進藤ヒカルと藤崎あかりの逆行物語   作:藤嶺芳樹

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第二十話

 

「ヒカル。お母さん達一階の喫茶店でお茶飲んでるから、終わったら呼びに来て」

「頑張るのよ、二人とも」

「うん、わかった」

「また後でね」

 

 

篠田から小一時間試験がかかると聞いた母二人は、ヒカルとあかり二人を残して部屋を後にした。そしておしゃべりをしながらエレベーターに乗り、一階へ。

その様子を、二人の少年が見ていた。

 

 

「あぁ、今日院生試験やってたんだ」

「みたいだな。二人同時……ってのも珍しいけど」

「二人同時なのか?」

「今母親っぽい人が二人出てきたからな。たぶんだけど」

「なるほど。どんなヤツが受けてんだろうな?」

「わかんねぇけど……」

「ん?」

「たぶん、二人とも受かる気がするぜ」

「なんだよ、それ。勘か?」

「勘だよ」

 

 

一人の少年は、ニヤリとそう笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やはり、強い。1組上位の力は、すでにある)

 

 

三子を置いて始まったあかりの試験。

篠田はそのあかりの実力に舌を巻いていた。

 

 

(こちらが厳しい手を指しても、しっかり打ち返してくる。被害を最低限に抑えるように、冷静に。無理をしようとせず、手に焦りも感じられない。到底、子どもの打ち方とは思えない)

「このくらいにしとこうか」

「……」

 

 

篠田がそう声をかけるが、あかりの視線は盤上に向いたまま。こちらの声が聞こえていないようだった。

 

 

(すごい集中力だ)

「キミ」

「っ! あっ、はい」

「このくらいにしとこうか」

「えっ。わ、わかりました」

 

 

先ほどより強く呼びかけると、今度は反応があった。

対局について簡単に触れながら、篠田は志願書を確認する。そしてそこでまた驚愕。

 

 

(碁を始めて一年!? 倉田四段を思わせる素晴らしい成長ぶりだ。しかもーー)

「キミ、師匠がいないって本当かね?」

「えっ。はい、そうですね。強いて言えば、そこにいるヒカル……くんが師匠みたいなものです」

「っ!」

(だから彼は何者なんだ!?)

 

 

師匠なしでこれだけの力をつけたとしたら、この少女はすごい素質の持ち主だと考える篠田。……逆に、この少年の異様さが際立ってしまったが。

ヒカルの対局前に、篠田はヒカルの志願書を確認した。

 

 

(……。……少女と同じく、囲碁歴一年。師匠もいない。……最早、素質があるとかの次元ではない。これは異常だ)

 

 

冷や汗を流す篠田。そんな篠田に、ヒカルが問いかける。

 

 

「あの、置き石は?」

「……互先でやろうか。キミが先番で」

(石なんて置かせられるか!?)

 

 

心の中で絶叫する篠田。そして対局が始まるとーー

 

 

(っ! この気迫! 間違いなくプロの、しかも高段者のものだ! 私が30年前にプロになり、そこで闘い続けて受けてきたもの。院生師範となってからは感じることがなくなったものだ。本当に、彼はいったい何者なんだ!)

 

 

「……このくらいにしとこう」

「えっ」

 

 

あかりの時よりもさらに短い、数十手のところで篠田は試験を終了させた。困惑を隠せないヒカルに、篠田は真剣な目でヒカルを見つめる。

 

 

「対局はキミ達の力を見るためのものだから。キミにはこれ以上いらないだろう」

「……」

「正直に言おう。キミは強い。すぐにプロになれるだろうし、瞬く間に活躍もするだろうね。だからこそ、院生になる必要なんて感じられない。逆にキミが院生になることで傷つくことがあるかもしれない」

「っ!」

「それはキミもわかっているだろう。なのになぜ、キミは院生になりたいんだい?」

 

 

ヒカルは恐る恐る篠田の顔を見る。篠田は真剣な目をしていたが、前の世界と同じ優しい目をしていた。

だからこそ、今の心情をそのまま口にした。

 

 

「……。先生。オレとあかりは、ずっと二人で碁を打っていました。打っているうちにどんどん碁を好きになって、そしてプロになりたいと思うようになったんです」

「……」

「それと同時に、こう思うようにもなりました。『同年代の仲間と碁を極めたい』って」

「……。なるほど」

 

 

篠田は納得した。

簡単に言うと、同年代の碁打仲間を見つけたいのだろう。彼らと一緒に碁を打つ者を求めて、やってきたわけだ。

 

 

「先生。囲碁は二人で打つものです。でも、囲碁は皆でつくるものだとも考えています」

「!」

「先人達が定石をつくり、そこから多くの人達が研究して手を加えてきた。そしてそれが現代に繋がっている。『神の一手』は、多くの人達の手によって成り立つものなんです。オレは、仲間とともに『神の一手』を極めたい」

「……」

「オレを、ここに入れていただけませんか?」

 

 

頭を下げるヒカル。

それを見て篠田は、一つ息を吐いた。

 

 

(藤崎さんは合格でいい。問題は進藤くん。これだけの強さを持った者を入れたらどうなるか)

 

 

簡単に予想できる。毒にも薬にもなるだろう。

 

 

(藤崎さんをここまで強くしたのが進藤くんならば、彼の碁に触れて成長する者も多いはずだ。だけど逆に不貞腐れて……最悪、碁を辞めてしまう者も出てくるかもしれない)

 

 

いろいろなことを天秤にかけ、そして最後に篠田は一つの結論を出す。

 

 

(……何かあったら責任を取ろう。彼が入ることで子ども達が成長するなら、そして何より彼自身が目的を持ってそれを求めているなら、私が反対することではない)

 

 

篠田はニコリと笑うと、緊張している二人に合格の声をかけた。

 

 

 

 

 




すいません、院生試験終わりませんでした。
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