進藤ヒカルと藤崎あかりの逆行物語   作:藤嶺芳樹

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第十三話

 

蔵から出てきた三人は、再び平八に会うために縁側へと向かう。

平八は先ほどと同じように詰碁を解いていたようで、二人に気がつくと再びにっこりと笑った。

 

 

「ヒカル、用事は済んだのか?」

「うん。ありがと、じいちゃん」

(ーーヒカル! あかり! この者、囲碁をしておりますよ!)

 

 

ヒカルとあかりの頭の中で、佐為が喧しく騒ぐ。相変わらずの碁バカっぷりに、ヒカルは苦笑した。

そんなヒカルの様子に平八は不思議に思いながらも、用件を口にする。

 

 

「ヒカル。それにあかりちゃん。二人ともこの後時間はあるのか?」

「? オレは用事も済んだし、特にこの後は何もないけど」

「私もです。今日はヒカルに着いてきただけなので」

「そうかそうか。ならこの後、ワシと碁でも打っていかないか?」

(ーー打ちたいです!)

 

 

平八の言葉に、佐為が食い気味に食いついた。全身を使って打ちたいアピールをする。

 

 

(ーーヒカル! あかり! 私打ちたいです! あぁ。現代に蘇り、こんなに早く碁を打てるなんて……)

 

 

感動に打ち震えてる佐為に、ヒカルは再度苦笑した。

 

 

「じゃあ、打っていこうかな。あかり、いいか?」

「うん、もちろん。私は見学するね」

「そうかそうか! だったら二人とも、上がりなさい!」

(佐為。お前に打たせてやるよ)

(ーーありがとう、ヒカル!)

 

 

抱きついてくる佐為に、ヒカルは現代の囲碁の説明をする。

 

 

(佐為。平安、江戸、そして現代に碁は受け継がれてきているが、ルールに一つ変更があるんだ)

(ーールール? ルールとは何ですか?)

(ルールってのは……。えっと……。まぁ、碁を打つ上での守りごと、というか規則みたいなもんかな)

(ーーなるほど。それに変更があるというのですね?)

(あぁ。現代の囲碁にはコミというものが存在している)

(ーーコミ、ですか。それはいったい?)

(簡単に言うと、先手のハンデみたいなものかな。囲碁は先手が有利なようにできているから、後手は最初から五目半の貯金があるんだ)

(ーーそんなものが。確かに私は黒石を持って負けたことはありませんでしたが)

(この時代は五目半だけど、先の未来では六目半になるんだぜ)

(ーーなるほど。それは確かに、いろいろ考える必要がありそうですね)

 

 

ヒカルは碁盤の前に座ると、白石を握った。平八は黒石を握る。

 

 

「ヒカル、正座じゃなくてもいいぞ?」

「いや、大丈夫。こっちの方が身が入るし。……六、八。オレが先手だね」

 

 

碁笥を互いに交換し、頭を下げる。

 

 

「「お願いします」」

(さて。佐為、初手は? ……。……? 佐為?)

 

 

ヒカルが後ろを振り向くと、目を瞑り、涙を流す佐為の姿が。

 

 

「……。じいちゃん、ちょっと待ってて。ちょっと深呼吸」

「? まぁ、構わんが」

(ここにいる佐為も、140年ぶりの碁だもんな。そりゃ、嬉しいに決まってるよな)

 

 

ヒカルがわざとらしく深呼吸をしていると、頭の中で声が響く。

 

 

(ーーありがとう、ヒカル。もう大丈夫です)

(わかった。じゃあ、初手は?)

(ーーえぇ、では。右上スミ小目)

(ははっ。だと思ったぜ!)

 

 

ヒカルは碁笥から黒石を一つつまみ、盤上へと打った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ありません」

「ありがとうございました」

 

 

結果は黒の中押し勝ちだった。あまりのヒカルの強さ。これには、自分よりも棋力が上だと予想はしていた平八も驚きを隠せない。

 

 

「ヒカル。お前、天才なんじゃ……」

「天才なんかじゃねぇよ。オレよりすごいやつなんて、いっぱいいるさ」

 

 

思い出すのは前世のおかっぱライバル。あれこそ天才だろう、とヒカルは思っている。

 

 

「いやいや。始めたばかりでこれは、正直ありえないくらいだ。ヒカルは碁に愛されているのかもしれないな」

「……どうだろうね」

(オレより愛しているヤツがいるのは確かだろうけど)

 

 

満足げな表情の佐為をチラッと見るヒカル。そんなヒカルに平八はさらに質問を投げかけた。

 

 

「普段はどうやって碁を勉強しているんだ?」

「勉強……というか。いつもオレの部屋であかりと打ってるくらいだけど」

「それだけか? というかヒカル、お前碁盤なんか持っとったのか?」

「それだけだよ。持ってるのは碁盤というか、小遣いで買った小さい折りたたみのやつだけど。なぁ、あかり?」

「うん、そうだね。あとは詰碁をたまにやるくらい?」

 

 

二人の言葉に、今日何度目かわからない衝撃を受ける平八。

それだけのことでこの二人はここまで強くなったのか、と。

 

 

(まったく。将来がホントに楽しみになる二人だな。……小遣いはやれんが、餞別でも送るかの)

 

 

後日、足つきの二桁万円の碁盤が進藤家に送られ、進藤一家とあかりの度肝を抜くことになる。

だがそれは、祖父の期待の表れでもあった。

 

 

 

 

 




小遣いはやれなくても、お高い碁盤は買ってあげちゃうおじいちゃん。
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