「……………………」
またあの天井、いつもの場所で目を覚ます。まだ周りは暗い。ここに住み着いてしばらく経った、いつもの場所だなんてこの寝室にも慣れてきたのかもしれない。何時ものように寝て何時ものように起きるだけ、そんな自堕落な生活をいつまでも続けて良いのだろうか
「あれ??私、昨日どうやって……」
意識の覚醒と共に昨日までも記憶も呼び起こされてきた。確か昨日は……
「痛っ!」
左手首に激痛が走る。見ると包帯が巻かれ丁寧に止血処置を施された痕が残っていた。徐々に蘇る記憶に冷汗が止まらない。昨日私は自決を計った。今までの自分の過ちを贖いたかった。早く楽になりたかった。それなのに…
「そうだ、御守り……まあないよね……」
いつもは服の上に置いてあるはずの短刀が見当たらない。当たり前だ、あくまで御守り、使用する道具ではない。私だって取り上げる。
寝巻きを脱ぎおろしたての服に袖を通す。村のおばあちゃんに仕立てて貰った紅白の装束、サイズもちょうど良い。いつ採寸したんだろう……
外からはドタドタと音が聞こえる。仕事はもう始まってるらしい。私にもやれる事をやらないと…
「行かなくちゃ」
重ねてあった羽織にも袖を通し、部屋の戸を開け新たな一日へと踏み出した
「この辺でいいんだよね…」
神社付近の森の中、幻音さんに言われた通りの所でで地図を開いた。私に出された仕事はお客様の案内。今回のお客様は相模女子高等女学館、桜ノ杜に並ぶ鎌倉府五大ガーデンのひとつ。ガラが悪いなんて噂も聞いた事あるけど大丈夫かな…
「なぁおい一体いつまで歩くんだ?」
「まあ待て、指示座標までもう少しだ」
「先輩がガンシップを嫌がったからからこんなに歩かされてるんすよ、ああ先輩実は高所恐怖症だったんすか?」
「黙れ、道中でスコア稼げると思ったんだけどなぁ…ケイブも2つしか出てこないしこれじゃあ元取れねーぞ」
黒い制服を身に纏った見るからにガラの悪そうな集団が通りかかった。間違いない、あの人たちだ、どうやって声掛けよう…かつあげ?とかされたりしないよね…
「だいたいなんだよ静岡奪還って、上の縄張り争いに付き合わせるのも勘弁してくれ」
「確かにな、恐らくこの辺だと思うが…何も無いな。おかしい…間違えたかな?」
「おいおい勘弁してくれよ隊長…ッ!誰だ!出てこい!」
「は、はい!!」
マギの籠った投げナイフが目の前を通り抜け力強い声に驚き木の陰から引っ張りだされてしまった。私を見つめる8人の眼が恐い、和気藹々?とした雰囲気が一変、彼女達の落胆と殺意が流れ込んでくる。冷汗が止まらない。え?なに?なんで?
「……なあ嘘だろ?」
「共闘要請は出てないが?」
「嫌がらせかよ……」
「あいつどうするよ?」
メンバーと集まって話し合ってる。どうしよう…兎に角話を切り出さないと……
「あ、あの……」
「お前、桜ノ杜んとこだろ?アタシ達の前に出てきたって事がどういう事か、分かってんだろうな」
「え?なにが…」
「charm構えな、殺すぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください!なんで!」
彼女らの殺意は本物だ、このままじゃ袋叩きにあって殺される。神社へ向けて一目散に逃げ出した。簡単な仕事じゃなかったの?何故?なんで私が?まさか逃亡犯の処理!?
「逃がさねえよ」
頭上からの声に反射的に身体が反応、前方に向かって飛び込んだ。瞬間真後ろでアステリオンが地面を抉る音が響いた。一瞬で私の元に…距離は十分にあったはず。多分レアスキル…
「しゅ、縮地……」
「おうよ、まあとりあえずボコられてくれや」
「ヒィ!」
不良はアステリオンを剣形態に変形し私に向けて刺突の構えをとっている。縮地の高速移動から成る刺突攻撃。ダメだ、逃げられない!横腹を抉られ朽ち果てる映像が流れ込む
「死ねや!」
不良は怒号と共に大地を蹴りあげ姿を消す。そして高い金属音が森一帯に鳴り響いた。
「痛っ!」
「防いだ!?お前…!」
布都御魂の鎬とアステリオンの切っ先が激しく衝突。刺突の衝撃によって私は激しく後退、不良は止まらず刃を振るう。私はギリギリの所で防ぎ、躱し、未来の実現を拒絶する。続け様に映る死の映像、私はそれを視られない
「もういい…辞めだ」
「え?」
剣戟の最中不良は急に手を止めcharmを収めた。
「お前リリィじゃないんだろ?要件はなんだ?」
「え?あ、はい…相模女子の皆様の宿舎案内に……」
「はぁ……悪かったな…あいつら連れてくる」
え?なに?なんだったの………
「幻音さん、相模女子の皆さん連れてきました」
「ありがとうサヤ、ってどうしたのそれ、やけに汚れてるじゃない」
「ええっと……その…」
「後で聞くわ、ちょっとまってて」
「はい…」
あれから皆大人しく着いてきてくれた。予定通り境内で幻音さんが対応する流れになってほっと胸を撫で下ろす。お客様に因縁付けられたとか言えない……そういえば幻音さんの洋服って初めて見たな…
「自己紹介もこれぐらいにして相模女子高等女学館の皆様、長旅お疲れ様でした。皆様の部屋の準備は出来てますのでそちらでおくつろぎを。charmのメンテナンスは工房の者にお尋ねをください」
「質問を」
「はい、何でしょうか?」
「そちらの連れのリリィ、制服を見る限り桜ノ杜、もしくは桜花義塾の者では?あれらと我々の関係を御存知で?」
「ん?ええ、貴方達の関係も勿論…………あっ……」
「………返答によっては」
「い、いえ、問題ありません。我々は桜ノ杜とは無関係です。歴史の浅いただの神社でしかありませんし彼女はリリィですらありません。ご安心を」
「しかしスパイという可能性も…」
「隊長、もうその辺の詮索はしないって言ったろ?どうせ脱走兵か何かだろ。放っとこうぜ」
「……そうだな、失礼した」
急に左手から痛みが顔を出してきた。見ると包帯が紅く染まっている。さっきの戦闘で傷口がまた拡がっちゃったらしい
「あと、服については私の趣味です、ご了承下さい」
「えぇ…」
「趣味わる」
「そこ、聞こえてるわよ」
不良の一言で話は終わり相模女子の人達は部屋に向かって行った。
「お願いします」
「ありゃま、傷口がぱっくり、動脈まで近いんじゃない?」
「………………………」
幻音さんに呼ばれ傷の手当てを受けている。お客様はcharmを預けに増設された工房に向かった。今頃星莉花さんは大忙しとの事、私も幻音さんもcharmに関する知識には疎いのでセッティングを終えるまでは手伝いに行く事も嫌がられるらしい。
「ごめん、私のミスよ」
「いえ………私が…怒らせちゃったから…」
「そのきっかけが私のやらかしなの、本当にごめんなさい」
「え?どういう事ですか?」
「そっか、貴女まだ中3か、これからが働き時だったものね…サヤ、桜ノ杜の校風は覚えてる?」
「はい」
鎌倉府立桜ノ杜高等学院。日本神話やお侍さんの文化、和の文化を色濃く引き継いだ鎌倉府五大ガーデンの一つ。武士道精神を重んじた教育がされ武と雅を大切にされている。校舎も和風建築を基調とし制服も全て着物から成っている。洋服が日本に普及したこの時代わざわざ着物を纏う人間は少なく、鎌倉府周辺で着物で出歩いてる人間といえば8割方桜ノ杜系列の者だと判別されるくらい目立つ。
「貴女は元桜花義塾生、来年は桜ノ杜に、とでも思ってたんでしょ?」
「はい…あそこはエスカレーター式なので…入る条件は厳しいけどマギも通っててちゃんと生きてれば大抵は行けるはずです…」
「そんな簡単な話?」
「簡単じゃないですよ!!私なんて……」
「……まあいいわ、話を戻しましょう。次は今回の客、相模女子の話」
「相模女子高等女学館、相模原に建てられた軍隊式で厳格な新興ガーデン。品格なんかよりも結果って教育方針で兎に角戦果を求める傾向にあるの。元々大きかった訳じゃなくて頭角を現したのは今から数年前、あったでしょ?甲州撤退戦」
「多くの戦死者を出してしまったとよく聞きます」
「そこで活躍したのが相模女子って訳。最も多くの犠牲者を出した代わりにね」
結果を出すには相応した実力と割り切りが必要。彼女らは地獄のような日々と人間の死を幾度も見てきた猛者なのだという。
「で、今回の問題は桜ノ杜と相模女子の関係。この2校は不倶戴天、物凄く仲悪いのよ」
「武士道精神、聞こえはいいけど理想主義に生きる頭でっかちな桜ノ杜。結果主義に生き犠牲も被害もお構い無しな相模女子、そりが合うわけ無いじゃない?互いに実力はあるし交わらなければ互いの方針通りに仕事はこなす。けど同じ戦地にいがみ合ってる2校が混ざれば一触即発、阿鼻叫喚の地獄絵図へと早変わりよ」
「なるほど……あっ…私…」
「そう、あろう事か私は桜ノ杜系列のシンボルとも言える着物を纏った貴女をあの連中に差し出しちゃったの。格好の餌よ、そりゃあ1発でも2発でも殴るわよね、連中ほぼチンピラだし」
「あ……あぁ………」
いつの間にかいつもの装束に着替えてたけど幻音さんが珍しく洋服着てたのってそういう意味が……
「こんなナリだけど私達は桜ノ杜とは無関係。あそこと付き合いはあるけどあくまで中立、依頼がきたからやってるだけよ。無駄な荒事は避けたいし対策を考えてはいたんだけどね…予定通り私が行くべきだったわ。悪かったわね、気が回らなくて」
「い、いえ!気にしないでください!」
話してる間にも傷の処置は終わり私の手から幻音さんの冷えた手が離れてしまった。血塗れだった包帯も綺麗なものに締め直された。
「こんなもんかしらね、痛くない?サヤ?」
「…………あ…はい!大丈夫です!」
「何はともあれこの程度で済んで良かった、お疲れ様。少し休みなさい」
「ありがとうございました、休憩してきます」
礼を述べ本棚に囲まれた幻音さんの部屋を後にする。私が狙われた理由はわかった。けどあそこで戦闘を辞めた理由は?なんであのタイミングで私の正体に気付いた?幾つか疑問は残るけど何だかどうでも良くなった。今でも凄く痛い筈なのに幻音さんに手当されたこの瞬間、何故だかとても気持ちよかった
「よっ」
「ヒッ!五月女…流歌さん……」
相模女子が滞在して2日後の夜、洗濯物を干しに廊下を歩いてると事の始まりの不良、
「そんなにビビることはねえだろ」
「ごめんなさい…えっと…ご入り用なら幻音さんか星莉花さんに……」
「ちげーよ、お前だよ」
「私に…ですか?」
「おうよ、お前のレアスキルってファンタズムか?」
「はい…」
「やっぱりそうか、納得行った、じゃ」
「ま、待って下さい!!」
早々と会話は終わり、もう用はないとばかりに横切る彼女に焦った私は勢いのまま呼び止めてしまった。
「私にも教えてください。あの時、どうして退いたんですか?どうして私が裏切り者だって気付いたんですか?」
「何?マジで脱走兵だったの、見かけに寄らず度胸あるなお前」
「え?どういう」
「あれは適当に言っただけ。ただそんな気がしただけだ、当たってたとはな……」
理解が追いつかない、あの時は互いに会話が成り立たないし一方的に襲われただけ、それなのに何故?私そんなに信用なく見えてたの?
「瞳だよ、お前の瞳には闘志がまるでない。リリィにある筈の闘争本能ってのが全く見えねえ。死人の瞳だよお前のは」
「……………………」
「リリィってのはどいつもこいつも殺意の塊で出来ている。キモいオタクであれ上品ぶったお嬢様であれその野蛮性はどこか隠しきれないもんなんだよ。お前アタシに殴られた時殴り返そうなんて思わなかったろ?」
「…………多分…」
「だからお前はリリィじゃない、少なくともあの連中とは関係ないなって思った訳。ちゃんとした桜ノ杜の野郎だったらあの時点でキレてる。勝てなくてもどうやって先輩に言い付けてボコしてやろうかとかこっそりと考えてるだろうさ。まあそんな瞳してたんなら容赦なく半殺しにしてたけどな、アタシは死体を虐める程良い趣味はしてねんだわ」
「……ごめんなさい…」
「なんでそこで謝るんだよ…あーもうひとついいか?」
「え?ちょ、ちょっと!?」
歩み寄ってきた流歌さんに後退りした私は柱に背にし顔の傍に手を押し付けられた。逃げ場を無くしてしまった。籠を落としてしまい洗濯物が廊下に散らばる
「レアスキルファンタズム、それって願えば何でも叶えられるんだろ?なぁ、お前には何が視えてる?なんでお前は笑わない?そんなにも世界ってつまらない物なのか?」
「私は……」
狼狽えてしまい言葉が詰まる。怖い、この人が恐い、皆が恐い、全部が恐い、私が恐い。誰か私を……
「あ?」
「あのね、ウチの子に手を出さないでくれる?」
気が付くと幻音さんが隣に立っていた。私に迫った流歌さんの腕を握っている。
「隊長が探してたわよ、調整あるんでしょ?」
「もうこんな時間か。話はそれだけだ、じゃあな」
手を離した流歌さんは散らばった洗濯物を籠に戻してそそくさと立ち去った。
「何ぼーっとしてるの?仕事に戻りなさい」
「は、はい!!」
急いで干して来ないと。籠を担いで駆け足で物干し場に向かうことにした。
「38℃とかマジっすか先輩!外征先で風邪とかもう終わりっすよ!マジ迷惑!ウケる」
「お前マジでぶっ殺すぞ…」
「そんな身体でやれるんすか?私どころかあの子にもボコられるっすよ」
「あの……えっと…これは…」
4日目の朝、朝食の配膳が終わり私は相模女子を呼びに行った。皆制服に着替え終わっている中、流歌さん1人だけは寝間着のまま布団に突っ伏せている。彼女を取り囲むようにして笑い転げていたり説教をしている人達がいた。
「ご苦労、朝から申し訳ないのだがこいつの看病をお願い出来るか?風邪を引いてしまったらしいんだ」
「はい、分かりました伝えてきます。それと朝食の準備が出来ました」
「済まないな、お前達行くぞ」
急な環境の変化に体調を崩すのはそう珍しい事では無い。すんなりと許可が降りこの日流歌さんは休養を取ることになった。
「私らで敵数減らしとくんで安心してください。目標のバイクまでまた遠退いちゃったっすね先輩」
「覚えておけよお前」
「お昼ご飯持って来ました」
「おう…悪いな……」
医務室?に入ってきた水無月沙夜花はアタシに土鍋を差し出してきた。病人に土鍋と言ったら小粥しか考えられない。その嫌な予感は的中し中身は米がどろどろに煮込まれた白い液体。梅干しが1つ乗せられいる。作り手からこれで我慢しろという態度が見て取れる。レーションと思えば食べられなくもない、アタシは匙を手に取りゆっくりと食べる事にした
「あれだけイキってたリリィが風邪でぶっ倒れたんだ、笑ってもいいんだぞ」
「笑ってきてやれって幻音さんにも言われました……」
「はは…よく分かってんじゃねえか。で、どうなんだ?」
「……出来ません」
「そう言うと思ったよ」
不味い、マジで不味い。ほんとにあの女将が作ったのか?ここの飯結構美味かったのに何この落差、喧嘩売ってんのか?
それにしてもこんな姿あいつらが見たら笑い物にしてくるだろう、天下のリリィ様が戦闘外で何啜ってんだって話だ。けどこいつは笑わない。いや笑える事でもないのか。
「お前、生きてて楽しいか?」
「…………………」
沈黙。生きる事は楽しい、楽しいから生きている。生者の誰もが答えられる筈の簡単な問い、それさえも答えられないこいつが本当に愚かに思えて仕方ない
「楽しくない、ただ生きてるだけ、それって勿体ないと思わないのか?」
「え?」
「死んだら何も残らない。だったら毎日楽しみ尽くした方がお得だろ?美味いもん食べて、変な野郎みて笑って、生きる事を楽しめばいい。苦しい顔して生きるだけなんて勿体ない」
「…………そうですね……素敵な考えだと思います…けど私にはそんな資格ありません…」
「あ?資格なんて誰だって……あぁそうかお前脱走兵だったな」
「はい……私は皆の命を奪いました…皆の笑顔を、皆の楽しみを奪いました。そんな私がのうのうと生きてる事が良くないんです…」
それを言うならアタシも同罪だ。任務の為、報酬の為に仲間を売った。世界がどうなろうが周りがどうなろうが知ったこっちゃない、ただ高い給料の為に戦っている。アタシの仲間はみんなそう、アタシ達にとっちゃ当たり前の話だ。
「はぁ…それじゃあ犠牲者が可哀想だろ」
「え?」
「お前がそいつらを殺した?いや少し違うな、そいつらはお前の為に死んでくれたんだ、お前の生きたいって願いをそいつらは叶えてくれたんだよ。お前が笑わなかったらお前を生かしてくれた奴らが浮かばれない」
「………………」
人はどうあれ斬られれば死ぬ、刺されれば死ぬ、打たれれば死ぬ。いや死なない馬鹿もいるが……そんな奴らを気にかけるだけ馬鹿な話だ。そこに意味なんてない。こいつはそんな奴らの意味を見出そうとする。根本的に優しい人間なのは分かるがその在り方はとてつもなく息苦しい
「ただの結果論だけどな、そんなんでいいと思う。どうせ人間なんてすぐ死ぬんだ。もっと適当に生きろよ」
「……………はい」
望めばなんでも実現出来る最強の眼、ファンタズムを持ちながら世界の色 楽しみを知らないこの少女が酷く可哀想だった
「ご馳走様、また寝るわ。夕飯は雑炊にしてくれって伝えておいて」
「ありがとうございました、了解しました。おやすみなさい」
夕飯もお粥、梅干しが一つ付け足された。やっぱ喧嘩売ってんだろ
今日の仕事は全部片付き後は寝るだけ。部屋を出て夜空を見上げる。手首の痛みは減り、月が輝きを持ち始めあの日から時が経った事をしんみりと実感していた
「次はどこを斬るの?」
「………やりません…月を見ていました」
「そう」
幻音さんがいつの間にか現れ私の隣に腰掛けた。足音もなく姿を見せるからちょっとびっくりする。風呂上がりなのか夜風を通して心地よい香りが伝わってくる
「流歌さんとお話しました…私に笑え、楽しめって……私が殺した皆は私の為に死んでくれたんだって……けどそれって私はあの人たちの命を背負ってしまったんですよね?私にそんな価値はありません…」
「そうね、貴女にそんな価値はない」
「そうですよね……人の命を背負えるほど私はそんなに強くないです……」
それが出来ないのが私だ。人の命を背負って戦う責任から逃げリリィとしての責務を果たせなかった愚か者
「私ってなんで生きてるんでしょう?」
「さぁ?」
私は皆を殺した。皆を殺してでも生きたいと願ってしまった。そんな浅ましい自分がどこまでも醜く気持ち悪い。
けど…………
「私、笑ってもいいのかな…」
「………………」
「楽しく生きられるのかな……………」
「………………」
「答えないんですね……」
「知らないわよそんなこと。貴女自身の手で見つけなさい」
「…………はは…厳しい…」
「けどまあ……いつか、笑えるといいわね…」
「………………うん」
2人黙って月を見上げる。気まずさを覚える沈黙も何故だか今は安心する
「さぁもう寝なさい。貴女まで風邪引いたらそれこそ笑い物よ。私はお姉様の所にでも行ってくる。地獄を名乗る馬鹿な企業のデバイスが馬鹿やってて大変そうなの」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみ、サヤ」
それからは私には特に大きな事も起こらず日々が経過し相模女子の皆さんも帰還が決まった。もう何人かは荷物を纏めてガンシップに向かってるらしい。風邪から復帰した流歌さんが後輩さんをボコボコにしてたりなんか凄い会社の製品が暴走したりと大変だったらしいが大きな怪我もなく任務を終えられたのは良かったと思う。
「世話になったな」
「無事に事が済んだようで何よりだわ」
「上に言って欲しいのだけど次回からゲヘナ製品は持ち込み禁止でお願い出来ない?一般知識しかない私じゃ手に負えませんので」
「期待はしないでください、私たちのスポンサーでもありますので」
「えぇ~」
工房の方は大変そうだったらしい。私も手伝った方がいいのかな…何か出来る訳じゃないけど……
「沙夜花」
「る、流歌さん…なんでしょうか?」
「まだそんな態度なん?いい加減傷つく」
「ごめんなさい…」
「まあいいや、生きてる上で犠牲なんて当たり前の事でなんでお前がなんで苦しんでるのかアタシにはよく分からない。けど今お前は生きている、生かされている。ならやりたい事をやって見ろ、そうすりゃ見える世界も変わる、自然と笑えてくる筈だ。ないなら探せ。それでいい」
「…………そうしてみます…」
「あと女将さん、飯はマジで良かったけどその巫女服、やっぱねーわ」
「そのタッパー返しなさい、そして二度と来ないで」
「ヤダ。もう来ねーよ、じゃあな」
別れの挨拶を終え境内を後にする。盛大な騒音を最期に神社に静寂が訪れた。流歌さんを挑発してた後輩さんが階段から落とされたらしい
「………眩しいなぁ…」
つい言葉が漏れた。2人からの同意は無い。当たり前だ、お日様は叢雲に遮られ私達を照らさない。それなのに何故か何かが眩しかった
「…………夕飯、なに食べたい?」
「………お刺し身…」
「…………無いわよ……そんな顔しないで」