進藤ヒカルと藤崎あかりの逆行物語   作:藤嶺芳樹

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第十八話

 

(ーーヒカル、あかり。あの者はいったい何者なのですか?)

 

 

職員から院生志願書をもらった二人は説明を聞き、一般対局室を目指し歩いていた。道中、佐為が二人に問いかける。

 

 

(そっか。前の世界の佐為は囲碁教室に通ってるときにテレビで天元戦を見たし、1月の囲碁大会にも見学に行ったから会ったことがあるけど、この世界の佐為は名人を見たことすらなかったっけ……)

「あの人は塔矢行洋名人。塔矢の親父さんで、今日本で一番碁の強い人だな」

「神の一手に一番近い人、とも言われているよね」

(ーー! 確かにあの者、気迫が本因坊秀策であった私に挑んできた数多の好敵手達と同じ気迫でした!)

「まぁ、ただ者ではないことは確かだな」

 

 

ヒカル達が対局室に入ると、行洋は座って二人を待っていた。中にいた人数はそれほど多くなかったが、周りの人は行洋の方をチラチラと見て様子をうかがっている様子である。

 

 

(うわぁ、行きたくねぇ)

 

 

もちろん、そんなことはできないが。

二人は視線を感じながらも、行洋の前に腰を下ろす。

 

 

「お待たせしました」

「いや、急に時間をくれと言ったのはこちらだ。すまないね」

 

 

行洋は腕を組みながら、二人を見据える。

 

 

「話というのは、先日アキラと二人が打った碁についてだ。実に興味深かったよ。片やアキラの手に負けじと切り返し、片やアキラの手を軽やかにかわしリードを奪う。まさかそんな子供達がいるとはな」

 

 

行洋は碁笥の蓋を開けるとあかりの前に置いてあった碁盤に四つ黒石を置き、そのまま碁笥をあかりの方へと渡した。

 

 

「キミ達の実力が知りたい。お嬢さんは石を四つ置きなさい。そしてキミは……互先で打とうか」

「っ!」

(ーーヒカル! この者と打たせてください!)

(……。言うと思った)

 

 

行洋の申し出に、佐為が食い付く。

ヒカルは諦めたようにため息をつくと、佐為に心の中で語りかけた。

 

 

(いいぜ、佐為。お前に任せるよ)

(ーー本当ですか!?)

(あぁ。でも塔矢の親父さんはマジで強いぜ?)

(ーーえぇ。それはわかっていますとも)

 

 

闘志を漲らせる佐為を横目に、ヒカルは石を握った。合わせて行洋も石を握る。

 

 

「オレが先番ですね」

「……本当は一人ずつ打ちたいのだが、今日は二面打ちで許してほしい」

「いえ、そんな」

「こちらこそ、胸を借りさせていただきます」

 

 

こうして二面打ちではあるが、この世界での佐為と行洋の対局は、こうして始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言ってしまえば。

あかりは四子置き、行洋に勝利した。途中貯金をほぼ使い果たしたのだがそのまま粘り、どうにか2目残った形である。

逆に佐為の方はというとーー

 

 

(ーーありません)

「……。ありません」

 

 

佐為の言葉に合わせ、ヒカルも頭を下げる。こちらは行洋相手に黒星だった。

佐為が悔しそうに唇を噛むが、これは残念ながら当然の結果と言えた。なぜなら佐為は現代の碁に触れてからまだ日が浅く、この世界のヒカルに負け越している状態である。前の世界ではネット碁を通じて強くなり、それでようやく行洋と互角だったのだ。勝てる道理がなかった。

 

 

「……。キミは……。進藤くんは、随分古い定石で打つんだね」

「え? えぇ、まぁ。秀策の棋譜は好きで、よく並べるんです。今回も、秀策っぽく打ってみました」

(ーー古い……)

(だ、大丈夫だよ、佐為さん。昔の定石にも、たくさんいいのがあるんだから!)

(ーー昔……)

 

 

行洋の言葉にショックを受けた佐為を、あかりが慰める。そして失敗していた。

もちろん行洋に心の声は届いていないので、ヒカルの言葉に反応する。

 

 

「秀策っぽく、打つ?」

「はい。えっと、院生試験を受けれるように働きかけてくれた塔矢名人には言っておこうと思うんですが、実はオレ、今二種類の打ち方で碁を打っています」

「二種類?」

「はい。とは言っても、一つは普通の打ち方です。今時というか、現代っぽいというか、そんな感じの打ち方です。……そしてもう一つが、昔の秀策っぽい打ち方です」

「……」

 

 

行洋は驚きに目を見開く。この少年はそんな器用なことができるのか、と。

 

 

「では先ほどのものは……」

「はい。現代の最強棋士である塔矢先生に、江戸時代の天才棋士がどれだけ通じるのか試したくなりまして。……すみません」

「……」

 

 

ヒカルの言葉に、今度こそ行洋は言葉を失った。だがそれも束の間、すぐに笑いが汲み上げてくる。

 

 

(まさか。まさかこちらがこの少年を試そうとしていたのに、逆にこちらが試されているとはな!)

 

 

ポーカーフェイスで笑みこそ隠したが、興奮と期待は隠せそうになかった。すぐにこの少年はこちらに、プロの世界にやって来るだろう。

だからこそ、疑問に思ったことがある。

 

 

「進藤くん、キミは強い。すぐにでもプロの世界でやっていけるだろう。だから不思議だ。キミはなぜ、院生になりたいんだい?」

「……」

 

 

行洋の問いに、しばらくヒカルは無言だったが、その後困ったように笑った。それを見て行洋も、ふっと笑う。

 

 

(答えてはくれなかったが、まぁいいだろう。彼は間違いなくプロになり、新しい波としてやって来る。彼女もきっとそうだ。すぐに頭角を表してくるのはアキラくらいだと思っていたがーー)

 

 

囲碁界の未来は明るい。

行洋は、そう確信した。

 

 

 

 

 




どうでもいいんですが。
最近ヒカルの碁のアニメのオープニングを久しぶりに見まして。
3期opのあかりちゃん、まじで可愛すぎません?
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