伽羅≒キョンホジョンリョ>>>>ゴールドシップ≧櫛灘鉄馬>>>>>>>>>>>>>>>>>>トレーナー

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ゴールドシップと暑い日にくだらないゲームをイチャつきながらする話

 時計の針は2を指して刻は14を迎えた。点けっぱなしのテレビでは暑い暑いとアナウンサーが叫び、日差しを背負ったサラリーマンが汗で革靴を滑らせている様子が映されている。

 チャンネルを変えると旅番組、帯のワイドニュース、料理、ファッション、情報バラエティと様々だ。俺が適当に押したボタンの番組では、無名の若手芸人が炎天下の野原で熱湯風呂に入るというよく分からないゲームをしている。全く意味がわからない。結局俺はいつもの情報バラエティにチャンネルを戻した。代わり映えのないクワバタオハラが主婦に人気の生活雑貨を紹介しているが、流石はクワバタオハラ。安定感抜群である。

 

 今日は特に仕事も無くトレーニングも休みなので、こうしてダラけた午後を過ごすと心に決めていた。クーラーの冷風を体一面に浴びれば心は休まり、背中に翼が生えたかのようだ。

 

「あー、極楽じゃあ……」

「おっと、オメー魂抜けかけてんぞ」

「そうか。じゃあ押さえつけてくれ」

「──よいしょ」

 

 ああ、目の前が真っ暗だ。顔面全体が重い。魂が抜けるどころか潰れてしまいそうだ。しかも暑い。なんて熱だ。ミチミチのギチギチで隙間が無いので際限なく温度が上がっていく。

 おまけにこの匂いだ。汗の匂い。布やら皮脂やら何やらが混ざって出来上がる汗の匂いだ。ただしかしどこか納得して落ち着く匂いでもある。いやしかし汗は汗なので永遠と嗅げるわけでもない。ただそれはそれとして不思議と心安らぐ、汗の、どこの部位かといえば、普段は閉じている部分の、腋に近い、そう熱くて、そう重い、そう、コイツの……その部分の……。

 

 まあ、いいや。なんか眠いし。

 うん。顔に置く枕というのも中々に乙なものかもしれない。

 

 なんだか意識が……。

 

「──窒息するだろうがよ!」

「お、魂戻ったか?」

「暑苦しいんだよゴールドシップ! その邪魔な乳を今すぐどけろ!」

 

 俺は全力で起き上がると新鮮な空気を腹一杯に吸い込んだ。ヒトはこの瞬間に生を実感するというが、正しくその通りだと思う。

 命バンザイ!

 

「んだよ、ゴルシちゃん決死の思いで魂押さえてたんだぞ?」

「るせーよ、それでなんで俺が決死の思いしなきゃいけねえんだよ!」

 

 息を整えて、窓の外を見上げて、蛍光灯から目を逸らし、水を一口飲んで、画面のクワバタオハラに目配せをして、ようやく俺は正常な思考回路を取り戻した。コイツと向き合うには正常である事が必須条件なのだ。

 今の自分のSAN値? 考えたくもないね。

 コイツはそこらの神話生物よりもずっと恐ろしい存在なのだから。考えたら負けだ。

 そう、ゴールドシップというウマ娘は。

 

 にしてもコイツ、無自覚にじゃれついてくるもんだから困る。かなり面倒な大型犬だ。一応顔が良くて一応体が出来てるだけに困る。

 

「オメー、考え事多いな」

「……今のでまた考え事が増えたよ」

「おっと」

 

 コイツと正面からやり合うだけ無駄だ。前にそうした時は腰を落としてがぶり寄られて、しっかり腰のベルトを掴まれてホールドされたところを綺麗に投げられて押し倒された。

 だから、コイツとやり合おうなんて考えてはいけない。コイツは化物だ。

 

「トレピー、10回クイズしようぜ!」

「なぜ?」

「1趣回クイズとか1至回クイズのほうがいいのか? 良いぜやろうぜ!」

 

 1趣:10の7×(2の101乗)乗

 1至:10の7×(2の102乗)乗

 

 流石にスケール大きすぎない?

 あと、ヒトの事をタコピーみたいに言うな。撲殺されるぞ。

 

「因みにお題は?」

「んー? 好きって10回言うだけ」

「……嫌だって言ったら?」

「きゃは♪ ゴルシちゃん特性金☆華☆鯖☆折☆り☆が待ってるぞ♡」

 

 助けてくれクワバタオハラ! 

 どうしたらいいんだ!? 俺このままだと殺されるぞ! 肉体的に社会的に! 鯖折りも嫌だけどもう一方も色々不味いぞ!

 いやその、言う事自体は不味くない。別に嘘偽りは無いし、言った事が無いわけでもない。むしろ結構頻繁に言っている方だと思う。

 だがしかし、これはコイツがしかけたゲームだ。どんな罠があるか分からないのに安易に言えばどうなるか分かったもんじゃない。慎重にならなくてはいけないのだ。

 ……何か、何かヒントは無いのか? 起死回生のチャンスは?

 

《このワンちゃんぐっすりマスクを つ け ま す と ! 夜に吠えてしまうワンちゃんも大人しくなって、グッスリスヤスヤ眠ってくれるんで す よ !》

 

 この声はクワバタオハラ……? いや違う、この声はプロショッパーの福島豊だ。或いは商品アドバイザーの福島豊だ。またはQVC福島。

 いや、駄目だろ。QVC福島ではこの逆境を乗り越えられない……!

 ん? ワンちゃんぐっすりマスク?

 

《いいですか皆さん? ワンちゃんにこのマスクを付けますとね、ほらこれヒト用のアイマスクと同じなんですよ。ですから視界の余分な情報や光がシャットアウトされてストレス軽減の効果が期待出来るんですよね!》

 

 そうか、そうかそうか、なるほどね。よし、これに賭けるぜ。

 

「おーーーいトレピッピ? 愛しのトレピッピー? 大丈夫か?」

「え? あ、うん」

《つけ方はとっても簡単! まずはこうやってワンちゃんに近づいて……》

 

 ゴールドシップにゆっくり近づく。

 

「え? お? ま、まだ昼間だぞ?」

《そうしましたらね、ほらこうやって優しくワンちゃんの目にこのマスクを被せるんですよ》

 

 ゴールドシップの目をマスクの代わりに手で顔を覆って──。

 

《こうすればほら……あ、逃げた!》

 

 消えた?

 今、確かに俺の手の中にゴールドシップがいたはずだ……!

 

「何やってんだオメー?」

 

 ……な? そんなまさか!?

 

「背中だよ背中。は い ご」

 

 そんな、ありえない、速すぎる。

 

《はい、慌てず騒がず落ち着いて》

「まさか、このアタシを捉えたつもりでいたのか? あんま驕るなよ」

 

 嘘だろ……なんて反射神経と動体視力だ。キョンホジョンリョかよ?

 

「おい、アタシに背中取られてんのに考え事なんかしてていいのか?」

 

 あ、しまった。

 

「た、タンマ……降参」

《えー、生放送でお送りしておりますのでね、皆さん。生放送ですので》

「はい、摑まえたぁ♡」

 

 終わった。難しい字の“摑まえた”だもん。

 しっかりとバックハグ決められて肩には顎が載せられている。めっちゃ密着されてる。

 誰がどう見てもジ・エンドだ。

 

「……寂しいなあ」

「え?」

「ゴルシちゃん、ただトレピッピと遊びたかっただけなのに」

 

 ──っ。相変わらずズルい事言う。

 

「オメーよう、そんなにアタシと遊ぶの嫌か? アタシ、ウサギちゃんなんだぜ。寂しいと拗ねるぞ?」

 

 あー、面倒くさい可愛さだ。

 

「……分かったよ。やればいいんだろ? やれば」

 

 もうどんな罠でもいい。今この瞬間が一番面倒で粘着質だ。これに足を取られていると俺は駄目になる。コイツとそういうズブズブになったら俺は駄目人間になっちまう。だからここは沼地ではなく罠を選ぶべきなんだ。

 はー、こんなの意識して言う言葉でもねえのによう。ちくしょう。

 

「……スキスキスキスキスキスキスキスキスキスキ。ほら問題は?」

「ん? 問題って?」

「いや、10回クイズなんだろ? なんだったら1至回でも言うぜ」

「ほう?」

 

 あれれ〜? おっかしいぞお?

 これ、罠の中でも最悪の罠じゃね?

 

《──スキスキスキスキスキスキス》

「最近のボイスレコーダーて随分と薄型だよな。技術革新てやつだな」

 

 ハハッ! 素晴らしいね!

 

「あのー、ゴールドシップさん? どんなゲームでもしますからボイスレコーダーを私に貸してくれませんか?」

《──1至回でも言うぜ》

 

 ハハッ! とっても素晴らしいね!

 

「どんなゲームでもするんだろ?」

 

 不味い。物凄く不味い。とんでもなく不味い。どんどん悪い方へと向かっているぞ。どうする?

 ……こうなれば、戦うしかない。

 俺も男だ。例え相手がウマ娘だろうと男として戦うべきだ。

 

「ほらほらどうした」

「──俺を甘く見るなよ」

「……お?」

 

 いくぜ、ゴールドシップ。

 

「ヤケになった人間が! 

 何をするか見てろーーーーー!」

 

→→→→→→→→→

 

 はい、駄目でした。

 私には駄目でした。

 為す術なんてありませんでした。

 自分の事を伽羅だと思ってました。でも私は櫛灘鉄馬より弱いかもしれません。そうに違いない。

 これからの自分の運命を考えると胃が痛くなる。これで胃潰瘍になった場合って、労災になるのかなあ。

 

「オメー、結構気骨あるんだなあ」

「はは……それ褒めてるの?」

「いーや、ぜーんぜん♡」

 

 ねえ助けて福島豊……て、テレビ消えてらあ。オイラは孤独だぜ。

 

「じゃあ、とりあえず金華鯖折りを1

不可説不可説転回な」

 

 1不可説不可説転:10の7×(2の122乗)乗

 あらやだヒトの世が終わっちゃう♡

 

 というか、鯖折りの回数ってなんなんだ?

 

→→→→→→→→→

 

「トレピッピ〜♪」

 

 俺の愛バが俺に甘えてくる。

 こうしてみるとやはり可愛い。それは間違いない。否定はしないし出来ない。紛れもない事実だ。そしてまあ、その無邪気さが俺の上半身と下半身に突き刺さる。

 

「えへへ♪ 楽しいな♪」

 

 そうだな楽しいな。

 俺が鯖折りされて無ければな。

 

「さーて、1不可説不可説転回まであと何回だ? ちゃんと数えろよ」

「そもそも、鯖折りに2回目は無いんだよ。だからずっと1だ1」

「じゃあ、永遠と鯖折り出来るな!」

 

 まあ、コイツが楽しんでいるならいいや。

 それが俺の好きなゴールドシップだからな。

 

 





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