進藤ヒカルと藤崎あかりの逆行物語   作:藤嶺芳樹

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第十一話

 

平八に蔵の鍵を開けてもらったヒカルとあかりは、そのまま例の碁盤を見つけるために二階を目指した。蔵の中は薄暗く、埃っぽい。その上、独特な匂いがする。

前の世界のあかりはこの蔵の雰囲気を不気味に思い、ビクビクとしていた。が、そこは人生二週目のあかり。そんな様子は微塵も感じられない。

 

 

「確かこの箱のなかだったと思う……」

「手伝うよ、ヒカル」

 

 

記憶を呼び覚ましながら、ヒカルは二階の奥で大きな箱を見つけた。碁盤はこの中に保管されていたはずである。

 

 

(……碁盤を見るのが、正直怖い)

 

 

箱を開けようとして、ヒカルは心の中でそう溢した。

 

 

(碁盤についてた血を、オレはまた見れるのか? ホントにもう一度、佐為と会えるのか? ……佐為が消えちまった理由も、結局よくわからなかった。神の一手なんか、極めてないはずなのに)

 

 

前の世界の佐為自身は、自分が蘇った理由を何となしに理解していた。それは塔矢行洋との名局を、進藤ヒカルに見せるため、だと。

だが、ヒカルにそれを伝える間もなく佐為はいなくなってしまった。残されたヒカルがそんな理由を知る由もない。思考はネガティブな方向へと進んでしまう。

 

 

(もしかして……。もしかして佐為は、ずっとオレの近くにいたんじゃないか? オレが他の皆と同じように、佐為のことを見えなくなってしまっただけで……。だとしたらオレはーー)

「ヒカル」

 

 

途中で手が止まってしまったヒカルを見て、あかりは自分の手をヒカルのそれに重ねた。ハッとして、ヒカルはあかりを見る。あかりは微笑んでいた。

 

 

「大丈夫だよ、ヒカル」

「あかり……」

「大丈夫だから。私も一緒にいるから。だから、勇気を出して」

 

 

あかりの言葉がヒカルの胸にスッと入ってくる。

そしてヒカルはぎこちないながらも笑みを浮かべてーー

 

 

「じゃあ、開けるぞ?」

「うん」

 

 

二人は一緒に箱を開ける。

中には皿や花器、巻物などか入っていた。そしてそれらと一緒に、無造作に入っていた年代物の碁盤。

 

 

(血の跡は……っ! 見えるっ!)

 

 

碁盤の角に何かついているのを確認できたヒカルは、急いで碁盤を引っ張り出した。そして少し広い空間に持ってくると、再度確認する。

 

 

(見える。見ることが、できた。この黒いシミを……)

 

 

安心感とともに、涙が溢れてくる。

別れを告げることもできなかった。後悔ばかりして、一時は囲碁を止めることも考えた。伊角さんと対局をし、自分を納得させて再び歩き始めたが、それでも心の中で何かしこりのようなものが残っていた。二度とそんな思いはしたくない。する気もない。

 

 

(今度は絶対に、同じ間違いはしない)

 

 

そう決意したヒカルは、そこでようやく後ろから碁盤を覗きこんでいる幼馴染の存在に気づいた。

そのあかりは眉を下げ、困惑した様子でヒカルに声をかける。

 

 

「ねぇ、ヒカル? その……。私にも、見える」

「えっ……」

「碁盤のシミ……。ここら辺にあるのが、私にも見える」

「っ!?」

 

 

あかりの言葉に衝撃を受けるヒカル。あかりが指した場所は、間違いなくヒカルにもシミが見えている場所であった。

 

 

(どういうことだ? なんであかりにもシミが見えてるんだ?)

(これがヒカルの言ってたシミ? でも何で? 何で私にも見えているの?)

 

 

動揺する二人。

そしてついに、そんな二人に声がかけられた。

 

 

(ーー見えるのですか?)

「「っ!?」」

 

 

急に聞こえてきた謎の声。

だが、片方にとっては待ち望んでいた声でもあった。

 

 

(ーー私の声が聞こえるのですか?)

「ヒカル……。これって……」

「あぁ、そうだよ」

(ーー私の声が聞こえるのですね)

 

 

不安げなあかりに、ヒカルはうなずく。鼓動が速くなっていくのを、自分でも感じていた。

 

 

(ーーいた。いた。あまねく神よ、感謝します)

(それは、こっちのセリフだよ)

 

 

ヒカルがそう思うのと同時、突如として碁盤から美しい男性が現れた。烏帽子をかぶり、和服姿。その手には扇子が握られている。

その光景にあかりは目を見開き、ヒカルは涙を流した。

 

 

(ーー私は今一度……。今一度……、現世に戻るーー)

(おかえり、佐為ーー)

 

 

その直後、ヒカルとあかりは倒れる。

逆行した二人と平安の碁打ち藤原佐為。三人はこのようにして出会ったのだった。

 

 

 

 

 

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