デジモンアドベンチャー エクストリーム~6色の新たなる選ばれし者達の冒険~ 作:瑞田高光
「ここは…………」
奈緒が眼を覚ますと、まず目に入ったのは石のブロックで出来た天井だった。
「え…………一体何が…………?!」
奈緒は体を起こそうとしたものの、両手首に違和感を感じて見てみると……思わず息を飲んだ。
視界には、鉄らしきもので出来た手枷……そして、それと石壁を繋いでいる鉄らしきもので出来ている鎖が見えたのだ。
「何……これ…………え、ど……どういうこと?!」
特にこれといった家財とおぼしき物も一切見当たらない殺伐とした石で出来た室内に奈緒はただただ混乱するだけだった…………
「えっと……どこかから、逃げれないかな…………」
そう考えた奈緒は一度軽く深呼吸をして心を落ち着かせてから、再び部屋の様子を見直してみた。辺り一面が石のブロックで、目の前には鉄製と思われる扉がある程度で……特に気になる場所は無かった…………かと思われたが、壁の一ヶ所に目が止まった。
「あれ、あの場所……少し崩れてる…………?」
奈緒は気になった場所を詳しく見てみたかったが、手枷が邪魔して近付けなかった……そんな時、錆び付いた扉がギィィと音を鳴らして開いた。
「……ほら、食事だ。人間」
そこから姿を現したのは青い帽子をツバを後ろにして被っている小熊を模したデジモン……ベアモンだった。手には石のような物で出来た食器に注がれているスープがあった。ベアモンはその食器を奈緒の近くにゆっくりと丁寧に置くと即座に立ち去ろうとしたが、奈緒はすぐに引き留めた。
「ちょ、ちょっと待って!」
「……なんだよ」
ベアモンは少し不機嫌そうに立ち止まって振り返った。
「ちょっとさ、この手の外してくれない?」
「はぁ? なんでそうなるんだ。そんなことするわけが無いだろう」
奈緒は懇願するように頼み込んだが、ベアモンは冷めた目で座っている状態の奈緒を見下ろして答えた。
「……で、でもさ」
「枷を外さなくても食べれる位置に置いただろう? ……もう、ボクは行くからな」
奈緒が言葉を続けようとしたがベアモンがそれを遮り、立ち去ろうとしたが……奈緒はある事に気がついた。
「ね、ねぇ貴方……背中怪我してない?」
「っ……」
奈緒が訊ねると、ベアモンは動きを止めた。
そう、ベアモンは背中に大きな傷をつけていたのだ。それは新しい感じな上にかなり深いものだったようで、普通に動くだけでもかなり辛く感じれる物だと奈緒はスグに感じれた。それだけではない。注意して見てみれば既に治ってはいるものの、かなりの傷を体に負っているのが見えた。
「貴方、本当はこんなことしたくないんじゃあ……」
「うっさい! たかが人間の分際で……っつぅ」
奈緒が心配そうに問い掛けるが、ベアモンは勢いよく振り返って叫ぼうとしたが背中の傷が痛むのか、その場で蹲った。
「大丈夫?!」
「人間は! ボク達、デジモンの玩具(オモチャ)となってれば良いんだよっ!! だから気安く語りかけるな……っ!!」
奈緒は近付いて言葉を掛けたが、ベアモンはキッと睨み付けると、叫んでいたが、痛みに耐えかねてその場に倒れ伏してしまった。
「っ……! ちょ、ちょっと……大丈夫!?」
奈緒は驚いて近付こうとしたが、手枷が邪魔をして近付けなかった。
「もう……何で…………何で助けれる相手が近くにいるのに、私は何も出来ないの…………あの時みたいなこと、二度とあって欲しくないのに……」
奈緒はそう呟いて涙を静かに流していた…………すると、突然何やら壁の反対側から不思議な音が聴こえてきた。
「え……?」
奈緒が振り向いた直後、手枷の鎖と繋がっていた壁が突然バラバラと崩れ去った。
「……」
そこに居たのは鋭い目付きが特徴的な少女……牧野留姫。そして、そのパートナーであるレナモンだった。
「……貴女、捕まってたのね?」
「え、えぇ……」
「安心しろ。今からここを脱出する」
留姫の問いに奈緒は少し驚きながらも頷くと、レナモンが奈緒の腕についた手枷を壊しながら逃げようと促した。
「あ、あの……このベアモンも連れていってくれない…………かな?」
「……どうして? ソイツはお前を捕らえていたデジモンの仲間じゃないのか?」
奈緒が倒れているベアモンを指差しながら頼むと、留姫は何故かを訊ねた。先程、留姫はこの場所を特定するためにこのベアモンに話を聞こうとしたが門前払いを受けた事をまだ根に持っているようだ。
しかし、奈緒は少したどたどしながらも自分の想いを伝えた。
「た、確かに……私を捕らえてたデジモンの仲間だよ。それでも…………私の目の前で倒れていたら、私はその相手を助けたい。それに、このベアモンも本当はこんなことしたくない筈……」
そういうと、奈緒は倒れているベアモンへと視線を向けた。
すると、何処からかドタドタと走る音が聞こえてきた。
「っ! 留姫。コチラに敵が近付いてくる」
「うん、分かった。それじゃあレナモンは、そのベアモンを担いで行って。私はこの子と一緒に行く」
「了解」
その音を聞いた留姫とレナモンはそう互いに言うと、レナモンはベアモンを担いだまま消えた。そして、驚いている奈緒に留姫は手をさしのべる。
「さぁ、はやくここから逃げましょう」
「う……うん!」
奈緒は嬉しそうに留姫のさしのべられた手を握ると、共に走っていき、その場から脱出した。
これが、峪奈緒と牧野留姫の出会いだった…………