CODE GEASS 霧散の血潮   作:REDALERT

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CASE-11 骨肉之親の亀裂

 

戦場で自分以外の人間に無抵抗で命を任せると言うのは、思っていたよりも精神を消耗するのだと京介は実感していた。先行するゼロのガウェインが敵の戦闘ヘリを次々と撃墜していくが、地上からの対空砲火は容赦無くこちらを襲ってくる。直撃弾は未だ無いものの、その近接信管の砲弾が炸裂した事による爆発はVTOLを襲い、横殴りの衝撃が機体ごと京介の身体を襲った。

 

 

「こんな状況で降りられんのかよ!」

 

≪直撃してないだけマシでしょう! 向こうはガウェインを視認する以外で確認出来ませんけど、こっちはレーダーにばっちり映っていますからね!≫

 

「ガウェインのケツに喰らいつけよ! あれを盾にすればまだマシだ!」

 

 

フクオカ基地までもう少しと言うところで、京介はVTOLからのカメラ映像がリンクされた神讃の上部モニターを見る。飛行するVTOLよりやや上空で宙を舞うガウェインはその両肩にある新兵装のハドロン砲------式根島で敵航空艦から放たれた赤黒い閃光と同じもの------を地表へ向けて発射したところで、その先を見れば展開していた鋼髏を文字通り消し飛ばしたところだった。だが良く見れば、円になるように展開していた鋼髏の中央部分に何か白いKMFが見える。ランスロットだ。地表のコンクリートを抉っているハドロン砲の痕を見れば、ゼロがランスロットを守ったのは明らかだった。

 

 

(たった一機で敵基地に乗り込んだ? 皇族の騎士ってのはあそこまでやらなきゃならんのかよ……どうなってやがる)

 

≪ガウェイン降下します! こっちも降ろしますよ!≫

 

「応!」

 

 

パイロットの無線に応えると、京介は操縦桿を前に傾けてトラックボールを押し込んだ。前ならえ状態だった神讃の両手首からスラッシュハーケンが伸び、そこから神讃の全体がまるで空中ブランコに捕まっているかのように地表へ向けて揺れていく。その勢いに身体がシートに押し込まれながらも、京介はモニターからの情報で地表までの距離を確認すると、対空砲火の間を縫う様にして左肩の大型スラッシュハーケンを地表に飛ばして地表に固定した。

 

 

「接続解除!」

 

 

VTOLへ向けてそう叫び、京介は母機と接続していたスラッシュハーケンを外す。そうすれば機体は地上へ向けて落下していくが、続け様に大型スラッシュハーケンを巻き取る事で、その巨体は地面へ向けて一直線に飛んで行った。操縦桿の傾きを戻す次いでに後ろへ引き、跳ね上げられていたランドスピナーを降ろす。そして強制着陸が如き着地をした後、肩のスラッシュハーケンを巻き取りながら京介は機体をそのまま回転させながら勢いを殺し、ゼロのガウェインの傍へ寄った。その黒と金の機体は白いKMFと向かい合う様に立っており、その人の目の様なカメラ・アイがジッと神讃を見つめている。最も、そのランスロットからは剣を向けられていたが。

 

 

≪御武運を!≫

 

 

こちらが着地するまで見守っていてくれたのか、VTOLパイロットはそう無線を残して去って行く。その動きは神讃(重り)を無くした御蔭か素早い。どうやら、対空砲火の餌食になる心配は無さそうだった。直後、無線機からゼロの声が飛び出して来た。チャンネルを見ればオープンチャンネルで、それは通信範囲内に居る全ての人間に聞こえる事を示している。

 

 

≪枢木スザク、ランスロットはまだ動くか≫

 

≪その声、やはりゼロか!≫

 

(ゼロの奴、何を考えて……?)

 

 

京介がゼロの意図を汲み切れていないでいると、ゼロはガウェインの片膝を地面につけて言葉を続ける。

 

 

≪私は今から敵の司令部を叩く、が……君はどうする? 協力する意思があるのなら、新しいエナジーフィラーを渡そう≫

 

≪何!?≫

 

≪我々黒の騎士団としても、この日本を認める訳にはいかない。だから叩く。そしてお前に協力する意思があるのであれば補給を施す、代わりにブリタニアに対するメッセンジャーボーイをやって欲しい。浦城、神讃から未消費のエナジーフィラーを出せ≫

 

「はぁ!?」

 

 

京介はゼロの言葉にオープンチャンネルだと言うのに、素っ頓狂な声を上げてしまう。その視線をガウェインとランスロットで交互に移動させた後、京介は他人に聞かれるのも構わず声を荒げた。

 

 

「手前、ゼロ! その為に俺だけ参加させたんじゃねえだろうな!」

 

≪それもあるが、戦力として当てにしているのは本当だ。早くしなければ敵に囲まれるぞ。お前もだ、枢木。答えを聞かせて貰おう≫

 

「ッ、分かったよ!」

 

 

ゼロの言葉を聞きながら悪態をついて、京介は神讃の六つあるエナジーフィラーの内一つをガウェインに見えるように取り外した。専用のスロットから僅かに迫り出したそれをガウェインが取り出し、枢木スザクのランスロットへと差し出す。一瞬の静寂の後、その白い騎士は構えていた剣をコクピットの横に備えられていた鞘に納めた。

 

 

≪残念だけど、お前の願いは叶わないよゼロ。澤崎さんは、自分が先に叩かせてもらう≫

 

 

そう言ってランスロットはガウェインからエナジーフィラーを受け取ると、自身の空のそれと交換する。ランスロットの胸のファクトスフィアと見られるパーツが一瞬迫り出し、緑色に何度か瞬いた。そうしてゼロのガウェインが立ち上がったところで、京介は神讃のレーダーが新たに接近する敵影を捉える。反応は一機だけで、沿岸部に建築されているフクオカ基地に向かって海上を航行しているようだった。初めはブリタニアのVTOLでも来たのかと思ったが、そのスピードはVTOLの出せるスピードを遥かに凌駕している。何だ、と京介が思った時には、それは彼らの目の前に着陸する。

 

 

「サザーランド!? 空を飛んで来たのか!」

 

 

脚部や関節部と言った部分はオレンジ色に、他は全て白に染め上げられたそのサザーランドはコクピットブロック上部に赤い航空機の翼を思わせるユニットを装着していた。京介はすぐにそれがフロートシステムの一種だと理解したが、その着陸したばかりのサザーランドが持っていたアサルトライフルをガウェインに向けた為、咄嗟に左腰の電磁投射砲------レールガンを展開する。しかし、そのサザーランドの動きは手を伸ばしたランスロットにより制止される。個通のチャンネルで会話でもしているのか、サザーランドが露骨に機体を動かしてランスロットに向き直るが、やがて説得されたのか構えていたアサルトライフルを降ろした。

 

 

≪彼女は私の仲間だ。今だけは君達に手を出さないように説得した≫

 

≪感謝する。ではこれより私は敵の司令部を叩く。枢木は着いて来られるのならば着いて来るが良い。浦城は予定通り地上戦力の駆逐に動け≫

 

「オープンチャンネルで人の名前を……! さっさと行きな! そこのサザーランドも後ろから撃ってくれるなよ!」

 

 

一瞬ゼロにオープンチャンネルで苗字を話された事に激昂し掛けたが、すぐにレーダーでこちらに押し寄せる多数の鋼髏の機影を確認すると、京介は白いサザーランドに対して叫びながら右腰のマルチプルラックからハルバードを抜き取った。ガウェインは敵司令部に向けてさっさと飛び去って行き、枢木スザクのランスロットもまたその異常な機動力を発揮して黒い機体の後を追っていく。直後、基地施設の蔭から大量の鋼髏が飛び出してきたが、ガウェインの挙動を追っていたのか即座に反転しようとした。京介はすぐにそのまるで蛙が後ろ足で立っているようなずんぐりとした機体の背後に照準を合わせると、レールガンを一発お見舞いしてから爆炎の中へ機体を突っ込ませる。白いサザーランドもそれに追従するように動いたのを見て、京介は少なくともこの場では相手の方から自分に合わせてくれているのを感じ取って僅かに安堵した。

 

 

前後どちらの敵に注視すべきか迷っているような素振りを見せている鋼髏のボディを神讃はハルバードで次々と切り払い、突き、引っ掛けて放り投げていく。レールガンをチャージしている間は左肩のアサルトライフルで遠距離攻撃を実施し、数だけは多い敵陣の中を突っ切って敵を蹂躙していく。やはりKMF擬き相手では、神讃に敵うはずもないのだと京介は確信した。しっかりと着いて来ているサザーランドの動きに舌を巻きつつ、その背後に展開していた鋼髏数機をレールガンで吹き飛ばす。時折五月雨のようにやってくる鋼髏の銃撃に右肩の無頼の装甲が吹き飛んだが、右腕が問題無く動く事を確認すると、京介は一機の鋼髏に左肩の大型スラッシュハーケンを撃ち込んだ。容赦無くその装甲を貫通した切っ先を巻き取りながらランドスピナーで超信地旋回を行うと、ワイヤーに引っ張られた鋼髏は味方機を巻き込みながら潰れていき、それによってスラッシュハーケンの先端が外れるとそのまま機体が爆発を起こす。基部に戻る時にその先端から鮮血が舞っていたが、その事に京介は気づかなかった。

 

 

敵もゼロとスザクの攻撃によって司令部が混乱している所為か段々と増援が少なくなり、動きにも戸惑いが見られるようになっていく。更に目の前で見慣れない神讃(KMF)に暴れられていると言うのもあって、戦意も低下しているようだった。だがサザーランドに対しては別なようで、一斉に加えられた銃撃を上手く交わしていたその白い機体は幾つか被弾してしまい、コクピットブロックに付いていたフロートシステムのユニットがその形状を残したまま吹き飛んだ。

 

 

「手間ぁ掛けさせるな!」

 

 

バランスを崩したサザーランドを庇うように神讃の正面装甲で鋼髏の銃撃を受けきり、代わりに京介は左肩のアサルトライフルの砲火でその敵を吹き飛ばす。そのサザーランドも無事だったようで、体勢を立て直すや否や包囲しようとした鋼髏を撃墜してその健在ぶりを示した。その様子を横目に京介はモニターで神讃の状態を確認する。エナジーフィラーは一つランスロットに譲ってしまったものの、まだまだ余裕はある。問題は実弾兵装の方で、肩のアサルトライフルは今の銃撃で残弾無し、腰のレールガンも元々装弾数が少ない為残り数発となっていた。鋼髏程度ハルバードとスラッシュハーケンだけで対応出来る自信はあったが、何時までもこの堅牢な装甲が弾を防ぎ続けられるとは思わない。自分だけならまだしも、枢木スザクの味方であるサザーランドまで背後に抱えている状況では、彼女------確かスザクはそう言っていた------の安全にまで気を遣わねばならないのだろうと京介は頭の片隅に置いていた。鉄火場の最前線に居る自分達二人が生き残る事が最優先事項なのだ。しかし京介はあの白いサザーランドに乗る人間に対して一種の尊敬のような思いを抱いていた。ブリタニア軍人であって、名誉ブリタニア人の命令に相手の階級が上であれ従っていると言うのは、戦いの中に人種を持ち込まない出来た人間だろうとも予想する。

 

 

そうして自身の継戦能力について思考を張り巡らせていた京介の前で、白いサザーランドもまたアサルトライフルを単発射撃に切り替えて撃ち始めた。向こうも残弾に余裕が無いと言うのが一目で見て取れる。ゼロとスザクが攻撃に向かって数分が経過しているが、まだ時間が掛かると言うのであればジリ貧になるのは明らかだ。だが、逃げ出そうとした鋼髏を背後から真っ二つに叩き切ったところで、再びオープンチャンネルの通信が飛んで来る。それはゼロの声を掻き鳴らし、全てが終わった事を告げるものだった。

 

 

≪聞け! この日本の地に巣食う中華連邦の流れ者共よ! 諸君らの守るべき澤崎敦、そして曹将軍は我らが手に落ちた! 直ちに戦闘行為を止め、武装解除せよ! 諸君らの処遇はブリタニアの手に委ねられる! かの者達から人道に沿った保護を受けられる事を祈るが良い!≫

 

 

通訳として捕虜を取ったのかゼロの言葉の後に翻訳された中華連邦にとっての母国語の音声が流れ、そこで漸く京介達と対峙していた鋼髏達は抵抗を止めた。京介はそこまでの間に新たに三、四機の鋼髏を叩き切っていたが、軍人達の意気消沈した様子を見るに気概のある者は既に皆殺しにしていたようだった。

 

 

「終わったか……あのサザーランドは?」

 

 

戦闘が終わった事に安堵したのも束の間、京介はモニターから共闘した白いサザーランドの姿を探した。ここで探して死なれていれば、少しながら夢見が悪いと言うものだ。そうしてモニターの中で自分の近くに寄ってくる白いサザーランドの姿を確認し、京介は再び安堵する。だがそのコクピットブロックが解放されてシートが迫り出し、パイロットの姿が外気に晒されると京介のその心臓は大きく跳ね上がった。

 

 

相手が女だと言うのは聞いていた。かつて式根島で見た枢木スザクが着ていたような白いプロテクションスーツ。それに身を包んでいる女性は、汗に濡れた茶色いショートヘアを掻き上げてジッとその眼を神讃に向けている。何故だか京介はその視線が機体越しに自分が見られているような感覚に陥りながら、動揺を隠せないでいた。何故なら、そのシートから立ち上がりコクピットブロック上部に片足を置いている女の顔が、かつて見せられた浦城夏希の入団志望書の顔写真と瓜二つだったからだ。

 

 

「そのゴツイKMFに乗っている奴! (ツラ)ァ見せな! お前に話がある!」

 

 

神讃の収音マイクが拾い上げた女のがなり立てるような声。()()()で放たれたその言葉に、京介は迷わずコクピットを開け放って身体を外気に晒す。互いに機上で顔を見合わせた後、女は合点がいった様子でドンッとコクピット上部を踏み鳴らした。

 

 

「浦城! 浦城浦城浦城! 浦城浦城浦城浦城浦城浦城! 人違いかと思ったが違った! その顔! その目! アンタ浦城京介だろう!?」

 

「そう言うアンタはッ!!!」

 

「浦城夏希ッ!」

 

 

歪んだ笑みを浮かべたまま京介の言葉に絶叫で返した女------浦城夏希は、さもとても面白い事が起こったかのように腹を抑えて大笑いする。困惑、喜び、怒り、様々な感情が脳内で蠢いていた京介は、それを言葉にしてそのまま目の前の唯一の肉親に投げ掛けた。

 

 

「死んだと聞いた! 二度と会えないと思った! だがアンタは生きてそこに居て、ブリタニアの軍人をやっているな! だったら、カワサキゲットーの事件を起こしたのも……!」

 

「私は生きている! こうして面と向かって会えている! その疑問には肯定で答える! ()()()()()()()()()!」

 

「何でだァ!」

 

「手土産よ! 連中には私が私らしく動ける様になる為の生贄になってもらった! 黒の騎士団だけじゃないわ、他のレジスタンスの連中も知っている限りの情報は全て私がリークしたの!」

 

 

目の前で放たれる夏希の言葉に頭部を思い切り殴られたような衝撃を受けながらも、京介は何とか絞り出すようにして言葉を放つ。

 

 

「何の為に!? 姉さんは父さんと日本の為に戦っていたんだろう、何で裏切った!」

 

「私の目的はたった一つ! ()()()()()()!」

 

「何……?」

 

 

夏希の言葉に思考を断たれ、京介は感情に任せていた勢いを失ってしまう。そんな様子を見ながらも、夏希は言葉を続けた。

 

 

「けどそれは今じゃ無いわ! 枢木少佐の顔ってのも立てないといけないからね。私は私が考え得る最高のタイミングで奴を殺す! ゼロに……お父様を私から奪った報いを受けさせる!」

 

「父さんか……父さんはナリタで死んだ! 俺は最期の言葉を聞いたんだよ姉さん!」

 

「だったら話は早いわ! ブリタニア人として生きていたはずのアンタが黒の騎士団に居る事には目を瞑っていてあげる! あのナリタの戦いで黒の騎士団として日本解放戦線を崩壊に導いた罪滅ぼしをなさい!」

 

「罪滅ぼし!?」

 

「ゼロが戦場を掻き乱さなければ我々の戦線が一気に崩壊する事もなかった! 勝てなくとも脱出する時間は稼げたし、あの山を地図から消滅させるような自爆ショーをお父様がする必要も無かった!」

 

「それは……俺は知らなかったんだよ、父さんも姉さんもあそこに居るだなんて!」

 

「そうかい……そうだろうねぇ! ナリタを脱出して藤堂中佐と捕まった後、私は尋問の為に連れ出されたところで単独でチョウフから脱出したわ。他の仲間達を逃がそうとしたけれど、藤堂中佐はゼロに助け出され、一緒に捕まっていた仲間は殺された。だから合流しようとしたわ、私も黒の騎士団で日本を取り戻そうと! けどねぇ、私はカワサキで聞いたのよ。黒の騎士団の幹部が、ナリタでの戦いを声高らかに自慢するのを! 日本解放戦線をダシにして、父さんのやった事を無碍にする言葉を! そんな連中とは一緒に戦えない、戦える訳が無い! そんな人間達が日本を解放したって、そんなものは私達の知る日本じゃない別の何かなの!」

 

「だからゼロを殺すのか!? 父さんを無碍にされたから、日本の為に戦っている人達を裏切って、日本を支配したブリタニアに媚びを売って、この国がどうなろうかなんて知ったこっちゃあ無いなんて開き直るのが姉さんのしたい事なのか!?」

 

「媚びを売ったつもりは無い! 私はただ自分の身体に流れている忌々しいブリタニアの血を利用しただけ! 私を突き動かしているのはゼロへの怨念! この怨念は人間の感情の中で他の何よりも勝る力の源よ!」

 

「それで一体、何が手に入るって言うんだ!」

 

「力と、狡猾さよ! 日本の未来は、その後にでも考えれば良い! 私は大儀を捨てて、己の感情を優先する!」

 

 

ヒートアップしていく姉弟のやり取りの果てに、夏希は大きく息を吸って吐いた。そしてチラリと背後に視線を向ける。京介も釣られて視線を向けると、司令部のあった方向からゼロのガウェインがこちらに向かって来ていた。夏希はその黒と金に煌めく存在を視認すると、即座にシートに身を入れてコクピットに入り込んでしまう。それに合わせて、相手の声も外部スピーカーのそれに切り替わる。

 

 

≪時間を与えるわ! ゼロを、黒の騎士団を捨てて私のところに来なさい! 私達姉弟がお父様の仇を討つの! 何なら、奴を殺して来たって構わないわ。肉親のアンタになら、仇を横取りされても我慢が出来るってものよ。その後、黒の騎士団を殲滅する!≫

 

「姉さん! 俺は!」

 

≪そこに落ちている私のフロートユニットを持って行きなさい! 七年間渡せなかった、アンタへの誕生日プレゼントよ! おめでとうね!≫

 

 

それだけ言うと、夏希のサザーランドはゼロのガウェインとすれ違うようにしてフクオカ基地の奥へと消えて行ってしまった。京介は目の前に着陸したガウェインを見上げたが、外部に姿を晒しているその姿に違和感を持たれたのか、付けていたイヤホンからゼロの声が飛び込んで来る。

 

 

≪浦城、敵に顔を見せたのか? 何の為に?≫

 

「……いや、次に会った時には殺し合う相手の顔を互いに見ただけだ」

 

≪そうか。……これから撤退する、ガウェインのスラッシュハーケンで神讃を固定するが、行けるか?≫

 

 

ゼロの言葉を受けて、京介は地面に転がっていたフロートユニットと呼ばれた赤い機械を指さした。

 

 

「その前にあそこにある敵の新装備を持って行こう! あれを解析すれば、こっちのKMFも空を飛べるようになる!」

 

≪随分不用意な敵も居たものだな、施しでも受けたか。……いいだろう、あのユニットは神讃で持て。機体ごと固定する≫

 

「ああ、分かった」

 

 

言うが早く、京介は神讃のコクピットに身体を潜り込ませ、その両手でフロートユニットを抱えるように持った。その後ガウェインの両手の指------スラッシュハーケンが飛び出し、神讃の全身に絡みつく。この時京介が、ゼロの指先一つで自分はバラバラにされて死んでしまうのだろうなと思ってしまったのは、やはり先程の夏希とのやり取りが原因だった。機体ごと身体が浮遊していく感覚を味わいながら、同時に戦闘で高揚していた精神が不安定になっていくのを感じる。その感覚を脱ぎ去りたいと京介は羽織っていたジャケットのポケットを漁ると、歪んだモスレムが一本だけ見つかった。

 

 

(そうか、カレンに渡したんだったか……)

 

 

出撃前の赤毛とのやり取りを思い返しながら、京介はその一本を咥えて先端にあるカプセルを指で潰した。加熱されていく煙草の葉を唇で感じながら、プラプラとその白い紙の筒を揺らす。漸く煙とニコチンを吸い込めるようになってから、京介はだらしなく口の端から紫煙を巡らせた。そうしてから、彼の頭の中は一気に混乱の極みに達する。

 

 

(有り得ない……有り得ないだろ、こんな事!? 姉さんは生きていた、姉さんは日本を裏切ってブリタニアについた、姉さんはゼロを殺したがっている! 姉さんは……俺に黒の騎士団を裏切れと言った……? ゼロを殺せとも?)

 

 

目の前で燻っていた紫煙がエアコンの空気の流れに沿って流されていくのをぼうっとした目で見つめながら、時折不安定に揺れる機体の中で京介は震えている。夏希の言った事は到底受け入れられるものではない。理由がどうあれ、黒の騎士団はブリタニアから日本を取り戻す為に戦っている。その過程の中で日本解放戦線を壊滅させる一端を担ってしまったのは事実だ。それは京介も認めざるを得ない。ナリタでの戦いで広がっていた戦線を混乱させ、その隙を突く形で戦いを仕掛けたのだ。日本解放戦線に属していた夏希からしれみれば、確かに黒の騎士団は唐突に現れ、自分達を滅茶苦茶にした存在でしかないだろう。それがいざ合流しようとしてみれば、自分達をコケにしていたと言うのだからその怒りは図りしれない。

 

 

(カワサキに居た幹部……こいつは確かめる必要はある)

 

 

冷静さを取り戻す為に思考を切り替え、紫煙を巡らせる。どちらにせよ、京介からしてみれば黒の騎士団を裏切る事など出来ない。軌道達のような大切な仲間も居れば、父の意思を継いで日本を解放するという目的もある。それをゼロの死を持って失う訳にはいかないのだ。

 

 

(姉さんは完全に俺達の敵になった。何処かで必ず……戦う時が来る。俺が倒せるのか? 倒さないといけないんだ。それにこの話を誰かに言うべきなのか? 言えるのか? 言ってどうにかなるのか?)

 

 

戻そうとした思考回路が再び濁流に呑まれかけようとして、京介はそこで正面モニターに黒の騎士団の潜水艦の姿が映っている事に気づいた。ガウェインは徐々に降下していき、同時にゼロの声が耳朶を打つ。

 

 

≪浦城。神讃を先に降ろす、準備しろ≫

 

 

「あ、ああ……了解」

 

 

気の抜けた返事をして、京介は歯でフィルターのカプセルを嚙み潰して煙草の火を消した。操縦桿を握り締め、ゼロの合図を待つ。やがて発進口が近づいてきた頃、ガウェインが腕を揺らして神讃を固定していたスラッシュハーケンを緩め、フロートユニットを抱えた神讃は解放されて格納庫の中へ滑り込む様に帰還した。すぐに機体を指定の位置に移動させ、一先ずフロートユニットを持たせたまま京介はコクピットから出た。近寄って来た整備員達が赤い機械を物珍しそうに見上げているのを横目に、京介は遅れて帰還したガウェインを横目に声を張り上げる。

 

 

「敵の新装備だ! ラクシャータに解析させてくれ! 壊すなよ!」

 

 

「はい!」

 

 

ウィンチを運ぶ整備員を見ながらシートから飛び降り、京介は軌道達の姿を探した。口に咥えていた湿気たモスレムを指に持ち替えて、新しいニコチンを摂取したくなったのだ。だがそうやって振り返った時、真っ先に京介の視界に飛び込んで来たのは赤毛の女だった。

 

 

「京介!」

 

 

胴体に軽い衝撃が走った後、青い瞳が京介を見つめて来る。

 

 

「大丈夫だった? 怪我してない?」

 

「大丈夫だよ、何とも無い。怪我一つしてないさ」

 

「ああ……良かった」

 

 

胸元に摺り寄せられるカレンの頭に手を回して、京介はその赤い髪の毛の生えた頭頂部から漂う甘い匂いを鼻腔に思い切り吸い込んだ。何故だがその匂いが酷く安心出来て、悩んでいた所為で靄が掛かっていた思考が晴れていくようだった。

 

 

(ああ、そうか……悩む必要なんて無かったんだ)

 

 

カレンの柔らかさを感じて匂いを嗅いで、京介は目の前の女が自分のものである事を再確認する。軌道達のような仲間達が居て、カレンのような守り守られる恋人が居る。姉の夏希が敵になった事は悲しい運命を感じざるを得ないが、最初に決めていた事をブレさせる程京介の覚悟も半端な物では無かった。夏希が敵になると言うのであれば、それを踏み越えれば良いだけの話だ。

 

 

「なあ、カレン」

 

 

「何? ……んむっ」

 

 

後頭部に手をやってカレンの唇を奪いながら、京介は自分も単純な男なんだと考えていた。それに大儀の前に肉親の問題に心を乱していれば、エクター・ド・マリスを渡してくれたオーギュスト・ゴダールの魂にも無礼と言うものだ。夏希の誘いには乗らない。黒の騎士団も裏切らない。敵になるのであれば、彼女を倒すだけ。ただ京介からすれば、出来るのであれば唯一の肉親となった彼女の命を奪いたく無いとも思っていた。それが難しい事であると言う事はフクオカ基地での怨念に塗れた反応を見ていれば容易に想像出来るが、それでもどうにかしたいと言う肉親の情を完全に捨て去る事は出来ないのだ。ただ現状に置いてこの件を誰かに話すべきかどうかと言う問題については、すぐに答えを出せそうには無い。

 

 

ただ一つだけはっきりと言える事は、現実逃避の煙草は、今は必要無い事だった。

 

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