この素晴らしい世界に戦闘員、祝福を派遣します!! 作:暁ふゆめ
「何だ。キャベツは嫌いか?」
テントの片付け最終段階に移行した俺の上からアリスは言う。
いや、違う。そういう問題じゃない。むしろキャベツは好きな方だ。俺がアリスの話に乗り気じゃない理由はそんなことじゃない。
キャベツの襲来。ここに来てブッチギリの意味不明ワードの登場に驚いているだけなんだよ。
「キャベツが嫌いって……いつ俺がそんな話したよ。キャベツが大金とどう繋がるんだよってこと。だってキャベツだぞ。俺らみたいな職業に関係あんの? 何ですか? 収穫でもすんのかよ」
「やはり阿呆だが勘は良いな」
アリスはリリス受け売りの台詞を使いながら頷いた。
え? 収穫するの? なぜに? 疑問だ。キャベツの収穫って何ぞや。キャベツ農家ならともかく、ただの冒険者(フリーター)である俺達にキャベツの収穫があるからって大金が入るとは思えない。
「具体的に言ってくれ、アリス。キャベツの収穫が何で大金になるんだ?」
「その辺については自分もよく知らない。街の連中の反応からして、一般常識の範疇らしいな。残念なことに情報が集まりにくかった」
ふーん、なるほど。
だが、金周りについては慎重になるのが人間だ。ましてや、こんな治安の良い街なら尚更だ。
「でも、金が大きく動くなら冒険者ギルドに何か情報があるんじゃないか?」
俺の意見をアリスは「その通りだ」と首肯した。俺がテントを袋に入れ終えるのを待ってから続けた。
「だから、今からギルドに行くぞ」
「オーケー。ちなみに、明日の分の食費がないからキャベツ関連がダメだった時用にクエストも探しとかないとだぞ」
アリスにテントを渡そうとすると、にこやかに押し返された。
俺は黒い袋にキサラギの謎技術でコンパクトに纏まっているテントを背負った。
ギルドに到着すると真っ先に飛び込んで来たのは人混み。いつもは閑散気味なギルドに冒険者が大量に集まっていた。
「人がいっぱいだな」
「キャベツの収穫ってそんな一大イベントなのか……?」
冒険者達は皆、それぞれ緊張感を持ちながらパーティ単位で固まっていた。ざわめきに紛れて具体的な内容は聞き取れないが、やはりキャベツ収穫について作戦会議をしているようだ。
と、アリスが俺を突っついた。
「どうした?」
「第一原住民がいるぞ」
アリスが目線を向けた先には、アクセルに来る前の道中で出会った(一方的に観察した)ジャージ男子とロリ魔道士がいた。もっとも、今日のジャージ男子はジャージではなかったが。
彼らもパーティで固まっているらしかった。どんなパーティなのか確認しようと思い、ジャージ男子を中心に周囲の冒険者を見る。少し様子を見て、ジャージ男子と会話をしている冒険者、恐らくパーティメンバーであろう冒険者を三人程発見することができた。俺は絶句した。
なんとジャージ男子、ハーレムパーティ。
羨ましいメンバーを紹介するぜ!
最初に目に付いたのはジャージ男子が前に背負っていたロリ魔道士。こうして近くで見ると中々に可愛い。おっと、俺はロリコンではないのであしからず。地球だったらまだ小学生ぐらいの年だろうに、健気に会話に参加している。うちのアリス(0歳)とは大違いだ。しかも、ロリ魔道士は恐らく強力な範囲攻撃魔法を使える。うちのアリス(視力A)とは大違いだ。何て素敵なロリだ。
次にパーティメンバーだと分かったのは青髪の女の子。やたらとフワフワした格好をしており、その流れる様な青髪と相まって、どこか神秘的な雰囲気さえも感じさせる。フワフワ衣装はスカート丈が短く、健康的な足を極めて紳士的に観察することができた。所作の一つ一つに身振り手振りを使っている。そこから、何事にも真摯に取り組む真面目な性格が透けて見える。きっと、回復魔法とかでチームをサポートする慈愛に溢れた清楚な女の子なのだろう。うちのアリス(レスバに使いやすい文言ばかり覚えている)とは大違いだ。
最後の一人は、鎧とファンタジー世界感たっぷりの両手剣を装備している金髪のお姉さん。鎧越しにも分かる程の巨乳。多分、圧倒的な物理防御で仲間達を守る守備の要なのだろう。その両手剣は迫り来る敵を最前線で薙ぎ倒し、どんなピンチも救ってくれそうな風格を感じる。ロリ魔道士が魔法アタッカーなら、金髪さんはタンク兼物理アタッカーだろうか。頼りがいのありそうな金髪さん、うちのアリス(耐久力0)とは大違いだ。
そして、そんな羨ましさ天元突破の面子を抱えるジャージ男子。圧倒的、なろう主人公……! これも全部、乾巧って奴の仕業なんだ……!
俺がジャージ男子一行を嫉妬の眼差しで突き刺していると、受付のお姉さんがカウンター奥から叫んだ。
「キャベツが来ます! 皆さん、頑張ってきて下さい!」
途端、耳を破る程の大歓声が巻き起こった。冒険者達は雄叫びを上げながら我先にと出口へ。俺達は何も分からないまま外へ押し出された。流されるまま、為すがまま。こういうところに日本人を感じます。感じないね。
人の流れに流されるまま、街の正門前へ。冒険者達は各々、事前に決めていたであろうポジションにバラけた。俺とアリスはとりあえず、ジャージ男子一行の斜め後ろに位置取った。
「六号、何か聞こえないか?」
アリスに言われて耳を澄ます。
確かに、遠くから何やら音がする。耳を澄ましている間に音はドンドン近付き、既に耳を澄ます必要がない程の音量となっていた。音がする方向から、なだらかな傾斜のある緑の大地の向こうから枚挙してくる影。
裸眼(機械)で視力A相当のアリスはいち早くその正体に気付いた。
「なぁ、六号。キャベツの大群が飛来して来ているのだが」
キャベツが飛来……?
しかし、困惑なんぞしている間もなく、現実は見えてくる。キャベツが空を掻き分け、飛来してくる姿は否応なしに視界に入ってくる。キャベツを肉眼で捉えられる距離になって、周りの冒険者達も動き始めた。
あるものは魔法を唱え、あるものは剣を構え、あるものは身の丈程もある大きな籠を用意し――――
そして、ついに、キャベツはやって来た。
「この世界のキャベツどうなってんの……?」
それはまさに地獄絵図。飛来する緑の質量物体相手に冒険者達の大立ち回り。哀れにも打ち落とされたキャベツはすぐさま籠へと回収されていった。しかし、キャベツだってただやられているだけではない。空気抵抗の壁を越えて加速運動をする球体の猛攻に、何人かの冒険者が早くも沈んでいった。
ここは街の正門を出てすぐの後列なので、流れキャベツにさえ気を付ければほとんど安全なゾーンのようだ。俺と同じく周囲を観察していたアリスは頷いた。
「なるほど。これは危険だな。農家のご老人なんて、下手をすれば死亡するんじゃないか? 道理でキャベツが高価なわけだ」
「あー……つーことは大量に収穫したら臨時ボーナスってことか。ようやく感覚も追い付いて来たわ」
「そういうことだな。よし、やるか」
「まぁ、ヒーロー相手にするよりかは遥かに易いだろうしな」
いつの間にやら身の丈程もある籠を用意していたアリスをチラッと見る。
「やる前に一つ訊くぞ、アリス」
「ん、何だ?」
「なぜに俺の後ろに立っている」
そう。アリスは俺の背中の影に隠れていた。
俺が右に動くとアリスも右に動いた。左に動いたらアリスも左に動いた。俺が反復横飛びをすると、アリスは籠を持ちながら反復横飛びをしようとして転んだ。
「自分はスーパーリアルアンドロイド。つまり、筋力もリアル路線だ。か弱い女子を守るのは男の役目だろう」
「……SDGsに乗っ取って男女平等参画社会を目指したい気分だな」
日本に帰ったらリリスにドロップキックを繰り出そう。
俺はサスティナブルな未来に思いを馳せながらナイフを抜き出した。
今更ながら、装備が貧弱過ぎる気がしてきた。だが、もう遅い。俺はちょうど目の前に飛んできた流れキャベツに刃を突き立てる。
「うっ、おっ……!」
予想以上の衝撃。だが、想定内だ。踏ん張って少し耐えると、キャベツの運動エネルギーはゼロになった。動かなくなったキャベツを俺の後ろにスタンバってたアリスに渡した。
かなりの重労働になりそうだ。割かしすぐにキャベツにKO負けを喫するかもれない。何なら、俺より先にナイフの方が根を上げそうだ。しかし、これも金のため。
「前線に出るぞ、アリス!」
「了解した」
なるべく流れキャベツを喰らわないように身を屈めて前進する。
「六号、あの青髪の付近に行け」
アリスが後ろから指示を出した。
青髪……ギルド内で見かけた女の子だ。ジャージ男子のパーティメンバーらしい彼女をざっと目で探した。
やたらと大きな動きをしているのですぐに発見できた。
「何であの娘の近くに?」
「青髪の籠を見てみろ。レタスばかりだ」
言われて青髪の娘の籠を見る。
……レタスなのか?
そこにはキャベツと見分けが付かない緑色の質量物体があった。俺には見分けが付かないが、他の人には当たり前に区別が付くのだろうか。
「当然だろう。余程知力が低くない限り、そんなことは小学生にもできる。同様にして他の冒険者達にもできる。余程、知力が低くない限りはな」
アリスは後ろから鯨構文を使って俺を煽った。
恐らくあの青髪の娘はキャベツとレタスを選り分ける係とかに割り振られたのだろう。健気にレタスを集める姿、素敵です。そのまま君の道をひた走れ。俺は心の中でエールを送った。
前線に着いた。瞬間、左斜め前からキャベツが襲撃してきた。俺は慌ててナイフを振るった。
「うおっと……あぶねー……」
ドッ!
先程感じたのと同じぐらいの衝撃を受け止める。ナイフはキャベツに深々と刺さって、その動きを止めていた。
にしても、思い切りナイフでブッ刺しちゃってるが大丈夫だろうか。
キャベツからナイフを抜こうとした時、真っ正面からまたキャベツが襲って来ているのに気付いた。
間一髪、俺はナイフwithキャベツを抱えたまま横っ飛びで回避した。
「へばっ!?」
奇妙な声が聞こえた。振り返ると、俺の後ろでアリスが顔を押さえていた。
あぁ、なるほど。俺が避けたから直線上にいたアリスは直撃を喰らったのか。
「おい……六号が避けたら自分に直撃だろ。考えろ……」
「すまん。咄嗟に避けちゃった」
「……まぁ、良い。過ぎ去ったことだ。次はーーーー」
「あ、来てるぞ!」
「気を付げふっ!」
アリスはキャベツの二連撃の前に沈んだ。顔面と腹部を押さえて蹲っている。白い服に緑色が若干ついていた。俺は運動エネルギーを失ったキャベツ×2をアリスの籠に入れる。
「おーい、大丈夫かー?」
「…………!」
「大丈夫……じゃなさそうだな」
俺はアリスに一言謝ると、ナイフの切っ先を地面に向けた。
「【落とし穴】」
アリスはボッシュートされた。
安全地帯でお大事に。
「さぁて、やるか」
キャベツがまたしても千賀のストレートのように真っ直ぐアタックを仕掛けて来ていた。俺はもう一発、落とし穴を作る。ナイフを腰のベルトにしまい、素手でキャベツを叩き落とした。
「いってぇ!」
想像より痛かった。しかし、叩き落とすことには成功。俺は足でキャベツを落とし穴に蹴り入れ、次なるキャベツと向かい合う。
「さぁ、お前のキャベツを数えろ!」
意味不明な決め台詞を言って、俺はパンチを繰り出した。
キャベツ収集によつ臨時収入があったおかげで冒険者ギルドは喧騒に包まれ、ボーナスを使い潰す者、少しだけいつもより贅沢をする者、ボーナスが入らなかった者の3つに分かれ混沌を極めていた。
ちなみに俺は、ボーナスの全てを「慰謝料」と称してアリスに奪われた者だ。
ギルドで一番安い飲み物だけを頼んで粘っていること少し。どこぞに行っていたアリスが戻って来た。
「どこ行ってたんだ? あと金返せ」
「どこかに行っていた。あと金は返さん」
アリスはそのまま続けた。
「それと、明日から旅行だ。準備しておけ」
「あー、分かった。それで金を返……せ…………」
りょこう……リョコウ…………旅行?
「は?」
「喜べ、旅行だぞ」
はぁぁぁあああああああ!? 旅行!?
喜べるか!
って、いやいや。問題はそんなことではない。
「俺のまにーは? メニメニあったマニーは? どうしたんだよ、おい!」
「使った」
はぁぁぁあああああああ!?
この素晴らしい世界のキャラクター紹介
キャベツ(きゃべつ)
V=Vo+at で等加速直接運動をする質量mの物体。mV²/2+mghの力学的エネルギーを保有しており、キャベツはホイヘンスに乗っ取って波状で襲来する。金に目が眩んだ数多の新米冒険者の身体を複素数平面まで吹き飛ばすアクセルを代表する野菜。美味しい。
タイトル変えた方が良いですか?
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良い(正規ルート)
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このままで良い(悪の秘密結社ルート)
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良くないわよ、バカ!(恋愛ルート)
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井伊直弼(桜田門外ルート)