天馬司はスターではなく呪術師である   作:ともやま

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天馬司は変わらない


天馬司はスターではなく呪術師である?

 

1.パンダたちと天馬司

 

 

 

 

天馬司、16歳。雲1つ無い晴天の中、彼はかつて無いほどの衝撃に襲われていた。

 

「パンダだ……」

「おーい、司?」

「パンダだ……」

「おい悟、コイツこれしか言わねぇぞ」

「さては、かなりのパンダファンだな? ……抱きつくか?」

「抱きつきたい……」

「よーし来い」

「ウケる」

「しゃけ」

「ふわふわ……」

「よーしよしよし」

「クソウケる」

「しゃけ……!」

「ちょっと皆……」

 

何か色々言われているが、天馬の耳には何1つ入ってこない。理由は単純。

 

「(パンダがこんなに近くにいて、しかも喋っている……!!!)」

 

そういうことだ。まぁ、興奮するのは当たり前だろう。なんと言ったってパンダである。皆のアイドル。もふもふの神様と言っても過言では無い(?)。呪骸だということはすぐわかったとはいえ、普段は近寄れない憧れのものが目の前にあるだけで、人は語彙力と思考力が無くなるのだ。

 

「一緒にショーやりたい……」

「ショー?」

「あ」

 

だから、そんな気の抜けたことまで言ってしまったのだろう。聞き返されてやっと失言に気付き、それから自分のしていたことに気付いた。天馬は途端にパンダのふわふわの腹から飛び退き、頭を盛大に抱えた。

 

「いやいやいや何をやっているんだオレは……!!? いくらパンダのふわふわが魔性だからとは言え、うっかり我を忘れてしまうなぞ、呪術師失格ではないか……!!!」

「コイツ面白いな」

「でしょ? 結構馬鹿なんだけど、面白いんだよね司」

「馬鹿と言うな!!」

「聞こえてたか〜」

 

自分と五条に一頻り叫んで落ち着いた天馬は、コホンと咳払いをして、改めて名乗った。

 

「スマン、少々取り乱してしまった! オレは天馬司、3級呪術師だ。同じ1年生同士、今日からよろしく頼むぞ!!」

「あれを少々で済ますの凄いな。禪院真希。名字で呼ぶなよ」

「よろしく。俺パンダ」

「僕は乙骨憂太。よろしくね」

「しゃけ。ツナツナツナ」

「? ……! しゃけもツナもお握りは美味いな!」

「……すじこ」

「ぶふぉっ」

「あ、憂太が笑った」

「な、何故笑うー!?」

 

そんな訳で。

割りかし同級生との自己紹介は和やかに終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.天馬司の祓う意味

 

 

 

「息子を、道雄を返してよぉ……ッ!!!」

「……申し訳無い」

 

頭に新聞紙が投げられる感覚。ひたすらに頭を下げる天馬は、最近任務を共にした呪術師の言葉を思い出していた。

 

「(……確かに、呪術師はクソかもしれんな。だが──)」

 

 

 

呪術師は、人を笑顔にする仕事ではない。それは、前世の職業と1番反対だと言えるところだ。

 

前世の天馬司の行動理念は、皆を笑顔にすることだった。咲希を笑顔にするため、観客を笑顔にするため、仲間を笑顔にするため。今思えば、それは仕事としては最高にやりがいがあり、正解がプラスの感情という、最後は自分も笑顔になれるものだった。

 

しかし、今は違う。祓っても子どもは喜ばない。マイナスの感情から生まれる呪霊を、マイナスの力で祓う。時には人も死に、殺し、殺され、誰も悪くないのに責められる。遺された家族は泣き叫ぶ。笑顔より、圧倒的に涙が目立つ仕事だ。

 

では、今世の天馬司の行動理念とは、何なのだろうか?

 

「(人が笑顔になるには、最低限の土台が必要だ)」

 

彼はそう思っている。

本当の笑顔というものは、自然と滲み出るものである。家の中でも、職場でも、戦場でも、人との信頼があっての笑顔だ。呪霊の原動力は負の感情であり、人の感情にも影響を与えることもある。そんな人として当然のものを零すだけで関係が崩れたら、今幸せな人も、これから幸せになるはずの人も、不幸になることになる。呪霊を祓うだけで、1人が不幸になる確率を減らせる。幸せの上に笑顔が生まれ、笑顔はまた繋がっていき、呪霊を少しでも減らせる。

結果として、呪術師は笑顔の土台を作る仕事になる。

 

「(オレはスターにはなれないかもしれない。だが、オレでは無い誰かをスターにする手助けはできる)」

 

その誰かが、自分たち呪術師の繋いだ最低限を、最高の笑顔に昇華してくれることを願って。

 

 

 

天馬司は、今日も呪霊を祓うのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.東雲彰人と天馬司

 

 

 

東雲彰人には、あまり関わりたくは無いがイジりやすい、何だかんだ感謝している先輩がいた。

天馬司。前世では散々名を聞いたものの、今世では怖いほど存在が感じられなかった男である。東雲としては、転生というとんでもない出来事に見舞われている時点で、当たり前という概念は信じていない。だから、天馬司がいないということも、まぁそんなものだろうと考えていた。……少し寂しいとかは思っていない。

しかし……いや、だからこそ、東雲は思考が追いつかなかった。

だって、目の前に、いないと思い込んでいたその人がいるのだから。

 

 

 

「司、先輩……?」

 

掠れた青柳の声が、瓦礫か何かが落ちる音にかき消されそうになる。呼びかけられたその男は、ゆっくりと振り返って、困ったように笑った。

 

「……何でいるんだ、2人共」

「は、ハロウィンの冷やかしに来たら、巻き込まれたんだ、けどよ……」

 

東雲が言葉に詰まりながらそう返すと、やっぱり、とため息をつかれる。何だか気に食わなくてジト目で見ると、気不味そうに目を逸らされた。

 

「ほ、本当に、司先輩、なんですか……?」

 

動揺が隠し切れない、震えた声に東雲が後ろを向く。目を見開き、尻餅を突いたままで、青柳は上手く動かない唇をもどかしく思っていた。その様子を見た東雲は、表情がここまで動いているのは初めて見たかもしれない、と考えていた。それほど青柳にとって衝撃だったのだな、とも。

 

「そうだ! 久しぶり……、いや、前世でしか会っていないなら、何と言うべきなんだろうな? 今世では初めまして、も違うだろうか……?」

「いや知らねぇよ」

 

この先輩と話していると一気に気が抜けるな。東雲は何か笑えてきた。しかし、パニック1歩手前から抜け出すと、色々なことが気になってくる。例えば、そう。

 

「司センパイ、何で武器なんか持ってるんすか……?? ていうか、さっきオレを庇ってたよな……?」

 

こういうこととか。

思考がただ漏れの声に、天馬はどこか諦めたような顔をして、その後に表情を引き締めた。

 

「……本当はきちんと話すべきなのだろうが、今は無駄話をしている時間は無い。渋谷にいると死ぬ」

「死ぬって……」

「お前も今体感しただろう。──ほら、もう寄ってきた」

 

武器に付いた何かを払う仕草をした天馬はそう言い、先ほど東雲たちが進もうとしていた方向を見る。2人も視線に釣られそちらを覗く。

 

「ッな」

「あれは、何だ……!?」

 

すると、人型のような、そうではないような、気持ち悪い化け物が2匹、そこにはいた。2人の声に天馬もまた驚愕の視線を向ける。

 

「お前たち、見えるのか……!?」

「さっきまでは全然見えませんでしたよ!!」

「俺もです!」

「じゃあ、まさか、真人の術式か……!!」

「マヒト?」

 

何が起こっているのかもわからず、もっと問い詰めたい気持ちもある。しかし、心底気持ち悪いというような顔をする彼には、とても良い回答が得られるとは思わなかった。化け物を睨み、肩にかけていた黒いショルダーバッグを下ろす。天馬は2人に声をかけた。

 

「冬弥、彰人。お前たちは、ここから一歩も動くんじゃないぞ。わかったな」

「でも、先輩は……!」

 

青柳の呼びかけに、天馬は「大丈夫だ」と返す。

 

「オレは今──呪術師だからな」

 

言葉を発したその時、彼の雰囲気が一気に変わった。

伸びをして、リラックスしたような、今の場には似つかわしくない姿。武器を小さく、丁度小型ナイフと言える形にし、俯く。そして、困惑する2人に構わずに──にんまりと嗤った。

 

「『あは。いー獲物、みいつけた♡』」

 

用意、スタート! そんな感じで、ダダダンッと、化け物に向かって走っていく。走り方が前世と全く違うことに、青柳は驚いた。感じたことの無い、自由気ままな、危ういオーラ。思わず、さっきまでの彼こそが、天馬司を演じていたのかもしれないと思わせる姿に、言葉を失った。

 

「『ボクを楽しませてくれよ〜? オラッ!!』」

 

言いながら、躊躇無くナイフで斬りつけていく。飛び散る血のような何かに、東雲は思わず口を覆った。全身で戦うことが、いや、傷付けることが愉しいと思っているような彼が、天馬司だとは信じられなかった。振り向きざまにもう一匹も抉り、確実に化け物たちの戦闘能力を奪っていく。全身をアクロバットをしているかのように扱い続け、遂にどちらも動かなくなって、やっと天馬は動きを止めた。

 

「『チッ、弱。……でもまー、殺すの楽しかったからいっか!』……こんなところか。ってどうした!?」

 

2人の方を振り向いた彼は、思わず手を握り合っていた彼らを見て驚きの声を上げた。青柳はともかく、東雲は人と手を繋ぐなんて恥ずかしいと思わなくも無かったが、それより何より天馬が怖すぎた。前世の自分に話したら大爆笑されそうだが、これを見て怖いと思わずにいられる人は多分いないだろう。今も普段の雰囲気に戻ったとはいえ返り血が凄いし。

 

「せ、センパイ、今の……」

「あぁ、今のところはもう大丈夫だぞ! あのにん……呪霊はもう死んだからな」

「いや、それはありがたいんすけど、そうじゃなくて」

「? ……あ、術式のことか」

 

パンピーと話すことがあまり無いから忘れていた、と彼から聞くことが無いと思っていた単語を飛び出させながら、腑に落ちたように頷いている。何のことかわかっていない2人を見て、天馬は咳払いをして説明を始めた。

 

「そうだな……。簡単に言うと、オレは先ほど『快楽殺人犯』を演じていた。オレの場合、何かを演じることで呪力が高まる……まぁ、強くなるということだな。そうなるんだ。だから、いつも戦うときはよく演技をしている。驚かせてしまってスマンな」

「何すかその超ファンタジーな設定」

「確かにショーでありそうな設定だが、事実だからな……」

「…………司先輩が変になった訳では無いんですね、良かった」

 

ずっと衝撃から立ち直れていなかった青柳がやっと言葉を発する。心の底からほっとした声色に、東雲も心の中で同意した。

 

「それにしたって、センパイなら騎士とか演じてそうですけどね」

 

何せ、スターっぽいから。

そう洩らした東雲。すぐに答えが返ってくるかと思っていたが、天馬の声が中々返ってこない。

 

「……司センパイ?」

「あ、あぁ。そうだな。『スターを目指す天馬司』なら、そういう役を演じていた」

「それってどういう……」

 

天馬にしては歯切れの悪い答えに、東雲は聴き返そうとした。

 

『ナ、ナ、ミーン!!!!』

 

しかし、言葉はどこからか聞こえてきた声に遮られる。

 

「ナナミン???」

 

意味がわからないが、今聞こえてくる全ては今後を左右するかもしれない可能性がある。東雲は一旦問うのを諦め、聞くことに神経を注いだ。

 

「……悠仁か?」

 

そんな呟きを聞き落とすくらいに真剣に。

 

『ナナミンいるー!?? 五条先生があっ』

「ゴジョウ……さっきの人か?」

『五条先生が、封印されたんだけどー!!!!』

「何だそれ?」

 

封印なんてファンタジー極まってきたな、と呑気に考えている東雲。青柳も状況が理解できない中、天馬だけは様子が違った。

 

「…………は?」

「司先輩? どうしましたか?」

「……五条先生が、封印?」

 

青い顔で声を落とす。片手で口を覆い、目をきょろきょろと動かす彼には、青柳の声も聞こえていないようだ。ここまで動揺している姿を見るのは初めてで、2人は目を見合わせた。

 

「あり得ん。いや、悠仁が言うのなら……。でもヤバい、今の状況は最悪。呪術界のパワーバランスも崩れる。五条先生は生きているのか? 何より、あの先生の力が無ければ、悠仁は元より、オレも、それに……」

「ッ司先輩!!」

 

ブツブツと言葉を零す天馬の肩を揺らす青柳。ハッとした表情を青柳に向けて、気不味そうに「……スマン」と謝った。

 

「大丈夫です。それより、何があったんですか?」

「それは……」

 

言うべきか迷っているような天馬。東雲は、今日は様々な人の珍しい姿を見る気がした。しかし、それを珍しがるのは生きて帰ってからもできることだ。東雲は「おい」と天馬に声を掛け、静かに続けた。

 

「センパイが悩んでんのは、自分の感情でか? それとも、その呪術師っていうモンのせいか?」

「…………」

「どっちでも良いけどよ。ここまで大事になってんだし、呪術師とやらに守秘義務があったとして、オレたちに何かしらがバレんのも時間の問題だと思う。なら、オレたちが生き延びるためにも話しておくのが得策じゃないっすか?」

「…………そう、だな」

 

天馬は目を見開いた後、頭を振って深呼吸をする。そして、気を取り直すように笑った。

 

「すまない。まさかの事態に、流石のオレも取り乱してしまった。感謝するぞ、彰人」

「別に良いっすけど……そんなにヤバいんですか?」

「あぁ。五条先生は、呪術界でも最強の人間。立場の弱く、先生曰く『未来ある若人』に値する者は先生に守られていた。それはオレも例外では無い。……あの人がいなくなると、オレの仲間たちがこのどさくさに紛れて処刑されかねん。それに、呪詛師に勝てるかどうかも……」

「待て。呪術界とか呪詛師とか、意味わかんねぇ単語が多過ぎるんすけど。……処刑って言ったか今??」

「……そこからだったな。どうも、忌々しいことに、価値観が少々呪術界に染まってしまっていたみたいだ」

 

自嘲するように溢し、天馬はショルダーバッグを肩に下げた。

 

「いつまでもここにいては駄目だな。歩きながら話そう」

 

留まり続けるのが危険なのは、全員がわかっている。2人は頷き、警戒しながら歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4.天馬司は一般人ではない

 

 

 

「……呪術師というのが、今のオレの仕事だ。仕事内容は、先ほどお前たちも見たような化け物──呪霊を祓うことが主。呪術師は呪霊が見える者しか原則なることができないから、常に人手不足なんだ。だから、学生でも……、最悪、幼少期から仕事に駆り出される。金払いだけは良いブラック企業みたいなものだな。ハッハッハ!」

「笑いどころがわかんねぇんだけど……」

「笑わないとやっていけないことというのは、この世には山のようにあるんだぞ、彰人」

「何て返せば良いんだよ……」

「流石司先輩。勉強になります」

「勉強にならない世界に住んでた方が幸せじゃねぇ??」

 

3人で固まって歩きながら、そんな会話を続ける。話をする間も天馬は気を張っており、東雲や青柳とは違う世界で戦ってきたのがひと目でわかった。

 

「で、呪術師の業界を、呪術界というんだが、そのトップが……何と言えば良いだろうか? ……まぁ、五条先生が言うには『腐ったミカン共』なんだ。保身を最優先に考え、異分子を排除するような。そんな奴らに反抗し、聡い呪術師を育てようとしたのが、革新派で、呪術界最強の五条先生だな。オレも、色々とお世話になった」

「そこから最初の、五条さんが封印されてしまったらマズいという話に戻るんですね」

「そうだ。……ちなみに、この騒動の原因の呪詛師というのは、呪術師を害したり、パン……一般人を害したりして、時には呪霊と協力するような相手だ。故に、呪術師とは敵対している。今回は五条先生を狙ったものらしいが……正直よくわからん!」

「おい……」

 

あっけらかんと言うのに、東雲がツッコミを入れる。仕方ないだろう、と天馬は更に続けた。

 

「敵の情報が何もかもわかっていれば人は死なないし、こんな事態にはなっていない。……まぁ、呪術師は大体碌な死に方をしないんだが、一般人にまでそれを強要するのは許せんな」

「どんな地獄なんだよ……」

「今まさに体験しているような地獄だな」

「わかりやすいですね」

「はっ、地獄お手軽体験ってか?」

「上手いな」

「上手くねぇよ」

 

コントのような会話だが、軽口のようなテンションで話していなければやっていけないところもある。天馬は、また襲ってきた呪霊を長くした呪具で祓いながら唸った。

 

「と、まぁ簡単に話したが、オレもこれからどうすれば良いかは知らないんだ」

「誰かに指示とか仰げないんですか?」

「軒並み電話が繋がらないな。交戦中か、負傷中か、どこかにスマホを落としたか、それとも既に亡くなっているかだろう。……できれば最後は少なかったら嬉しいが」

「では、司先輩は、これまで何を?」

「ひたすら呪霊などと交戦していたな。最初は指示通りに動いていたんだが、思い切り吹き飛ばされて、気が付けばバラバラだ」

「そりゃ、もうどうにもなんねぇっすね……」

「己の判断で動くしかないということだな」

「そうですね」

「やることと言っても、オレにできることは呪霊を祓うことだけだがな」

 

そう言いながら、ショルダーバッグの中を探る天馬。青柳はその様子を見ながら、ぽつりと呟いた。

 

「司先輩、変わりましたね」

「ん? それはそうだろうな。冬弥だって、前世と今世で変わったこともあるだろう」

「……そうですね。俺も、交友関係や興味のあるジャンルが前世より増えたと感じます。でも、司先輩は、それとは違う『変わった』の種類じゃないですか?」

「…………?」

「司先輩は、自分に希望を持てていますか? 俺、今日会ってから、先輩が自分のことを『スター』と言っているのを、聞いていないです」

「……冬弥は、優しいな」

 

天馬は、眩しいものを見るように微笑む。目的のものが見つかったのか、何かを取り出した。

 

「今世のオレは、スターになれるとは思ってないんだ。それが悪いことだとも思ってないしな」

「「……!」」

 

その内容と、いつもの芝居がかった口調ではないこに、2人は驚きを隠せない。ファスナーを閉めながら、薄く笑みを浮かべたままで続ける。

 

「呪術師は、光と闇のどちらかと問われれば、勿論闇側だ。あまり倫理的に良い仕事でも無いしな。前世のように、ショーに出れることはもう無いだろう」

「……でも、スターって、ショーだけじゃないっすよね」

「まぁそうだな。彰人の言う通り、もしかしたら呪術界のスターにでもなれるかもしれない。しかし、元よりオレは、『スターになること』が1番の想いでは無い」

「どういう想いが1番なんだよ」

「……『皆を笑顔にすること』だな!」

 

バックを肩から下げ直し、ニカリと先ほどとは対象的な笑みを浮かべる。それは、一切の闇を感じさせなかった。

 

「2人は、えむ……鳳えむを知っているか?」

「あ、はい。鳳も記憶を持っていて、司先輩を探していました」

「そうか……。なら、オレたちの関係性も知っているだろう。前世はえむと類と寧々とオレでキャストをしていたんだが、最初の公演が上手くいかなくて、寧々を責めてしまってな。それがキッカケで、解散しかけたんだ」

「そうだったんですか……?」

「あぁ。それで、何だかんだあってえむと観覧車に乗ったんだが」

「何だかんだがすげぇ気になるな……」

「そこでえむが、えむの祖父が仰っていたことを教えてくれたんだ。『ショーには色々な人が必要だけど、皆が思いっ切りショーができるように考えて頑張る人が、ひとりは絶対に必要だ』って。……オレもそう思う」

 

呪術師は、そういうものだと思うんだ。

そう言って、天馬は笑う。

 

「一般人には存在すら知られない。感謝すらされない。……でも、それで良い。それが良い! 呪術師を知らない人の方が、呪霊を知らない人の方が、人生というステージを謳歌できる可能性が高まるはずだ。人を輝かせることも、スターになるのと同じくらい素晴らしいんだ! ……おっと」

 

呪霊をまた祓う。黙って聞いていた青柳は、ややあって、静かに問うた。

 

「……でも、司先輩。本当は、悔しかったんじゃないんですか?」

「……………………」

 

ピタリ。天馬の動きが止まる。

こんな時に限って、何も音が聞こえない。痛い数秒間の沈黙の後、彼はまた、笑った。

 

「どうだろうな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5.結局、天馬司は■■■にしかなれない

 

 

 

その誰かが、自分たち呪術師の繋いだ最低限を、最高の笑顔に昇華してくれることを願って。

 

天馬司は、今日も呪霊を祓うのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲希は、元気だろうか」

 

 

 

結局のところ。

天馬司は、生粋の役者(スター)である。

前世でも今世でも、一般人には混じれないのだ。

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