「お義父さんが言ってたけど、簡単に言えば碁の塾なんでしょ?」
「そこの入る試験を受けるだけで1万3650円もいるなんて、すごい世界なのね」
院生試験当日。
ヒカルとあかりは二人の母親を連れて日本棋院を訪れていた。
「強いヤツばっかりがいる、入るのも難しいとこだからなぁ」
「近所の囲碁教室とは全然違うしね」
「まぁ、お義父さんも強く薦めてたからいいけどね。勉強も最近は熱心にやってるみたいだし」
「私もあかりだけだと心配だったけど、ヒカルくんがいるなら安心だわ。面倒みてあげてね、ヒカルくん」
「逆ですよ! あかりちゃん、ヒカルのことよろしくお願いね!」
「あはは……」
「……」
二人の母親の言い様に、困ったように笑うあかりと無言で頬を掻くヒカル。そんな母親達をヒカルは先導し、受付へ。
そこでは職員がすでに待っていた。
「あぁ。進藤くんと藤崎さんだったね。今案内するよ」
四人は六階へと案内される。途中、碁の打つ音が部屋から聞こえてきた。佐為の目がキラキラ光り出す。
(ーーヒカル、あかり! あちらで碁を打ってる者達が!)
(はいはい。でも今日は試験だからお預けな)
(ーーそんなご無体な!?)
ヒカルが一刀両断した。ヒカルの声はあかりに聞こえなかったが、何となく状況を察して苦笑する。
奥の部屋へと向かうと、そこにはすでに篠田の姿があった。
「先生、最後の子達がみえてます」
「あぁ、ハイハイ。どうぞ」
篠田に案内された四人は中に入る。
「先に……女の子の方から始めようか。どうぞそっちに座って。志願書と棋譜を見せてください」
あかりは篠田の正面に座ると、言われたものを手渡す。
そのときヒカルも正座をしたことに美津子は驚いた様子だったが、今回は割愛。
「棋譜は……と」
(……。うん、とても丁寧な打ち方だ。相手もそれなりに強い。すでに1組の力はありそうだな)
一枚目を見てあかりの力に感心する篠田だったが、二枚目の棋譜を読み進めていくうちにそれは驚きに変わっていく。
(これだけの力があるのに、二枚目は負けの棋譜!? というか、相手はあの塔矢アキラだと。あの塔矢アキラに、これだけの碁を打ったというのか?)
ちなみにアキラ自身に使用許可をとってはいないが、その親父さんと打ったときに親父さんから許可をもらっている。ゆえにセーフである。
篠田は棋譜を読みながら、あかりに問いかけた。
「この塔矢アキラというのは……名人の息子さんの?」
「はい、そうです」
(……。だとしたら、この子の実力は申し分ない。流石、塔矢名人が推薦するだけはある)
そして三枚目。その三枚目の棋譜を見た篠田は言葉を失った。
(……。三枚目も、負けの棋譜……。だが、これは……)
「……。藤崎さん。この三枚目の、進藤ヒカルという人は?」
「進藤はオレです」
もう一人の受験者である少年がそう答える。再度、篠田は絶句した。
(バカな……。これほどの打ち手が、この少年だと? この三枚目は間違いなく指導碁だ。この少女の力を存分に出しきらせる棋力、間違いなくプロの高段者の実力があると言っても過言ではない。だとしたら、この少年はーー)
ゴクリと唾を飲み込む篠田。震える声で、ヒカルに尋ねる。
「藤崎さんと打つ前に、先に進藤くんの棋譜を確認していいかい?」
「? どうぞ」
ヒカルが不思議そうにしながらも渡した棋譜を、急いで確認する篠田。
(……バカ、な)
三枚とも指導碁である。しかも一つは、塔矢アキラに対して。
とんでもない力を持った受験者の出現に、思わず乾いた笑いが洩れてしまった。
「とりあえず、一人ずつ打とうか」
(これは大変なことになったかもしれない)
塔矢名人の推薦というともあり、期待はあった。
だが、そのうちの一つが特大の爆弾であることに篠田は頭を悩ませることになるのであった。
次回で院生試験終了です。