二次創作小説式特撮活劇『GOLSHI MAN』   作:K氏

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ウマ娘は足で語れ

「はぁ……」

 

 西暦20XX年、日本トレーニングセンター学園、通称トレセン学園には暗雲が立ち込めていた。

 

 それはさながら、一種のアンバランスゾーン、もといネガティヴゾーン。

 

 現状におけるその中心地――あるいは特異点――は、一人のウマ娘。

 栗毛の長髪をたなびかせる彼女の名は、サイレンススズカ。『異次元の逃亡者』の異名を持つ、現世代最速と目されるウマ娘だ。

 

 そんな彼女は今――無気力に近い状態になっていた。

 ターフで見せるような、ミステリアスで常に速さを追い求める求道者の姿は、見る影も無かった。

 その原因は――

 

「……私の、胸……」

 

 あろう事か、彼女は胸を気にしていた。己の、お世辞にも肉付きが良いとは言えない胸を。

 

 そのネガティヴなエネルギーは、我々視聴者の目からは黒い(もや)のようなものになって見える事だろう。

 そして、漂うネガティヴエネルギーが他のウマ娘に触れた瞬間――

 

「どうせ、私なんて得意な距離でも適性Bなモブだし……トレセン学園にいたって……」

 

「あれ、私元々別の名前を……あれ? でも私の名前はこっちの筈……え?」

 

「えぇ、えぇ。どうせ、私は重い女ですよ、っと……」

 

 ――このように、明らかな怪現象を発生させていた。

 

「うぅ……か、会長! 学園内各地で怪現象が発生! もはや手が付けられません!」

 

 トレセン学園生徒会の副会長であるエアグルーヴの耳にも、この異変はすぐに届いた。

 というか、彼女も僅かにだが黒い靄の影響を受けつつあった。

 聞こえる筈のない幻聴(ダジャレ)が、彼女のやる気を削ごうとしているのである。

 それでも生徒会室の扉を勢いよく開け、生徒会長であるシンボリルドルフにそう報告できる程度には彼女の精神はなんとか保たれていた。

 まさに、女帝の精神力が為せる技であろう。

 

 だが――当のシンボリルドルフは、椅子の背をエアグルーヴに見せながら外を見ているようだった。

 

「……落ち着け、エアグルーヴ。分かっている()……」

「これが落ち着いていられますか!? 校内の至る所で、明らかに普段とは様子が違うウマ娘の目撃情報が……ッ!」

 

 そこまで口にして、エアグルーヴはある異変に気付く。

 

 ――会長、やけに声がふにゃふにゃなような……?

 

 そして、ルドルフが椅子をクルリと回し――

 

「――なッ」

 

 エアグルーヴは思わず絶句した。何故か? 何故なら――

 

「もう……私もおかしくなりかけてるし……」

(会長――ッ!?)

 

 エアグルーヴは、叫びだしたくなる自分をなんとか抑えようとした。それだけ……なんだかたぬきめいた変な生物になりかけている『皇帝』の姿に衝撃を受けたのである。

 

 あの、公私共に凛々しい皇帝が。

 あの、レースで圧倒的な実力を見せる皇帝が。

 あの、弱みなんてなさそうな皇帝が。

 

 今や、なんだか抱くと心地よさそうで、それでいてなんだか水に塗れてしまったかのようにしおれている、そんな姿になっているだなんて!

 

「もうやだ……ルナおうちにかえるし……」

「……~~~~~ッッッ!!!」

 

 もう、エアグルーヴの感情は滅茶苦茶だった。

 

 

 

 

『……このように、トレセン学園中が大パニック。てんやわんやのワンダーでございます』

 

 テレビの女子アナが、努めて冷静にそう口にする。いや、こんな変な事を言っている時点で何かの影響を受けているのかもしれない。

 

『それでは、ウマ娘学の権威である難田(なんだ) 是葉(これは)先生にお聞きしましょう。これは一体、如何なる現象なのでしょうか? というより、こんなデタラメでべらぼうな現象、あり得るのでしょうか?』

 

 ニュースキャスターの言葉に、コメンテーターの難田は「うむ」と頷く。

 

『私には分かります。これは恐らく、ウマ娘の特性、それと集合的無意識が結びつき現実にも影響を及ぼした、デタラメにしてべらぼうな現象です。二つ目の質問の答えとしては、()()()()()()()()()()()()()()()と言うべきでしょう』

 

 恐らく、と言いながら、その言葉には一種の確信めいたものがあるらしく。

 

『うーん、今の一言だけで聞きたい事が山ほど出来たんですが、ウマ娘の特性と集合的無意識が結びついたとは、どういう意味なのでしょう?』

『はい。皆さんご存知だとは思いますが、ウマ娘とは、『想いを受けて走る存在』と言われています。要は、ウルト〇マンにおけるウル〇ラチャージのようなものです』

『つまり、応援を力にする、という事ですか』

『はい。その言葉は半分正解です』

『半分、ですか』

 

 キャスターが訝し気な表情を浮かべる。

 そんな彼に構う事無く、難田は真顔で口を動かす。

 

『考えてもみてください。想い、と我々は簡単に口にはしますが、その全てがポジティヴなものではないのです。そこには当然、ネガティヴな想いだって存在する。想いというのは目には決して見えませんが、人の感情が乗る事によって、善良なエネルギー、あるいは悪質なエネルギーが発生しているのです』

『うーん、私にはちょいとピンとこないんですが……』

『ライスシャワー』

 

 ピクリ、と、難田がボソリと呟いた一言に、キャスターは肩を震わせる。

 

『かつて彼女が菊花賞にて、当時無敗二冠を達成していたミホノブルボンに勝利した結果、ミホノブルボンの無敗三冠を阻止したとして、世間では彼女を()()()として扱う風潮がありましたよね。マスコミは彼女の事を『漆黒の刺客』だのなんだのと散々吹聴し、それを加速させた結果、どうなったと思います?』

 

 キャスターは黙っている。

 難田は相変わらず真顔のままだ。

 

『伝手の情報が確かならば、彼女は一時期スランプに陥っていました。更に、トレセン学園から去る事も考えていた、とも。……まぁ、真意は分かりませんが。しかし彼女が人々の言うようなヒールであれば、今頃名誉毀損でマスコミが訴えられていた事でしょうな』

 

 「良かったですね、彼女が少なくとも優しいウマ娘で」と、難田は冷徹にそう言う。

 キャスターは黙ったままだったが、その額には脂汗が浮かんでいた。

 

『このように、彼女らウマ娘は感受性が豊かなのです。下手すれば人間よりも。純粋な応援の気持ちなら心地いいと感じるし、逆に謂われなき批判をされれば、心が傷つく。その点で言えば人間と同じですが、彼女らはそれが走りに直結する。稀に評判など気にしない子もいますが、多くの場合はそれで走りが良くなったり、逆に鈍る事もあるようです』

『……では、次に集合的無意識についてお聞きしたい。それが、ウマ娘の特性と、どのように関係しているのでしょうか?』

 

 話を切り替えるように、キャスターが口火を切る。

 

『はい。そもそも集合的無意識とは何か、ご存知でしょうか?』

『さぁ……心理学的なワード、という事しか』

『そう。ユング心理学において中心的な概念として扱われているもので、普遍的無意識とも呼ばれています。細かく説明すると難しいのでざっくりと説明しますが、真夏の直射日光が熱くて嫌だとか、そよ風が心地いいだとか、そういった誰しもが抱くような共通の感情は、誰かに学んだものではありませんよね。それを誰もが共通して知っている、しかもそれを意識していないからこそ集合的無意識と呼ぶのですが、我々ウマ娘学会はこれを、一種の精神的宇宙だと考えているのです』

『精神的宇宙?』

『はい。つまり――』

 

 難田は手元のホワイトボードに大きな円を描き、その中に小さな円を描く。

 

『この小さな円が、我々の自我、意識して外界の情報等を認識している領域です。そしてその外側の円。これが、先程言った集合的無意識という名の精神的宇宙です。つまり我々の自我は、この大きな集合的無意識の中を漂う星のようなものなのです。もっと正確に言えば、集合的無意識と自我が見えない根っこのようなもので繋がっているような状態にあると、我々は考えているのです』

 

 はぁ、とキャスターは分かっているのか分かっていないのか、曖昧な返事をする。

 

『そこで、先程のウマ娘の特性が絡んできます。つまり、人が誰かしらのウマ娘に抱いた想いが、この集合的無意識に流れ出し、それを介してウマ娘の自我へと流れ込み、それが力となって身体能力に影響を及ぼすのが、『ウマ娘は想いを受けて走る存在』と言われている所以だと考えています』

『しかし、それがどうしてこんな怪現象に繋がるのでしょう?』

『恐らくは、ウマ娘のもう一つの特性……『想いを周囲に届ける力』が作用しているのだと考えられています』

『そのような特性、初めて聞きましたが……』

 

 「まぁ、無理もありません」と、難田はその反応が分かり切っていたかのように呟く。

 

『我々もこれを実証する方法が無く、漠然とそういうものだと捉えているものですからね』

『漠然と?』

『考えても見てください。我々はウマ娘の走りやウイニングライブを見て、多いに感動したりします。時に笑い、時に涙する。それは、我々がウマ娘に想いを伝えるだけの一方通行な関係ではなく、相互的な関係があるからこそなのではないかと、我々はそう考えています』

 

 例えば、オグリキャップ。地方から中央へやってきた葦毛の怪物の活躍は、やがて多くの人々の心を掴み、レースに興味の無い人々までも熱狂の渦に巻き込んだ。

 そんなトゥインクルシリーズの一大ブームを作り出したのは、ただの自然の成り行きなのだろうか?

 

『今回は、それが悪い方向に周囲に影響を与えている……つまり、イメージの流入によって発生したネガティヴな感情が逆流し、周囲のウマ娘がその影響を受け……という連鎖反応が起きているのです』

『……では、今回の場合は?』

『恐らく、人々の中にこんな事を考えた人がいるのでしょう。「あんなに胸が小さいのなら、()()()()()()()()()()()()()()」と』

『それだけで、あんな事に?』

『それだけではないでしょう。私が考えるに――』

 

 そう言いながら、難田は己のスマホを弄る。

 

『あのー、何を……?』

『……モニターにご注目下さい』

 

 そうして映し出されたのは――【ウマ娘アプリのタイキシャトルの1コマ①『ゲートが狭い!?』を参照して下さい】

 

『……あー、これは……』

『そう。公式がこのようなものをお出しした結果、それを「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」と解釈した人間が増えたのです』

 

 解釈というものは、人間の認識に委ねられるもの。

 この1コマをどう認識するかは人それぞれではあり、少なくとも作者は「コンプレックスがある」と解釈していないが、そう解釈する人間も当然いるのだ。

 無論、解釈というのは妄想や想像、思想などと一緒で自由な権利だ。だが……

 

『解釈はあくまでも人間の認識そのもの、つまり脳内にしか存在し得ないもので、()()の根幹の()()ではないのです。……ifと明言した上で二次創作をしたりするのはいいでしょう。予防線を張るのは、古の時代から存在する知恵の一つですからね。ですが、世の中には非公式なものをさも事実であるかのように語ったり、「イメージを損なうのはよせ」と言っているのに、そういう絵やら文章やらを量産する輩もいるのです』

『……あのー、さっきから公式とか、設定とか、二次創作とか、何の話をされているんです?』

 

 キャスターの言葉を無視し、難田が続ける。

 

『……私の口からは、それ以上深堀はしません。ですがその影響により、()()()()()サイレンススズカさんは普段の状態から一転した状態になり、周囲にもネガティヴなエネルギーから来る悪影響が及んでいるものと、推測されます』

『では、どうすれば――』

『私には分かります』

 

 そこで、難田は区切る。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そして……()()()()()()()()()()()対抗するしかありません』

『に、二次創作? ……しかし、そんな存在が都合よく――』

 

 

 

 

 ――その時だった!

 

 ガシャン、というまるでゲートが開いた時のような音と共に、金色の光がトレセン学園の一画から溢れ出し、偶然そこに止まっていたトラックを踏み潰しながらウマ娘めいた巨人が現れたではないか。

 

 見た目は葦毛の長い髪に赤を基調とした勝負服、白いズボンと、スタイルの良さも相まってどう見てもゴールドシップのようだが……その顔には、何故かこの世ならざる面長の生物のマスクが。

 しかも何故か変顔をしているようにしか見えない。

 

 ――なんだこれは。

 

 この光景を見ていた誰しもがそう思っただろう。

 

 そう、それはこの世の誰よりも自由なる者、ゴルシマンである!

 

 

 

 

 ――ウマ娘は足で語れ――

 

 

 

 

『あれは……』

『あれこそは、ゴルシマン。この世界における救世主……いえ、()()()、といったところでしょうか』

『……ゴルシって、ゴールドシップさんの事ですか? 女性なのにマン?』

『元々は()()ですからね。マンがついてもおかしくないでしょう』

『ボバってなんですか? スター・ウ〇ーズの賞金稼ぎ?』

 

 巨人――ゴルシマンは、何やら珍妙な踊りめいた動きをしたり、勝手に貯水槽の水を飲み干したかと思うと、地上で黒い靄を振りまきながら悩めるスズカの存在を認める。

 すると、そのギョロリとした目から金色の光線を放った!

 

 はたして、光線はスズカに直撃したが、彼女に何らかの影響があるようには見えない。

 だが、しばらくするとその黒い靄が、まるで絞り出されるように彼女の身体から排出され、空中に上っていく。

 それは、周囲の人間にも見えるようになっていた。

 

 空中に浮かび上がった靄の塊は、やがて何かの形を形成していき、実体化する。それは――

 

『……なんでしょう、アレ。緑と黄色の、壁?』

『あれこそは、人々のイメージするサイレンススズカさんのコンプレックスと、サイレンススズカさんの持つ負の思念が結びついたもの。……そう言えば、人は彼女のあのスレンダーな身体を指して、『最速の機能美』と呼ぶそうですが……まさかね』

 

 『壁』は、まるでゴルシマン(の一部)に敵意があるかのように、黒い靄を飛ばす。

 だが、ゴルシマンはその胸部で弾き返すように胸を張り、腕の一振りで靄を振り払う。

 

 それに対し『壁』は、なんと高速移動を開始。

 恐るべきスピードでゴルシマンの周囲を移動しだす。

 対するゴルシマンは、腰のポーチから、小さな金色の錨のようなものを取り出す。

 

 そして、ゴルシマンは狙いを定めると、それを投擲!

 恐るべき正確さで、『壁』に突き刺さる。

 だが、それでも『壁』は止まらない。なおも移動を続けるそれに対し、ゴルシマンは――更に何枚かの錨手裏剣を取り出し、構えた。

 

 そこからは、一方的だった。

 恐るべきスピードで動く『壁』に、ある時は普通の投球フォームで、ある時はサイドスローで、またある時は股の間から、次々と手裏剣を当てていく。

 その投擲動作は徐々に加速していき……遂には、『壁』の移動速度を上回る速さで、次々と投擲されていく!

 

『しかし、あまり効いているようには見えませんよ? 大丈夫なんですか?』

『……いや、あれはもしかすると……』

 

 そう呟くと、難田は黙り込む。

 

『どうしたんです?』

『……貴方、ゼビ〇スというゲームは?』

『え? まぁ、少しだけなら……』

『私も詳しくは知りませんが、ゼ〇ウスには〇キュラという板状の敵が出てくるそうです』

『それが、何か? ……あ』

『お気づきになりましたか……バキ〇ラには、ある都市伝説がありましてね。それは……『256発撃てば破壊できる』というもの』

『まさか……ゴルシマンは、256発撃ち込むつもりで!?』

 

 彼らの言が正しいのか、ゴルシマンはなおも手裏剣を投擲。なおも壁に命中させていく。

 

『しかし、アレは確か迷信という事で決着が着いた筈……』

『ですが、相手はイメージの怪物。ならば、それで倒せるというイメージが流れ込んでいれば、あるいは――』

 

 つまりは、想像力の対決。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうする事で、『壁』を破壊しようとしているのではないか。彼らはそう思ったのだ。

 

 やがて、計測された限りで255発目が撃ち込まれ、遂に256発目が――

 

『……あれ、爆発したりとか、しませんね』

『……まさか、イメージを上書きできなかった……? 元のバキュ〇は動かないから……』

 

 だが、彼らの予想を反し、ゴルシマンは――なおも『壁』に投擲を続ける。

 

『効いていないのに、なおも続けるんですか!?』

『何か策が……?』

 

 ゴルシマンは、投げる。

 

 355、356、357――

 

 投げる。

 

 413、414、416――間違えた、415――

 

 投げる!

 

『……500を超えた』

『……まさか』

 

 560、561、562――そして、563

 

 そして、ゴルシマンはポーチから手裏剣を取り出そうとし――しかし、中がもう空っぽなのに気づく。

 『壁』は相変わらず高速移動を繰り返している。というか、煽るように左右に移動している。

 

 ああ、もうこれまでか!

 

 だが、ゴルシマンは何かを思い出したかのように、右の拳で左の掌をポンと叩く仕草をする。

 そして、頭頂部の帽子を手に取ると、その中からあの錨手裏剣を取り出したではないか。

 

 ビクッ、と、驚きによるものなのか、急に止まる『壁』。

 そんな見え見えの隙を見逃さないゴルシマンは、片足を振り上げ、思いっきり手裏剣を投げた!

 

『……564回、手裏剣を……!』

 

 はたして、手裏剣は『壁』に命中し、その表面にはおびただしい数の手裏剣が突き刺さった状態になり――

 

『……あれ、やっぱり爆発とかしないですね』

 

 ――何も起こらない。()()()()()()()

 

 ゴルシマンと『壁』の間に、そして中継カメラを通してこの光景を見ているスタジオやお茶の間に、静寂が訪れる。

 

 ……突然、ゴルシマンは珍妙なポーズを取り出した!

 

『おっ、これは……何かの必殺技!?』

 

 やたら豊富でやたら長ったらしいポーズの数々に、キャスターは期待を込め、『壁』は困惑か恐怖か、その場を動かない。

 

 そして――身体を反るような奇怪なポーズのまま静止したかと思うと、おもむろに体のあちこちを探り出す。

 

『え、えーと……何やってるんでしょう?』

 

 その答えは、約1分で分かった。

 

 懐から取り出したのは、鎖付きで巨大な金の錨。

 その鎖の部分を手に取ると、ブンブンと風切り音を立てながら振り回しだす!

 

『え、まさか――』

 

 その、まさかだった。

 

 「不沈艦、抜錨ォッ!」と言わんばかりに、ゴルシマンは錨を振り回したまま『壁』に向かって飛び込み――錨を叩きつけた!

 

 その一撃を受けた『壁』は、やけに生々しい音と共に崩壊。黒い靄となり、そのまま空気に溶けるように消えていったのだった。

 

「……あれ、私、今まで何を……?」

 

 黒い靄が消えた瞬間、スズカを包んでいた暗い気配が一瞬にして消え去った。

 どうやら『壁』が消え去った事で、コンプレックスの存在諸共、負の感情が消えてなくなったようだ。

 

「……良く分からないけど、今走ったらもっと気持ち良くなれる気がする……!」

 

 そう言いながら、彼女は元気よく駆け出していった。

 

 ウマ娘にとって、他者から評価される肉体の美しさなど二の次でしかない。

 かの『100年に1人の美少女ウマ娘』ゴールドシチーも、外見の美しさが故の周囲からの評価に悩み、苦しんだ。

 だが、彼女らの本質を決めるのは、結局は走りなのだ。彼女らは、走りの中から己を見つめ直し、そして答えに辿り着く。

 顔でなければ胸でもない。走りこそが、彼女らを最も美しく魅せるのだ。

 何故なら彼女らは、走る為に生まれてきたのだから!

 

 何はともあれ、ありがとう、ゴルシマン!

 

 

 

 

『……え、あれで解決なんですか!? あれでいいんですか!?』

『いいんですよ、あれで。言ったでしょう。「デタラメにはデタラメなものを。べらぼうなものにはべらぼうなもの、そして二次創作には二次創作で対抗するしかありません」、と』

 

『……そもそも、ゴルシマンは我々の人智が及ばない領域……いや、もしやすると集合的無意識の更に深奥か、あるいは外側の存在なのかもしれないのですから……』

 

 ――まぁ、それもまた、私が抱く勝手なイメージ、願望に過ぎないのですが、ね。

 

 難田は、静かに笑った。

 

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