はね、レミールが私の心配をしてくれているのがとてもうれしいんだ」
「……陛下ったら! こんな時に! 悪いお方!」
顔を赤くしながらルディアスを小突くとそそくさと出て行ってしまった。
私は彼女の事を非常に愛おしく思う様になっていた。
「この戦いが終わったら……フへへ、フラグじゃないか」
バツが悪そうに私は、頭をかきながら執務室の明かりを消した。
恋的な描写はね、苦手なんですよね
あと、飛空船のモデルはとある飛空士の恋歌を見た方なら分かるんじゃないかなと。