「何! クーズで帝政復古運動!」
執務が再開して暫くしたある日、情報局からその様な報告があった。
なんでも皇帝派の生き残りが中心となり国を巻き込んだ大規模な運動になっているそうな。
「は、地方ではすでに幾つかの帝国派の領主がクーズ政府に反旗を翻しており、事実上の内戦状態に陥っております」
どうやら原作にあった北方の脅威に抵抗するため戦争を始めたというのは、パ皇の自作自演などではなく本当にそうなっていた様だ。
ともあれまだ今は皇国の介入する段階ではないと考える、まだいくつか緩衝国家がある為軍を動かすのは早計だと考えたのだ。
「……ムーの蒸気機関について、交渉はどうなっている?」
「蒸気機関については未だ好ましい結果は得られないようです、取り合えず第三国経由で旧式の蒸気機関の輸入の目途は立ちました」
今注力しているのは自動車の開発だ、現状は先進兵器開発研究所に任せてこちらは予算を増やすよう取り組んでいる。
勿論自動車と言っても魔導エンジンとかではなく蒸気機関を積んだ所謂キュニョーの砲車というモノだ。
こいつは世界初の自動車で現存する、開発は何と西暦1769年*1なのだからパーパルディアが作れない訳がないのだ。
まずはこいつを作って装甲車を作りリントヴルムの代わりとしたい。てかコンパウンドボウ如き*2でくたばるオオトカゲなぞいらんのだボケが!
今ムーから欲しいのは1900年代レベルの蒸気機関なのだがそう易々とはくれない様だ。そりゃそうだろうな。
「クワ・トイネ、クイラ方面はどうなっている」
「は、クワ・トイネにおける穀物の貿易について問題なくいっております、それとクイラについては石炭の輸入、石油の調査班を派遣するという事で決まりました」
為すべき事は胃袋と血の掌握である今両国を押さえておけば日本が転移した際強制的に関係が持てる、それどころか製油施設を作ってしまえば日本に売りつけることが出来る、
【ガソリンの一滴は血の一滴】と言うが、まさしくその通りでガソリンなくしては近現代国家たりえないのだ。
クイラは原油が地表に湧き出しているというトンチキ極まりない土地だし開発の時間もそう掛からないだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆
数か月後……
私は今アルタラス行の船に乗っている、外遊の為行くのだが原作では一度手にかけただけに感慨深い物がある。
港に着くと軍楽隊と港湾市民の熱烈な歓迎を受ける、パ皇の旗の波をかき分け馬車へ乗り込みアテノール城へと向かう。
「すごい人だったな」
「圏外圏国家にルディアス様がいらしたんですもの、当然です」
今回の外遊に補助要員という建前でレミールを連れてきた、とにかく意識改善をしてもらわないといかん、衛兵からは内縁の妻と噂されているが気にしない事にする。
(サスペンションは中々良いな、売り出しておいて成功だった)
ルディアスは執務の傍ら、皇室御用達の馬車メーカーにサスペンションについてアドバイスを行ったのだ、それは従来の板バネ方式からコイルスプリングにするというモノ。
これによって乗り心地が飛躍的に向上し皇帝が太鼓判をおしたとして第三文明圏に売り出したのだ。
王都ル・ブリアスに入ってからは市民の歓迎は一層激しくなり、皇国旗が翻るなか紙吹雪が馬車にまで入ってくる。
城に着くとターラ14世が出迎えており、ルディアスとターラが握手をして、まだ10歳のルミエスがレミールに花束を笑顔で渡し、レミールもまた笑顔で受けとる。原作を知っている身としては凄まじい光景だ。
今回はシルウトラス鉱山の見学としてきたのだが、本当の目的は別にあった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
その日の夜、王の執務室にて
「人払いは済んだかな?」
「ああ、護衛も信頼できる者しか置いていない」
「お手を煩わせて済まない、それでは始めましょうか……」
そういうと私は一枚の紙を取り出す。そこにはある砲弾について書かれていた。
「これが炸裂砲弾の設計図です」
私は指を鳴らすと従者が設計図を持ってきてターラの目の前で広げる。
「私は陛下が対価を支払ってくれるのであれば、砲弾生産の道具を提供できる」
「う、うむ。これが対価だ」
そういって取り出したのは風神の矢の設計図であった。
「結構、結構。約束通り使用する魔石は全てアルタラスから買うことにします。私たちは北部の侵略に備えることが出来、貴方方も南部からの侵略に備える事が出来る、お互いが得で良い事です」
そう言い私は満足げに風神の矢の設計図をしまう。
(国家戦略局様様ですな)
既に情報局は国家戦略局がロウリアに対して支援を始めたのを既に察知していた、それで敢えて国家戦略局に旧式で廃棄予定の魔導砲の情報を流しロウリアに渡すよう仕組んだ。
国家戦略局からしてみれば、まだ金の工面もおぼつかない時に大量の大砲が手に入れられると聞いて狂喜乱舞しながらロウリアに運んだ。
そんで増強したロウリア軍はロデニウス大陸統一後フィルアデスに矛を向けるその足掛かりにアルタラスを狙うというデマをアルタラスの情報機関に流したのだ。
パーパルディアの手のひらで踊るロウリア、実に滑稽で哀れであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
外遊帰国もそこそこに兵研から連絡が入る、どうやら完成したようだ。
「殿下、お喜びください! 遂にロケットが完成いたしました!」
主任は破顔の笑みでロケットを見せてきた。
見た目はまさにミサイルといった感じで噴射口は斜めに噴き出すロケット推進により回転を与え安定させるスピン方式である。
発射装置は今はまだ木で組んだ簡素な物だが直ぐに専用の物が出来るらしい。
「発射距離5000m! 威力も申し分なし! これより発射致します!」
「よぉし! 思いっきりやれ!」
「殿下照覧! いざぁ!」
主任が手元のスイッチを捻ると、爆音と煙が噴射しロケットが飛び出す。
そのままグングン加速し、目標の石組みの砦を木端微塵に吹き飛ばした。
「すげぇ」 言葉が漏れる
「私は確信します! これが魔導砲を過去の物とし、新たな戦場の女神となる事を!」
主任には悪いが大砲というのは廃れる事は無いのだ。
結局の所風神の矢の技術はまるで使用されてないが、せめて魔導石は買ってやろうと思うルディアスであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ムーの自動車業界に激震が走った、事の発端は駐パ皇大使のムーゲの報からであった。
いままでロデオの様な乗り心地が急にまろやかになったので馬車に潜り込んで驚いた、早速調査し結果を本国へ送ったのである。
「えぇ!? パーパルディアが!?」
当然この話はムーの情報分析課にも届いた。パーパルディアと言えば第三文明圏の列強になれそうでなれないレイフォル未満というイメージしかなかった。
技術士官のフォルベルは驚いた様子で写真を穴が開く程に見つめる、ムーはここ数年でようやくモータリゼーションが起こり中流階級は皆車を持ち都市では渋滞も起こるようになった。しかし車はT型フォードの様なものでまだ改良の余地があった。
そんな時よりにもよって魔導文明国のパーパルディアから革新的なサスペンションが出てきたのだ、これにはムーも唸らざるを得ない。
『君には一度パーパルディアに渡って詳細な情報を調べてきて欲しい』
先ほど背広組の偉いさんに言われた事を思い出し唸る。
「おい、マイラス」
「は、及びでしょうか」
名を呼ばれ立ち上がったのは配属されてまだ間もないうら若きマイラスであった。
「お前、パーパルディアの件知っているな?」
「当然です!」
マイラスは鼻息も荒く食い気味に答える。
「そこで俺は国からパーパルディアを見て来いと言われた訳だが、マイラスも付いてこい」
「ッえ! よろしいのですか!」
マイラスは歓喜した、歓喜のあまり出発前夜は全く眠れなかったのは内緒だ。
こうしてマイラスはパーパルディアへ発ったのである。
ルディアスが起こした羽ばたきはどの様な竜巻を引き起こすのか、それはまだ誰も分からない。
風神の矢関係ないじゃないか!