PSYCHO-PASS Sinners of the System[case.4 再会の白] ーReunited with White 作:鈴夢
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一面に広がる、真っ白な砂浜
地平線の先には、美しい夕日。
穏やかな波の音に、裸足の脚に纏い付く潮水。
自宅のマンションの目の前の砂浜を、静かに1人で散歩をしていた。
全てが始まったこの砂浜、
かつての親友、咲良と歩いたこの砂浜を、
しっかりとした足取りで歩く。
可愛らしい咲良の姿が、今にでも蘇りそうだった。
あの夜の光景が、言葉が、舞白の脳裏に蘇る。
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「…ね?私たちの心はここにあるの」
「…舞白の色相がまっしろで綺麗な理由、ハッキリわかったかも」
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「……心は此処に」
"私たちには心があるでしょ?
心、人に対する気持ちだって、
それは機械に、システムには奪われない…"
脚を止め、砂浜に座り込む。
沈んでいく夕日をぼーっと見つめ、気持ちの良い潮風に目を瞑る。
そっと、右手を左胸に当てる、
ドクドクと動く心臓、深呼吸をするとゆっくりと瞼を持ち上げる。
公安局の監視官補佐として働き始めて数日。
システムに支配された日本は、どうもまだ慣れなかった。
数値や色相に惑わされ、その人本来の心が見えなくなってしまう。
それでも、この日本は世界紛争から免れ
誰もが羨む、平和で素晴らしい国に違いなかった。
その間に人々は、何を犠牲にし、そして、何を忘れ去ったのだろう。
分からなくなっていた、あの時の自分の言っていた心。
それはなんだった?
両膝をグッと抱え込み、顔を埋めていると
背後から突然、頭をポンポンと叩かれる。
「こんな所で、何してるの?」
振り返ると私服姿の霜月が、仁王立ち姿で舞白を見下ろしていた。
突然の登場に驚いたのか、目を丸くして見上げる舞白。
「……なんで、そっちこそ、
こんな所で何してるの?」
「昨日言ってたじゃない……
"明日は非番で暇だから、勤務明けたら遊びに来たら"って。
……いざあんたの家に行ったら誰も出てこないし、まさかと思って浜辺に来てみたの。」
ぼーっとしていて気づかなかったのか、デバイスには霜月からの着信の履歴が数件残っていた。
「自分で呼んでおいて、何よ、本当に……」
「まさか、本当に来てくれるなんて思わなかった」
「……あんた、私がまるで"心がない人間"みたいじゃない、そんな薄情じゃないわよ。」
はぁーあ、とため息を漏らし
霜月もその場でパンプスを脱いでは、舞白の隣に座り込む。
ふと、舞白の横顔を望み込むと、いつものヘラヘラとした様子ではなく、神妙な面持ちに、珍しいな、なんて考えていた。
「良いわね
家の目の前に海が広がってるなんて。」
「そうでしょ?
海も砂浜も綺麗だし、人も少ないし……」
でも、あの悲惨な事件が起きた場所。
霜月も勿論、その内容は全て知っていた。
沈みゆく夕日をのんびりと眺めていると、霜月は不意に問いかける。
「監視官補佐、
……というか、ほぼ監視官と役割は変わらないけど、働いてみてどう?」
「そうだなあ……、正直こんなに大変だったなんて思ってなかったかも。サイコパス、色素が濁った人をドミネーターで打って解決、その程度だろうな、なんて考えてた自分が甘かったわ」
脚をグッと伸ばし、潮水をパチャパチャと脚先で漕ぐ。
外務省行動課のように、力任せで相手を制圧するわけに行かない。
相手の心理状況を把握し、執行する。
何より、ドミネーターの存在。
「私、ドミネーターがどうも苦手で。」
隣の霜月へと視線を向けると、言葉を続ける。
「引き金付いてるからこそ、引き金を引く責任はドミネーターを握る人間に委ねられてる。だからこそ、自分が正しい判断ができなければならない。無機質なシステムの代わりに、私たちはその心を持っていないといけない、常に考えなければならない。」
「今まで本物の銃を握ってた人間が何言ってるのよ」
「本物の銃とは違う。
良い悪いで引き金を引くのと、相手の心理状態を深堀した上で、引き金を引くのとは全く違う。」
紛争地にいた年月が長かった分、昔の、何にも染っていない、あの時の真っ白な自分の心が、失くなっている気がしていた。
夕日が半分ほど沈む。
海は真っ赤に染まり、感傷的な気持ちを彷彿させるような景色が広がっていた。
「"目に見えないもの、思いや感じや考えのことをひとまとめにして"心"と呼んでいるけれど、同じ目に見えないものの中でも、動いて変わる部分と、動きも変わりもしない部分とがある。前者が感情、後者が精神。感情は感じるもので、精神は考える物"…」
とある本の一文を読み上げる。
おそらく、本の一文から抜粋したのだろうと、霜月は分かっていた。
暇さえあれば、紙の本を読んでいる読書三昧な人物だと、一緒に働いて初めて知った。
時たま、哲学的な事を言い放ったり、何かの本から言葉を引用する舞白。
霜月は静かに聞いていた。
「ただ、シビュラの意のまま、執行するべきじゃない。
数値でも色でもない、目に見えない"何か"を、相手の感情と精神を、誰よりも理解して、誰よりも考えて、私たちは引き金に指をかけなければならない。」
哲学的な考えを、次々と発する舞白にため息を漏らす霜月。
「あんたって本当に、博覧強記。
もうそれ以上、混乱させるようなこと言わないでよ。
…考えすぎて色相濁りそう……」
「へへへっ……つい考え込んじゃった。」
刹那、ぐーーっと舞白は伸びをすると、その場に立ち上がる。
夕日をじっと見つめ、美しい景色に目を奪われる。
霜月も同じく、その場から立ち上がると、海を眺める舞白を見据える。
「舞白が免罪体質の理由がハッキリわかったかも。
…純潔というか純粋というか、でも時たま冷たい瞬間があるし。
誰にも理解されない、そんな感じ。」
「…美佳ちゃんには理解して欲しかったんだけどな〜」
「やめてよ!理解すればする程、色相濁るわ」
ふと、咲良の顔を思い出す。
"舞白の色相がまっしろで綺麗な理由、ハッキリわかったかも"
あの時、この場所でそう言い放った咲良。
ついその姿を、咲良と重ねていた。
じっと霜月を見つめる。
その様子にぷいっと顔を背け、霜月は歩き出す。
「ていうか、早く家に案内しなさいよ?
日も沈みそうだし、脚も濡れて冷えてるし、あたし勤務明けなんだからね?」
「…………」
「聞いてるの?舞白?
ぼーっとしてないで、早く行くわよ?」
有無を聞かずとも、さっさと先へ先へと進む霜月。
舞白も海へ背を向け、歩き出そうとした瞬間、誰かに背後から腕を引かれるような気がした。
可愛らしいワンピースに身を包み、栗色の髪の毛を2つに結っている少女。
柔らかな笑みを浮かべていた。
夕日に照らされたその姿は、とても神秘的だった。
『舞白……』
「……咲良……」
手をのばすも、感覚はない。
『また会えた
…… あの時の、まっしろなあなたに』
体の向きを、咲良が立っている海へと向ける。
咲良の腕に触れようと追いかけようとした瞬間、再び誰かに掴まれる。
「ちょっと……そっちは海、着衣水泳でもするつもり?」
様子がおかしいと、霜月はすぐに気づくと引き返し、舞白の腕を掴む。
その表情は、不思議そうに眉を顰めていた。
「…ごめん、ぼーっとしてたみたい。」
「なにやってんのよ。
ほら、行くわよ。」
「うん」
再び踵を返す。
霜月とくだらない話をしながら、前へと進む。
夕日が沈んでいき、海は闇に包まれていく。
歩いていると、再び視線を感じる。
でも、もう振り返らなかった。
真っ暗闇の海から、銃を握ったぼろぼろの姿の自分が、こちらを見つめていた。
世界を放浪していたあの時の自分が。
微かに口角を緩め、笑っている様子だった。
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PSYCHO-PASS Sinners of the System
[case.4 再会の白]
ーReunited with White―
【完】
▷▶︎▷後書きは活動報告にて