進藤ヒカルと藤崎あかりの逆行物語   作:藤嶺芳樹

2 / 39
逆行 小学生編
第一話


 

「んっ……」

 

 

陽の眩しさに顔を顰めつつ、ヒカルは瞼を薄く開ける。

あかりの手を握って寝たはずだったが、すでに右手にその感触はなかった。いつもあかりの方が早く起き、自分のために朝食の準備などしてくれているので、そこに違和感はない。ただーー

 

 

(あれ? うちの天井こんなんだったっけ?)

 

 

知らない天井ではない。ただ、違和感を覚える。

寝ぼけ眼を擦り、体を起こす。そこで部屋の様子が目に入った。

勉強机、マンガ、サッカーボール、ランドセルーー

 

 

「はぁ?……っ!」

 

 

いつもあかりと寝ている寝室とのあまりの違いに、思わず声を洩らした。そして自分のものとは思えない子ども特有の高い声を聞き、絶句する。

 

 

(いや、待ってくれよ。ここって……子ども部屋、だよな。俺の実家の。……はぁっ? 待て、待ってくれ、意味がわかんねぇ)

 

 

ベッドから抜け出し、立ち上がる。そしていつもとは異なる自分の視線の低さに、再び言葉を失くす。

 

 

(……いや、流石に夢だろ? 夢でしかないだろ、こんなの。そんな、ありえないって)

 

 

部屋のドアノブに手をかけ、部屋の外に出る。

少しひんやりとしたノブの感触、まるで新築のような実家の様子に、ヒカルは自分の動悸が速くなるのを感じた。

 

 

(ありえねぇ! こんなん、ありえっ!)

 

 

思わず駆け始めたヒカルだったが、2、3歩したところでうまく走れずにその場で転んだ。まるで、自分ではない体で走っているような感覚。そしてーー

 

 

(い、痛ぇ。……。……夢なのに痛い? んなバカなことあるわけっ!)

 

 

頭を振り、ヒカルはありえない考えを吹き飛ばす。

今度は転ばないように、階段を一段一段とゆっくり降り始めた。そして一番下まで降りたところで、ある人物と邂逅する。

 

 

「あら、おはようヒカル。自分でこんな早く起きてくるなんて珍しいわね?」

「……」

 

 

そこにいたのは、ヒカルの母である美津子だった。

ヒカルは目を見開き、自分の母の姿を見つめる。

 

 

「それより、さっき二階から結構大きな音がしたけれど、何かあったの?」

「……」

 

 

美津子の問いに無言で答えるヒカル。

最近白髪が増えてきて嫌になっちゃうわ、と美津子から愚痴を聞いていたヒカルだったが、目の前のその人にそんな様子は見受けられない。というよりもーー

 

 

「……若ぇ。時を駆けちゃった母、ってか?」

「えっ?」

「いや、何でもない。……顔洗ってくるわ」

 

 

怪訝そうな顔の美津子を残し、その場を後にするヒカル。

洗面所へと入り、すぐに鏡を確認した。そこに映りこんでいるのは、間違いなく自分の姿のはずである。

 

 

「……は。……はは。マジ、かよ」

 

 

おじさんになってからは染めてしまった前髪は、なぜか立派な金に輝いている。目はくりっとしていて大きく、身長の低さも相まってお世辞にもその姿は青年と言えないだろう。

ここまでくれば、ヒカルもこの不可解な現実を受け入れざるをえなかった。

 

 

「……。まさかオレ、過去に来ちまった、のか?」

 

 

その言葉を肯定してくれる者は、誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 




あかりの家族の名前が誰一人としてわからない……。
父、母、姉、犬の家族構成ではあるらしいんですが。

どなたかご存知ですか?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。