鳥になりたいと願う。

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鳥になった脱兎

 ◆鳥になった脱兎

 

 

 

 小さい頃、鳥になりたいと思っていた。

 空高く舞う翼に憧れた。どんな景色を見ているのか知りたかった。

 

 そして今頃になってまた、鳥になりたいと思うようになってきた。

 勉強するのも、人に気を使うのも、周りの目を気にするのも嫌になって、世間のしがらみから解放されたいと思うようになった。

 逃げたいんだ。義務から、人から、仕事から、何者もいない空へ。

 

 空の中を服も着ないで自由に泳ぐのはどれほど楽しいだろうか。その時の景色はどれほど素晴らしいものなのだろうか。

 ああ、鳥になりたい。

 

 そんなことをつらつらと考えていたら、気がつけば僕は鳥になっていた。

 

『高校生崖から転落 行方不明』

 

 地面に転がる新聞記事で取り上げられたその少年の写真は、間違えなく僕だったものだ。

 あの日、山岳部での部活中足を滑らせたあの時、ふわりと宙に落ちた時、僕の夢は叶ったのだ。

 

 

 

 ビルの窓ガラスに反射して映るのは、青い空に白い雲、照りつける太陽。そしてその手前に、一羽の鳥。

 

 鳥はいい。

 今日も今日とて全身0円コーデ。自前の羽とクチバシさえあれば服なんていらない。

 高く鳴けば僕の声は遮蔽物のない空を揺らし、誰の気にも止まらず遠くまで走る。

 広げた翼で日の光を僕型に切り取って、風に乗って街を見下ろす。鳥の眼は綺麗に空間を捉える。

 蠢く人とぎっしり詰め込まれた建物の上、何も無い空を飛ぶ。

 

 これが僕の欲しかったもの。自由だ。

 

 

 

 遥か空から急降下して、獲物を加えてまた空に戻る。

 

「あっ!くそ、あの鳥野郎俺の焼きそばパン持ってきやがった!」

「はははっ、そんなことある?ウケるんだけど!」

 

 旅をする。

 宛のない旅で、ただ逃げるための旅だ。とりあえず、知らない場所を目指して飛んだ。道中で人の食べ物を盗んで食って、自由に。山を越えて、海を見て、遠くへと飛ぶ。

 のびのびと逃げる。

 

 

 

 ビルの上にある観葉植物の植木鉢の中で丸まる。

 猫が蔓延る地上は怖い。硬いコンクリートは寝心地が最悪だ。それに夏とはいえ夜は寒い。鳥になってからは特に。

 だから僕は、土と葉に埋もれて眠る。

 それでも、寒い。

 

 

 

 地面の近くをくるりと旋回して、一回転しつつ翼を広げて着地する。

 

「おお!すげぇなこの鳥!ほれ、これやるよサンドイッチ」

「ははっ!鳥にお捻りか!いいなそれ、こっちこい、ウィンナーやるよ」

「ばーかお前、鳥は肉食わないって」

 

 芸をすると向こうから食べ物をくれる。楽しげに話す声が嫌に耳に残る。

 ああそうか、肉は食べられないのか。そういえば鳥になってから、味もよく分からない。

 

 

 

 公園にいた子供のSwitchを奪って、クチバシと足で操作して遊んだ。

 ゴミ袋を漁ってジャンプを拾って読んだ。

 人の食い物を奪って、見せびらかすようにその人の周りを飛んで煽って、反応を楽しんだ。

 たまたま見つけた友人に話しかけて、声が出せなくて、弱く鳴くことしかできなくて、彼は首を傾げながら僕の頭を撫でて、その温もりが無性に嬉しくて、それでも涙すら出せなくて。

 

 

 

 

 僕は面倒臭がりで飽き性で、部活も勉強も人間関係も嫌になって、最後には空へ逃げた。

 しかしどうやら、鳥も続かないらしかった。

 

 空から見下ろす街並みは、全て人が作ったものだった。食べるものも人が作ったもの。寝床すら人が作ったもの。気がつけば人から物を貰って生きていた。

 人人人人人人。

 僕は鳥になんてなれていなかった。

 

 畜生道まで堕ちてすら人の気分で生きて、人のように生きれなくて、ようやく人の持つ自由が分かった。

 本を読める。服を着れる。人と話せる。笑い合える。

 僕が考えていた世間のしがらみなんてものは、実際は自由の副産物だった。

 ああ、人に戻りたい。

 

 そんな風につらつらと後悔していたら、気がつけば僕は人になっていた。

 

『行方不明の高校生 全裸で発見される』




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