鬼と呼ばれましたが冒険者になれば英雄になれますか? 作:もぐらたたきアルファ
三つ星冒険者「橘(たちばな)里香(りか)」は、自宅である安アパートで妹分の双子姉妹ルルとララと深夜にだべっていた。
「金が無いぃーー!!Cランク高いのよっ!」
「姉さんはすぐお金を使っちゃうからねー」
「うちらもだけど」
呑気に爆笑する馬鹿姉妹をよそに、橘はおでこにしわを寄せて考える。
彼女たちは一般的な労働があまりにも向いておらず、元ヤンの経験頼りに、冒険者デビューを果たした20代半ばの若手冒険者チームだった。冒険者の才能は確かにあり。あっという間に三つ星チームに登りつめた。
第二次アンゴルモアで活躍したサモナー、もしくは彼らが運営している塾の生徒などの冒険者のモデルケースになった者達を除いてではあるが、期待の新人として注目されていた。
そう……過去形である。
その原因は、最初のやりとり通り金銭問題だった。プロと呼ばれる四つ星に登り詰める為には、主力にBランク、それ以外もCランクに引き上げる必要があるのだが最低1000万からになるCランクカードの金額を貯め切る前に彼女達は使ってしまうのである。
先日も良い筋肉をしている男の鬼人カードをつい買ってしまった。後輩や他の冒険者仲間との飲み会を奢るのも大好きである。そんなこんなでなかなか資金が貯まらない。
初期は親の金をくすねて開始した為、表沙汰にならなかった問題であった。節約の為に三人で狭い部屋で寝るという努力をしているのが痛ましい。
嫌な現実を忘れる為に缶ビールを一気飲みしたところだった。
ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!!
「はいはい!どなたぁーですかっ?」
既に日を跨いた深夜に突然インターホンが何度も鳴った。何事かと怪しみながらドアを開けたところ、見知らぬ中年女性が裸足で息をあらげていた。
「む、向かいに住む鬼導院です!はぁはぁ。た、たしか、冒険者でしたよね!助けてください」
脈絡が読めず首をかしげてしまった。どういうことだろうか?アンゴルモアではないようだが。
「息子が家に出来たダンジョンに入ってしまったんです!ああもう。」
気力が尽きたのか崩れ落ちるお母さんを抱き留めながら里香は状況を理解した。
「あ、あぁ。そゆこと……」
………まさかの事態に無言で目頭を抑える。既に最悪の状況になってる可能性もある。酔いは吹っ飛んでしまった。
「……入ってどんくらい?」
「その……夜の仕事をしているので、6時から家を出て。お店のトラブルで10時に帰ってきたら既にいなくなっていました!わ、私それからショックで倒れてしまって。」
そう言ってさめざめと涙を流す。一分一秒が命取りになる救助で数時間遅れる意味をわかっているのだろう。
適当に生きている里香とて朝まで寝てなくて良かったですね。とは言えない。
「あぁもう!すぐに潜るわ!あんたらカードだけ持ってきなさい」
「「イエッサー」」
後ろで様子を見ていた姉妹に命令を出して三つ星冒険者橘里香は動き出した。
「F級!よし!」
土足で家に駆け上がり、すぐさま押し入れダンジョンに侵入、頼れる仲間達を召喚するついでに召喚枠が2体だったことから最下級(F級)であることを確認する。
「ガウェインここに。なんなりとご命令を。」
まず召喚したのは馬鹿なマスターを三つ星に導いたエースの首無し騎士のデュラハンである。プロ必須と言われるスキルを持つ有力なCランクカードである。
彼は、2mを超す巨躯から繰り出す高い戦闘力と、里香と双子が起こすケンカやミスを黙ってカバーしてくれる紳士性を併せ持つナイスガイである。騎士道スキルを習得したことから、かの円卓の伝説の騎士の名を与えられた。
「ガオーンっ!!やるぜ!」
元気良く飛び出したもう一体は、ギリシャ神話の女神アルテミスの猟犬と言われるDランクのライラプスのバイトである。馬並みの体格とマスティフのようなムキムキな身体つきをした漆黒の犬である。妖精属性のデュラハンとのシナジーを考えると同ランクのクーシーの方が良かったのだが筋肉好きな橘の感性にあった為選ばれたカードである。今回は狙った獲物を逃さない先天スキルを持つ為捜索用に呼び出した。
「馬車を出してっ!」
デュラハンがプロ必須と言われる所以である浮かびながら進む四頭馬車コシュタ・バワーに乗り込みながら経緯を説明する。
「よしっ!子どもを探せば良いんだな!まかせろっ」
バイトがブサイクな顔で自信満々に言いしばし地面の匂いを嗅ぐと
「見つけたぞっ!!刺激物の匂いもするが。」
「よしっ!追いかけなさい!全速力よっ!モンスターは無視っ!」