ひょんなことからアクアは家出してしまう。
しかしどうやら彼女自身は『パトロール』のつもりのようで……?
――まあ、結局帰って来るんですけどね!
「お前はほんと余計な事しかしないな」
うるさいわよ。何回言うのよそれ。
今日もまたカズマに怒られる。
理由は何だっけ。忘れちゃった、ということは十中十句どーでもいいことだ。
物事というものはえてして、忘れたころに思い出すもので、今思い出した所によると私が彼の顔に落書きをしたというものだった。ほら、どうでもいいことだ。
段々思い出してきた。確か、退屈だったのだ。だからなんとなくペンを手に取って思うままに落書きをしたのだった。
無意識5割というか、暇つぶし的なアレだった。
そんなに楽しいわけでもなかったし、昼寝から起きてきた彼と会話して笑いがこみあげる、と言ったこともなかった。日常の一コマ、といえばいいのか。
それで彼がそのまま外出して、私は入れ替わるように眠気がして……。
ああ、そうか。叩き起こされて家から蹴りだされたのは、つまるところ、そういうことか。
なるほど。一人、ぶらぶら歩きつつ頷く。
要するに彼は、出先でバカにされたらしい。
怒り方から見るに、どうせ綺麗なお姉さんに笑われたとかだろう。
心の小さな人間だ。世の高校生は皆……例外はいたけど、大体落ち着いていたというのに、思うに、カズマには落ち着きがない。
何というか、チワワはどこまでいってもチワワというか、自称平和主義者というか、そんなふんいきだ。
もう少し腰を降ろして話をしてくれてもいいのに。知らないなかじゃないんだから。
やれやれ。
モヤモヤを断ち切って街に目をやれば、子供たちがかわいらしく遊んでいる。笑った顔がカズマに見えて、苦笑。
私を見つけて寄ってきた彼らを適当に遊んでやりつつ、大きく見回した。
不穏な影は、ナシ。においも異常なし。
ホントは鼻なんて動かさなくてもいいんだけど。
「フフフ」
そういえばにおいの件では犬だとか言われたことがあったっけ。それは私のキャラじゃないのにね。
におい、というのはもちろん実際に臭いわけじゃない。
オーラ、特有の雰囲気、気配といったモノをにおいと比喩しているだけだ。
私が毎日悪臭に耐えながら茶を飲んでいると思ってるのか、あのアホは。
子供たちと別れ、再び歩き出す。私の足は主人をどこに運ぶつもりなのか。
思えば、こっちに来て怒られてばかりだった。なんでみんなそんな小さなことで怒るのか、不思議でしかなかったけれど。
器が小さいからなのか、それとも本音を言うのが恥ずかしいという、年齢的なアレなのか。スペックダウンした今の私ではよく分からない。
能力は削られようと、記憶は残る。私はあの時からずっと考えていた。
なぜ私はあの時、能力の大部分を置いてきたか。
特に大きく削られた知能では思考する時間が増えていくばかりで、ひょっとすると永遠にわからないのでは、と、寒気以外の何物でもないような感情まで湧き出してくる。
過去に戻れるならあの頃の自分と一時間ほど話し合いたい。まさかこんな人間らしい願望を抱くとは、どうやら私は随分バカになったらしい。
それもこれもあのアホのせいで。そればかりで前進がないとはわかっていても感情のままに動いてしまうのがもどかしい、なんて。
ああ、バカなんだな、私。
つまらない意地を張っているあたり、とくに。
そんな結論を出したのがいつものしみったれた店の前。今日もアクセルは平和だったのだから安心して帰ればいいものを。
どうやら私の足は不遜にも。賃金というか対価というか。お駄賃が欲しい、と言っている。
茶を飲んで。
また少し重くなってきた瞼を意識しつつ。
茜色に囚われながらも無意識にとある屋敷を目指すあたり、私もみんなが好きなのか。
少なくとも、「みんな」と呼ぶ程度には愛しているらしい。
仲直りの印は何にしようか。
酒がいいか、ツケがいいか。
それとも、右手にある書類がいいか。
結局全部渡すことになると気付いたのは玄関の前で。
涙が零れた。
上での生活だとか、今の苦労だとか。
感情の結晶を散らしつつ、今日も私はバカみたいに叫んだ。
「ガズマざあああああん!!! もう許じでよおおおおおお!!!」
だってこのほうが、私らしいから。