小心者のスケープゴート   作:吟ぎんが

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神無月

「お墓参り…ですか?」

「ええ、ここのガーデンお墓があるのよ。今は跡地だけど」

猛暑が瞬く間に過ぎ去り木々が枯れ落ち葉が舞う頃、2人の在籍していたというガーデンに向かっていた。結界が維持出来るギリギリの距離らしい。

「お盆時とかにお墓参り、サヤも家族と行ったことあるでしょ?」

「はい……」

お彼岸やお盆時等、そういった時に私も着いていく事が多かった。厳しく育てられたお姉ちゃんと違い、よく分からないけど着いて行った程度の物なのだが。

私が死亡したと供養される側に立っている事に胸が痛くなる。家族に泣かれているだろうか、怒っているだろうか、考えるだけでも引き裂かれそうで苦しみに襲われる

「着いたわよ、随分とおぞいもんでしょ?」

年季を感じさせる校舎、至る所に空洞が見え窓ガラスはヒビだらけ、荒れ果てた校庭から激しい戦闘があった事を物語っていた

校舎の裏庭へ回ると30.40を超える多くの墓石を供える墓地となっていた。

「こんなに沢山………」

「貴女も1歩違えばこの子達の仲間入りだったのよ、良かったわね」

「…………………そうですね」

「そんな言い方しないの幻音ちゃん。早いとこ始めましょうか」

「……はい!」

3つに別れてのお墓掃除が始まった。ガーデンから汲んできた井戸水で墓石を一つ一つ丁寧に磨き上げる。お供えもするべきなのだろうが全員分供える余裕はない、私たちに出来るのは清める程度の事。

「次は葉月さん…?あれ?なにこれ……」

墓石の端についた不自然な傷に気がついた。

「文字…というよりアドレス?これって……」

墓石に刻まれたアドレスには不思議と見覚えがあった。以前こちらへ訪れたリリィ、文月夢叶さんから教えられたのと同じ文字列。検索すると1つの作品へと繋がっていた。全ての墓石に記されている訳では無いが、探してみると墓石の何処かしらに小さく記されていた

「幻音さんだ……やっぱり………」

彼女が書き上げてきた物語、それはここで破れ死んで行った者たちに向けたものだと、私にはそう見えてしまった。

「羨ましいな………」

「サヤ、何ボサっとしてるの?」

「ひゃい!い、いえ!なんでもありません!お気になさらず!」

「?」

「ごめんなさい……あの、そのお墓ってもしかして…」

幻音さんも向かい合うお墓、そこには文月夢叶の名前が刻まれていた。

「ええ、前に来たあの子のよ。葬式なら地元でもやってるとは思うけどね。事故みたいなもんよ。ほんとについてない子」

「事故…ですか?」

「こんな所に命を払う価値なんてない」

「………………」

「ねえサヤ、死んだら魂はどうなると思う?」

「…………分かりません」

「消えてなくなるの。何も残らない」

「…………………」

「それが嫌なら生きなさい。死に意味なんてないんだから」

幻音さんは水を汲んでくるとこの場を離れた。そうなのかもしれない、死んだ人達に意味なんて無いのかもしれない。けどそれなら私が今生きている意味は?

「そうだ……綺麗にしないと…」

生に執着し仲間を殺した裏切り者、私に殺されたあの人たちにも意味は無いの?私にはどうすればいいのか分からなかった

 

 

 

 

 

「ちょっといいかしら」

「はい、どうかしましたか?」

境内の掃除中に長月愛理(ながつきあいり)さん、今回のお客様であるアルケミラ女学館のリリィに声を掛けられた。

アルケミラ女学館、鎌倉府の湯河原にあるガーデン。桜ノ杜や百合ヶ丘と同じく、五大ガーデンに名を連ねるほどの強豪校だったらしい。静岡の戦いで先輩の代のリリィを失った事からその名を落としたと聞いた。今は静岡の奪還、ガーデンの復興に力を入れている。

「ここって何の神様が祀られてるの?」

「神様ですか?」

「ええ、賽銭箱も閉まってるし由緒書もないのは不思議だけど居るんでしょ?」

「え、えぇっと……」

そういえば聞いた事なかった……そんなものだと思っていたけど考えてみれば確かにおかしい。どこの神社も何かしらの説明とかあったと思う

「ごめんなさい…分からないです…」

「そんなことある…?」

「私はここの者じゃないんです…任務で色々遭って……今は養って貰ってますけどまだ長くないんです…」

「そう……大変だったのね……」

「ごめんなさい…」

「ちょっと気になっただけだから、機会あったら2人に聞いてみるわ、ごめんね」

悪いのは知ろうとしなかった私、彼女は軽く謝りレギオンのいる部屋へと歩いていった。半年も住み着いておきながら答えられない自分が情けなかった。

 

 

 

 

 

『ごちそうさま』

『あれ?愛理さん、ご飯残すんですか?』

『うん、ちょっとね…ダイエットって所?』

『そ、そうなんすか?』

「はぁ……」

「幻音さん?」

リリィの皆さんが朝食中、幻音さんが席を立ちリリィの元へ向かって行った。普段なら全員が食べ終わり部屋を出てから片付けを始める。その為私達は台所で待機、基本的には食事中部屋に入る事はないのだが…

「あらごめんなさい、少し残しちゃって…」

「残し物なら構わないわよ、後でサヤが食べるし」

「え?私が!?」

私の抗議に顔を向けること無く続ける

「問題は何故残したか、貴女、無理してない?」

「い、いえ…そんな事は」

「嘘おっしゃい。一昨日までしっかり完食してた癖に」

「………………………」

「隠すならもっと上手く隠しなさい。今日から最低でも3日間、外出を禁止します。管理者としての命令です」

「なに勝手に!」

「隊長さんも構わないわね?」

「はい。お心遣い感謝します。愛理さん、後で話を」

「隊長まで…了解…」

「話はそれだけです、失礼しました」

「し、失礼しました…ごめんなさい」

台所へと帰っていく幻音さんを追い、私も静まった食堂を去った。

 

 

 

 

 

「お身体はどうですか?」

「ありがとう、何とも…は嘘ね、少し調子悪い」

私は休養している愛理さんに昼食を届ける為寝室を訪れた。土鍋の蓋を開けると粥に卵を落とした雑炊、出汁の効いた良い香り、鮮やかに飾られた具材に変な声が漏れそうになり口を覆った。

「どうしたの?そんなに驚いた顔して…」

「気にしないで下さい…ちょっと意外で…それよりも良かったんですか?幻音さんの判断で…」

「隊長がそうしろと言ったんだもの、従うしかないでしょ。彼女が動いたのも多分隊長の頼みだし」

「そうなんですか…」

バレちゃったと罰が悪そうに笑う。彼女のレアスキル、この世の理はベクトル感知能力、物体の動きを予測出来る為、連携次第でレギオン全体の被弾率を大幅に減らす事が出来るという。

それにしては少しおかしい。リリィ達が任務に出た後で彼女の容態を調べた所、彼女の身体は傷だらけだった。恐くここに来るよりも前からそうなのだろう…

「私ちょっと鈍臭くてね、運動神経って言うのかな…こうでもしないとやっていけないのよ」

「怖く…ないんですか?」

「そりゃあ怖いわよ、分かってても痛いもんは痛いんだし」

「じゃあなんで…戦えるんですか?」

半年前、瀕死の怪我を負いながら逃げ回ってた自分を思い出す。痛い、苦しい、恐い、それを理解し傷付くのが分かっている、なのに戦場に立ち続ける彼女が理解出来なかった。

「だって死んだら残らないんですよ…何にも」

「そんな事はないわよ、魂は無くならない」

少し宗教臭くなるけど…と前置き愛理さんは続ける。雑炊を掬う手は止まらない

「ヴァルハラって言葉、聞いたことある?」

「いいえ…初めて聞きました」

「そりゃそうよね、ここよりもっと遠い国の言葉。アルケミラでの言い伝え」

脅威に立ち向かう戦士、リリィが戦場にて命を落とした場合、その魂はある神様によってヴァルハラへと昇る事を許されるというものらしい。ヴァルハラへ迎え入れられるリリィ栄光な戦士として、楽園のような日々を贈られるという。

「すみません…戦場で死ねなかった人、例えば戦いから逃げた人はどうなっちゃうんですか?」

「冥界の神様によって死者の国に落とされる。要は永遠の地獄行き」

「地獄行き………」

今の私はそれになる。戦場から逃げた不名誉なリリィのなり損ない。私は間違いなく地獄に落とされるのだろう…

「先輩は皆飛び立った。私も最後まで戦ってあの人達に会わないと行けないの」

「………………………」

「けど叱られちゃった、私はまだそこに行くべきでは無いってね。リリィである限り必ずその時が来る。その時まで無理はしないでと」

「言い切るんですね」

「ええ、来るわ。だから今がどんなに不甲斐なくても歩き続けないと行けない。勿論貴方にも来るはずよ。リリィで在り続ける限りね、そうなったら……」

ご馳走様、と言葉を残し鍋を私に返す。受け取った私は良くならなかったら飲むようにと胃薬を手渡し席を立った。

「これは私がそうで在りたいと願うだけ。ごめんね、つまらない話で」

「いえ!素晴らしい…生き方だと思います…」

「そうであれと強制はしないわ。話し相手になってくれてありがとう」

「……おやすみなさい」

振り返る事無く部屋を出る。私にも逃げ場の無い戦いが必ず来る、盆の上で鍋と匙が擦れる音が止まらなかった。

 

 

 

 

 

「検査終了、お疲れ様」

「ありがとうございます星莉花さん」

「こちらこそ、とても助かる」

リリィ達が任務に出ている間、星莉花さんの工房で私のマギの定期検査を受けていた。何らかの調べ物もあるらしく私が必要との事。

「ファンタズムでも適合しちゃうか…性質が似ているからか」

「?」

「ああごめんなさい、こっちの話。体は何処か変なとこない?」

「問題ありません、大丈夫です。それよりも…少しいいですか?全く関係ないんですけど…」

「構わないわよ、何?」

「すみません、ここってどんな神様が居るんですか?」

「ああ」

「リリィに聞かれたんですけど答えられなくて…」

今更な事だがそれを承知で聞いてみた。愛理さんの話す神様の様に何らかの言い伝えみたいな物はある筈…

「んー……分からない」

「え…な、なんて…?」

「ごめんね、それ私も知らないのよ。神主居ないし」

ここの神社が出来たのは、今から7年程前の事らしい。その頃には人類は劣勢に立たされ神職だった親は襲撃に巻き込まれた。その後は祖父が星莉花さん達を育てたらしい。結果的に静岡は陥落、役所も破棄され当時のデータも紛失との事。未完成なまま駿河の地は退去される事になり、建物は空洞ばかり、残った村人が手を加えて今の神無木神社が成り立ったらしい。確かに掃除をしてても御神体、所謂仏像のような物は見た事がなかった。

「おじいちゃんもそれまでは別居しててね、そっちの事は知らないのよ」

「それじゃあよく聞くご利益っていうのは…」

「ない、とは言いきれないけどどんな物があるかは定かではない。私達が分からない以上余計な口を開くのもね…幸福を願ったはずが人を呪う邪神だったなんてこともあるし」

「そうだったんですね…」

「まあ大事なのは観測者が何を思うのか。悪霊か善霊かと言うのは些細な問題、貴女本人が何らかの付加価値をつけた瞬間、その付加に見合った神様が宿る物なの」

「私でいいんですか?」

「ええ、まず神様や霊なんてものは私達人間が何かあれと都合良く型どる物。だからサヤちゃんが無いと思えば何も無い。ここにはご利益も伝承も存在しない、形だけの無価値な詐欺物件だと思ったのならそれでいい。けどもしそこに何かを感じたなら、それを大事にしてあげて。神社に限った話じゃない、貴女の想ったその何かが、サヤちゃんを生かす大切な意味をくれるはずよ」

「…………はい」

「他の子に聞かれたら私に振って、幻音ちゃんに任せたらよその子にもバッサリ言っちゃいそうだし…」

「あはは……」

私は仕事に戻ると工房を出た。価値を決めるのは自分自身、こんな私と同じ様に無価値と断ずるならそれで終わる。けどそれではあまりにも虚しい。間違いだらけの私に価値なんて無い。ただそれでも、私を生かすこの人達にまだ何かがあるのなら、それを願わずには居られなかった

 

 

 

 

「えっと…二礼二拍手だっけ?」

晩御飯も終えた夜、私は拝殿の前に立ち御鈴を鳴らす。シャランシャランと心地よい鈴の音が広がった。神社への参拝は初めてでは無い、記憶を頼りに頭を下げる。

「ねぇ神様、貴方の名前、なんて言うの?」

誰からも知られない無価値な神様に問いかける、当然返事はない。所詮は実体の無い虚像、実体を持つ私なんかに答える筈が無かった。

一礼をし顔を上げる、誰も居なかった正面、目を開くと紅白の装束が映りこんだ

「ひゃい!!の、幻音さん!?」

「うるさいわね…何時だと思ってるのよ」

「ご、ごめんなさい……」

「リリィに迷惑でしょ。で、どうしたの突然、変な宗教家にでも毒された?」

石段に腰掛ける幻音さん、私も隣に座り込む

「ここの神様ってどんな人なのかなって…」

「人ってあんた…居ないわよ。こんな所にいる訳ないじゃない」

「ですよね…はは…」

見えきった答えに肩を落とす。しばらくの沈黙を破り私は問う

「幻音さん…ヴァルハラって言葉、ご存知ですか?」

「北欧の話?戦死した魂は終末戦争に備え旅立つってやつ」

「私より詳しかった……」

「私だって知らないわよ、宗教家じゃないし。それにあんな戦闘狂の思想に倣ってもいい事ないわよ。戦えない者は地獄に行けって考えは趣味じゃない。それ私らもう終わってるし」

「むぅ…」

「死に行く事に意味なんてあっちゃ駄目よ。皆等しく生きていたいんだから。ただ……そうね、死んだ時くらい、見たいものは見せてやりたいとは思う。それがどんな幻であってもね」

満ち欠けた月が照らす夜の境内、儚げに微笑む彼女の姿に私は言葉を詰まらせた

 

 

 

「ごめん、また来ちゃった。久しぶり、今日を最後にと思ってね。幻音ちゃんにも会った?あの子が来ない訳ないものね」

「聞いた?こんな所に1人のリリィが迷い込んで来た話。水無月沙夜花ちゃん、初陣が陥落地域なんてよっぽど期待されてたんだと思う。任務中逃げ出して来ちゃったみたい。酷く落ち込んでてね、自傷したりして大変だったの。新米のリリィには良くある事、そんな事じゃ罪になんて問われない。ちゃんと帰れればまた…いいえ、あの子じゃきっと空回りして無駄死にね。戦いには向いていない」

「罪悪感に苦しみながらもあの子なりに毎日頑張ってる。一生懸命生きている。幻音ちゃんも妹が出来たみたいで楽しそう…あ、余計?ごめんなさい」

「…………私達は結界を維持し過ぎた。解いたら必ず幻音ちゃんにヒュージが集中して襲ってくる。あの子を安全地帯まで引っ張るには幻音ちゃんを上書きする程にマギを暴走、その子を結界の中心地に1人残さないと行けない。そのスケープゴート適正者、沙夜花ちゃんが最適だったの……私ではなかった…」

「私も減退してきてる。いくらサブスキルを付与させても容量不足。ねぇ、私はどうすればいい?」

「………まだ時間はある、何とかしてみせる。貴方に代わって幻音ちゃんだけは生かしてみせるから」

 

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