校舎内の監視カメラは半数以上把握し、それほど急ぐ程のものでもないため、今日の探索は中断して一之瀬との時間を過ごすことに決めた。一之瀬の笑顔に心臓をやられそうになったものの何とかこらえ、二人で学校を後にし、カフェへと向かった。道中にはあまり喋らなかったが、不思議と居心地は悪くなかった。
カフェへと着き、二人席へと座る。俺はレモンティーを頼んだ。普通に好きなんです。そして一之瀬もレモンティーを頼んでいた。へ〜、レモンティー好きなんだ。
「この学校で水野くんに会えるとは思ってなかったよ」
「俺も。一之瀬と同じ高校になるとは思わなかった」
嘘だけど嘘じゃない。一之瀬がこの高校に来るのは原作知識で知っていたが、俺が通るかは別問題だったからな。マジで通って良かった。しかもBクラス。俺の神調整に惚れ惚れするね。理事長大好き。
「それに、クラスも一緒なんて……一生分の運を使い果たした気分だよ」
「それは言いすぎだって」
マジで言い過ぎだろ。
そんな俺の心情とは裏腹に、一之瀬は首を横に振る。それに合わせて長い髪が鞭のように揺れていた。なっが。手入れ大変そ〜。
「私にとっては、それほどのことなんだよ。本当に……会いたかったから」
「……そうか」
店員さんがやってきて、ティーカップを二つ分机に置いて去っていく。なんかめっちゃニヤニヤしていた。
運ばれてきたレモンティーを一口含む。うん、美味いな。鬼リピ確定だわ。これからもよろしくお願いします。
一之瀬もレモンティーを一口飲む。自然と頬が緩み「美味しい……」と呟いていた。いちいち可愛いなこの子。ホワイトルームならぬピンクルームにでも入ってたのか。可愛さの英才教育受けてるだろ。
一之瀬の表情の変化を眺めていると、こちらの視線に気付いた一之瀬が顔を赤らめながら俯き、照れながらも顔をこちらに向けてきた。
「にゃ、にゃははは……なんか照れるね」
俺の中で猫耳を買うことが決定した瞬間だった。
思わずにやけそうな頬を全力で止める。微笑むことで誤魔化した。でも、マジで和むわ。すると突然一之瀬が挙動不審になり、わちゃわちゃと手で顔を隠したり服を掴んだりとしていた。何だこの小動物は。勢いよくティーカップを掴んで喉へと流し込み、ようやく落ち着いた。まだ赤色が残っている頬を隠さずに、一之瀬は嬉しそうに笑っていた。
「ずっと、お礼が言いたかったんだ。あの時、私を救ってくれてありがとう」
頭を下げてお礼の言葉を伝えてくる彼女の姿勢は真剣なものだった。本心から感謝していることが分かる。こういうところに彼女の善性を感じた。
「気にしないでいいよ。俺が勝手にした事だし」
「ううん。私はあの日のことを絶対に忘れない。あの日からずっと私は水野くんに感謝してたんだよ」
顔をあげた一之瀬は首元に付いている四葉のクローバーが付いたネックレスへと触れた。
「それ、使ってくれてるんだな」
「うん……私の、宝物なんだ」
壊れないように、潰れないように、そっと包み込む。本当に大事にしてくれているようだ。プレゼントしたこちらからしても、それはとても嬉しい。
プレゼントといえば。
あの子は今何をやっているんだろうか。この高校に行くことはあの子には伝えてなかったし、勝手に離れて嫌われでもしたらどうしようか。もし本気で嫌われてたら普通に死ねる。
まあ、今考えてもしょうがないか。3年後、卒業したら会いに行こう。
一口レモンティーを飲み、一息つくと、気になっていたことを一之瀬に聞いてみた。
「なあ、一之瀬。今日の先生の話どう思った?」
「今日のって、ポイントとか、Sシステムとかの話のこと?」
「そうそう」
俺が気になっていたのは、この時点で一之瀬がこの学校の本質にどれだけ気づいていたのかというもの。パイセンと、多分坂柳も気づいていたのだろう。ヒントは散りばめられていたが、それを組み合わせられるのは一部の人間だけだ。
んー、と少し悩む素振りを見せてまだ疑問が残っている様子で一之瀬は答える。
「10万ポイントも貰えるっているのには驚いたかな。こんな大金をみんなに配るって言うのはスケールが大きすぎてちょっと気が引けたかも」
「……そうか」
やはり気づけないか。さすがに一日目だ。10万ポイントという大きさに疑問を抱いた予兆は見えてるからまだマシかな。そう思っていると、まだ続きがあったのか、「でも」と一之瀬が言う。
「星之宮先生の話は、なんか違和感があったんだよね」
「違和感?」
「うん。なんて言うか、本質を話してないって感じ? かな……ごめんね、上手く説明出来ないや」
申し訳なさそうに笑っている一之瀬の前で、俺は感心していた。その違和感に気づけるとは、俺は一之瀬のことを低く見すぎていたのかもしれない。さすがは、干支試験でパイセンの策略を見抜いただけはある。
でも、俺は答えを提示したりはしない。これは俺が決めたルールだ。真面目に授業を受けて、ポイントを節約し、あわよくば稼ぐ。それが最初の1ヶ月での俺の行動。
でも。一度だけのお節介ならしてもいい気がした。これは俺を驚かせた一之瀬への報酬だ。
「とりあえず、俺は今月は節約しようかな。
このくらいでいいか。これから気付き、どう行動するのかは一之瀬次第だ。俺は静観する。とりあえず、モブ視点でよう実ワールドを楽しませてもらおう。
俺と一之瀬はレモンティーを飲みきり、少し話した後、会計を済ませて寮へと向かった。会計時は当然のように俺が払おうとすると一瞬で前に移動した一之瀬により全額支払われた。いや、でも俺にはスポンサーが……ついてない、だと!?くそっ、外部との遮断がこういう弊害を生むなんて!!理不尽だ!唖然としている俺に「まだまだ返しきれてないけど、これはお礼だよっ!」と言ってきた一之瀬の仕草が可愛すぎて昇天しかけた。
帰り道で、こんな子がいるとか、あの子が優しいなどといった話をしながらロビーに到着する。どうやら俺と一之瀬は階がひとつ違うだけらしい。
「……あ、あのねっ」
さすがに階段は一之瀬が辛いためエレベーターを待っていると一之瀬が緊張しながら声をかけてきた。
「その、これから一緒のクラスで過ごしていくでしょ? だから……な、名前で呼んでもいいかな……?」
うるうるとした瞳で下から覗き込んでくる一之瀬の仕草は核爆弾もびっくりの威力だった。断れる訳ないだろ。俺は初めて勝敗が確定している勝負を見た気がする。
一之瀬が俺のことを名前呼びするのは全然いいんだけど、それだと俺が一之瀬のこと苗字で呼ぶのは違和感があるよな。よし、じゃあ俺も一之瀬のことを名前で呼ぶか。
「分かった。じゃあ俺も一之瀬のこと帆波って呼ぶことにする」
「たうわっ!?」
え、何語?俺の知らない言語がまだこの世に存在したの?「たうわ」……?あ、「たわら」!俵か!つまり米が食いたいってことね!もう夕飯の時間だからな。俺も米は大好きだぜっ!
ていうか、一之瀬……帆波が男子を名前呼びしている場面とかあったっけ?パイセンのことも綾小路くんだったし。いや、俺が介入したことで性格が変わっているのかも。つ、つまり! 神崎くんではなく隆二くん、柴田くんではなく颯くん。そ、そして……「清隆くん」、だと……!?まさか、パイセンのことを名前で呼ぶ姿が見れるのか!!なんてことだ、今すぐボイスレコーダーを買わないと!いや、生徒証にそういうアプリが入れられるはず!!ふふ、ふはははははっ!! 勝ったぞ!この勝負私の勝利だ!!
現実世界に戻ってこない帆波をよそに、俺のテンションは爆上がりしていた。どこか上の空の帆波と別れ、俺は自室へと戻り、ご飯を食べて眠る。明日が楽しみだぜ!! パイセンの名前呼びはまだ聞けそうにないけど、帆波が男子を下の名前で呼ぶところが見れるとか夜しか眠れん!!
一瞬で夢の住人となり、すぐに覚醒。いつもの朝のルーティンを行い、ルンルン気分で学校へと向かった。
「おはよう、神崎くん!」
「おはよう一之瀬」
なんで?
ちなみに帆波と俺が互いに名前呼びをすると聞いていたクラスメイトが湧き上がった。
さて、2回目の放課後。昨日中断した監視カメラ探索へと向かおうとしたが、ここで一大イベントがあった。そう、みんな大好き部活動紹介。
「悠っ! 部活紹介行こーぜ!」
「おう、行こう行こう」
いつでもどこでも元気いっぱいな颯が肩に手を回してきた。全然不快じゃないのは彼の人徳によるものだな。でもそういう行動を軽はずみにやってたら意図せず女の子を堕としちゃうからダメだぞ?
「俺サッカー部に入るんだよ!! 悠は?」
「特に決めてないな。見てから入るか決める」
「そっか!!」
どこから来ているんだその活力は。俺と颯、そして何人かの体育会系男子を連れて体育館に向かう。その時に声をかけようとしていた帆波の寂しそうな表情は見なかったことにしよう。女の子たちでの時間大切にしな?
そしてたどり着いた体育館。入学式でも見たけど、やっぱ広いなここ。しかも割と生徒がいる。これ全部一年か。ってことは、パイセンとクールガールがいるってことか!あ、いた。でもめっちゃ遠い。後ろ姿しか見えないけど感動した。やっと主人公様に出会えた!会ってないけど。
壇上には3年生であろう先輩方が横一列に並び、各々の部活動の特徴となるものを持っていた。そしてその中でも一際小さい人がマイクを持った。
「一年生の皆さんお待たせしました。これより部活代表による入部説明会を始めます。私はこの説明会の司会を務めます。生徒会書記の橘と言います。よろしくお願いします」
あ、書記ちゃん先輩。本当にちっさいな。あのサイズ感で真面目な雰囲気が絶妙に噛み合ってない。
次々と部活動代表による説明が開始した。サッカーの説明になった時に横にいた颯がめっちゃこっちに声をかけてきた。ごめんな、俺部活入る気無いんだわ。生徒会ならワンチャンありだけど。
そして舞台から一人、二人と降りていき、ついに最後の一人となった。マイクの前に立った男は、何も発することなく、ただじっと待っている。
ザワザワと私語が多くなった生徒たちはヤジを飛ばすもの達も出てきた。
「頑張ってくださーい」
「カンペ、持ってないんですか〜?」
「あはははは!」
バッカ、それ私語じゃなくて死語になっちゃうから。馬鹿にされようと何を言われようと、何も言わない男に周りは段々と静まり返っていき、遂には音のひとつも聞こえなくなる。凄いな、理にかなっているが、実際に行動できる精神力、そして覇気が段違いだ。
「私は生徒会長を務めている、堀北学と言います」
話し始めた会長の話を要約すると、俺たち卒業するから一年でも生徒会に立候補してね〜。そして部活動と生徒会の両立は禁止なんだぞ! ということ。
「それから────私達生徒会は、甘い考えによる立候補を望まない。そのような人間は当選することはおろか、学校の汚点を残すことになるだろう。我が校の生徒会には、規律を変えるだけの権利と使命が学校側に認められ期待されている。そのことを理解できるもののみ、歓迎しよう。以上」
おー、凄い圧。敬語も外して威圧感を出す、うん、上手いな。強キャラ感半端ねぇわ。でも、なんでだろう。シスコンって知ってるからな〜。それともうひとつだけ友達からネタバレくらったから。まあいいけども。
舞台から降りていく会長と一瞬目が合った。やっべ、めっちゃ笑ってるんですけどあの人。しかも含みのある。平穏よ、さらば。
部活紹介も終了し、颯達と別れた俺は再び校舎へと戻ってきた。もちろん、監視カメラ探しの旅に出るためだ。見るべきところはもう少しなので直ぐに終わりそうだと意気込み廊下を歩いていく。
それにしても、パイセンの後ろ姿を見れたのは収穫だった。オーラが違ったな。やはり最高傑作、伊達じゃないぜ!
「こんなところで何をしている」
「ありがとうございましたさようなら」
パイセンの横にクールガールもいたし。おいおい、学校生活2日目にして一緒に行動とか、付き合ってんのかよ〜。うりうり〜!
今日だけでも収穫は多かった。今ようやく学校内で見れる監視カメラの場所は把握終了したし。よし、帰るか。だから今俺の肩に置かれた手は俺の勘違いだと思いたい。
「まさかお前とここで会うことになるとはな」
気配を感じなかった。上手く消していたのか、そもそも存在しないのか。うん、後者だな。家までレッツラゴー。
痛い痛い痛い痛い。すいません調子乗りましただから思い切り肩を握らないでくださいお願いします。
諦めて肩に置かれた手を見る。そのまま後ろへと振り返ると不気味に輝いた眼鏡をつけたお兄様がいた。
「さて、もう一度問おう、水野悠。ここで何をしている?」
名前、知ってるんすね。ははは……
……チェンジで。
水野悠
勘違い爆発系男子。今作主人公。前世にて、中学の頃によう実にどハマりする。以降綾小路清隆のようなスペックに憧れ、勉強と鍛錬に明け暮れる。しかし本人が目指すのは感情のある綾小路清隆なため、友人との交流も多く取り、結果コミュニケーション能力は非常に高い。空手、テコンドー、ジークンドーなどの武道のレベルは非常に高く、全国優勝を何度も経験している。
原作開始時点で既に戦闘、頭脳共にカンスト状態。しかし本人は綾小路には劣ると考え研鑽を積んでいる。
前世にて、友人から堀北学がシスコンであることと、███████の存在を知らされる。███████を警戒中。
先天的な瞬間記憶能力、異常な視野の広さと視力と動体視力(未来?見えるわけねぇだろ。どこの帝王だよ)、他にも彼だけの武器を数多く持っているが、綾小路には負けると思い込んでいる。絶対音感を持っているからピアノめっちゃ上手い。絶対音感は後天的に会得した。
時々馬鹿な所を見せるものの、既に全ての知識を取り入れた彼は綾小路以上のスペックを所持している。残虐性はなく、友人を大切にするタイプ。
前世での推しは一之瀬。
ドラゴンボーイをパイセンがボコるまでは静観しようと考えるも、一之瀬からの上目遣いのお願いに度々協力する。立ち位置は一之瀬の側近その2。やったね!周りから見た立ち位置は一之瀬の男。
陰で暗躍して龍園からの攻撃などを捌いている。もし一之瀬のことを泣かしたやつがいれば多分ボコボコのギタギタにしてから退学に追い込む。2年生編からは保護対象が一之瀬だけでなく██も加わる。もし██を泣かしたやつがいれば普通に殺す。
幼馴染の██とは家族での付き合い。今世での推しは██。高度育成高等学校に行くことを黙っていたからちょっと心配。
██のことは下の名前で呼び捨て。めっちゃ仲良い。