小心者のスケープゴート   作:吟ぎんが

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水無月の雫

「お、重い……」

神無木神社へ向けて山のように積まれた荷車を押し歩く。陥落地域での物流は基本空路によるもので買い物という概念が存在しない。なので数日間、数週間分まとめて取り寄せて置く必要があるとの事。私達は外征リリィ達の受け入れを仕事としている。その為一度に送られてくる荷物の量も非常に多い。生活用品、食材、携帯食料に機械の部品らしき物等様々だ。あらゆる荷物が積み重なり荷車から今にも零れ落ちそうだった

「やっと見えてきた……」

呆れ返る程に静かでのどかな田舎道、人や動物、あらゆる生き物の気が感じられず、あるのは自分とそこに広がる植物のみ。私もこの子達と同じ、意味も無くただあるだけの存在にしか過ぎないのだろう

「ただいま帰りました」

「おかえりさない、運びましょうか」

「はい!」

何とか取り零すことなく運搬を終え、荷物を家まで運び上げる。境内に続く階段はそれなりに長く、荷物を全部手作業で運ぶのは凄く苦しい。リリィとしての訓練も大変だったがこの作業も同じ位大変……

「これはどこに置けばいいですか?」

「あーそっちの台車に」

「これは?」

「さっきと同じ所ね」

工房用、厨房用と言った感じに荷物を行き先毎に分別する。分けて並べると工房用の荷物がやけに多い

「あの……なんか機械部品多くないですか?」

「そうね、依頼先からの搬送も兼ねてるんだけど凄い量ね……重くなかった?」

「重かったです…とてつもなく……」

「一日に一つは壊す勢いよこれ…三週間連戦してもここまで消費することはないんじゃないかしら…知らないけど」

そういえば出発前から星莉花さんの顔色が悪かった。これから来る方と関係があるの?

「えっと…今回のお客様ってどちらの方々なんですか?」

「百合ヶ丘よ。百合ヶ丘女学院」

 

 

 

 

「ごきげんよう。我々は百合ヶ丘女学院、LGレギンレイヴ。暫くの間お世話になります」

翌日、水夕会を名乗るリリィが私達の元に訪ねてきた。前回の人達とは真逆、立ち姿から上品さが出ている。凛とした立ち振る舞いは誰もが憧れるお嬢様その物、私のお姉ちゃんを思い出させる。そんな完成した彼女達を私は直視出来ず、羽織に付いているフードで覆い隠す。百合ヶ丘の隊長と会話してたはずの幻音さんの方からため息が聴こえてきた、ような気がした

「あの…どうかしましたか?」

「い、いえ!気にしないで下さい……どうか…お構いなく…」

「どうしたの?しおりん」

「聖姉様、なんだか顔色が悪そうだったので…」

「……ごめんなさい…」

こんな私に心配してくれたのか百合ヶ丘の方々から声をかけてくれた。申し訳なさから今にも逃げ出したい…

「ごきげんよう、私は谷口聖。こっちの可愛いいシルトはしおりん」

「ごきげんよう、六角汐里です。貴方の名前、教えて貰ってもいいでしょうか?」

「……水無月沙夜花です…ご、ごきげんよう…」

「ふふ、いい返事ね。よろしく沙夜花ちゃん」

谷口聖さんは私の手を取り何か袋包された小さい棒のような物を私に手渡した。飴玉?

「あの……これは…」

「あげるわ、元気出るわよ」

「あ……ありがとうございます」

「聖様、汐里、そろそろ行きますよ」

「はいは~い」

話が終わったのか隊長が2人を呼んでいる。それじゃ、と聖さんが手を振り、汐里さんが優しい笑顔で会釈し2人は去っていった。

「サヤ、私達も…てなにそれ」

「飴玉です。あの方に頂きました…」

「……餌付け?」

「美味しいです」

「…………良かったわね」

ソーダ味で美味しい。私も仕事に戻らないと…けどさっき言ってたシルトってなんだろう……?

 

 

 

 

「星莉花さん、晩ご飯持ってきました」

「もうこんな時間…ありがと」

百合ヶ丘の皆さんが来てから星莉花さんは工房に籠り切りになっていた。工房がバタついてる時は片手間に食べられるものがいいらしく幻音さんがサンドイッチを用意した

「お疲れ様です……あの、今まで何を……」

「charmの修理」

「え?修理?あの方達まだ1度も……」

「修理が間に合わなかったんだって。私も耳を疑ったわ。あんたらまだ戦ってもいないでしょうって」

パンを片手に1本のcharmを取り出してきた。え?重くないの?

「これダインスレイフていうんだけどさっきまでボロッボロでね、流石に引っくり返っちゃった。そんなことある?だってcharmよ?マギさえ通ってれば余程の事がないと壊れる代物じゃないっていうのに」

「確か上級生の方々ってだいたい予備のcharmを持ってるものなんですよね?お姉ちゃんも3本は持ってたし…」

「それも全滅だって。まともに扱えるのは防御用charmのみだったと、昨日から送られたデータ読み込むのに寝れてない」

「え、えぇ……」

ドアのノック音が響き、星莉花さんの返事に合わせて百合ヶ丘のリリィ、六角汐里さんが工房を訪れてきた。私は慌ててフードを被る

「失礼します……あの…私のcharmって…」

「いらっしゃい汐里さん、間に合いましたよ」

「ほ、本当ですか!?」

星莉花さんは持っていたダインスレイフを汐里さんに手渡した。汐里さんの不安げに強ばっていた表情が一転、安心したのか笑顔が零れ胸を撫で下ろしていた。

「ありがとうございます!!助かりました!」

「次のはちょっとかかるから慎重に扱ってね」

「はい!気を付けます!」

ごきげんよう、と未だ聞き慣れない挨拶を交わし工房を後にした。

「またやるわね、あの子…………」

「…………………」

 

 

 

 

 

「またやったわ……この子」

「えぇ……」

「ごめんなさい……」

2日後の夕方、汐里さんのブルトガング?の修理が完了し星莉花さんは休憩、私が工房内の簡単な掃除をしている中百合ヶ丘の皆さんが帰ってきた。初日の予感は的中、星莉花さんが修理したダインスレイフは既にボロボロに損傷していた。

「ま、まあ、しおりんもこう言ってるんだし許してあげて?」

「別に資材も百合ヶ丘からの物だし良いんだけどね……早い内に矯正させないとアーセナルの子達も…」

「最近は減って来てるのよ!もう少し時間が必要なだけで…」

百合ヶ丘の六角汐里さん、今は叱られた犬のように落ち込んでいるが世界でも名を聞かせるほど実力者らしい、charm遣いが荒い人らしくその修理頻度からアーセナルから嫌煙されつつあるらしい。あんな穏やかそうな人が?正直まだ信じられない……

「治せる見込みがあるならいいけど…アーセナルに愛想尽かされないよう、庇ってあげなさい」

「この子のシュッツエンゲルですもの。それ位やってみせますとも」

「シュッツエンゲルねぇ……」

意気揚々と応える聖さん。その隣で照れくさそうに微笑む汐里さん、彼女らの姿が姉妹のようで何だか羨ましい…

「あ……あの…シュッツエンゲルてなんですか……」

「あら、沙夜花ちゃんは聞いた事ない?百合ヶ丘のシュッツエンゲル制度」

鎌倉五大ガーデンの1つでもある百合ヶ丘女学院。集団戦を重点に置いているからか、ここの校風は他学年との交流をとても重要視しているらしい。シュッツエンゲルの誓いとは上級生が守護天使シュッツエンゲルとなり、契約した下級生シルトを護り導くというもの。

この契約を交わした2人は苦楽を共にする姉妹のような関係になるという。

「で、私としおりんが正にそれなの」

「そういう事です」

「なるほど…ありがとうございます…」

あれ?なんか聞き覚えが……

「あっ、ひとつ貝だ…」

「ひとつ貝…ですか?」

「はい、桜ノ杜にも似たような風習がありました。他学年同士で綺麗なひとつ貝を2人で分け合うんです。それが2人だけの特別な関係、姉妹の証であり一生分の御守りになると言われてました」

桜花生の私たちにとってその制度は憧れその物だった。まだ進学が決まった訳でも無いのにどの先輩と交わそうか、とか自分にも分け合える人が出来るのか、というように皆して夢膨らませ語り合っていた。もう帰れない、あの頃の思い出

「桜ノ杜?」

「さ、サヤちゃん……」

「あっ!……え、いや……その………隠すつもりは……ごめんなさい…」

「いえ、事情を聞くつもりはありません。気にしないでください。そうだ!聖姉様、あたし達もやりませんか?」

「お、何か思い付いた?」

「はい!」

「ダインスレイフ、直しておくから。サヤちゃんの事お願いしていい?」

「はい!お任せ下さい!」

「え?私……ですか?」

「私と幻音ちゃんがやっておくから大丈夫よ、行ってきなさい」

 

 

 

 

 

 

「あの……私がここに居ていいんですか?」

「いいのいいの、頼まれちゃったしね」

晩、私は汐里さん聖さんに手を引かれ百合ヶ丘の宿泊部屋に連れてこられた。ミーティングも明日の準備も一通り終えたらしく皆すっかり羽を伸ばしている。陥落地域というガーデン外の慣れていないなずの環境、なのにこの落ち着き様は凄いを通り越して恐いとまで感じさせられた。

「あの……私は何を…」

「沙夜花さん、桜ノ杜では他学年で貝を分け合うんですよね?」

「はい…けどそれと何が……」

「作りませんか?貴女の手で」

汐里さんに手を握られ何かを持たされる。白くてつるつるとた感触で少し重い、これって石…?

「高麗石と言います。柔らかくて削れやすい。工作のお供です。判子とかを自作するのにも使えます」

「これで貝殻を作るんですか?」

「はい!」

卓の上には彫刻刀に紙やすり、色んな工作用具が広げられている。周りを見渡すと皆も何かしらの作業を始めていた。

「私達水夕会、レギンレイヴのルーチンワークというのかな。戦闘外ではこうして皆で何かを作って楽しんでるの。それがお話のきっかけになるし手先のトレーニングになる。何より楽しいのよ」

「そちらのガーデンの様な本物の貝殻とは言えませんが……沙夜花さんもやってみませんか?」

「は……はい、お願いします…」

「決まりですね。その前に…フードを取りましょう!前が暗いと上手く作れませんよ」

「……ごめんなさい…」

百合ヶ丘のリリィ達に囲まれ逃げ場を塞がれてしまった。逃げたい訳では無いのだけど……

 

 

 

 

 

「それで?また刀で指を切ったと?」

「いえそういう訳では…………はい………」

私は百合ヶ丘の皆さんの工作活動に参加。汐里さん指導の元高麗石?を彫刻刀で削ってる途中、手を滑らせ指まで抉ってしまった。出血も酷く部屋から抜けさせて貰い幻音さんに助けを呼ぶ事になった。

「何時になったら包帯と卒業出来るのかしらね」

「……ごめんなさい…」

「はぁ……今までに比べたら何倍も健全か…見せてみなさい」

幻音さんに手を取ってもらい治療を受ける。またやってしまった。また手を煩わせてしまった。皆に心配かけさせてしまった。襲いかかる自己嫌悪に頭が痛い

「やっぱり…ダメですよね…私って」

「そうね、目を離すとすぐ傷つくんだから」

痛い、とても痛いし血はどんどん流れてくるが傷はそう酷くない。以前のような戦闘行為でも意図的な物でも無くただの事故、それもちょっとした工作道具によるもの。手当にかかる時間もそうかからなかった。

「終わったわよ。作業場に戻りなさい」

「え?いいんですか戻っても」

「当たり前じゃない。それともあの子達に心配させたままでいる気?」

「い、いえ!ありがとうございました!行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

血に濡れた手は幻音さんの手で拭われた。やっぱり、私は私が嫌いだ。手際が悪いし誰彼構わず迷惑をかけてしまう。そして何もよりも傷付いた自分に悦んでる私が気持ち悪かった。

挨拶をして部屋を出る、戸を閉めようと振り返る最中に視た、部屋の片隅に飾ってある3人が映った写真が頭から離れなかった

 

 

 

「…………………」

満天に輝く月夜の下、1人貝殻型の石をやすりで磨く。誘われるままに始めた工作作業、帰還後の夕食、ミーティング後から睡眠までの小一時間、1日に取れる時間はそう多くは無かった。けど彼女らが滞在する数日間続いたからか、それなりに形にはなったと思う。

百合ヶ丘の皆さんは翌朝到着するガンシップに向けて荷物をまとめている。誰一人怪我すること無く仕事が片付いたらしい。数機のcharmを除けば……

「どうですか?沙夜花さん」

「はい、それなりにはなったんじゃないかなと思います。汐里さんのおかげです」

「それは良かったです」

汐里さんは私の隣に腰掛けた

「あの…荷物の方は……」

「バッチリです。数日間ですがお世話になりました」

「私は何も……あ、すみません、やすりお返ししますね」

「いえ、貴女に差し上げます。それとこれも」

それは彫刻刀セットと幾つかの高麗石、これを私に…?

「い、いえ!受け取れません!私なんかが…」

「控え室に行けばもっと本格的な物がありますので、それにこちらは買い物にだって行けます。それくらいすぐ補充出来ます」

「あ、ありがとうございます……すみません…」

強引に押し付ける様に差し出され工作道具を受け取ってしまった。

「ほら、分け合うなら貝殻も2つないと意味がないじゃないですか。1つじゃ完成とは言えないですよね?」

「そうですね……」

「そういえばまだ聞いていませんでした。ひとつ貝、沙夜花さんは誰と分け合うつもりだったんですか?」

「私は……」

分け合ったひとつ貝、それはその人との強い絆を表すその証明。

「……お姉ちゃん…かな……」

「そうですか……それは良いと思います」

みんなの為、家族の為、世界の為に戦い続ける私のお姉ちゃん。如何なる時も強くあれと歩みを止めない。そして何も無い私に道を示してくれたこんな私には眩し過ぎるお姉ちゃん

「お姉さんは沙夜花ちゃんがここに居る事は……」

「……………………いいえ……私は多分死んでます」

「……ごめんなさい」

汐里さんはハッとして口を閉ざすが私もそれに応えてしまい会話が途切れた。

「…………あの………沙夜花さん少しいいですか?」

「え?はい」

「私は以前、大事な妹を失いました。私の目の前で」

「…………………え?」

「苦しかったです。信じたくなんてありませんでした。けど信じるしかないんです。この瞳で見てしまった以上は……」

「…………………」

「正直まだ乗り越えたと言い切る自信はありません。けどあたしがまだ戦えているのは亡骸でもあの子を見る事が出来たからでもあります」

「生か死か、どちらの可能性も共存してしまう行方不明、置いてかれた者にとってこれ程苦しいものはありません。こうなった事に何らかの事情があった事はお察しします。けどこれだけは言わせて下さい。お姉さんに会って上げてください。生きているのならそれだけでも救われる筈です。何年かかっても構いません。いいえ良くはないですね。出来るだけ早くに…」

「………………分かりました…」

「その時に貴女に出来る最高のひとつ貝でも贈って上げてください。喜んでくれますよ、きっと……」

「……………はい」

気付けばまた一つ、背負っていた

 

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