とりあえず出身地などを決めたあと、早々と寝たわけだが、
地面って寝づらいんだな、と思った。
窓から入ってくる朝日に目を細めながら大きく伸びをする。
「んー、首が痛いな」
コキリ、と首を触りながら立ち上がる。
「……おーい、朝だぞ。起きろ」
ベットの上ですやすやと寝息を立てているタバサの元へ向かう。
時々ドアが開く音や喋り声が聞こえてくる。
起きるにはちょうどいい時間帯……だろう。
「起きろってば」
肩を軽くゆすり、睡眠を妨害する。
するとタバサはゆっくりと体を起こしながら目を擦った。
「おはよう。さっさと準備して、行こうか」
聞こえたかわからないがタバサが小さく頷いたのを確認し、廊下にでる。
寝巻きだったし、着替えるとわかって部屋の中にいるほど馬鹿じゃない。
洗濯なども使い魔の仕事なのか、と昨晩聞いたところ全部使用人たちがやってくれるらしい。
使い魔はパートナーであり、召使いではないとのことだ。
廊下で数分待つと、ドアが開きタバサが出てきた。
「準備できたな?今日の予定は?」
「朝食を食べて、そのまま教室に行く。」
「了解」
食堂の場所がわからないから、タバサの後ろをついていく。
すると前のほうから喧騒が聞こえてきた。
「――あなたの使い魔って、本当に人間だったのね」
「ん? 呼んだか?」
前を歩いていると、キュルケがピンクの髪の子と言い争いをしていたらしい。
というかキュルケは俺が使い魔ってしってるんじゃないのか?
「あら、タバサ。それにヴェルもおはよう」
タバサが小さく頷いた。
俺は「おはよう」と返した。
「それで?使い魔が何なんだ?」
「あぁ、ヴェルのことじゃないわ。このヴァリエールの事よ」
キュルケが、言い争いをしていた子を指差した。
「……あぁ、昨日のあの子か」
あの爆発はすごかったなぁ。爆発だけが印象に残っていた。
「ってことは……?」
「えぇ、タバサと同じで人を召喚したのよ。平民をね」
「うるさいわよ……」
そういって彼女はそっぽを向いてしまった。
「それで、その使い魔って彼女の後ろにいる人か?」
彼女の後ろにたつ青年が、こちらを見た瞬間顔を驚愕に染める。
こちらもそれほど顔に表さなかったが驚いた。
どこからどうみても、青年は日本人だったからだ。
「……人の顔をジロジロみて、どうした?」
驚きを顔に表さないように、なるべく不機嫌そうに青年を見やる。
「あっ、悪い。俺の国の人に似てたから、つい」
……確かに髪は黒だけどさ。
「何よ? まだ異世界から来たって言いたいの?」
彼女が不機嫌そうに青年を見た。
「言いたいんじゃなくて、そうなんだっての!」
使い魔と主で言い争いを始めてしまった。
「あー、タバサ?どうするよ」
「……ほっとく」
「了解」
多分、青年とはまた会えるだろう……多分。
―――――
「それで、俺はどこで食えばいい?ここって貴族の食堂なんだろ?」
食堂――アルヴィースの食堂――についた時、前をあるくタバサに問いかける。
「食うことも座ることもだめとか言われたら俺泣くぞ」
割とガチで。
「……厨房で頼めば、そっちで食べさせてもらえるかもしれない。」
「しれない、かぁ……」
「いざとなれば周りを黙らせる」
……おい。それはそれでマズイだろ。
―――――
「えっと、失礼します?」
厨房の中へ入っていき、誰か話せそうな人がいないか探す。
「……忙しそうだな」
使用人たちが、作られた瞬間に料理を貴族のもとへ持って行っている。
「すいません、ちょっといいですか?」
前を通り過ぎた使用人に声をかける。
「なんのようでここに……?」
使用人が訝しげな目でこちらを見つめる。
「えっと、タバサって子の使い魔として召喚されたんですが、
あっちは貴族で食べるならこっちと言われたんですけど大丈夫ですか?」
「ちょっと待っててくれ」
そう言って使用人は奥へと駆け込んでくる。
数十秒で一人の男性を引き連れて戻ってくる。
「へぇ、お前さんが有名な人間の使い魔か?」
「有名かどうかはわからないけれど、そうだと思いますよ。
ここで食事をしろと言われたんですが……」
「別にいいが……ちょっと待ってな。そこにすわっててくれ」
そういって男性が指差した椅子におとなしく座る。
少し待つと、男性がシチューとパンを持ってきてくれた。
「ありがとう。さっそく……食べる前に、俺はヴェルって言います。
貴方の名前は?」
「俺はここの料理長のマルトーってんだ。その堅苦しい敬語はやめていいぞ?」
「あー、じゃあそうするよ。料理ありがとうな、マルトー」
「おうよ。昼はきちんと用意しておくぜ」
マルトーはそう言ったあと、奥に引っ込んでいった。
「いただきますっと……」
軽く手を合わせ、シチューとパンを食べ始める。
半分ほど食べ終わると、仕事が一段落したのかマルトーが俺の前の椅子に座り、
料理を食べ始めた。
「お前、召喚されたんだよな?どっから来たんだ?」
「えーっと、こっちの言葉で言う『ロバ・アル・カリイエ』だよ。
魔法剣士だった。」
「魔法……?ってぇと、お前さん貴族か?」
「いや、違うよ。あっちでは貴族や平民なんてなかった……貴族が嫌いなのか?」
「全員が嫌いってわけじゃねぇが……大半は、な。
っと、このこと内緒にしといてくれよ」
そう言ったマルトーは、食べ終わった食器を片付けていった。
俺も食べ終わり、食器を戻してタバサの元へ戻った。
―――――
タバサと合流し、授業をするための教室へ入る。
すると喋り声が収まり、大半がこっちを侮蔑の視線を向けてきた。
「……何?俺のことバカにしてんのか?」
「ほっておけばいい」
少しイラッとしたが、タバサの言葉に従いついていく。
タバサが席についたのを確認し、自分は……
「俺はどうすればいい?」
「隣に座ればいい」
「いや、座れれば座ってるけどさ、貴族用とかじゃないのか?」
「平気」
まぁ、タバサが言うのだからそうなんだろう。
おとなしく従い、隣に座る。
ほんの数分待つと、扉が開き一人の女性が入ってきた。
年を見ると、多分先生なんだろう。紫のローブを身に纏い、黒い三角頭巾を
被った女性は、教壇の上からまわりを見渡した。
「皆さん、おはようございます。今年も春の使い魔召喚は大成功のようですね。
このシュヴルーズ、この時期に皆さんの使い魔を見るのがとても楽しみなのですよ」
そういって教室を見回すが、俺と青年を見る回数がとても多いことに気づいた。
やっぱり人間の使い魔というのは珍しいんだな。
「あなたがミス・タバサの使い魔の……」
「ヴェルです」
「確か、東方では魔法剣士だったと……?」
……あれ、なんで知っているんだ?ちらりとタバサを見ると小さく頷いた。
どうやら先生たちには説明をしたらしい。
「確かにそうだけど、魔法が使えるといっても俺は貴族じゃないんで、あしからず」
周りの生徒たちが侮蔑の視線を向けてくる。
「使い魔になった経路は、ミスタ・コルベールから聞いています。
何か困ったことがあればいつでも仰ってくださいね?ミス・ヴァリエールの使い魔の方も」
「ありがとうございます」
教室に二人の言葉が響き渡る。どうやらあの青年と同じタイミングでお礼を言ったみたいだ。
前にいた青年が振り返るが、顎で前を向けと合図をする。
合図がわかったのか、きちんと前を向く。
「ゼロのルイズ!そこらへんの平民を連れてくるなよ!」
一人の生徒が、一人の少女をバカにするような発言をした。
「そんなんじゃないわ!私の魔法で召喚したのよ!」
「嘘吐くなよゼロのルイズ!どうせ召喚できなかったんだろ!」
周りの生徒も、それに便乗するように悪口を言ったりしている。
悪口を言っている奴ら全員を殴り飛ばしたい。だけど使い魔が貴族を
殴ったりすればタバサに迷惑がかかる。だから殴れない。
「これじゃあ――」
どんどん悪口がエスカレートしていっている。
それにつれてどんどん俺もイライラしてくる。
「――タバサも本当に召喚したのかおかしいしなぁ!二人でゼロとでも名乗ってろ!」
ドゴンッ!
一瞬で教室が静まり返る。
……我慢できなかったなぁ。つい机を思いっきり殴ってしまった。
少しヒビが入っている。
というか別に殴らなくてもいいだろう。
「――お前ら、これを見ろっての」
ローブを少し脱ぎ、左肩に刻まれたルーンを顕にする。
「これが、タバサが俺を召喚した証拠だ。多少はお前らの使い魔とは違うルーンかもしれないが、
それでも俺を召喚したのに変わりはない。彼女の使い魔だってルーンが刻まれてるはずだ。
つーかお前らがゼロとか言ってるけどさ、大勢で一人の少女を虐めるとか
貴族とかの前にお前らは人として最低だよ」
そう発言すると、大半が押し黙ったがこちらをずっとにらみ続ける生徒も何人かいた。
多分タバサが強いから、タバサや俺には大きく言えないんだろう。
そしてタバサをゼロとかバカにしたやつの顔覚えたからな。
ちらりとシュヴルーズ先生を見ると、怒った表情で杖を構えていた。
どうやらさっきの悪口や暴言に先生も怒ったらしい。
先生は大きく咳払いをしたあと、「それでは授業を始めますね」と言って始めた。
机に一つの小石を乗せて口を開いた。
「さて、私は『赤石』のシュヴルーズ。これから一年間皆さんに土系統の講義をします。
魔法の四大系統はご存知ですね?ミスタ・マリコルヌ?」
シュヴルーズの問いに答えたのは、小太りの男の子でさっき彼女をバカにした子供の一人だ。
「はい。火、土、風、水の四つです」
ここらへんは昨日タバサに教わったから大丈夫だ。
「今から、皆さんに土系統の基本である『錬金』の魔法を覚えてもらいます。
一年生の時に覚えた方もいるでしょうが基本は大切です。おさらいしましょう」
初めての異世界での授業が始まった。