鋼炎のギア・リベリオン~男モブには厳しい乙女ゲー世界で悪役令嬢の取り巻きモブAになったおれは禁忌を手に反逆す~ 作:雨在新人
「本物の、レオンハート、様」
思わず口から出たのは、そんな言葉だった。
小学校中学年の頃に両親がアメリカ出張中に自動車事故で死に、伝夢を育ててくれたのは高校卒業と共に就職して一年の歳の離れたあ……姉、三嶋
では、それが男な伝夢に何の関係があったのかというと、中学2年の頃に即売会の際に伝夢なら行けるとコスプレ売り子を頼まれて、一回二日ほど参加するだけで最新ゲーム機が買える程の小遣いが貰えるらしいと二つ返事で受けた。
……のだが、それが不味かった。
推しのコスで私のサークルで参加する以上解釈違いの台詞は許さないと姉に脅され、覚え込むまでひたすらに『エレメンティカ・クロニクル』、それもレオンハートルートと彼が絡む別ルートのイベントを重点的にプレイさせられ、彼の人格や台詞回しを頭に叩き込まされたのだ。
ヒロインが優しくちょっぴり卑屈な小動物系と好みドストライクで無ければ延々男との恋愛を台詞覚えながらの周回とかちょっと厨二入った男子中学生には耐えられなかったと思う。
スチルも基本男ばっかりで、「ヒロインとのキスシーンなら横顔にしてヒロインの顔も描いてくれよぉぉぉっ!」と初見で叫んだ覚えがある。その点魔王様はヒロインとツーショットスチル多めで神。
そんな伝夢が飽きる程に何度も見たレオンハート・スコルテオが、正に視線の先に居た。
「え、どういうこと?」
当然ながら、レオンハートはゲームの登場人物だ。現実の人間ではない。
だのに、少し離れた場所に確かに実在している。
「そこの!」
まさか……夢か?ってか夢だろうな、うん。当たり前だ。
そう感じて伝夢は自分の腕でもつねろうとして、更なる違和感に気が付いた。
手が小さすぎる。もう高校生で大学受験……は頼りすぎだからと就職を目指した伝夢にしては、あまりにも小さくそして幼い。そして、纏う服が上等すぎる。
きょろきょろと見回せば、豪勢なパーティ会場だ。全体が宝石のように輝くシャンデリアも釣り下がっているし、机の上に並べられているのは見たこともないような豪華なメニューばかり。日本でこんなの有り得ないだろう。
いや、上流階級なら有り得るかもしれないが、少なくとも伝夢とは絶対に縁の無い世界の話だ。
「聞いてるの、愚図!」
甲高い声に、漸く伝夢はそれが自分を呼ぶ声だと理解した。
振り返れば、其処に立っているのは青いドレスを身に纏う可愛らしいがキツめの顔立ちをした栗毛の女の子。年頃は6~8歳とレオンハートとほぼ同じだ。
「全く、どこの家のしよーにんか知らないけれど、男なんてやっぱり使えないわ」
見覚えは0。ゲームでも見たことがない。
「も、申し訳御座いませんお嬢様。すぐに……」
だが、何となくゲーム知識から状況を理解して即座に謝る伝夢。
「もーいいわよ、愚図!」
だが遅すぎた。罵るだけ罵ると、幼い少女はつかつかと肩を怒らせて別の輪の中に入っていってしまった。
(……うん、エレメンティカ・クロニクルの世界だ。刷り込まれるレベルでやってきたからか再現ばっちり)
そう伝夢は思う。
エレメンティカ・クロニクルはファンタジー世界を舞台とした乙女ゲーだ。正確に言えば西暦3700年頃の地球圏の話らしいけど、機械文明が禁忌の鋼炎と呼ばれ衰退した魔法文明社会と化した地球はもうファンタジーで良いだろう。
そして、その世界の特徴の一つは、ほぼ徹底した女尊男卑だ。
エレメンティカ……正式名称エレメント・タクティカ。この世界の基本システムであり魔法の力は基本的に原則として全ての女性が持ち、そして女性しか持たない紋章。その例外となるのは、持って産まれ本人と共に死ぬ普通のものと異なり代々受け継がれる、魔王を討ったとされる原初の六だけだ。
つまりこの世界においては『女性しか魔法が使えない』。だから原初の六を受け継ぐ攻略対象以外の男性は、女性に基本的に絶対に勝てないのだ。
だってそうだろう。紋章障害を抱えた者以外総ての女性が最低限前提として銃より強い魔法の力を単独で使えて、男がどうやって生身で勝てというのか。
結果出来上がったのが、男の生きる道が適当な労働力として女に買われるかさもなくば種馬とかそんな感じで女に飼われるかの二択な社会。
芸術だけは魔法がそこまで影響しない為芸術家を目指すものも多いが、結局のところそれも女性に気に入られて飼われる手段でしかない。
そして、そんな社会で……遥かな昔に魔王を討った初代聖女のタクティカを受け継いだヒロインと初代聖女を護った原初の六を受け継ぐ攻略対象等の恋を描いたのが乙女ゲー『エレメンティカ・クロニクル』だ。
プレイヤーは女尊男卑社会で、男でありながらうっかり他の女に手を出した王の隠し子であり、万一にも妻に不貞が気が付かれないように封印されたが故に紋章障害持ちの出来損ないと蔑まれていたヒロインとなり、この封印されてるタクティカこそが王家女性に伝わる初代聖女のものだと判明して一躍時の人兼王族にされてしまった彼女を操作してイケメンと恋をしていくのだ。
うん、自分も魔法が使えず虐げられてきた分男に偏見がないし他人に優しいし偉ぶった所がないって、ヒロイン聖女か?いや地位は聖女だけど。
きょろきょろと伝夢は周囲を見回す。
確か
(というか、今の自分は何処の誰なんだ?)
何でこんな夢を見ているのか、何で夢なのにレオンハートになった夢じゃないのか。分からないけれどもヒロインに逢えるならまあ動こう。
気持ちを切り換えて幼い使用人を探し歩く伝夢は姿見で自分を見てみるが、分かることは知らない子供になっている事くらいだ。
何処かの家の使用人なのは間違いないが、パーティに連れてこられている以上そこそこの地位だろう。
男は原初の六を継がない限り貴族になんてなれないが、それでも王公貴族の家柄、血筋というのは女性から飼われる為のステータスになり得る。
(悪役令嬢のところだと最悪なんだけど……)
と、伝夢は考える。
悪役令嬢。あのゲームには、乙女ゲームとしては非常に珍しく悪役令嬢と呼ばれるだろう立場の女キャラが居る。
名を、アウローラ・リブラスタ。同じく原初の六を抱く六公家の一つの出にして、攻略対象の一人の姉。そして、原作におけるレオンハートの"自称"婚約者だ。
レオンハートに異常な程執着している少女で、作中で弟に受け継がれるが当初は原初の六持ち。そして、この世界では常識たる女性優位を振りかざして「女である
レオンハートは原初の六を持つから、例外的に女が男をモノにするなら拒否権はないって法に当てはまらない筈なんだけど、それをガン無視。原初の六持ちと親交を深めていくヒロインによくも私のものに手を!と嫉妬して色々とちょっかいかけてくる。
最終的に、ヒロインを亡き者にしつつレオンハートを手に入れるため伝説の力を手に入れようとする。のだが……実はそれが魔王を解き放つ儀式であり、そうと知らずにやらかした彼女は復活した魔王というか怪物に殺されて死亡する。
ここまでが共通ルートの話、基本的に救いはない。というか、魔王だ化け物だという共通ルート終盤~個別ルートの話の切欠造りの為に取り返しのつかないことをやらかすヘイト役。それが悪役令嬢ことアウローラだ。
隠しである魔王ルートを見るに、魔王の封印を解きたい勢力が、封印を解除できる六公家のアウローラを何時か嫉妬に狂ってやらかすように刷り込みながら育てていた、というある種被害者みたいな設定はあるのだが……それはそれ。
伝夢的には「切欠が洗脳でも何であっても、この燃える憎悪と恋慕が今の
まあ、夢だから流石に無いだろうと思い、伝夢は一歩踏み出したところでその思考の渦中の人間を見つけてしまった。
ヒロインであるルナ……ではない。豪奢過ぎて無駄じゃないかと日本人の感覚では思うしコスプレでも良く簡略化されるゴッテゴテの原作ドレスの趣を感じさせる貴金属で激しく飾り立てられた赤いドレス(レオンハート意識。原作でもずっと同じ色の服を着てアピールしている)に深く青い髪。合うのか合わないのか議論が良く巻き起こる色使いの、キリッとしてつり目の女の子。
悪役令嬢アウローラその人が、頬を膨らませて目の前に立っていた。
「あ、」
「あ、ではありませんわよリオン」
げ、と内心で伝夢は溜め息を吐いた。この馴れ馴れしさからして……今の伝夢の正体は一発で確定してしまったからだ。
リオン。正式にはリオン・ヴェル・テル・スコルテオ。そう、姓の通りレオンハートとは血縁関係に当たる男だ。確か腹違いならぬ種違いの兄。
じゃあ重要キャラかというと、原作のリオン・スコルテオは、たまたま買っていたが重用され始めたレオンハートの劣化代用品。まあ、言ってしまえば悪役令嬢の嫌がらせの実行犯兼取り巻き、実は設定資料集が出るまで本名不明だったし立ち絵も無いモブAだ。原初の六を持たない以上、攻略対象の兄ですら一山幾らのモブにしかなれないという話。
そして勿論、悪役令嬢と一緒に破滅一直線。本人は実は弟に対して嫉妬と劣等感を持っており、レオンハート一筋な主人を彼から(寝てないけど)寝取って昏い勝利に浸る為に没落を狙って嫌がらせの命令に嬉々として従っていた……らしいが、それも資料集で初めて知った程には原作に何も出てこない。
「何してるんですの、行きますわよ。
全く、スコルテオ家の宴だから一応連れてきたのに、失敗でしたわね」
そんなご主人様によって、リオン/伝夢は今一度レオンハートの元へと連行された。
そして、その瞬間。
「あ、え、……レオンハート様?
あ、そうだ……
何処か上の空なアウローラに、リオンは違和感を覚える。
初対面ではそこまで執着心を見せなかったってレオンハートルートのテキストにはあった筈なのだ。裏設定からしてこの後暫くしてから洗脳されてレオンハートに執着を始める。今のアウローラは男を見下しており、相手を様付けなんて……
「レオンハート様で、私はアウローラ?
むーちゃん!お兄、自分を投影した本物の女の子になったんだけどーっ!?」
その言葉に、リオンの背筋が凍った。
三嶋
そう、伝夢の姉である
なお、本人曰くレオンハートは男の自分でも抱かれたくなるイケメン、アウローラはそんな彼に憧れるがノンケの彼に相手されず壊れる自分……をイメージして作ったのだとか。
そう、だが……そんな裏事情を知っているのは聞かされた伝夢以外でたった一人。ライター当人だけだ。そしてむーちゃんという兄/姉特有の伝夢の呼称と、本物の女の子になったという発言。
そこからたどり着く結論はひとつ。今このアウローラの中身は、兄/姉の三嶋涼。
その事に気が付いた瞬間に溢れ出す記憶。
横転した電車、鳴り続ける踏切、車が踏切無理矢理突っ切ろうとした!という言葉と、降り注ぐ冷たい雨の感覚。自分を庇おうとおぶさった体が冷たくなっていく恐怖と、ぬめっとした血の味。
そうだ、と内心でリオン/伝夢は思う。
三嶋伝夢は真冬の祭典コミックショーウィンドウにまたまたコスプレ役として行った帰り、姉と共に泥酔した運転手の操る暴走車が起こした踏切突破による列車の横転事故に遭遇し……そのまま死んだのだ。育ててくれた彼に何も返すこと無く。
「……涼にぃ……
なら、ならおれは!?おれは何なんだぁぁぁぁぁぁっ!」
思わず叫ぶ声が、変なことを言い出したアウローラへの注目を奪うように、リオンの口から漏れ出した。
「え……あっ!
無礼ですわよ!」
その言葉に状況を思い出したのか、アウローラがはっと気が付いて横のリオンを言い咎める。
「全く、使えませんわね!」
ドゴンと頭上から降ってくるのは、原初の六の一つによる魔法だ。水属性の氷塊がタライのように墜ちてリオンの頭を強かに撃つ。
「ぐげっ!」
「宴を乱した罰ですわ、退場して反省なさい!」
流れる血に視界が赤く染まり、リオンは呻く。
だが、怪我の功名だ。自分が……三嶋伝夢が死んでいたことを思い出して叫んでしまった事で、ぶつぶつと他人には意味不明な言葉を話していたアウローラの印象は周囲から完全に拭われた。結果的には姉を護った?事になったのだ。
ふらつきながら、去れと言われた伝夢は会場の外へと向かう。
たった一つの想いを胸に。
(アウローラなんて関わりたくなかった。
でも、おれは涼にぃに何も返せてない。意味分からないけど、この世界に涼にぃもおれも居るなら。今度こそ恩を返すんだ。幸せな人生を送らせることで!)
そう決意するリオン/伝夢。だが……衝撃と流血で朦朧とする意識の中で、シナリオを反芻しての結論はたった一つ。
知る限りどのルートでも兄が転生したアウローラは破滅する!
「どうすんだよこれ!」