CODE GEASS 霧散の血潮   作:REDALERT

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CASE-6 意気衝天の死に損ない

 

翌日の夕方、黒の騎士団はトウキョウ租界の港湾施設の一角に集合していた。外観からは分からぬように中身が空っぽにされた倉庫の中に、ゼロを始めとする幹部、戦闘要員、KMF乗りの全員が集まり、そのゼロの背後にそれぞれの無頼や紅蓮が並んで立っている。京介はその中でも自分の青い無頼の足元に座り込み、口許に火の点いていない煙草を咥えてプラプラさせていた。その周囲にはいつもの軌道達と、永瀬と竜胆の姿もある。完全にこの二人は、自分達と行動することを選んだようだった。京介達も、特にそれを咎めるようなことはしなかった。

 

 

「しかしこんな場所で集合って、ゼロは何をするつもりなんだ?」

 

 

同じように火の無い煙草を咥えながら、軌道は首を傾げる。ナリタの後キョウトからの支援で新規の無頼を始めとする補給物資を手に入れたのは良いものの、ゼロからは特に今後の活動について何の話も無かったのだ。それが唐突に集合ポイントと必要な装備のリストだけが扇に送られて来て、大慌てでKMFの運搬用トレーラーへの分解搭載や移動ルートの確認が行われたのがつい先程の事。

 

 

「さぁ……何でしょう。東先輩、何か分かります?」

 

 

首を傾げながら東に声を掛けたのが、竜胆春道だ。大柄な筋肉質、セットもされてない茶色の髪をボサボサに伸ばした少年。小柄な東翔と並べば、どちらか先輩か間違えてしまいそうな構図だった。

 

 

「俺が分かる訳ないだろ? まあ……ナリタの時の事を考えれば、ここでブリタニアと戦争するって気もするけど……むむむ……」

 

 

「何がむむむ、よ。ゼロの事だから、いつもの情報網で極秘の取引か何かを察知したから潰そうって腹じゃないの?」

 

 

腕を組んで唸り出した東をみゆきが小突き、あっけらかんと言い放つ。それに呼応するように、甲斐がポケットに両手を突っ込んだまま口を挟んだ。その長髪に隠された視線の先には、扇と何事か話し込んでいるゼロの姿がある。

 

 

「大体そんなところだろう。使えるKMFまで全機持ち出しているとなれば、予想はつく」

 

 

「だろうなぁ。……けど、ここでやられちまえば逃げ切れねえな」

 

 

甲斐の言葉に京介が言葉を返した時、その隣に立っていた永瀬が口を開いた。昨日同期相手にその手足を振り回していた時とは違う落ち着いた声で。その頬には、まだ青あざが浮かんでいる。

 

 

「……やっぱり隊長達は凄いですね。戦うかもしれないのに、凄く落ち着いてます」

 

「そりゃあこの浦城京介率いる俺達愚連隊は場数が違うからな! 電光石火で突っ込んで暴れるなんてのはしょっちゅうだったからよぉ、頭で思っていても、あんまり表には出てこねーのさ」

 

「誰が付けたんだよ、そのダセェ名前は」

 

「京介がナリタの時に言ったんだろうがよ、俺達は愚連隊だって」

 

「そうだったか? 新のセンスが移ったか……」

 

 

軌道と京介が雑な言葉を交わしていると、ゼロが京介を呼ぶ声が響いた。京介はすぐに立ち上がると、咥えていたレッドアップルに火を付けながら合流する。ゼロと扇の間で既に大まかな話はしていたようだが、扇の表情はやや不満げに見えた。

 

 

「これから今日の作戦について全員に伝えるが、お前の仲間達の様子はどうだ」

 

「様子? 様子ったって、気が付いたら新入りが二人増えてるくらいだ。問題無い」

 

「なら良い。お前は私の近くに居ろ」

 

「了解」

 

 

一服入れてから、京介はゼロからやや距離を取った。軌道達の方に軽く手を振ってから話が始まることを伝えると、ゼロは自分の無頼の前に積み上げられた瓦礫の山の上に取った。いつもの仮面とマントも合わさって、その姿はまるで独裁者でも気取っているかのようだ。

 

 

「諸君、我々はこの港から日本解放戦線の片瀬少将が中華連邦へ向けて脱出するという情報を手に入れた。既にその情報はブリタニア軍も耳にしており、マスコミでは報道特番の準備もされているという情報管理のお粗末さだ。コーネリアは自ら海兵騎士団を率い片瀬少将の捕獲を目論んでいる。我々はここでコーネリアの軍を叩き、その上で日本解放戦線の残存戦力を保護する!」

 

 

ゼロの言葉に、ワッと団員達が盛り上がる。ナリタでの戦いから数日、各地に散らばっていた日本解放戦線のメンバーが次々と捕まっているニュースが連日のように流されていた中で、その大本である片瀬少将を救出しようというのだ。もし片瀬少将を救出し協力関係を結ぶことが出来れば、まだ捕まっていない藤堂中佐や四聖剣も合流し、黒の騎士団は更なる力と支援を手にすることが出来るだろう。

 

 

「既にキョウトより救出要請は受けている。現在の片瀬少将は藤堂中佐及び四聖剣と合流できずじまい、戦力らしい戦力も無い。逃亡資金代わりの流体サクラダイトをタンカーに満載しているだけだ。ポートマンに船体に取り付かれれば、最期の抵抗として自爆も禁じ得ないだろう。だが我々がそうはさせない、我々はナリタでの忘れ物を今日! この夜に取り戻すのだ!」

 

 

後の団員の盛り上がりについては、もう言葉にする必要も無いだろう。途中今回の情報提供者としてディートハルトというブリタニア人のマスコミの紹介がされ、今回の作戦が終わるまでは扇を監視者として作戦に参加させるという。ゼロから作戦準備の指示を受けて団員達が行動を開始する中、京介はゼロがディートハルトと何か言葉を交わしているのを見た。ブリタニア人ということに引っ掛かるところがあるが、ブリタニア人の中にも主義者と呼ばれる反体制派の連中が居るという話も聞いたことがある。彼もその一人なのだろうと考えていると、ふいに京介のジャケットの裾が引っ張られた。振り返れば、カレンの姿がある。普段と同じ、腹部と背中の一部が開いた過激な服装の上から黒いジャケットを羽織っている。

 

 

「どうしたよ」

 

 

そこで言葉を発して初めて、京介はしまったと思う。何の気無しに返事をしてしまったが、昨晩の事もあって気恥ずかしさから今朝から彼女を避けるように行動していたのだ。僅かにしかめっ面をしていたカレンだったが、すぐに破顔したかと思えば京介の胸倉を引っ掴む。

 

 

「昨日散々エッチなことしてくれておいて、今日はほったからしってのは酷いんじゃない?」

 

「馬鹿野郎、恥ずかしくってまともに顔なんか見れる訳ねえだろうがよ」

 

「それは普通こっちが言う台詞なんじゃないの!? まあ良いけど……」

 

 

呆れたように声を上げると、カレンは手を離した。周囲の何人かが二人の様子を不思議そうに見ながら近くを通り過ぎていく。そうして、ズイとカレンは後ろ手に京介に顔を近づけた。

 

 

「ね、作戦前にさ、気を付けてとか頑張ろうなとか、言ってくれないの?」

 

「言って欲しいのか? 俺の女になってくれたって?」

 

「アンタが私の男になったんでしょ。……ダメ?」

 

 

そう言って首を傾げて見せるカレンに、京介はため息をついた後、何かを耳打ちするフリをして、そのまま彼女の頬に口づけした。思わず飛び退いた彼女の姿に笑って見せると、京介は帰ったら続きをしてやると言いながら、自分の無頼へと向かった。何時ものように、レッドアップルを吸いながら。

 

 

「たまには煙草臭くない事してくれたって良いじゃない」

 

 

そんなカレンの独り言は、聞こえていなかった。少なくとも彼女は、そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

作戦開始を控えた夜、京介の部隊はブリタニア軍が展開している倉庫群を側面から攻撃できる位置に隠れていた。海側にはゼロやカレンを中心とした主力がKMFを格納できる突撃艇を改造した船舶で待機しており、合図を受け次第突入し挟撃するのが作戦だ。後は港湾全体にKMF隊を援護する戦闘員を配置し、大型クレーン上部には全体を監視する扇とディートハルトが配置されている。既に桟橋には水中用KMFであるポートマンを満載したトレーラーが偽装を施された上で待機しており、岸壁近くの物陰にもサザーランドが複数待機している。監視員の報告ではコーネリアを始めとする司令部は桟橋近くの倉庫内で待機しているようだった。片瀬少将の乗ったタンカーは港の奥に停泊しており、仮に出航しようとした場合は真横からブリタニア軍の攻撃を受ける位置になっている。だが、船に流体サクラダイトが積まれている以上、下手な攻撃は行えないだろう。だから海中からポートマンで取り付いて、無力化する必要がある。

 

 

≪何でゼロはまだ動かないんでしょう? 奇襲を掛けるなら今が絶好のチャンスだと思うのに……≫

 

 

ふと、待機状態の無頼の間に永瀬の通信が入る。それに応えたのは竜胆だ。

 

 

≪何か考えがあるんだろう? 相手はまたコーネリアだし、下手に動けないってことだよ≫

 

≪けど待っている内に機を逃したらどうするのよ! タンカーを拿捕されれば日本解放戦線は終わり、私達だって危険になるの!≫

 

≪俺に文句言ってどうするんだよ!? ギャーギャー言ったってどうしようもないだろ!≫

 

 

作戦開始前だと言うのに耳を劈く大声で言い争いを始めた二人に辟易しながら、京介はモニターに表示させていた時刻を確認する。既に待機を始めてから数時間は経とうとしている。ゼロにしろブリタニアにしろ、何を待っているのか分からなかった。と、京介は何処からか重い何かが水面に落ちるような音が聞こえた気がした。直後、今度は聞き間違えでない派手な爆発音と水飛沫の音が響く。漸くブリタニアの攻撃が始まったのだ。

 

 

「全機起動! 戦闘準備!」

 

 

まだ言葉遊びを続けていた二人を遮るように声を上げて、京介は無頼を起動させる。連なる六機も同様に自機を立ち上げ、甲斐と東の機体が倉庫の入り口へ陣取る。何時でもドアを破壊して飛び出せるようにするためだ。

 

 

「ゼロ! こっちは何時でも行けるが、どうする!」

 

≪待機だ、敵の動きが思っていたよりも早い。今飛び出せばお前達が囲まれる、合図を待て≫

 

「っ、了解!」

 

 

納得のいかなさを感じながらも、京介は無頼の手信号で隊形を組んだままで待機を命じる。既に機体の収音マイクが数多の銃声を拾ってきていた。外の様子を伺えないのがもどかしいが、待機を命じられた以上それに従うしかない。数分、或いはそれ以上も待っているかのような感覚を味わっていると、突如激しい爆発音と振動が地面を揺らした。同時の倉庫の上部にある窓から、激しい閃光が瞬く。

 

 

「何だ、地震じゃないぞ!?」

 

 

一拍遅れて収音マイクが激しく地面に水が叩きつけられるような音を拾ったかと思えば、再び衝撃が機体を襲い、倉庫の窓や硬く閉じられた扉から大量の水が流れ込んだ。喧騒にコクピットの中が散々蹂躙された後、通信機越しにゼロの指令が耳朶を打つ。

 

 

≪全機突入しろ! 日本解放戦線は虜囚より自決を選んだ! 我が隊はコーネリアのいる本隊に突入する、浦城の隊は展開している部隊を抑えろ! 結果は全てにおいて優先する! 日本解放戦線の血に報いたくば、コーネリアを捕らえ、我らの覚悟と力を示すのだ!≫

 

 

「やっとか……愚連隊、行くぞ! ドア開けろ! 手当たり次第ぶっ殺せ!」

 

 

ゼロの指示が終わると同時に京介は声を張り上げ、開かれた扉から真っ先に飛び出した。ランドスピナーで水飛沫を上げながら無頼が勢い良く飛び出し、京介は初めて外で何があったのかをその目で確認する。海に浮かんでいたはずのタンカーが跡形も無くなっており、周囲には多量の水が残っている。その中には、流されて転倒したのであろうサザーランドが数機コクピットを開いて放置されていた。

 

 

(自決……やっぱり流体サクラダイトを自分達で爆破させたってことか! 命を無駄にし過ぎている! だから父さんも!)

 

 

事前に報告を受けていたコーネリアの本陣がある方向からの銃声を耳に入れながら、京介は部隊と共にこちらに背を向けていたブリタニア軍を背後から強襲した。爆発によって起きた水流に巻き込まれたブリタニア軍の殆どが戦える状態には無く、ほぼ一方的な虐殺と化した戦場の中で、京介の無頼は遠距離から桟橋で救助されたのであろうポートマンや無防備なサザーランドに銃撃を叩き込んで撃破する。足元に散らばる脱出したであろうパイロット達も引き潰して殺しながら、京介の隊は次々と敵を撃破していった。時折発生する反撃の銃撃を無頼を右に左に動かして回避しながら往なし、ナックルガードの右手を胴体に叩き込む。そして頭部を引っ掴んで地面に叩きつければ、自動脱出装置が発動して飛び出したコクピットブロックが海上へ向けて飛んで行った。

 

 

「溺れ死んでも恨むなよ……! ゼロ! 状況は!?」

 

≪京介! ゼロが白兜に撃墜された! 作戦は失敗だ、撤退する!≫

 

「また白兜か! カレンは何をやってる!?」

 

 

ゼロに通信を飛ばせば扇から返答があり、その内容に京介は舌打ちする。考えてみれば、コーネリアの近くに圧倒的戦闘力を誇るあの白兜が居ない訳が無い。ゼロもそれを考えていなかった訳も無いだろうが、兎にも角にもまた黒の騎士団は白兜に邪魔をされた形になる。と、考えていたところで京介は突如背後から激しい衝撃に襲われた。見れば、半壊したサザーランドに組み付かれている。殺し切れていなかった。拿捕するつもりなのだろうか。

 

 

≪京介!≫

 

 

「構うな! 先に逃げろ、こいつは自分で何とかする!」

 

 

心配する軌道にそう答え、京介はサザーランドを引き剝がそうとランドスピナーを全力で回転させる。やや引き摺る形になりながらもサザーランドもそれに追従し、二機は倉庫の外壁に激突する。モニターが機体の異常を一斉に報告し始め、脱出装置が故障したことを知らせてきた。尚も組み付いているサザーランドに肘鉄を喰わらせつつ、京介はスラッシュハーケンを建物の屋根に突き刺して飛び上がろうとした。だが射出部分が故障したのか、スパークを散らしただけで、その先端が飛び出ることは無かった。しかし肘鉄でサザーランドの拘束は解かれ、京介は左足のランドスピナーだけを回転させて機体を翻し、そのままの勢いで敵の脇腹に拳を叩き込む。敵のフレームがナックルガードや拳ごと拉げていくのを衝撃で感じながら、京介は目の前のサザーランドが沈黙したのを感じた。だが直後、サイドモニターに銃を構える新手の姿を捉えた瞬間、京介の無頼に一方的な銃撃が加えられた。

 

 

「クッソ……!」

 

 

真横からコクピットブロックを貫通した弾丸と破片が肉体を傷つけ、京介は全身から血が一斉に噴き出すのを感じる。一気に強烈な寒気が全身を襲い、脳裏にカレンの姿が浮かんで消えた。レバーを踏む足にも力が入らず、視界が黒ずんでいく。操縦桿を無理矢理引いたものの無頼の腕は動かず、銃撃を受けてそのまま接続部から吹き飛んでいく。後部ハッチが破壊され、一気に外気が流れ込んでくる。その冷たさと潮の匂いと鉄臭さが混じり合い、僅かに京介の意識の覚醒を維持した。モニターはノイズ混じりだがまだ生きており、まだ三機の敵がこちらを狙っていることを示している。だが直後、先頭に立っていたサザーランドが画面外からの銃撃を受けて爆発した。そこへ割り込んでくるように一機の無頼が現れ、流れるように残りのサザーランドを撃破する。

 

 

≪隊……! ……事……すか!?≫

 

 

故障した通信機から飛び飛びの音声が飛び込み、京介は朧気になりつつある意識の中でそれが永瀬のものであると理解出来た。次の瞬間にはシートが無理矢理外部に引き出され、別の無頼の手にその身体が抱えられる。直後その無頼が手に持っていたマシンガンを何処かへと乱射し、即座に反転してその場を離れていく。揺れと急激に身体に叩きつけられる風に身体が更に冷え込んでいくのを感じつつ、京介は目を閉じた。口の中の血の味が、鬱陶しく思ったのが最後だった。

 

 

 

 

 

 

結果的に、永瀬と竜胆が指示を無視して京介の救出に来たのは正解だった。港から脱出するトレーラーの中で、以前よりも充実していた医療班から適切な処置と輸血を受けることが出来、一命を取り留めたのだ。そして何よりも、京介自身が持つ異常な回復力がその蘇生を手助けしていた。拠点に戻った後、翌日にはもう目を覚ましていた。左腕には点滴のチューブが刺さり、手足どころか全身にはギッチリと包帯が巻かれ、顔にもガーゼ等が貼られていたが、起き上がった京介が感じたのはリフレイン工場の時よりもマシだと言うことだった。自分がしっかりと生きていて、地に足をつけて立つことができることを確かめると、京介は点滴の針を自分で抜いてしまい、やや足を引き摺りながらも見慣れたトレーラーを出た。

 

 

「うおおっ!?」

 

 

トレーラーを出るなり京介を出迎えたのは、玉城の悲鳴だった。やや赤ら顔をしてアルコール臭かったが、逆にその臭いがやや鈍っていた京介の覚醒を促してくれる。玉城は目を真ん丸にして包帯だらけの京介を爪先から頭頂部まで見回し、恐る恐ると言った様子で声を掛けた。

 

 

「お前もう起きたのか!? 大丈夫なのかよ、身体は!? 痛くないのか!?」

 

 

その大音量の声に他の団員の注意を引きながら、京介は掠れた喉から声を絞り出す。喉が少しばかり、乾いていた。

 

 

「アンタの声の方がよっぽど響いて身体が痛えよ……」

 

「あんま無理すんなよ……?」

 

「酒飲んでねえ時に言われてれば、アンタ……最高に格好良かったぜ」

 

 

引きつけのような笑いを見せてから、京介は玉城の傍を離れて拠点の中を見回した。今は工場近くの破棄された地下駐車場にトレーラーを移動させたようだった。天井と地面のライトが修理されて光を放っている中、空っぽの駐車スペースが見えている。団員はまばらで人も少なかったが、何人かは京介に気づいて気遣う言葉を投げ掛けてくれた。扇達の居場所を問うと答えてくれたので、言われた通りKMFの待機場所へ足を向けると、扇や杉山、井上といった御馴染の面子が揃っていた。その中には勿論、カレンの姿もある。

 

 

「あっ? 浦城!?」

 

 

談笑していた中で真っ先に気づいた杉山がそう声を上げると、全員の視線が一斉に京介に向けられる。真っ先に飛び出したのはカレンで、その勢いのまま両手を広げて抱き着こうとしたが、直前で止まってしまった。包帯だらけの姿で接触すれば痛がってしまうとでも思ったのだろうと、京介はそっと耳元で「後で」と呟くと、その場に立ったまま掠れ声を上げる。

 

 

「扇さん、うちの連中……どうしてます?」

 

「あ、ああ……全員無事だ。覚えてないかもしれないが、永瀬と竜胆が勝手に飛び出して行って、君を助けて帰ってきたんだ。今はゼロの指示でキョウトからの支援物資の受け取りに行っている。それよりも、まだ動き回っちゃダメだろう!」

 

「そうよ、傷口が開いたらどうするの!?」

 

「俺の事よりあの時どうなったかが心配なもんで……」

 

「それは自分の身体を治してから心配しなさい! 点滴まで自分で抜いちゃって、ほんとこの子はもう……。カレン、ベッドまで連れて行って見張って上げて。後でご飯持っていくから」

 

「あっ、う、うん!」

 

 

扇と井上から続け様に怒られた上で、京介はカレンに半ば抱えられるような形でトレーラーまで運ばれてしまった。思っていたより力が強いのだと呆けた頭で考えながら、気づいた時にはベッドの中に押し込まれていることに気づく。そして状況を確認する前にカレンから口許に水の入ったコップを当てられ、上体を起こしたままその中身を飲み込んでいく。飲み干した後、若干の静寂があったが、京介はベッドサイドに座り壁を向いているカレンの左手を、自分の左手で握る。幸いにもその手だけは、包帯が巻かれていなかった。

 

 

「心配したか?」

 

 

水を飲んでやや潤った喉から声が飛び出す。自分でも驚く程に、上ずっているように聞こえた。

 

 

「当たり前でしょう!? 無事だったから良かったけど、普通なら死んでたのよ! 無茶しないでよ、お願いだから……」

 

 

こちらに顔を見せること無く、カレンは慟哭する。握った左手は痛い程握り返されていたが、その痛みが逆に心地良かった。握った手を挙げながら、京介はベッドサイドに座り直す。寝ていろと言わんばかりの視線が飛んで来たが、それを無視して握ったままの手を胸元へと持って行った。

 

 

「焦ってたんだろうなぁ……」

 

「え?」

 

「ナリタの時に思ったんだ。無頼のままじゃ、俺は白兜に勝てない。だからあの時、あの程度のピンチくらい自分一人で何とか出来るようにならなきゃって、頭のどっかで思ってた。ナリタで初めてアイツを見た時から、俺は戦う前からアイツに負けてたんだよ」

 

 

手の中で相手の柔らかさを感じながら、京介はそう述懐する。適当な言い訳ではなく、本心からの言葉だった。グラスゴーからサザーランド、グロースターへとブリタニアのKMFが進化していっている中で、あくまでグラスゴーのコピーである無頼で戦い続けるには限界がある。今後もしかすればサザーランドのコピーも開発されるのかもしれないが、そんな後追いのコピーを繰り返していくだけでは必ずジリ貧になってしまう。少なくとも、カレンの紅蓮弐式のような技術革新を持った機体でもなければ、白兜のような存在には追い付くことは出来ない。

 

 

「それなら、紅蓮には貴方が------」

 

「お情けの言葉ならそんなものは要らない。それに、紅蓮はカレンが任された機体だ。忘れたか? 俺はあくまで傭兵なんだぜ?」

 

「けど、それじゃあどうするの? いくら黒の騎士団が大きくなったって言っても、KMFなんてそうそう新しい機体が作られるなんてこと……」

 

「そうさなぁ……キョウトと繋がっているインド軍区が良い機体を作ってくれるのを待つか?」

 

「ふざけたこと言わないでよ……。それまでに死んじゃったらどうするの? 私嫌だよ、そんなの」

 

 

重い沈黙が漂う中、京介はあっと何かを思い出したかのような声を上げる。それに反応したカレンが顔を上げると、その呼吸が、柔らかい感触に覆われた。数秒の間沈黙の種類が変わり、それが終わると、京介は気恥ずかしそうに言葉を紡いだ。

 

 

「帰ったら続きしてやるって言ったの、忘れてた」

 

「馬鹿! そうやって誤魔化せると思わないでよ!」

 

「けど、煙草臭くなかったろ?」

 

 

言われて、カレンは完全に毒気が抜かれた顔をして大きなため息をついた。繋がっていた左手を振り解くようにして、目の前の男の身体を無理矢理ベッドに押し付けるように寝転がせる。

 

 

「兎に角傷が治るまでは大人しくしておくこと。それからの事は、みんなで考えましょう。……で、ちゃんと治るまで禁煙、分かった?」

 

「分かったよ。……ありがとうな」

 

「ん、どういたしまして」

 

 

結局その翌日、キョウトから戻ってきた軌道達が復活した京介に喜び勇んでレッドアップルを吸わせようとして、カレンの本気の拳骨を受けたのは言うまでも無い。しかしキョウトからの補給物資として配備されたKMFの中には日本解放戦線で運用されていた無頼改があり、乗機を失っていたこともあって、それが京介の機体となったのは至極当然の事だった。勿論、怪我から殆ど回復した京介が新しい乗機を始めて見た時点で、その全身が青と黒に塗り分けられていたのは、言うまでもなかった。

 

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