鬼と呼ばれましたが冒険者になれば英雄になれますか? 作:もぐらたたきアルファ
・特注運動靴
小学校の指定品だが規格外の成長を果たした大吾に合うサイズが無かった為専用につくってもらった靴。頑丈だが森を歩くには少々心許ない。
・防犯用トウガラシスプレー
単独で行動することが多い息子を心配した母が送った防犯グッズ。獣がいても効くだろう。
・サバイバルナイフ
父の肩身の刃渡り20cmほどの肉厚ナイフ。裏面がノコギリ状になっている。スプレーの方が使いやすいが刃物があるのは安心出来る。腰につけていつでも抜けるようにしておく。
・ロープ
虎模様の紐が丸くまとめられたもの。
・お茶のペットボトル×2とチョコレート1袋
水分と非常食
・腕時計(Gショック)
これも父の形見。いつまでもいるわけにはいかないので時間を見るためにもっていく。
さらにメモ帳と筆記用具をリュックに入れて大吾は黒孔に触れた。起きた母にみつからないように襖を閉じるのも忘れなかった。
再びの夕暮れの森林 準備を進めてる内に現実の世界は、だいぶ日が高くなってきたはずだがこちらは一才変わってない。
大吾はドキドキしながらも慎重に森がちょうど分かれて道になっている場所から進み始めた。
30分程茂みを掻き分けながら歩いたところで体力的には余裕だが少々緊張が解けてきた。先ほど拾った太さと長さがちょうど良い木の棒で伸びた草を斬り飛ばし始めた時だった。
ツンとくる刺激臭ともに草を掻き分けてソイツは現れた。
身長はクラスメイトと同じくらい、緑色の肌、粗末な棍棒、痩せているが腹だけでている、尖った耳
異世界漫画にでるゴブリンそのものだった。
「ゴ、ゴブリン!あーえっと言葉は分かるか?」
「シャアッ!!」
問答無用というように鋭く叫びおそいかかってくるゴブリン相手に慌てず木の棒を構える大吾。ダンジョンはしらないが異世界漫画は見ているのだ。
「ゴブリンは魔物のタイプか!なら倒していいな!オラっっ!!!」
恐怖よりも異世界らしい展開にテンションが上がってくる。大吾は走りよってくるゴブリンに向けて木の棒を叩きつけた。
バギィーンという鈍い音が夕暮れの森林に響く。ゴブリンが棍棒で大吾の一撃を受けたのだ。そして、その小さな体からは考えられないパワーで押し返されだす。
(くっ、すごい力だ。先生と腕相撲した時みたいだ)
ゴブリンは確かに最弱と言われる魔物だがそれは魔物基準の話である。大吾の言うとおり成人の男性並の力を持つ怪物なのである。体格差ゆえにすぐには押し切られないがそれも時間の問題である。
「ぐはっ!!」ゴブリンは一瞬の隙に懐に潜り込み固い石頭で頭突きを大吾の腹にぶちかました。大吾の体は派手に吹っ飛んでいった。
「ゲハハハハハハ」既に勝利を確信し小鬼は嗤う。
あまりの痛みに却って冷静になって大吾は無策で挑んだことを激しく後悔していた。あれは全力で殺さないといけない強敵だった。
だがだがなぜか恐怖は感じなかった。ここに来たこともけっして後悔はしていない。むしろ………愉しくなってきた。頭からどろりと流れてきた血を感じながら大吾は嗤った。
頭と腹がズキンズキンと痛むのを無視して素早く起き上がり、近寄ってきたゴブリンに落ち葉と土を投げつけた。これにはゴブリンも堪らず手で顔を覆って防ぐ。
その一瞬の隙に大吾は全力で走り出した。これまでやってきた道を逆向きに。
「へいへい!こっちだぜ!チビ!」
大吾の挑発が通じたのか背後から怒声があがる。うまく釣れたことを確信して大吾は凶悪な笑みを浮かべた。
生まれて始めて感じるような激痛と明確な死の恐怖は大吾が普段押さえ込んでいた暴力衝動を完全に目覚めさせていた。脳内麻薬が回っているのか肉体にはかつてないほど活力が漲り、ぐんぐん加速していく。その上でテンションは上がりながらも頭の奥は冷徹に回っている理想的な状態だった。
(よし。間に合った!)
ゴブリンの吐息をすぐ後ろに感じながらなんとか先程思い付いたゴブリンを確実に殺す為のポイントについたことに安堵する。
その目的地とはゴブリンに会敵する少し前に登った傾斜はきついが短めの坂道のことである。
そこを一気に駆け降りると見せかけて全力全開で右足で急ブレーキをかけ右側に曲がる。無理な急制動に足が悲鳴を上げ、森歩き用ではない靴はビリリと破ける。
「ぐあーっ?!」
坂を下る獲物を追いかけようとしていたゴブリンは急に真横に飛んだ大吾を中途半端に追いかけようとした為バランスを崩して坂を転がってしまう。
千載一遇のチャンスを作り出した大吾は腰に刺していた父の形見のサバイバルナイフを勢いよく引き抜きながら転がり落ちたゴブリンめがけて勢いよく飛ぶ。
「がはっ!!!」
大吾は仰向けに転がったゴブリンのぷっくりしたお腹の上に両足を揃えて着地した。ただでさえ体重は大吾の方が上で高さを活かして衝撃を増やした一撃は屈強なモンスターとはいえ耐えられるものでなくゴブリンは血を吐いて悶絶する。
無論それだけでは終わらない。大吾はギラリと光るサバイバルナイフを両手で構えてショックで見開く黄色い目玉に全体重を乗せて突き立てたのだ!
「いぎぃーーぃぃぃぃ!!!」
ゴブリンの口から今までで一番大きな悲鳴が上がった。命の危機を感じさせる凄まじい声だ!
「ちいっ。」
これで殺し切る予定だったがナイフが骨か筋肉で止まって動かなくなってしまった。
(このままでは殺しきれないか?どうしたら?がっ!)
動揺して集中を切らしたせいで激痛で暴れ回るゴブリンの爪が剥き出しの左手をざっくり切り裂いたのだ。堪らず一旦離れた時だった。大吾の目にゴブリンが落とした棍棒が入った。
天啓を得た大吾はすぐさま棍棒を拾い全力でゴブリンに振り落とした。激しく動くせいで狙いが定まらない。一撃目は腕にあたり。二撃目は地面を打った。そして、気合を入れて打ち込んだ三撃目がついにゴブリンの眼孔に刺さったナイフの柄をとらえた。
人力パイルバンカーによって撃ち抜いたナイフは更に深く刺さり無事ゴブリンの脳髄を破壊することに成功した。
その後、しばらく痙攣したゴブリンはすっと消えていった。カランっと拘束が無くなったナイフが落ちる音が響く。
「ふっ。ふふふっ。ついに勝ったぞ!勝利だ!あーはっはっはっはっ!!」
死体が消えたことも気にせず勝利に酔う大吾の勝鬨が森林に響いた。