デジモンアドベンチャー エクストリーム~6色の新たなる選ばれし者達の冒険~ 作:瑞田高光
「へぇ、君もトレイルモンに乗って来たんだ……」
「うん! ……勢いそのままに出ちゃったから懐中電灯持ってき忘れたけどね…………エヘへ」
この女の子……香流って言ったっけ…………何か抜けてる感じだなぁ……
俺は今、香流と共に俺の持っている懐中電灯一本の灯りを頼りに暗闇に包まれている街の中を歩いている。辺りには色々なお店のようなのとかデジモン達が住んでいるのであろう家等がある…………けど、住んでいる様子が見えない。足音や何か作業をする音……それにデジモン達の声…………ここら辺の音の全てが聞こえない無音の世界だった。それに光源も今、俺が持っている懐中電灯の灯りだけだ……しかも、この光は有限…………これだけではどうにも不敏だ。何処かで灯りを確保しないと…………
「あれ、ねぇ。輝一……あの家…………」
「ぅん……?」
どうしようかと考えていると、香流が何かを見付けたように俺の服の袖を軽く引っ張る。俺が香流の指差す方を見る(幸いにも手元は辛うじて見れるほどに慣れたけどね)……すると、そこには一軒の家が建っていた。しかも、そこには僅かながら灯りが漏れていた。まちがいなく、誰かが居るのだ。
「行ってみよう!」
「うん!」
俺と香流はその家の方へと駆けていった。
「すみません……どなたか、いらつしゃいますか?」
そして……家の玄関前まで辿り着き、俺が一度中に居るであろう相手へと声を掛けた後に見回してみると、その家の大体の風貌が分かった。その家は丸太で作られている…………いわゆるログハウスという奴だった。しかも、近づいて分かった事が……時折灯りが揺れる事から、その光源は蝋燭なのだとも推察出来る。建物の外見に見入っていると、玄関のドアが開き……中からあるデジモンが現れた。そのデジモンの容姿は何やら戦乙女(ヴァルキリー)の様な姿をした純白な4枚の羽が特徴的なデジモンだった。
「……はい、どちら様で…………って人間……様?! どどど、どうしよう…………本当にあのお伽噺と同じことが起きるなんて……!」
すると、このデジモンは突然僕達を見て慌てふためいてた…………だ、大丈夫……なのかな? ……ってちょっと待って…………さっき、このデジモンはあのお伽噺って言った? もしかして……人間がお伽噺に出てきてるのかな?
「…………あ、すみません。どうぞ、中へ」
少し放心状態だったこのデジモンはハッとなるとスグに俺達を中に入れてくれた。
中に入ると、机の上に小さなアルコールランプが置かれていて、その灯りがなんとも言えない暖かい光を出していた。そして、内装はかなりシンプルにキッチンや寝床……それと、壁一面の本棚に綺麗に収まっている数々の本があり、それからこの戦乙女の様な天使型のデジモンはかなりの勉強家なのかな、と推測出来た。その他の壁には天使型のデジモンが色々なデジモンと写っている写真が飾られていた。
「私の名前はダルクモン。この町……ルスルアタウンの町人です」
「俺は木村輝一。選ばれし子どもの一人だ。それと……」
「小野香流です! 私も一応、選ばれし子ども……だと思う」
「やっぱり、あのお伽噺はホラ話じゃなかったんだ……!」
最初に戦乙女の様な天使型のデジモン……ダルクモンが自己紹介をしてくれたので、俺と香流も自己紹介をする。すると、ダルクモンは目を輝かせて本棚へと向かい、一冊の本を取り出してきた。
「この本は、この世界に伝わるお伽噺なんです。その中の1ページにこう記されているんです……」
そういってダルクモンはあるページの部分を開き、読んでくれた。
あるとき……世界を闇が包み込み、深淵の闇の世界より邪悪根源たるデジモン……マルモンとその仲間らが現れる。その時、光輝く世界は絶望へと傾いてしまう…………
しかし、この世界には目映き希望があった。それは人間の子ども達だ。彼らはリアルワールドからやって来る“選ばれし子ども達”であり、そのパートナーと共にマルモンらと戦い勝利し、そして光を取り戻した。
「へぇ……この、マルモンって…………どんなデジモンなの?」
香流が訊ねると、ダルクモンは下を向いて呟いた。
「…………言い伝えでは、その体は分裂できる上に様々な姿があり……敵を己の世界へと引き摺り込んで、相手にとって絶望を与える姿へと変化する…………と言われてます。マルモンはその名前によらず、恐怖のデジモンと恐れられていたんです」
「なるほど…………」
ダルクモンの説明に俺が頷いていると、その顔は悲しみを持っていき……こう呟いた。
「……それに、このお伽噺は実際に現実となってきてるんです」
「「え……!?」」
俺と香流は驚きを隠せずに訊ねた。すると、ダルクモンは目線を斜め下に移して説明してくれた。
「……実は、この町は元々太陽を司るオリンポス十二神族のアポロモン様と、月を司るオリンポス十二神族のディアナモン様が己の力を使い、平和が保たれている明るい町でした。朝も昼も夜もしっかりとある町だったんです。でも……あのデジモンが…………この町にやって来てからは全てが変わりました。奴の名前はフォンセモン。暗黒や暗闇を司るオリンポス十二神族になれなかったデジモンです。奴がこの町に来てから、この町は漆黒の夜しか来なくなりました。そして、アポロモン様とディアナモン様はフォンセモンへと戦いを挑みに向かいました。しかし…………」
そこまで、ダルクモンが言うとポタリポタリと、涙を流して続けた。
「アポロモン様は成長期へと退化なされ……フォンセモンの能力(ちから)の一つにより遠くへと飛ばされてしまい…………ディアナモン様は……敵の凶撃により……亡くなられました」
「っ!!」
「ひ……酷い…………!」
「それからと言うものの、私以外の町の皆はフォンセモンに恐怖感を抱き始め……次第にフォンセモンの配下へと投降し始めたのです。最初こそは、アポロモン様達の敵討ちをしようと提案するものが居ましたが…………フォンセモンに反旗を翻した者達は……みな、命を落とし……デジタマになったのですが…………フォンセモンがそのデジタマをも吸収してしまい、完全に命を絶たれてしまったのです……今では、その能力を恐れ…………生き残った私以外の殆どの町のデジモン達は…………全てフォンセモンの元へと降りました。その後はどうなったのか、私にも分かりません…………」
力なく話し終えると、香流が恐る恐る訊ねた。
「……あ、貴女はどうするの…………?」
すると、ダルクモンはキッと正面を見据え、その両手で強く握り拳を作った。
「私は…………闘います。命を賭けてでも、この町の平和を取り戻す為に…………!」
ダルクモンの想いはかなりのものらしい。涙を必死に堪えて、いるその目は今気付けたけど……相当毎日泣いてたらしく、眼は充血してて目の下に若干の隈が見えた。相当悩んでいたらしい……俺はその言葉を聞いて居ても立ってもいられずに提案した。
「なら、そのフォンセモンを俺が倒すよ」
「……え?!」
「……俺は、この世界を救う為に…………来たんだ。でも、その為に今目の前にいる悲しんでいる人を放っておくなんて俺には出来ない。だから……フォンセモンを倒すよ! ……大丈夫。俺にはスピリットの力があるから…………」
俺はまず、フォンセモンを倒す。そして……この町を…………この世界を救う。
…………そう決意した事を言った瞬間、隣に居た香流が叫んだ。
「わ……私も! 私も、闘う!」
「「っ!?」」
突然のことで彼女の言った言葉の意味を理解できなかったけど…………彼女も闘うと言っていた……でも、話を聞いてた様子だとデジヴァイスは無いらしいし……スピリットやパートナーデジモンも居ない…………流石に無理がある。
「む、無理だよ! 丸腰のアンタに闘える筈がない!! 輝一は闘う術があるらしいけど…………アンタは? 闘わせるわけには行かないっ!!」
ダルクモンも真剣な表情でそれを拒んだ。すると、香流はそれに首を振って叫んだ。
「それなら……貴女と共に闘うっ!」
「っ!!」
「私も選ばれし子ども達の一員なの。それなのに……何もしないで見ているなんて…………できない!!」
「…………」
「……確かに。ダルクモンが香流のパートナーとなれば…………香流も闘う事が出来るね…………もし、良かったら彼女の想いを汲んでくれないかな……?」
香流の想いに、ダルクモンは黙ってしまった。俺はダルクモンに優しく問い掛けた。すると……ダルクモンは握り拳をほどいて香流に手をさしのべた。
「……分かったわ。私はアンタと…………ううん、香流と共に闘う! 宜しくな、香流!」
「こちらこそ、宜しくね? ダルクモン!」
笑顔で握手を交わす二人……俺はそれを優しく見守った。すると…………突然、香流のジャケットのポケットから光が漏れだした。
「な、何……?」
香流は一度握手していた手を離してその中を探る。そして、その中から光源となっていたものを取り出した。すると……それは俺のとは形は違うけれども…………まちがいなく、デジヴァイスだった……!
「デジヴァイス……私が、香流のパートナーになったから…………?」
「……多分…………ううん、絶対そうよ!」
「そうね! よおうっし、そうとなれば早速作戦会議よ!!」
ダルクモンはそう言って地図を取り出すと俺達に説明をしてくれた。
そう。俺達の世界を救う闘いは…………ここから始まるんだ!!