天馬司はスターではなく呪術師である   作:ともやま

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天馬咲希は知っている


天馬司はスターではなく呪術師である

「五条先生は、オレのことを殺しておこうとは思わないのか?」

 

流れるように、まるで明日の予定を訊ねるように問いかけられたセリフ。しかし出てきたそれは、まだ大人と子どもの狭間である少年が発するには酷く殺伐としたものであった。また、そこそこ高級な焼肉店で話す話題としても、不適切であることは間違いなかった。僅かに動きを止めた五条に構わず、少年は綺麗な所作で肉を口に運ぶ。

 

「思わないよ。だってほら、僕、最強だからさ」

「……………………そうか。ふふ」

 

その言葉にか、肉の美味さにか、頬を緩ませた彼は、口の中のものが喉を通るのを待ってからおかしそうに笑った。

 

「何、おかしいところあった?」

 

子どもっぽくストローに息を吹いてぽこぽこと音を立てる五条に、少年はまた笑って答えた。

 

「いや、オレも昔は大口を叩いていたな、と。……先生の場合は事実だがな!」

「へぇ。でも、君、割といつも大口叩いてなかった?」

「失礼な!!」

「あはは! ちなみに、なんて大口?」

 

そう疑問を投げかける五条を見て、彼は少し苦笑した。

 

「今は言えるような場所でも世界でも無いんだが……まぁ、久し振りに言ってみても良いかもしれん」

「よっ、それでこそだよ! さっすが!」

「……ハーッハッハ! ではとくと聞くと良い!!」

 

わかりやすく乗せられた少年は、1つ深呼吸をする。そして、昔を──もう二度と巡り会うことの無いであろう仲間を思い出しながら、酷く懐かしい口上を口にした。

 

「天翔けるペガサスと書き、天馬! 世界を司ると書き、司! その名も──天馬司! 未来のスターだ!! ……なんてな」

 

もう、そんな夢は見られるはずがないのに。少年──天馬司は、届かない想いを羨むように、ふわりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.天馬司は■■■にはなれない

 

 

 

天馬司は、頭のおかしい奴だ。

 

 

 

そう呪術界では認識されているのは、あながち間違いではないと、天馬自身思っている。勿論、天馬の性格をとやかく言われるのなら納得はいかないし、自分に負けずキャラが強い面々もいるだろうと感じる。……だが、ある1点を出されてしまうと、天馬は黙るしかないのだった。

 

 

前世。天馬司には、前世の記憶があるということだ。

 

それは、ショー。

それは、仲間。

それは、セカイ。

それは、笑顔。

 

スターになるため、世界中に笑顔を届けるために仲間と奔走した数十年間。……残念ながら、あの青春時代までの記憶しかはっきりとはしていないが、それだけで天馬の心を照らすには十分であり──それだけで忌避されるのには、十分でもあった。

呪術界では、形式的なものが好まれ、逆に革新的なものは嫌われる傾向にある。天馬の術式でも何でもない温かい記憶は、この世界では疎まれたのだ。

 

「(記憶があると知られてからは、オレをもってしても地獄だったな……)」

 

ショーを語れば、呪術師の良さを騙られ。

仲間を語れば、呪詛師を殺すように言われ。

笑顔を語れば、呪霊の原因を滔々と話され。

スターを語れば、鼻で笑われ。

 

強制的に矯正的に共生的に塗り替えさせられそうな価値観を、どうにかこうにか留めさせた自分を褒めてやりたい。

 

「(でも……)」

 

それでも、わかってしまったことがある。

呪術師という仲間ができても、仲間を笑顔にできても。

 

 

 

天馬司は、この呪術界(セカイ) でスターにはなれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.神代類は探している

 

 

 

「っ司くん!?」

 

思わず叫ぶ少年を、街行く人は怪訝そうに見る。どうやら人違いだったようで、伸ばしていた手をだらりと落とした。青信号に変わり、更に人の流れが早くなる中、彼だけは動けなかった。

 

「──類?」

 

ふと、そんな声がして、その少年──神代類は顔を上げる。声がした方を向くと、そこには、彼の幼馴染の草薙寧々が、心配そうに見ていた。

 

「……寧々か」

「そうだけど、何して……」

 

問いかけ、途中で止める。顔を見て、理由がわかってしまったからだ。

 

「……司のこと?」

「…………わかってしまうかな」

「そりゃあ、そんな顔してたらね」

 

草薙の言葉に目を見開いた後、神代は苦笑になり切れない表情を浮かべた。

 

「確かにね」

「ま、しょうがないんじゃない。……ほら、早く。信号変わるよ」

 

気が付けば、辺りの人はだいぶ渡り切ってしまっている。あ、と神代が声を漏らすと同時に、草薙が手首を掴む。そうして、横断歩道の中、2人で歩き出した。

 

「……ホント、何処行っちゃったんだろ」

「…………そうだね」

 

雑踏に紛れそうな声で、お互いに呟く。

 

 

 

2人には、前世の記憶というものがあった。

いや、2人だけではない。前世で関わりのあった同年代の人たちの何人かも同様に、記憶があった。

Leo/needのメンバー。

25時、ナイトコードで。のメンバー。

MOREMOREJUMP!のメンバー。

VividBADSQUADのメンバー。

……ワンダーランズ×ショウタイムのメンバー。

今確認できているのは、それくらいだ。

 

しかし、1人。1人だけ、探しても探しても見つからない人がいるのだ。

 

「司、早く姿見せてよ……」

 

名を天馬司。スターを目指していた、1人の少年だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.虎杖悠仁と天馬司

 

 

 

「(ヤッベェ〜、しくった!)」

 

心の中でそう零しているのは、15歳にして死刑が確定しているSSR男子高校生、虎杖悠仁である。何なら1回死んで生き返った、某サイヤ人のような男だ。そんな彼が寂れた廃屋で何をしくったのか。

 

「うぇ〜〜ん! お兄ちゃん怖い!!」

「えっと……(何で一般人がいるん!? しかも子ども!!)」

「壁壊してきた〜〜!!! 怖い!!!」

「だ、大丈夫だからー!」

 

こういうことである。小学生に入るか入らないかくらいの女の子を泣かせてしまったことと、呪霊に襲われないかということで、心に大ダメージを喰らっている彼はもう涙目だった。

 

「(こうしてる間にも呪霊が来そうなのに、暴れるせいで抱えられねぇ! かといって無理矢理抱えたらトラウマになるんじゃ……)」

 

しかし、そう考えている内に、どんどん呪霊が迫って来ている気がする。仕方がない、命が最優先だから、ここは無理にでも──。

そう考えた瞬間だった。

 

「ハーッハッハ!! どうしたんだ、そこの姫君よ!!!」

「え??」

 

高らかな笑い声が響き、突如人が現れる。高専の制服を着た、虎杖は知らない男性だ。彼は、虎杖をちらっと見た後、真っ直ぐ女の子の方へと向かっていった。

 

「姫君って、わたしのこと……?」

「そうだ! オレは、君を救いにやって来た騎士だ。一体何があったのか、教えてはくれないか?」

 

片膝をついて微笑みかける姿は、本当の騎士のよう。女の子も雰囲気に飲まれ、ぽつりぽつりと言葉を漏らした。

 

「あのね、わたし、秘密基地見つけたかったの。でね、ここが良いかなーって入ってみたら、何か変な感じがして、それから、出れなくなっちゃって……」

「そうか。1人で怖かっただろう。よく頑張ったな」

 

頭を慣れた動作で撫でる高専生。彼女の涙は落ち着いてきて、これならもう避難させられそうだ。すると、彼は虎杖の方に指先を向けた。

 

「あちらの彼も、騎士の1人なんだ。君を助けたいあまり、少々力が入り過ぎてしまったようでな。許してやってくれないか?」

「そうだったの?」

「え? あ、そうそう! 驚かしてごめん!」

「……何か騎士っぽくないけど、怖がってごめんなさい」

「ははは……(騎士ってどうやんの!?)」

 

引き攣った笑いを浮かべて頭を掻く虎杖。それを微笑ましそうな顔で見た高専生は、さて、と言葉を続けた。

 

「オレが姫君を連れ出すから、君がモンスターを退治してほしい」

「……あ、うっす!」

 

つまり、女の子を彼が連れ出してくれるから、虎杖は呪霊を祓えということだ。虎杖が頷くと、彼も真剣な顔で頷き返し、そうして笑みを浮かべた。

 

「では、完璧に姫君をエスコートして差し上げよう! 騎士B、健闘を祈る!!」

「いのる!!」

「騎士Bって何!?」

 

そのツッコミがされるかされないかのところで、彼と女の子はいなくなっていた。……何だか、呪霊をまだ祓っていないのにどっと疲れた気がする。

 

「(それにしても、さっきの人誰だったんだろう)」

 

見たことが無かったし、3年生だろうか。そう考える暇も無く呪霊が現れたので、虎杖の疑問は一旦かき消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ショーステージに掛けられている『立入禁止』のボード。所々色褪せている遊具。それらがあるこの遊園地は、何十年も前に建てられているみたいだ。

……あながち間違いではないここは、かつて4人も出入りができた、セカイと呼ばれる場所だった。

 

 

 

4.セカイと天馬司

 

 

夜の風が優しく頬を撫でる。天馬は、セカイにある野原に体育座りをして、夜空を見上げていた。

 

「司くん」

「……カイトか」

 

視線だけで横を見ると、ここのショーの団長をしていたカイトが隣に座るところだった。優しい声も、表情も、昔と何1つ変わらない。──変わったところを挙げるとするならば、それは、彼がショー衣装を着ていないというところだ。

 

「またここにいたのかい?」

「あぁ。……ここも、変わってしまったな」

「……そうだね」

 

昔は、花が歌い、賑やかな野原だったはずだ。……それが、今は皆、静かに眠っている。天馬にとっては寂しくもあり、同時に落ち着ける場所でもあった。

 

「すまんな。……カイトたちからショーを奪ってしまって」

 

呟く。罪悪感で胸がはち切れそうになるから、天馬はわざと謝る。

 

「ここは君のセカイなんだから、君の心情によって変わるのは当然。謝ることなんて無いんだよ」

 

そうすると、カイトはわかっていたように言ってくれる。自分のエゴで何回も謝っているというのに、この元団長は、どこまでも優しい兄のようだった。

 

「でも、そうだね……。そろそろ夜空は見飽きたんじゃない?」

 

悪戯っぽく笑うカイトに、天馬は心底困った顔をする。

 

「オレもそう思っているんだがな……。どうやれば戻るのかが検討もつかないんだ」

 

天馬が今世で初めてセカイに来たときには、既に1日中夜空だったのだ。変えられるとも思わないが、変えられたら、元のセカイに1歩近づくのだろうか。……だとしたら、それはとても、

 

「怖いなぁ……」

「司くん……」

 

セカイは歪に今日も廻る。

ここは、誰も知らない、天馬司だけの避難場所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5.天馬司の戦い方

 

 

 

「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」

 

静かに唱えられたその呪いが、呪術師と非術師の境界線を生む。相変わらず何ともファンタジーな世界だ。帳特有の暗さが2人を包み、始まりを予感させた。

 

「天馬くん、くれぐれも無茶はしないでください。……行ってらっしゃい」

「あぁ、行ってくる!」

 

伊地知の声を背中に、天馬は走り出す。

今回の任務は、霊園に湧く2〜4級の呪霊を祓うというものだ。弱い呪霊が比較的多いが、代わりに数も多い。様子見をしながら呪霊を祓っていた天馬は、げんなりした表情を浮かべた。

 

「(これを1人でさせるとは、一体上層部や振り分けをした方は何を考えているんだ……。しかし、受け持った以上、任務は完了しなければ)」

 

故に、こんなイメージをした。

 

「(オレは今、人斬り侍。敵陣にて、大立ち回りをしている。ここが、最大の魅せ場)」

 

スッと凪ぐ表情。静かに双眸を細めた彼は、先程までの明るさは無い。天馬は、小さく息を吸い込んで、唇を動かした。

 

「──。『参る』」

 

瞬間、疾走。

1匹、3匹、7匹。風のような速さで低級呪霊が消えてゆく。手に構えた刀の呪具が煌めき、空気が軽くなっていった。武器を振るうことに一切の躊躇が無い様はまるで、本当に何十人も殺してきた侍だ。

 

──そう。それこそが、天馬司の術式『英雄夢想』。様々な役を演じることで、その役自身が持っている力を強化することができる。前世の経歴から言って、彼にはこれ以上無く合っていた。……どれだけ祓っても笑顔は生まれない今世において、これ以上無いほど皮肉でもあったが。

 

「……ふぅ」

 

全てを倒し切り、上がった息を整える。僅かに浮かぶ汗を拭いながら、天馬は頬を緩めた。

 

「もし類がここにいたら、『良いね司くん! じゃあもっと魅力的にするために、ちょっと空中を走ってみないかい?』などと言うんだろうな……」

 

それは、とても楽しそうだ。素直に思った。

 

今は離れていても、二度と会うことが無くとも、天馬の胸には仲間がいる。仲間を想い、仲間に力を貰う。それが、彼の戦い方だ。

 

「さて。早く戻らなければ、伊地知さんの仕事時間がまた伸びてしまう」

 

結局呪霊はどれほどいたんだろうか……と、伊地知を困らせそうなセリフを発しながら、天馬は早足で歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6.青柳冬弥と天馬司

 

 

 

青柳冬弥には、尊敬している先輩がいる。いつも明るく、自分を持っていて、人想いで、何よりショーを愛している、そんな先輩。

しかし、そんな彼にはしばらく会えていない。……しばらくと言って良いのかもわからない。何せ、その先輩に会った最後は、前世のことなのだから。

 

 

 

「ごじょうさとる……?」

「誰だよ」

 

10月31日。青柳は、相棒の東雲彰人と共に少しだけハロウィンの雰囲気を味わいに渋谷へ来ていたのだが、様子がおかしいことに気付き、困惑していた。

 

「誰かはわからないが、その人がここに来ないと、何故か俺たちは出ることができないみたいだな」

「あぁ。セカイでよくわからねぇものには慣れてたつもりだったけど、やっぱ意味わかんねぇ……」

「少なくとも、セカイほど優しくはなさそうだ」

 

小豆沢と白石が用事があるからと申し訳無さそうに断っていたのが幸いか。青柳はそう考えながら、必死に叫ぶ周りを見る。東雲は、そんな相棒を複雑そうな目で見ていた。

 

「……どうした?」

「いや……。お前、こういうときでも冷静なんだな」

「そうだろうか?」

「オレにはそう見える」

「そうか」

 

首を傾げる姿が似合うのは流石と言うべきか。東雲は頭を掻いて、「まぁ良いけどよ」と呟く。

 

「とりあえず待つしかねぇだろうな。そのゴジョウサトルサンを」

「そうだ…………、」

「…………冬弥?」

 

突然言葉を切ったのを疑問に思い、青柳の方を見る東雲。彼は、ぽかんとした顔で上を見上げていた。

 

「どうした!?」

「…………を……で、いる」

「何だって?」

「人が、空を飛んでいる」

 

慌てて空を見る。

 

「……………………は!?」

 

そこには確かに、白い男性が浮かんでいた。

 

 

 

「駅から抜け出せたは良いけどよ、どうする? 何かすげぇヤバくね!?」

「彰人……語彙力が無くなっているぞ」

「今んなことどうでも良いだろ……!」

「……すまない。俺も気が動転しているみたいだ」

「……まぁ確かに、当たり前だよな。悪い」

 

血生臭い、渋谷に似合わない臭いが広がる中、2人は必死に何かから逃げていた。

 

「というか、何で何もいないのに人が死んでいくんだよ……!?」

「……『何か』がいるんだろうな。俺たちが見えない『何か』が」

「幽霊ってか? ヤベぇなそれ」

「ヤバいな」

 

軽口で何とか気を紛らわせ、恐怖を逃がす。対抗手段が無い上に見えないという状況は、彼らの精神をどんどんと摩耗させていった。

 

「とにかく、早く渋谷から出ねぇと……!!」

 

そう言って道を右に曲がった次の瞬間──東雲は『死』を感じた。

 

「っ来んな!!!!」

 

咄嗟に青柳を突き飛ばし、恐らく生まれて初めて感じるであろう殺気を浴びる。そして、震える拳を握り締めて、あぁ死んだなと思うか思わないかで、彼は潰れた。

 

「ッおりゃあ!!!」

「────、」

 

──と、東雲は勘違いした。実際は血の1つも流れず、ただ突っ立っているだけだった。()が間に入ったから。

 

「……………………」

 

青柳は、後ろで尻餅をつきながら、一部始終を見ていた。しかし、声が出なかった。出せなかった。

 

真っ黒な制服を着ていた。しかし、その髪は黄色と橙色のグラデーションで、制服とは不釣り合いだ。武器を持って構える、泥と血に塗れた姿は見慣れない。見慣れないけれど。

 

「……ぁ、」

 

それは、確かに。

 

「司、先輩……?」

 

掠れた声に、ゆっくりと振り返った彼──天馬司は、眉を下げて笑った。

 

「……何でいるんだ、2人共」

 

そう、困り果てた声を溢しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7.天馬咲希は■■■には戻れない

 

 

 

天馬咲希は知っている。

 

 

 

「……お母さん」

「咲希、大丈夫だからね」

 

そう言って撫でてくれた母の手は、僅かに震えていたことを憶えている。当時は、何故母がそんなに悲しそうにしていて、……更に怯えていたのかがわからず、不思議だった。

今世も病弱だった彼女は、入退院を繰り返しながら現状の把握に努めた。そうしてわかったことは、今回、兄は側にいないということだ。別に不思議なことではない。前世と今世が違うのは当たり前だ。しかし、どうしても違和感が拭えず、ある日、不自然にならないように、子どもらしく呟いてみた。

 

「アタシにもお兄ちゃんが欲しいなー」

 

反応は劇的だった。

母のマグカップは割れ、コーヒーが飛び散った。父の表情が強ばり、空気が重くなった。咲希は肩を痛いほどに掴まれた。

 

「そういうことは言っては駄目よ。絶対に」

 

母の明らかにおかしい顔色に、あぁ、これは何かあると思った。そんな母の手を父は優しく外し、真剣な顔で咲希に語りかけた。

 

「あのな、咲希。お前は勘が鋭いから、何かわかってしまったのかもしれない。でも、それは駄目なんだ。今は言ってはいけないんだ。わかったか?」

 

悔しそうな顔をする父に、咲希は小さく頷いた。彼は「良い子だ」と咲希の頭を撫で、笑った。

 

 

 

天馬咲希は知っている。

 

自分の治療費は、前世より多く掛かっていることを。

時々両親が何処かからの電話に怯えていることを。

数年間のアルバムが、不自然に無いことを。

 

それでも何もしないのは、天馬咲希が家族を愛しているからだ。もし想像上のそれが真実だとしても、彼女は両親を見捨てるなんてできないし、彼女自身を守らなければそうなった意味など無い。何より、何も考えずに行動するには、彼女は()()()()()

 

 

 

天馬咲希は知っている。

 

他の転生者と自分は違うことを。

彼女は、他の皆より長く憶えている。──彼女だけ、青春時代も天寿を全うして死ぬところまでさえも、全てを憶えている。

 

天馬咲希は知っている。

 

 

 

天馬咲希は、あの頃のような子どもには、もう戻れない。

 

 

 

 

 

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