CODE GEASS 霧散の血潮   作:REDALERT

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CASE-9 狂瀾怒濤の人間関係

 

「お前のネーミングセンスの無さはどうにかならねえのかよ、新」

 

 

半分に折り畳んだ食パンに挟んだソーセージにケチャップを大量に、マスタードは少量に掛けながら、京介はテーブルを挟んだ向かい側に座る軌道新にそう言葉を零した。黒の騎士団の再編が発表されてから数日、京介は新たに部下になったメンバー達との連携やチーム分けに注力していた。部隊長と言う事で勝手が分からないところも多々あったが、軌道達四人を副隊長に据えてそこに分散させることで、一旦は解決しようとしていた。軌道から部隊の愛称を決めようと持ち掛けられたのは、そんなある日だった。何処からか調達した和紙には墨で汚く【電光石火突撃愚連隊】と書き殴られている。そんな紙を昼食中に目の前に差し出されたものだったから、京介としては呆れる他無かった。

 

 

「他の部隊は零だの何だの格好良く数字分けされてんのによ、俺達だけ特別行動だか作戦だかじゃ示しつかないだろ? その点、この名前なら箔はつくし格好良いし問題無しってことよ」

 

 

同じように作っていた四角いホットドッグを頬張る軌道の姿に、京介はうんざりした顔で同卓についていた仲間達の顔を一瞥する。みゆきは興味無さそうに、甲斐は無表情、東は声を掛けないでくれと言わんばかりの虚無な表情を浮かべている。ならばと隣のテーブルに座っている永瀬や竜胆------彼らも当然のように京介の部隊に配属となった------に視線を向ければ、目を輝かせている竜胆は兎も角、永瀬は視線が合った途端に頬を赤らめて逸らされた。

 

 

「兎に角、それじゃ長いしダセぇし言い難い! 大体何だよ電光石火とか突撃って、ガキの発想かよ」

 

「そこは語感とノリに決まってるだろ? 元々俺達は敵陣に突っ込んで暴れるのが仕事なんだし、名は体を表すって言うしさ!」

 

「そういうもんか? ……ったく」

 

 

手製のホットドッグを頬張りながら、京介はうーんと考え込む。特に部隊名に拘りは無いが、部隊長を務める以上はあまり変な名前を付けられると、それを自分のセンスだと思われてしまうのが嫌だった。

 

 

「最初は紅蓮団ってのも考えてたんだけどさ? お前の機体は紅蓮じゃないし、紅月には一緒にされるの嫌だから止めてって言われるし」

 

「当たり前だろ、カレンまで巻き込むなよ」

 

「出た、独占欲か?」

 

「ぶっ殺すぞ」

 

 

残っていたホットドッグを全部口内に押し込んでから、京介はまた新しい食パンに手を伸ばした。ここ暫く、京介は軌道達にカレンとの仲を揶揄われる事が多くなった。要は謹慎を明けてから漸く彼女と男女の仲に至る事が出来た訳だが、事後に連れ立って部屋から出て来るところを見られたのだ。所詮まだ十代の少年少女達に取っては戦い以外に騒げる何かが必要で、京介はタイミング悪くその燃料を提供してしまったのだ。露骨な表現で揶揄われる事は無かったものの、時折彼女の話題を出されては辟易する、そんな事が繰り返し起こっていた。軌道が手に取った食パンの表面に大量のマスタードを流し込み、悲鳴を上げる男を視界の外に追い出しながら、京介もまた間違えて自分のホットドッグにマスタードを大量に掛けてしまう。結局軌道が提案した【電光石火突撃愚連隊】の名称は正規に確定はしなかったものの、半ば公然と周囲に認められるようになってしまった。基本的には愚連隊だと誰もが口にするその部隊は、ゼロの言った通り黒の騎士団の中枢を担うようになっていくのである。

 

 

 

 

 

 

「式根島のブリタニア軍基地を襲う?」

 

 

立派に移動拠点の役目を果たしている潜水艦の会議室、そこでゼロから告げられた言葉に京介は疑問を呈した。

 

 

「そうだ。ユーフェミアが本国から来る貴族を出迎えにあの島へ向かう情報を得た。彼女の騎士である枢木スザクも共に居るだろう。あの島は戦略拠点では無いため敵戦力も限られている。これはチャンスなのだ」

 

 

ユーフェミア、枢木スザク、聞きなれない二つの人名に京介は何であったかと思考を巡らせる。ユーフェミアとはユーフェミア・リ・ブリタニア、ブリタニアの魔女コーネリアの妹で、エリア11の副総督だったはず。そして枢木スザクは、名誉ブリタニア人として初めてKMFに乗り、そして初めて皇族の騎士となった日本人だ。あのチョウフ基地での戦いでマスコミの都合で正体がエリア11中に広められた存在。京介はただ、チョウフの後のゴタゴタで聞き逃していただけだった。体力お化けの紅月カレンを文字通り身を削って朝まで愛したあげた後、窓から差し込む朝陽の中のピロートークで聞いたのを思い出す。その男が、アッシュフォード学園に通っている友人のような存在だったとも。

 

 

「チャンス? 殺すのか」

 

「その話題は……いや、お前はあの場に居なかったか。何故そう思う?」

 

「姉を失ったゴタゴタの恨みを、言葉通り八つ当たりしたい」

 

 

左拳をパンと右の手のひらに叩きつけて、京介は私怨を告げる。だがその言葉は、ゼロに一蹴された。

 

 

「作戦の主目的は殺害では無い。枢木スザクとランスロットの捕獲だ。我々は暗殺のような手段を取らず、戦場で勝って堂々と捕虜にする!」

 

「捕虜にしてから、その先は?」

 

「そこからは私の管轄となる。どの道奴の存在は体制派の日本人にとって希望となりつつある。その感情が大きくなれば、今後の黒の騎士団の活動にも影響が出るだろう。殺してしまったとすれば、それでは国内の大きな期待や支持を失ってしまう。日本の解放を掲げておきながら、成功した日本人を疎んで殺すのが黒の騎士団だったのかとな」

 

「……チッ。やりたい事は分かった、従ってやる」

 

「助かる」

 

 

ゼロから更に告げられたのは、作戦は少数精鋭で行うと言う事と、愚連隊からは京介と軌道の二人を参加させると言う事だった。

 

 

「軌道だけか?」

 

「紅蓮伍式の輻射波動防壁の実戦データをラクシャータが欲している。将来的に黒の騎士団のKMFに基本装備として組み込む予定なのだそうだ」

 

「分かった、用意させておく」

 

「突撃艇は一番から三番を使用する。浦城と軌道の二人は私やカレンと共に二番に入れ。藤堂は一番艇に他の無頼と、四聖剣は三番を使用して先駆けと殿を務めてくれ」

 

「承知した」

 

 

共に参加していた藤堂の返答を最後に、会議は終了した。

 

 

 

 

 

 

作戦の開始は順調だった。式根島の防衛隊司令部に設置された銃座にミサイルを叩き込み、その隙に先駆け部隊が突入して待機状態の地上部隊を蹴散らしていく。藤堂含めた四聖剣達の五機の月下に続き、京介と軌道の神讃と紅蓮伍式が突入する。他は玉城の無頼が後衛に着き、ゼロを含めた残りの無頼は、基地を見下ろす位置の高台に位置していた。

 

 

「やっぱり良いな、この機体はッ!」

 

 

叫びながら、京介はハルバードでサザーランドを真っ二つにしつつ、左腰に装備されていた電磁投射砲の砲門を基地司令部へと向けた。真ん中からくの字に折れていたそれは今では三本の爪を正面に向ける形で展開されており、背面の弾薬箱から伸びた硬質ゴムで覆われたリンクベルトから弾薬が発射口に送り込まれてくる仕組みになっている。三本の爪は電磁棒となっており、送り込まれた金属の弾丸に電流を流して電磁力を発生させ、それによって弾丸を弾いて射出するのだ。圧倒的なエナジーフィラー容量を誇る神讃が生み出す電力は膨大で、それによって生じる電磁力は多大な威力を発揮させる。射程距離の減衰や連射の不可と言った問題点はあるが、それは大きな問題では無い。事実、電磁投射砲の直撃を受けた司令塔は土台を残して完全に吹き飛んでいたからだ。

 

 

離陸前の戦闘ヘリに機体正面を向け、操縦桿とトリガーでコマンド入力を実施すると、両肩のハードポイントに装着された散弾砲(サンド・バレル)からビー玉サイズの金属球が大量に発射された。銃身が長く無い事から拡散して飛び出した金属球が勢い良く戦闘ヘリやそのパイロットを損傷させ、一気に全滅させる。モニターの向こうに内臓を飛び散らせながら吹き飛んでいくブリタニア兵を捉えながら、京介は背後から突進して来たサザーランドの胸をハルバードの末端で突いた。そうして衝撃で動きの止まった敵機に紅蓮伍式のアサルトライフルが放たれ、爆風を避けるべく神讃は反転して距離を取る。

 

 

≪これでトドメ------おばぁっ!?≫

 

 

突如、通信機越しに玉城の悲鳴が飛ぶ。視線を向ければ、丁度玉城の無頼からコクピットブロックが脱出するところが映った。その先には、腕から放ったスラッシュハーケンを巻き取る白兜------ランスロット------の姿がある。距離のある港から接近していたのを見落としていたのだ。

 

 

「何が少数精鋭だ、アイツより使える奴は居るだろうに!」

 

 

愚痴りながら、京介は藤堂の黒い月下の隣に機体を位置させる。直後、事前に受けていた指示を実行するべく通信が飛んだ。

 

 

≪対象を確認した! 各機第三陣形を取りつつ指定ポイントまで後退せよ! 対象には手を出すな≫

 

「了解! 軌道、防御は任せた!」

 

≪あいよ!≫

 

 

高台に位置していたゼロの部隊とは別に、戦闘部隊は隊形を組んで戦闘領域を離脱する。僅かに生き残っていたサザーランドらから銃撃を受けるも、それは紅蓮伍式の両腕に装備されている輻射波動防壁によって防がれる。あからさまな撤退にランスロットは一瞬迷うような素振りを見せるも、すぐに高台に飛び上がって逃げるゼロを追い掛けて行った。この時点で、ゼロの考えていた作戦はほぼ成功していた。今回のランスロット捕獲作戦の要は、ラクシャータの制作したゲフィオンディスターバーだ。円盤状の装置を円形に配置することでその内部にフィールドを形成し、それによって発生した磁場によってサクラダイトに干渉して活動を停止させる。まだ試作段階だとラクシャータは言っていたが、それをぶっつけ本番で成功させようと言うのだ。

 

 

≪上手く行きますかね、あの作戦≫

 

 

指定ポイントまで遠回りに移動している最中、朝比奈の声が飛んだ。

 

 

≪失敗すればそれまでだろう。その時は戦うだけだ≫

 

≪ゼロが捕まって無ければ良いんだけどね≫

 

≪無駄口を叩くな。急ぐぞ≫

 

 

朝比奈と千葉のやり取りを打ち切らせ、藤堂の指示の下京介達は現場へ急行する。向かうは島の沿岸部にある砂地で、そこにゲフィオンディスターバーが設定されているのだ。レーダーを見る限り、既にゼロはランスロットを罠に嵌めているように見えた。事実、砂地地帯に繋がる森林を抜けると、砂地に作られた窪みの中でゼロの無頼に剣を向けたランスロットが動きを止めていた。その窪みの周辺には、起動状態のゲフィオンディスターバーが設置されている。

 

 

≪捕まえてる! やったぞ!≫

 

 

軌道の快哉を聞きながら、京介達は窪地を囲むように展開する。既にゼロとランスロットのパイロット、枢木スザクは機体を降りて顔を向き合わせていた。茶色い髪をした、白のプロテクションスーツに身を包んだ男だ。ゼロは味方のKMFに囲まれながら、銃を向けている。二人は何事か言葉を交わしていたようだったが、京介は敢えて収音マイクを切って会話を聞くような事はしなかった。単純に興味が無いのだ。ゼロがどのような言葉で枢木スザクを篭絡しようと、何故だか京介には失敗するとしか思えなかった。ただ生きていく事を赦されている名誉ブリタニア人から、皇族の騎士にまで成り上がった男だ。裏切り者とまでは思わないが、並々ならぬ覚悟を持っているはず。かつてゼロに命を救われているらしいが、多少言葉を交わした程度で鞍替えするのなら、逆に信頼なぞ出来る訳が無い。軍の中で白眼視されているであろう事は容易に想像出来るが、それでも居続けているには相応の覚悟と理由があるはずなのだ。

 

 

(……ん?)

 

 

と、京介はモニターの中でスザクが右手を耳元に当てるのを見た。インカムが付いているところに手を当てているのを見ると、どうにも味方からの通信が入っているように見える。こう言った時に、ゼロの仮面姿は面倒だなと京介は思う。表情が見えない分、至近距離で通信音声が聞こえているだろうに反応が読めないのだ。だが直後、ゼロに銃を向けられていたスザクは一瞬の隙を突いてその腕を取り、そのまま銃を奪ってゼロを羽交い絞めにする形で拘束して見せる。同時に、神讃のレーダーが接近する熱源体を複数捉えた。

 

 

≪接近するミサイルを確認!≫

 

 

同じタイミングで熱源体を補足していたのか、通信機から千葉の報告が飛び、藤堂が忌々しそうに声を漏らすのが聞こえてくる。枢木スザクを------味方ごとゼロを殺すつもりなのだ。幾ら優れた実力を持とうと、類まれな性能を持つKMFであろうと、皇族の騎士であろうと、ブリタニア人の皮を被った異物ならその全てを容赦無く切り捨てる。ほんの少しばかりの同情が、京介の心に浮かんだ。スザクはゼロを逃がさないように、その身体を引き摺ってランスロットのコクピットに押し込んでいた。助けようにも、ゲフィオンディスターバーの磁場によってKMFで突入する事は出来ない。既にミサイルの輝きが目視出来る距離にまで迫っており、すぐにでも迎撃が必要な段階にまで迫っている。だと言うのに、突如カレンの紅蓮弐式が窪地に飛び込んで行ってしまった。勿論即座に磁場の影響によって紅蓮弐式はその動きは止めてしまう。

 

 

「あの馬鹿! 何やって------」

 

≪全機迎撃態勢を取れ! 全弾撃ち尽くしても構わん!≫

 

「------クソッ!」

 

 

藤堂の指示の下全KMFが弾幕を張り、ミサイルの迎撃に移る。神讃にはアサルトライフルのような装備は無い。連射の効かない電磁投射砲の代わりに散弾砲を全弾撃つが、接近戦での使用を目的としてそれの効果は薄い。ミサイル着弾までに何発撃てるのかと考えていたところで、京介は紅蓮のコクピットから飛び出したカレンに意識を持って行かれてしまった。何かを叫びながらランスロットに向かうその姿に、京介は酷くショックを受ける。そしてそのショックの原因を自分で理解する間も無く、頭上で広がる迎撃されたミサイルの爆炎が晴れた時、その白い船体は姿を現した。巨大な軍艦のような物体が、緑の蛍光色を底部から輝かせて砂地に展開する黒の騎士団を見下ろす形で上空に静止している。

 

 

「船が……飛んでいる……?」

 

 

思わず言葉を漏らした京介は、その船の底部から禍々しい光が瞬いたように見せた。全身に悪寒が走り、思わずチャージしていた電磁投射砲でゲフィオンディスターバーの一基を吹き飛ばす。これで窪地に居るKMFは動けるようになるはずだった。誰を助けようとしているのかも分からずに居た京介を嘲笑うかのように、直後、白い船体から赤黒い閃光が地表に拡散した。

 

 

 

 

 

 

京介が目を覚ました時、そこは黒の騎士団の潜水艦の格納庫の中だった。額に濡れたタオルが載せられていて、周囲は喧騒に包まれている。上体を起こしてそこで漸く床に転がされていた事に気づき、起き上がった事で床に落ちたタオルを拾って立ち上がった。格納庫には作戦に参加していた全KMFが揃っていたが、その全てがボロボロに損傷している。中でも神讃は右肩の装甲がスラッシュハーケンごと抉れるように損傷していた。整備員達が怒鳴り声を上げながら修理に勤しんでいるところを見つめていると、不意に大声で隊長と呼ぶ声を耳にする。竜胆の声だ。やけにその大声が、頭に響いた。

 

 

「隊長! 目が覚めたんですね!」

 

「っつ……何があったんだ? いつの間にここに帰って来た?」

 

「敵の新兵器からの攻撃を受けたんです。ラクシャータさんが言うにはフロートシステムとか言うので軍艦を飛ばしてって言う……、けど隊長、覚えてないんですか?」

 

「モニターが光でダメになったところまでは覚えてる……」

 

 

どうしても頭痛が酷くて、京介は壁際まで移動すると壁に背を預けて座り込んだ。着ていたジャケットのポケットからモスレムを取り出して、一本吸い始める。拡張した血管が収縮して、僅かばかりに痛みが和らいだ。

 

 

「軌道副隊長から聞いた話ですけど、敵の砲撃を受けた時に逃げ出したランスロットと斬り合ったのも覚えてないんですか?」

 

 

「斬り合った? 俺がか?」

 

 

言われて初めて、京介は断片的になって浮かび上がってきた記憶を手繰り寄せる。上空に居た敵の船から閃光が瞬いた後、確かに白い何かと戦ったような覚えがある。だがはっきりとは思い出せなかった。

 

 

「頭を打って記憶が混濁しているのかもしれませんね……医務室に連れて行きたいところですけど、何人か傷が酷くて今一杯なんですよ。軌道副隊長も軽くですけど怪我をしてて……」

 

「いや、大丈夫だ。俺は後で良い。カレンは……ゼロはどうしてる?」

 

「紅月隊長が保護しました。今は会議室に」

 

 

竜胆の言葉を聞いて、京介は神讃に視線を移した。ランスロットとやり合ったと言われて、漸くその損傷具合に合点がいったのだ。詳細はまだ思い出せないが、特に言及されなかったという事は自分は勝てなかったらしい。作戦は失敗し、敵の新兵器で大きく損害を受け、今は無様に逃げ帰っている。少しずつ現状を理解していくに連れて当時の記憶が蘇り、京介は理由も分からず無性に腹が立った。竜胆に軌道の様子を見るよう理由を付けて追い払って、モスレムに限界が来るまで吸い続ける。そうして吸い終わった吸い殻をズボンから下げていた携帯灰皿の中に押し込むと、京介は立ち上がって格納庫を後にした。濡れたタオルは、そのまま床に置き去りにして。

 

 

会議室に入ると、ゼロや藤堂、カレンと言った戦闘に参加していたメンバー以外にも扇や杉山と言った幹部が揃っていた。入って来た京介の存在に気づくと、ゼロが声を掛けてくる。その声色はエコーがかっていても分かる程、意気消沈しているように聞こえた。

 

 

「浦城、目が覚めたか」

 

「ああ……手酷くやられたな」

 

「仕方あるまい。敵はこちらの予想に反して卑劣な手段を用い、更に新兵器まで持ち出してきたのだ。死傷者を出さなかっただけ幸運だろう」

 

「だろうな。これからどうする? 拠点に戻るか?」

 

「それ何だが……京介に見て欲しいものがあるんだ」

 

 

唐突に扇に口を挟まれ、京介は首を傾げた。扇が合図を出すと会議室の大型モニターの表示が切り替わり、あるものが表示される。それは黒の騎士団の入団希望者のリストで、扇の持ったタブレット端末の操作に合わせて画面が動き、そのリストの中からある人物のものが映し出された。

 

 

「つい先程、俺達の拠点の一つ……カワサキゲットーの地下施設がブリタニア軍の襲撃を受けた。入団希望者のテストを実施していたところで、殆ど皆殺しにされてしまったんだ。幸い他の拠点に繋がる情報は置いていなかったから芋づる式にやられる心配は無いんだが、救援部隊が生き残りに話を聞いたところ、今回のテストより前に募集した入団希望者の中で脱走者が居た事が分かったんだ」

 

 

「脱走者……? けどこの人は------まさか、有り得ないだろう!」

 

 

表示された人物の顔写真を見て、京介は言葉を荒げた。日本解放戦線の軍服を来た女性のバストアップ写真、その顔はやや歳を取っていたが、どう見ても京介の記憶と一致する浦城夏希その人だった。名前も同じ、家族構成にもブリタニア人として生きる弟が居る事が記載されている。その弟の名前は、浦城京介。自分の事だ。

 

 

「藤堂中佐にも確認して貰ったが、この顔写真は間違いなく浦城夏希------君のお姉さんのものだそうだ」

 

「姉さんは死んだはずだろう!? それに、その言い方は気に入らない! 姉さんが裏切ったとでも言うのかよ!」

 

「京介、落ち着いて------」

 

「手前はすっこんでろ!」

 

 

扇に食って掛かった京介を止めようとしたカレンを言葉で拒絶し、突き飛ばした。尻もちをついたカレンの姿を見る事無く、京介は扇と藤堂にそれぞれ視線を移す。熱くなる京介を宥めるように、扇が口を開く。

 

 

「落ち着け! 実際に彼女の姿を見た訳じゃないらしいが、確かに入団テストの最中に脱走した人間が居るのは確かなんだ」

 

 

「だったら誰がこの顔と名前で申請したんだ!? それに俺の日本人としての名前を知っている人間なんて、もう姉さんしか居ないんだ! 死んだって言われたんだ、死んだって言われたのに……このザマは何なんだよ! 誰か説明してくれよ!」

 

 

肩で息をする京介を藤堂が手を上げて静止し、彼はその鋭い眼光をゼロへと向ける。

 

 

「私からも再度説明を求めたい、ゼロ。君はチョウフで私を救出した際、他の捕虜は全員処刑されていたと、確かにそう言ったな?」

 

「ああ、その言葉に偽りは無い。……だが、あの時牢に居た正確な人数まで把握出来ていなかった事は認めよう。実際にあの中に浦城夏希が居たかどうかまで確認する術が無かったのも事実だ」

 

「浦城少尉が共に捕虜になった事は事実だ。だが救出される直前まで脱走したと言う様な話は看守はしていなかった。裏切ったという話もだ。情報が錯綜していたという点を踏まえても……彼女は自力で脱出していたと考えられる」

 

「黒の騎士団による救出が行われる事は知りようが無かったからな。だがそうして脱出して我々と合流しようとしたとまでは読める、だがそれがどうして直前になって脱走したのか------その事実が今の今まで私に連携されてこなかった事も問題だ」

 

 

ゼロはそう言って、扇に関連する事象の調査を徹底的に行うよう指示を出した。今回の襲撃が------京介としては信じたくもないが------浦城夏希によるものだとすれば、その原因と対策を考えなくてはならない。厳しい審査を受けたはずの人間が、実はブリタニアと繋がっていた等と考えれば、今後も同じような事が発生しないとも言い切れないのだ。そんな話を聞いていた京介の情緒はグチャグチャで、藤堂は目の前の少年の背を撫でて落ち着かせる事しか出来なかった。結局その日の京介はランスロットに敗北し、作戦に失敗し、死んだはずの姉が生きているかもしれないと言う事と、更にその姉がブリタニアに内通したかもしれない疑惑を叩きつけられただけだった。自分に突き飛ばされて尻もちをついたカレンが茫然とした様子で立ち上がった事なんて、視界にも入っていなかった。

 

 

 

 

 

 

ゼロによって拠点が襲撃された内情は他メンバーに口外しないように指示を受けて解散した後で、止せば良いのにカレンは一人出て行った京介を追い掛けていた。明らかに憔悴していたその背中を放っておけなかったのだ。だがその行動は明らかに楽観的で、悲劇的な結果を齎す事まではその少女に予測出来るものでは無かった。

 

 

「暫く放っておいてくれ」

 

 

そう言葉を零した京介に、でもとカレンは食い下がったが、それは彼の逆鱗に触れるだけだった。

 

 

「さっきの話を聞いておいて、よくもズケズケと人の心に入って来ようとするな」

 

「私はそんなつもりじゃ!」

 

「人の心配をする前に、後先考えずに突っ走る自分の馬鹿さ加減を心配しろよ! 式根島のあの時……ゲフィオンディスターバーの中に自分から突っ込んで姿まで晒して……何を考えてるんだお前は!」

 

「それは……私は零番隊の隊長で、ゼロの親衛隊で、彼を守らなくちゃいけないから!」

 

 

カレンの言葉を聞いて、京介は通路の壁を思い切り拳で叩いた。ドンッという激しい音の後に、京介は捲し立てるように言葉を続ける。

 

 

「枢木スザクは知り合いなんだろう! 学校の友達なんだろう!? あそこで正体がバレて、俺みたいになったらどうする!?」

 

 

「それは……っ、そうなったら、その時は刺し違えてでも!」

 

 

言った直後、京介の左手の平がカレンの頬を打っていた。乾いた破裂音が響き、その肌が赤く染まる。叩いた手を握り締めながら、京介は更に言葉を荒げた。

 

 

「そんな馬鹿な事しか言えないんだったらなぁ、俺を捨ててゼロの女にでもなっちまえ! 俺はもう御免だ、これ以上自分勝手な女に感情を振り回されるのは! 忠誠心と恋心を無謀で括っちまえるんだったら、最初から俺なんて選ぶな!」

 

「心配してくれているのなら、最初からそう言ってよ! 私は黒の騎士団の戦士だけど、けど、貴方の------」

 

「都合で自分の立場を使い分けようとするんじゃないよ! 男の感情を逆撫でして……クソッ、別の男の為に自分の命を使い捨てるような事をなぁ! 平気で恋人に言うのが今のお前なんだ! 分かるか!?」

 

 

カレンは胸倉を掴まれ、目の前で叫んだ男の茶色い瞳を間近で見つめた。京介はまだ何か言いたそうだったが、後は無言で手を放して背中を向ける。暫くわなわなと肩を震わせていたが、やがて全てを諦めたように脱力した背を向けたまま、その場を離れていく。後に残されたカレンは呼び止める事も出来ずに、遠ざかっていくその背を見つめることしか出来なかった。

 

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