天馬司はスターではなく呪術師である   作:ともやま

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朝比奈まふゆは気付いている


天馬司はスターではなく呪術師であると思っている

1.五条悟が考える天馬司

 

 

 

「なぁ悟」

「何?」

「司は呪術師よりパンピーの方が合ってんじゃねぇの?」

 

五条は隣を見る。禪院は、すっかり意気投合して「しゃけ!」「……それは『YES』だな!!」「正解」と言葉当てゲームをしている狗巻と天馬、そしてパンダを見ながら、やっと暖かくなってきた日差しを浴びていた。

 

「どうしてそう思った?」

「アイツは、根っからの善人だ」

「何ぃ? 恵みたいなこと言っちゃって〜!」

「うるせぇ。……でも、誰が見てもそうだ。あの底抜けの明るさに、人と助け合おうって精神。反吐が出るくらいにお人好しなのに、いつの間にか私たちとさえ打ち解けてる。天馬家なんて聞いたことねぇし、一般家庭の出だろ? アイツ、何でここに寄越したんだよ」

 

納得いかない様子で腕を組む禪院に、五条は「うーん」と考える素振りをして、それから問いかけた。

 

「真希はさ。司のこと、どれだけ知ってる?」

「あ? ……さっき言ったことを除くと、3級呪術師、ピアノが得意、兄気質、声がうるせぇ、ミュージカルが好き、…………」

「どういう意味かわかった?」

 

目を呆然と見開く。そして口を震わせた。

 

「……アイツ、過去や経歴なんかのプロフィールを全然話してねぇ」

「正解! あの子自身は無意識だろうけどね。だから君らも全然気付かなかったんじゃない?」

「何で……」

 

驚きの余り、反射的に問いかけてしまう。五条はそれを咎めることも無く、珍しく静かに答えた。

 

「司はね、五条家の分家に買われた養子だよ。あの子が2歳のときだったかな。だから呪術師としては鍛え上げられているし、何なら人も殺してる。強さの違和感は真希もわかってただろ?」

「……確かに、非術師家庭出身にしては、とは思ってたけど、な……」

「うん、真希の言うこともわかるよ。司は鍛えられた割には弱い。今の戦い方なら当たり前だ」

「『今の戦い方』?」

「……これは、あの子が自分で気付くことが大切なんだけどね。ま、この話は追々するとして」

 

ニコリと笑って、五条は続ける。

 

「確かに司は『陰』というより『陽』が似合うよね。……僕も、少し似てると思うくらいに」

「似てるって、誰にだよ」

「いいや、何でもない。……でもね、司もどれだけ『陽』だったって、結局は人間だから、エゴや迷いはある。独善的なところもね。そして、そのエゴが今の司をかたどっていると言っても過言ではない」

「……あの、笑顔を大切に、みたいなエゴか?」

「んー、それもあるんだけど、もっと限定的で、相手のことを苦しめかねないものかな。憂太に似てる」

「憂太ァ?」

 

真希は、あの乙骨に似ているとはとても思えなかった。今の乙骨がだいぶ明るく芯が強くなったと言っても、天馬とは違う方向の明るさだからだ。そう考えているのが伝わったのか、五条は「あー勿論、性格的な意味じゃないよ」と笑った。

 

「どっちかというと、性質というか、本質的なものだ」

「本質的……」

「えー、まさか真希わかんないのー??」

「ウッッッッザ」

 

これだけヒントを貰っているのにわからないことに、苛立ちを覚える真希。

 

「冗談だよ、メンゴメンゴ。でも、僕の持論なんだけどね」

 

そう言って、彼は口を笑みの形に歪めた。

 

「『愛より歪んだ呪いは無い』んだよ」

 

 

それはきっと、何度生まれ変わっても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.貴方の愛はどこから?

 

 

 

オレが『オレ』を自覚した最初は、規則的な機械音と苦しげな息づかい、慌ただしい大人の声……、そして、家族の悲痛な声があった。

 

「咲希!!」

「(さ、き……?)」

 

1歩離れてその光景を見ていたオレは、その声を聞いて心底不思議に思った。だって、『オレ』が知っている咲希は、もっと大人だったから。ぼんやりした思考の中、それでも、オレは思った。

 

「(笑顔にしなければ)」

 

咲希を苦しませるモノは何だ。身体の中か。忙しない大人か。それとも──あの、気持ち悪い何かか。いつもなら恐怖を感じるはずなのに、今は気にならない。心のままに歩く。咲希の方に近付く。遠い。今度は早足で歩き、そして、気持ち悪い何かに手を伸ばす。

妹に害を及ぼすモノは、許さない。

 

「……きえろ」

 

そう呟いて、感情のままに握り潰す。消えた。これで少しは安心か。そのままぼーっと手を見ていると、何故かその大きさに違和感を覚えた。緩慢な動作で手を開け閉めしていると、視線を感じて、そちらを向く。

 

「…………!!」

「……司、貴方…………!?」

 

両親が、酷く驚いたようにこちらを見ていた。理由はわからなかった。でも、手を見ているところを見ると、さっきのがマズかったのだろうか。……ああ、駄目だ、頭が働かない。まるで、故障しかけたネネロボのようだ。

 

「おい、見たか?」

「司くんは、まさか……」

「やはり……」

 

慌ただしかった大人が、僅かに動揺した空気を感じる。蒼白な両親の顔を見ても、オレは何が悪かったのか、何一つ理解できなかった。咲希を助けることの何がいけないんだ。まさか、それ以外に悪いことをしてしまったのだろうか?

そう思っていると、不意に、ぐわんと地面が揺れる。……いや、オレが倒れそうになっている。何かが足りなくなった感覚がした。力が抜けて、睡魔が急激に襲ってきた。

 

「っ司!!」

 

咄嗟に誰かが受け止めてくれる。視界がどんどんと暗くなっていく。これは抗えないとわかる。状況については、何がなんだかずっとわからない。でも。

──きっと、次に目が覚めたら何かが変わっているだろう。

そんな確信をしながら、オレは睡魔に身を委ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3.五条悟から見た天馬司

 

 

 

五条が天馬を見つけたのは、ただの偶然だった。

 

 

「──変な呪術かかってんな」

 

五条家の分家にたまたま行った五条は、一室から妙な気配がしていることに気付き、僅かに眉をひそめた。まるで何かを隠したがっているような形状の呪力。これは何かあるなと思った彼は、半ば好奇心でそちらに向かうことにした。帰ろうとしていた足を逆方向に回し、さーて何があるのかな、と思考を巡らせる。分家の奴らに文句を言われる可能性も考えなくはなかったが、そういうことをする馬鹿は流石にいないだろうと結論を出した。……ここは腐ったミカンが多いから、いるかもしれないが。

 

「ん〜、ここかな」

 

あっという間にその部屋に着いた五条は、部屋の中を六眼で視る。認識阻害のせいで並の呪術師にはわからないだろうが、五条は冷蔵庫の中身を確認するノリで視た。必死に隠そうとしたであろう分家がもはや可哀想である。

 

「(人が2人か。……1人は子ども。まさか)」

 

瞬時に事態を把握した五条は、ガンッと襖を開ける。すると。

 

「誰だ?」

 

未就学児くらいの年齢の男児が、血塗れになって、そこにいた。

 

「あ゛ぁああ!! ……、がッ!!」

「すまん、ちょっと黙っていてくれないか?」

 

ナイフ型の呪具で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

申し訳なさそうな顔と行動がアンバランスで、五条はちょっと反応に困った。

 

「えーっと……君、誰?」

「……あ、オレか?」

「君以外誰もいないでしょ」

「それもそうか」

 

このくらいの年齢にしては、やけに理知的な態度を見せる子ども。呪術界では珍しい訳でもないが、それでも違和感があった。彼は少し視線を巡らせてから、真っ直ぐ目を合わせて答えた。

 

「オレは、てん、…………一条(いちじょう)司だ。貴方は?」

「五条悟」

「五条悟か…………五条悟!!??」

「反応良いねぇ」

 

リアクション芸人のようなお手本の反応を見せる子ども──一条に、ニヤニヤとする五条。

 

「そうか? ……ふ、表現力については自信があるからな! ああいや、そんなことより」

 

この惨状で褒めるのもイカれているが、照れるのもどうかしている。気を取り直したらしい一条は、先程より僅かに目を細めた。

 

「貴方は、オレやオレの大事なものに害をなす存在か?」

「それは返答次第かな。……君、今のこの家についてどう思ってる?」

「嫌いだが」

「あは、即答! じゃあ、何で逃げなかった訳?」

「……何のことだ?」

 

顔を顰める一条に、五条は更に問いかける。

 

「君、本当はこんなの、すぐに逃げ出せただろ? この部屋に置かれている呪具には綻びがある。ずっといたなら、気付けたんじゃない?」

「…………貴方がここから出してくれて、大事なものを守ってくれるなら、言わんでもない」

「『大事なもの』って、そこまで固執するなら、家族かな? 人質にでも取られた?」

「……………………その問いかけ方は、もうわかっているだろう……」

 

はぁ、とため息をついた一条。傍目から見たらませているようにしか見えない。しかし、妙にその仕草は年季が入っているような気がした。

 

「そうだ。妹の医療費のために、2歳で一条家に来たは良いが……、そろそろオレの方が殺されそうでな。逃げようにも、咲希の方に被害が行ってしまうことを考えれば、中々そうもできなかったんだ」

「ふーん」

 

そこまで聞いて、五条は不意に目を細めた。

 

「──ねぇ。そろそろ止めたら?」

「何がだ?」

「その、()()をだよ」

「……………………」

 

部屋に入って、一条の術式を視たあとに、五条はずっと気付いていた。

 

「(この子は、ずっと演技をしている)」

 

それも、術式で強化できる類の。しかし、それだけでは無いとも思っていた。その妙な術式の掛け方を一応観察していたのだが、自分に害がありそうでは無かったので、気付いていることを伝えたのだった。……大抵の呪術師には五条に傷を付けることさえ難しいと思うが。

 

「…………失礼だったな。すまない」

 

しばらく黙っていた一条は、そう困ったように苦笑した。だが、術式を解く気配は無い。

 

「何で解かない?」

「あー、……すまん、申し訳ないんだが、一般家庭で過ごしていた期間が長くてな……。こうでもしていないと、恐怖で動けなくなりそうなんだ」

 

そこで、また少しの違和感。

 

「君、そんな小さい頃のこと覚えてるの?」

「あぁ。珍しいか?」

「珍しいっちゃ珍しいけど……、それより、君、一般家庭で過ごしていた期間が長いって、人生の半分も過ごしてないでしょ」

「……それもそうだな。でも、それは今回の人生においてだ」

「…………は?」

 

今回の人生ってなんだ?

五条は久し振りに動揺した。そんなことは知らない一条は、なんてことない顔で、こうのたまった。

 

「オレには前世の記憶があるからな!!」

「…………ッはぁ???」

 

嘘の気配の無いそれに驚愕する。もう1つの違和感のことを忘れ、五条は宇宙を背負ったのだった。脳内無量空処爆誕の日であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……天馬くん?」

 

夜中のネオン街。騒がしい明かりが漏れ出す路地裏で、聞き覚えのある声が聞こえた気がした。後ろには、一般人の気配。

 

「…………誰だ」

 

マズい。今の格好はヘマをして血塗れだ。天馬は、舌打ちしたいのを堪えて問いかける。相手は、戸惑いを僅かに含んだ声で、こう返した。

 

「…………朝比奈、まふゆ」

 

 

 

4.天馬司の秘密の相手

 

 

 

「待たせたな」

「遅い」

「すまん、任務が長引いてだな……!!」

「……新作のヘッドフォン」

「うっ……わかった」

 

とあるカフェでそんな会話を交わす男女が1組。何も知らない人々からすれば、尻に敷かれる彼氏と敷く彼女といったところか。しかし、この2人はそんな甘い関係ではない。仮に、これを言葉で表すとすれば。

 

「で? 今回は何処が危険なの?」

「それはだな──」

 

案外、共犯者が1番近いのかもしれない。

 

「──と、まぁ、そんなところだな」

「ふぅん。……多くなってるね」

 

呪霊がいて危険な場所をひと通り挙げた天馬に、そう漏らす朝比奈。1年ほど前に再会してから続いているこの密会は、そう思わせるには十分であった。

 

「そうなんだよなぁ……やはり、虎杖が入ってきたのが大きいのかもしれん」

「あぁ、あの呪霊飲んだっていう」

「勇気は認めるんだが……、呪術師はおかしい奴しかいないのか……!?」

「貴方が言う?」

「何だとー!?」

 

憤慨する天馬に、意地悪な笑みを浮かべる朝比奈は、ややあって表情を真剣な顔にした。

 

「……でも、ここまで多くなってくると、それとなく皆の注意を逸らすのは難しくなってくると思う」

「それはそうだな……。急いで祓えば良いだろうが」

「前そうして死にかけてなかった?」

「あっ、あれは反転術式……回復の技を使う前に気絶したからであってな!」

「気絶したら意味無い」

「うぐっ!!」

 

痛いところを突かれ、声を上げる。心配からその言葉が出てきたことをわかっているため、彼は怒ることはしなかったが、「少しだけ言葉を柔らかくしないか……?」と涙目だった。

 

「ゴホン! ……まあ、注意を逸らすのはできる範囲で構わない。オレの存在に気付かれてしまってはいけないからな」

「うん。司が良いのならそれで」

「助かる」

 

そう言って笑う天馬に、朝比奈は顔を僅かに顰める。

 

「どうした?」

「……何でもない。でも、いつまでそれを続けるのかなって」

「それ? どれのことだ?」

「わからないなら良い」

「? そうか……?」

 

むしろわかって欲しいのだけれど、と彼女は思いながらカフェオレを飲んだ。──と、天馬のスマホから通知音が鳴った。それを見て、顔色が変わる。

 

「っすまん! また任務が入った!!」

「うるさ」

「ええと、会計はこれくらいか!? これで払っておいてくれ、さらばだ!! また1ヶ月後に!!」

「……またね」

 

まだ着いて20分も経っていないというのに、慌ただしく去っていく天馬。メガホン並の音量に耳を抑えながら、朝比奈は彼を見送った。

店内に静けさが戻り、もう一度カフェオレを啜る。甘過ぎず苦過ぎず、味覚がある今の彼女には好ましい味だった。目の前の残っているクリームソーダが、カランと音を立てた。

 

「……本当にわかってないのかな」

 

わかっていないのだろう。そもそも、そうでなければ朝比奈がここまで天馬を気に掛けることも無かったのだけれど。

何故、朝比奈が天馬を気に掛けるのか。

 

「……似てるから」

 

そう。だって、今の彼は、あまりにも似ている。それは、前世(むかし)の彼女に。

 

「あの人、ずっと仮面を被ってる」

 

 

 

 

 

朝比奈まふゆは、天馬司が演技をしていることに気付いている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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