鬼と呼ばれましたが冒険者になれば英雄になれますか? 作:もぐらたたきアルファ
30分程地面に寝転がって休んでから大吾はゆっくり立ち上がり砂埃を払う。
まだまだ疲れは残っていてそのまま寝てしまいそうであるが、時間が無い為いつまでも休んではいられない。
改めて大吾は、安全地帯の先の己が挑むことになる暗闇を睨みつけた。星明かりのおかげで多少は見えるが本当に多少である。ちょっと先になるとまったく見えなくなる。
古来より人は暗闇を恐れてきた。一才見えない闇の奥にある深淵を人は感じざるを得ない。その根源的な恐怖は雑魚モンスターとは比べ物にならないものだ。さしもの強心臓な大吾も震えてくる。
「旦那様。私たちは結構見えてるけど。絶対大丈夫とは言えないわ。この階層はこれまでよりずっと危険よ。」
「あぁ。そうだろうな。」
恐怖はある。だが、短い付き合いだか既に信用出来ている2人の仲間、そして、負けん気と好奇心で心を燃やして暗闇フィールドに足を踏み入れていった。
一行は槍を構えた武蔵を先頭に進んでいく。仲間の輪郭程度しか見えていない大吾は、恥ずかしがってる場合じゃないので、朱乃としっかり手を繋いで慎重に武蔵についていった。会話は一才無しでビリビリ張り詰めた状態が続く。
(フィールドが荒地で良かった。森だったら本当に進むことすら出来なかった。)
そんな状態が1時間続いた。時々木が生えているだけで乾燥した平地は歩きやすかったが慎重に進んだ為これまでのようには進めていない。モンスターが現れなかったのは幸いではなく余計精神を摩耗させた。
そんなタイミングで
「グッ!グギュッ!!!」
突然、武蔵が締められた様な声を出したかと思ったら消えてしまった。持っていた槍がカランカラン音を立てる音がやけに虚しく響く。
武蔵が死んだのだ。
「はあ?!武蔵っ!!」
「待っていて!旦那さま!このっ!」
朱乃も流石に慌てて手を離して武蔵を瞬殺して見せた何者かに攻撃していく。だが、何度も振り回しているがなかなか当たらないようだ。
初めての仲間の死にさすがに大吾も動揺せざる得ないが、何も出来ずにいた。朱乃が斧を振り回している敵が全く見えないからだ。朱乃自身は輪郭は見えているにも関わらずである。
「そうだ!」
出来ることがなく固まってしまったが、大吾は新しいカードを取り出して召喚した。
それは第二階層で散々苦労したモスキートのカードである。嵩張るものでは無い為、手に入れたカードや魔石は一応全て回収しておいたのだ。
「敵が見えるか?見えたら攻撃してくれ!」
命令を受けたモスキートが迷わず飛んでいって大吾はほっとした。
大吾は知るよしもないが、モスキート系モンスターには体温や匂いを感知する力があるので、索敵役として新人冒険者に一定の人気があるのである。
また、決定打にはならないが戦闘のサポーターとしても
「ジュッ!?」
正体不明なアサシンに鋭い高速軌道で肉薄したモスキートは自慢のストローを見事突き立てた。刺突攻撃を受け敵モンスターは初めて声を上げる。
「はぁーーーっ!」
そして、動きが止まったところで朱乃の一撃を受けて勝負は決したようだ。さっきまで見えなかったゴブリンよりさらに細い体が蠢くのが見えている。
「死っねぇぇーー!!」
そこに拾っておいた武蔵の槍を、今更ながら湧いてきた怒りを込めて突き立てたことで、暗闇のアサシンとの戦いはおわった。