PSYCHO-PASS Sinners of the System[case.4 再会の白] ーReunited with White   作:鈴夢

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希望の烙印

 

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 

 

2118年 4月下旬 新疆ウイグル自治区

 

まだ凍てつく寒さは残るものの、以前とは違い様々な場所で人の姿が目立ち、寂れていた町には微かに活気が戻りつつあった

そして舞白は狡噛の運転する4WDでとある場所に向かう

 

明るい日差しがキラキラと真っ白な地面を照らしていた

 

 

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「ここだ……

お兄ちゃん、ここで停まって!」

 

「了解だ」

 

車両はとある酒場の前へ

町の人々は見慣れない車に警戒しているようだった

 

舞白は車両から降りると白い花を手にして

真っ直ぐと酒場の入口へ向かう

 

狡噛も運転席から降りると

舞白の様子を静かに見守っていた

 

 

外のガヤガヤとした様子に気づいた一人の男が慌てた様子で店の扉を開ける

そしてその背後には痩せこけた女性の姿

しかし芯のある瞳に美しい長い黒髪を持つ気品のある女性だった

 

扉を開けた強面の男は舞白の姿を見るなり、人目を気にすることなく思いっきり抱きしめる

 

 

「…お久しぶりです、テソン」

 

「マシロ…っ…」

 

相変わらず見た目は強面で大きな体なのに

大粒の涙を流し、声を上げながら何度も名前を呼ぶ

 

背後の女性も何かを察知したようで哀しげな表情を浮かべ、2人をそっと見守っていた

 

「約束通り、また会いに来たの」

 

テソンはそっと舞白の体を離すと涙目でじっと見つめる

変わらない真っ白な髪の毛に華奢な体

しかし前よりも整った服装の舞白に不思議そうにしていた

 

「…マシロ…その格好は…」

 

「あぁ…ちょっと色々あってね…」

 

上下パンツスーツにシンプルな白いTシャツ、その上には外務省のマークが刻まれたジャケットを纏っていた

あの時のようにボロボロのマスク姿ではない舞白に驚きを隠せない様子だった

 

そして背後には軍用の4WD

明らかにあの時の状況とは違っていた

 

「そんな事よりテソン

これを受け取って欲しいの

…時間はかかったけどちゃんとあなたに会いたくて

あと…きちんとお会いしたくて」

 

背後の女性に目を向けると軽く会釈をする

4年前に娘と共に連れ去られたテソンの妻、アジャティだった

約2ヶ月前にあの施設が解放され、無事自宅に戻っていたのだった

 

舞白はそっと1輪の白い花を手渡す

冬に咲く美しい白い花、ムスカリだった

ブドウのような花姿でとても可愛らしい花だった

 

「わざわざこんな辺鄙なところまで…

ありがとう、マシロ」

 

「約束したでしょ!必ず会いに来るって

……あなたにも、奥様にも…」

 

「…娘のアイは……」

 

娘の姿はそこには無い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テソンと妻のアジャティが顔を見合わせると

更に店の奥からドタドタドタと足音が聞こえてくる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さん!お客さん??」

 

可愛らしい女の子がテソンの体に抱きつくように姿を現した

父親に似た優しい瞳に、美しい母譲りの黒髪を揺らしていた

 

 

「そうだよ!大事な大事なお客さんだ

…ほら、綺麗な花…お礼を言いなさい」

 

テソンが白い花を娘に手渡すと嬉しそうに微笑む

 

手渡したムスカリの花言葉は

"明るい未来""夢にかける思い"

テソンたちにどうしても渡したかった花だった

 

「ありがとう!白いお姉ちゃん!」

 

無邪気な笑顔を見せる少女

揺れる長い髪の隙間から舞白と同じ焼印が覗いていた

 

首元に刻まれた刻印

少女もまた、奇跡的にあの施設から母親と自宅に戻っていたのだった

 

「…マシロ、あんたは英雄だ…、たった1人で乗り込んで

マシロの仲間たちも手助けしてくれたみたいで…

今じゃこの一帯、あんたの話で持ち切りだよ」

 

施設内で囚われていた人々の数は町がいくつも作れるほどの数

テソンをはじめ、酒場で出会ったタッカ、日本人の白髪の少女が攒を潰しに行く、仲間を解放してくれる、などと広めた結果

そのような噂が後を絶たなかった

 

実際に新疆ウイグル自治区の各地域には人々が多く戻り、活気を取り戻し、以前とは比べ物にならないくらい明るく、平和を願う国へとなりつつあった

 

 

「私だけじゃ無理でした

…たくさんの人達が助けてくれたんです」

 

その言葉にギュッと舞白の手を掴むテソン

祈るように手を合わせる

 

 

「……本当に…マシロは女神様だ

…ありがとう…本当に、

ありがとう…」

 

 

その様子を背後から見守っていた狡噛

自分もチベットで同じような光景を目にしてきた

 

妹も誰かのために、人々のために力になれていたと感じると兄としてとても微笑ましかった

 

 

刹那、舞白の手首のデバイスと狡噛のデバイスが同時に鳴り響く

相手は花城だった

 

 

「…ごめんなさい、テソン

私もう行かないと」

 

「おい!せっかく再会できたんだ!

馬乳酒でもなんでもご馳走してやるのに…」

 

残念そうにぎゅうっとさらに手を握るテソンにクスクスと笑みを向けるマシロ

強面で見た目はとても厳ついのに、相変わらずの様子に懐かしさを憶える

 

そしてその手を握り返すと、テソンに視線をしっかり向けて口を開く

 

「私はこれからも世界を変えてみせる

…未来の子供たちのためにも、私は出来ることを精一杯…」

 

舞白の言葉に穏やかな笑みを浮かべると

再びテソンは舞白を抱きしめた

 

短期間の仲だったものの

彼女の行動や、時折見せた少女の一面

まるで自分の娘のように感じていた

 

 

「必ずまた会いに来てくれ

その頃にはきっと…この町は

もっともっと活気で溢れていると…」

 

「…約束、必ず会いに来るね」

 

2人は体を離すと笑みを向け合う

 

背後の妻と娘に再び会釈をすると

舞白は兄の元へと駆け出す

 

 

そして狡噛とまた、テソン達に軽く挨拶すると

2人は車両へと乗り込んだのだった

 

 

 

 

 

 

 

離れていく車両に手を振り続けるテソン

その表情は穏やかで、以前の強面の面影は薄くなっていた

 

 

 

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舞白は外務省がまとめたとあるデータを見る

いくつもの名前が羅列されているデータ

その中に、あの子の家族の名前は載っていなかった

 

そして、タッカの妹、ダナリザも名前は無い。

 

そして同時に、嘆かわしい話も

舞白の耳に飛び込んできていた。

 

 

 

 

「…あの子、もう死んでしまっていたの」

 

舞白がこの国に赴くきっかけとなったあの少女は

既に病で亡くなっていたと報告を受けていた

そして探していた家族も全員、攒に虐殺されていたのだった

 

助手席で哀しそうに俯く舞白に

狡噛はそっと声をかける

 

 

「全員が全員、助けられる訳じゃないさ

それほど世界はまだまだ戦争で溢れてる」

 

「……うん」

 

「お前はこれから、そういった状況にも立ち向かわなければならない」

 

未だに俯く舞白

その姿を見兼ねた狡噛はさらに言葉を続けた

 

 

「お前は、あの組織に半端な気持ちで立ち向かったのか?」

 

「…違う」

 

「だれかを代わりに見殺しにしたか?諦めて逃げ出したか?」

 

「……違う」

 

 

 

 

 

「お前は命を落としかけてでも、その体に大きな傷跡を残しながらも必死に出来ることをやりきった、そうだろう?

…それでも納得いかないなら、もっとタフに、強くなければならない、それだけだ」

 

兄の言葉が胸に刺さる

その通りだった

 

体に刻まれた刻印を見るたび

恐らくその悔いを永遠に思い出すだろう

 

そして同時に、自らを奮い立たせる烙印でもあった

 

 

槙島に埋め込まれた首の烙印、そして今回の烙印

舞白に刻まれていく印はどれも大きな理由を抱え込んでいる

それと共に生きていくと、決めていた

 


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