綾小路に憧れた男の実力至上主義生活   作:ラトソル

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再会

 私は、愚かな人間だ。

 

 周りの人は私のことを「いい人」だなんて言ってくれるけど、私は全然そうは思わない。私は弱い人間だから。

 

 あの日だってそう。正当な理由を無理やりつけて、私は取り返しのつかないことをするところだった。

 いや、しようとした時点でもう救いようがないのかもしれない。

 

 でも、そんな私を。

 あの日、あなたは救ってくれた。

 

 お礼をする暇もなく、あなたは去ってしまったから。あなたの名前は聞くことが出来なかったけど、あなたの声も、顔もずっと忘れなかった。学校の生徒も探したし、この辺の人かと周りを探してみたりもした。それでも、見つからなかった。

 

 正直、諦めてたのかもしれない。絶対見つけてやるんだって思っていながら、心のどこかではもう会えないんじゃとも思っていた。

 

 だから、本当にびっくりしたんだよ。

 教室に入ってきたあなたと目が会った時、私の胸は高鳴った。

 

 周りの子と話していた私の意識は全部あなたに引き寄せられた。何も考えられなくて、ただあなたのことだけを考えた。

 

 会う資格が私にはあるのか分からないけど。

 それでも、許されるのなら。

 

 今度こそ、あなたの名前を────

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────

 

 星之宮先生若っ!! 

 

 あの人確か三十いくかいかないかくらいだろ? 20代前半でも通用するぞ全然。

 でも年齢わかってるこっちの身からすればそのぶりっ子仮面は痛々しいので是非ともやめて欲しい。

 

「新入生の皆さん初めまして。私がBクラスの担任を務めます星之宮知恵です。私は保健室で仕事をしているので職員室に居なかったらそっちに行ってみてね。

 この学校には学年ごとのクラス替えがないので、基本的には三年間私があなた達の担任を務めると思うからよろしくね!」

 

 効果音があれば「キャピん☆」とでも鳴りそうな感じだな。うん、むず痒い。あと、知識があるからなおさらなんだけど、この学校の教師は複雑な言い方しかできないのかねぇ。「クラス替え無し」だの「基本的に」だの、ヒントは散らばっているが導けるのは本当にひと握りだ。まあ、パイセンならできるだろうな。俺? 俺は知識あるから検証もクソもないよ。

 

 てか、割とみんな真剣に聞いてるな。まあ、当然と言えば当然か。

 それよりも、横の席からの視線がさっきから凄いんですけど。俺の右は一之瀬か。なんでだよ、気まずいだろ、神よ。じっと見つめてくるんじゃなくてチラチラ見てくるのが凄い居心地が悪い。本人は気づかれてないと思ってるんだろうけど、気づいてないフリも疲れてきたのでチラッと一之瀬の方を向いたら偶然目が合った。そして一瞬で目を逸らされた。えぇ〜、なんかごめんなさい。てか凄い速かったな。首もげてんじゃないか? 俺じゃなきゃ見逃してたね。

 

 てか、一之瀬以外からもちょくちょく視線を感じるんだよな。ん〜、顔か? 自慢じゃないが俺の顔割と整ってるからな。空手とかで優勝した時も顔が良い奴が優勝したからって記者がめっちゃ来たな。まあ、全部断ったけども。だって、目立つの嫌じゃん? (今更感)

 

「一時間後に体育館で入学式が始まるけど、その前にこの学校に関する説明をするね」

 

 そう言ってから、星之宮先生はクラス全員に資料を配って説明を始めた。入学前から知ってるような基礎知識から入って、三年間の外部との接触禁止。そして、最も重要なSシステムの存在。

 

「これから学生証を配るけど、この学生証は身分証であると同時に、学内施設を利用するために必要になるから無くさないようにしてね。

 学生証にはポイントが蓄積されてて、そのポイントは学内ではお金の代わりになるの。クレジットカードみたいなものと思ってもらっていいよ。この学校の敷地内に存在するものならばなんでもポイントで購入することが出来るから、覚えてた方がいいよ」

 

 ……何でも、ねぇ。と、意味深な発言をしたいものの、全部知ってるからそれは叶わず。くっそ、七巻まで知識ありで過ごさなきゃダメなのかよ!! 未知を、俺に未知というスパイスを与えてくれぇぇえ!! 

 

 てか、冷静に考えてなんでも買えるとかすごいな。大丈夫かこのシステム。卒業した時に「金さえあれば全部買えるんだよおお!!」とかクソ人間発言するやつが量産されるんじゃね? と思ったけどそんなやつが生きれる世界じゃないか。

 

「1ポイントにつき1円の価値があって、毎月一日に支給されるの。新入生のみんなには10万ポイント、つまり10万円だね。そのポイントが支給されてます」

 

 その瞬間、クラス中がざわめいた。まあ10万も貰えるとか死ぬ気でバイトしてる奴くらいだもんな。来月は10万貰えないんですけどね。この件に関して俺は動くつもりは無い。まあ授業は真面目に受けるが、ポイントを上げるようなことはしない。俺の知るよう実、つまりドラゴンボーイがパイセンにタコ殴りにされるまでは、俺はモブB、または一之瀬の側近その2くらいの位置に居たい。変に原作が変わるのも面白いかもしれないが、俺は頭の中で想像していた原作をこの目で見たい。まあ運動できることは知ってるやつには知られてるから体育祭で暴れるのはアリだな。

 

「10万円に驚いた? でもこれは正当な額だよ。この学校は実力で生徒を測る。あなた達にはそれほどの価値と可能性があると評価されたからよ。ちなみにこのポイントは卒業後に回収されるから注意してね」

 

 10万円という巨額に不安を示していた生徒も自分達の価値と聞いた途端に明るくなった。分かりやすっ。可愛いな高一。まあ俺も高一なんだけど。合計で見たら俺の歳はおっさんだけど、精神は全然高校生だ。だって高校までしか経験ないし。おっさんはおっさんになるからおっさんなんだよ。つまり俺はバリバリの高校生。

 

「ポイントの使い方は自由だよ。貯めるも良し、貸し借りも、譲渡するのも。でも、カツアゲとかはやめてね? いじめ等の行為は厳しく取り締まってるから」

 

 それ以外は何しても良いみたいな言い方だね? 実際そうなんだけど。

 

 その後質問がないか聞かれたが、誰も手を挙げることは無く、ホームルームは終わりを告げ、入学式までの数十分間自由な時間となった。周りの人とポイントで何をするかを相談したりと和気あいあいとしている。

 

 Bクラス和むわ〜。Cとかヤンキー集団だからな。唯一の癒し枠である椎名で全てが浄化されるけどね。いや、アルベルトも癒し枠なのか……? 

 

 そんな馬鹿なことを考えていると横にいた一之瀬が立ち上がって教卓の方へと歩いていった。何人かがその行動に気付き、「ちょっといいかな」と一之瀬が言ったところで皆の注目が一之瀬に集中した。

 

「これから三年間一緒のクラスになるから、自己紹介とかしておいた方がいいと思うの。どうかな?」

 

「賛成〜」と男女問わずに好感を持っていた。いいクラスだな〜。勝てるクラスとは思えないけど。それは追追相談だな。フレンドリーな奴多いな。そういう意図で集められてるのか? 

 

「じゃあまずは私から言うね。私は一之瀬帆波です。特技とかはあんまり思いつかないけど、みんなと仲良くしていきたいです。三年間お願いします!」

 

 特技ってそのコミュニケーション能力はずば抜けてるだろ。好かれる力なら学年トップだな。天然の力には櫛田も勝てんわ。あっちはあっちですごいけども。

 周りを見れば一之瀬の笑顔にやられた男がちらほら。まあ可愛いからな、しゃーない。骨は拾ってやるよ。しかも不思議と女子からの妬みとかも無い。あれは才能だな。可愛い子は嫉妬されやすいけど、あの子たちも一之瀬のは素だと分かってるんだろうな。

 だから全体を見渡しているようでいて俺の方をチラチラ見ているのは気のせいだと思いたい。めっちゃ見てくるじゃん。一之瀬はイケメンに一目惚れとかいうタイプじゃないはずだからもしかして俺のこと覚えてんの? 凄っ。

 

 じゃあ端の子からということで俺とは真反対の子から自己紹介が始まった。俺最後じゃん。まあいいけども。

 

 お、柴田。相変わらず元気だな。初対面だけど。確かめっちゃ足速いんだよな。後で喋ろっと。

 

 神崎くんだ! かっこいいわこの子。あいつがBクラスが勝つためのキーパーソンだと思ってるからな。そんなの関係なしに仲良くなりたい。

 

 ……ふむ、姫野か。聞いたことないけど、なんか特徴的な子だな。ああいうタイプが実は重要な人物だったりするんだよ。知らんけど。

 

 あ、白波。あいつ既に一之瀬のことめっちゃ見てるんだよな。もう兆し見えてんじゃん。早いて。俺はそういうの否定しないけどね。表現の自由。

 

 そんなこんなで俺の前の人が今自己紹介している。いやー、聞いたことない人いっぱい居たな。まあ原作で出たの40人中10もいないくらいだから当たり前だけど。みんなの名前と特徴覚えたから放課後にでも連絡先とか交換するか。カラオケ行くぜっ! 今日はやる事あるから無理だけど。

 

 前の人の自己紹介が終わり、拍手をする。次俺か、と立ち上がろうとすると、何やら一之瀬が話す気配を感じたのでそのまま待機。なんか若干震えてる気がするのは気の所為? 

 

「じゃ、じゃあ。ちゅぎの人っ……あぅ」

 

 噛んだ……だと……!! 顔を赤くして俯いていた。可愛いなおい。なんだあれ、男性特攻付けすぎだろ。見てみろ、何人か悶えてるぞ。机の角握りしめながら気絶するの堪えてるヤツいるし。何人かの女子もやられてるな。母性本能に目覚めたか? 白波はお前目が蕩けてるぞ。鏡見てこい。

 

 この空気の中自己紹介するのはなかなかにきついなと思い、周りに聞こえないほどのため息を吐いてから立ち上がる。一之瀬に注目していた視線がこちらへと注がれ、女子達の目付きが変わった。一之瀬が噛んだことで笑いが出ていたクラスがしんと静まる。皆に聞こえる声量で、かつ大きすぎない声で話した。

 

「──俺は水野悠。気軽に悠って呼んで欲しい。小学校の頃から武道をいくつか習ってたので、運動面は自信があります。勉強はあんま自信ないかな。三年間クラス一緒だと思うから、よろしく」

 

 なんの捻りもない簡潔な自己紹介。しかし自己紹介が終わると一瞬音が消え、その後に拍手が連鎖的に起こり一番大きなものとなった。何人かの女子は色の違う目つきで見ていたり、「かっこいいね」と横の子と話していたりと何やら大事になってしまった。

 

 やっぱ目立つか。まあ見た目がこれだからしゃーないか。ちょっと微笑んだのもミスったか。あれをした瞬間女子が凄い挙動してたし。なんか一之瀬ブツブツ言ってるし。さすがにこの距離では聞こえんわ。

 

 自己紹介が終わった辺りで入学式へと向かい、何事もなく入学式を終えた。そして今は放課後。入学式に行く途中に柴田とか神崎くんとは仲良くなった。まじで良い奴だわこいつら。他の男子とも喋って仲良くなったし、今は軽いグループみたいなものが出来上がったのでそこで話していた。

 

「そうだ、親睦会も深めてみんなでカラオケ行こうぜ!!」

 

 柴田がグループを超えてみんなに呼びかける。女子からも賛成の声がちらほら上がり、男子はその分行く気が上がっていく。

 

「悠も行くよな!」

 

 柴田……いや、颯が笑顔で俺に尋ねてきた。男子は全員下の名前で呼び合おうぜとなったのでそう呼んでいる。俺自身下の名前で呼ぶ方が気軽だから賛成だ。柴田からの誘いに、俺は少し困った顔を作って断る。

 

「悪い、颯。この後用事があるんだ。今度誘ってくれ」

 

「ん? そうか。分かった! 今度は空けとけよ!!」

 

 颯は俺に一言告げて手を振りながらカラオケに行く集団の方へと向かった。用事があるのは本当だけど、なんか罪悪感だな。行きたいのは本当だから次の機会にはまじで行きたい。

 

 そしてクラス中がカラオケムードに盛り上がっている中、俺は荷物を持ってみんなとは反対側の方向へと向かった。

 

 さて、学校探索だぜ!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 監視カメラ大国やないかい。

 

 思わず関西弁になってしまった。いや、本当に多いな。セキュリティが厳重すぎて逆に問題になるレベルだ。これは想像以上だな。教室内の監視カメラもかなりの台数あったし。

 

 今俺は校舎内を回っていた。目的は監視カメラの台数と位置の把握。もしものことがあった時に備えてこれくらいはやっとかないとな。

 

 時間もあるし、ゆっくりと歩いていた。一応俺には先天的な瞬間記憶能力があるから一度見た監視カメラの位置は忘れない。歩みを止めずに上を見ながら歩いている。入学初日から学校探索なんてことしてる奴は少ないのか、静かな校舎を一人歩いていた。偶に教師とすれ違うが、その時は事前に気配で察知して、ただ歩いている風を装っている。

 

 半分くらいが把握し終わった頃、後ろから階段を踏む足音が聞こえた。また教師か、と思い上を見るのを辞めようとしたところで、知っている気配であることに気付いた。今まで止めなかった足を止め、その人物を待つ。どうやら俺に用があるらしいので、気づいてないフリをしても良かったがややこしい。

 

「あ、居たっ」

 

 小走りでこちらへと近づいてくる。かなりの時間探して居たのだろうか、何度も息を吐きながら近づいてくる。振り返れば、ストロベリーピンクの髪を揺らしながらその人はこちらを見つめて走ってくる。人一人分程の距離で止まり、膝に手をついて深呼吸を二度した後、姿勢を正して正面に立つ。走ってきたからか、頬は赤く染まっており、少し汗ばんでいるようだ。

 

 目が合うと、どこかモジモジとし始めた彼女は少し視線を外した後、手を軽く合わせながら上目遣いでこちらを見た。言葉が出てこないのか、数秒程沈黙しており、先にこちらから言うか、と思い口を開いた。

 

「──久しぶり、一之瀬」

 

 そう言われた一之瀬は目を見開いてこちらを見てくる。予想外だったのか、口を少し空けて、呆然とこちらを見ていた。少しの間固まったあと、彼女の瞳が揺れ、何かを堪えるように目をつむったあと、今までに見たことの無いほど美しい笑顔をこちらへと見せてきた。

 

「──久しぶり、だね。会えて嬉しいっ!!」

 

 

 

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