1月末の日曜日、葉瀬中では創立祭が執り行われていた。
多くの屋台が並ぶ中、ヒカルとあかりはある人物を連れてこれに参加している。その人物とはーー
「なぁ。マジでお前らバカップルと一緒に創立祭を回んないといけないわけ?」
「そりゃそうだろ。何てったって、お前は賭け碁でオレに負けたんだからな、三谷」
三谷祐輝であった。
……話は、冬休み明けの小学校にまで遡る。
「ヒカル! 私、見ちゃった!」
給食終わりの昼休み。
周りの男子達は校庭に走っていく中、図書館から借りてきた碁の定石本をペラペラめくるヒカルにあかりは興奮したように話しかけた。
ちなみにこれはヒカルが読んでいるわけではない。後ろの方のためのものである。
「見ちゃったって……何を? 幽霊?」
「ううん、違うよ!」
(まぁ、犬コロみたいなのはすでに見えてるけど)
(ーーなに!? 何みたいなやつ!? ヒカル!)
定石本を読みながらも抗議してくる霊を無視し、ヒカルはあかりの話を聞く。
「んで? 何を見たんだよ、あかり?」
「三谷くん」
「っ!」
あかりの言葉に、ヒカルは動きを止めた。
「三谷って……あの三谷?」
「うん。あの三谷くん」
三谷祐輝。
前世では囲碁部で共に時間を過ごした、大切な仲間であった。……ただ、自分勝手な都合で仲違いをし、最後は疎遠になってしまったが。
「へぇ。同じ小学校だったんだな。知らなかったわ」
「私も」
そうすると、あかりは何か言いたげにこっちを見てくる。それだけで何が言いたいのか、だいたいわかった。
「まぁ、今回は最後まで仲良くしたいよな。アイツ、いいやつだし」
「! うん!」
あかりはヒカルの言葉に満面の笑みを浮かべた。というわけで、早速作戦を考える二人。
「もうこの時期って、三谷は賭け碁やってんのかな? できればやらせたくないけど」
「どうだろう……。直接聞いてみるしかないかな」
「正直に答えてくれるかわかんねぇけどな。とりあえずコンタクト取らないと始まらないし、今日の放課後にでも声かけてみるか」
「うん、そうだね!」
最早作戦ではなかったが。
そして時は流れ放課後、二人は廊下を歩いてる三谷に声をかけた。
「こんにちは、三谷くん」
「? えっと……。あんたら誰?」
「私は1組の藤崎あかり。それでこっちがーー」
「同じ1組の進藤ヒカル。よろしく」
「……。あぁ! 冬休み前くらいから噂になっている1組のバカップル二人か!」
「バカップルか……」
「えへへ……」
自分の言葉に照れくさそうに笑う二人を見て、めんどくさいやつらに絡まれたと三谷は思った。
すぐに切り上げようと話を振る。
「そんで、そんな二人がオレに何の用?」
「あぁ。オマエって碁を打てるんだって?」
「……碁?」
「囲碁だよ、囲碁!」
思ってもなかった言葉に、三谷はキョトンとした。
「まぁ、打てるけど……。誰に聞いたんだよ、それ」
「三谷の姉ちゃんの友達の弟の友達の姉の友達の妹の友達」
「いや、誰だよそれ!?」
「まぁまぁ。んじゃ強いんだ?」
「……。まぁ、そこら辺のヤツよりは強いと思うぜ」
三谷の言葉にニンマリ笑うヒカル。三谷はなんだか嫌な予感がした。
「へぇ……。実はオレも碁は少し自信があるんだよね。時間があるなら勝負しようぜ」
「はぁ? 今から? ここでか?」
「あぁ。マグネット盤ならここにあるし」
ランドセルから取り出して見せると、三谷はあきれたように笑った。
「随分準備がいいんだな」
「まぁね。……それと、どうせなら賭け碁にしないか?」
「賭け碁?」
再びキョトンとする三谷。
どうやら小六の三谷は、まだ賭け碁の存在を知らなかったらしい。
「賭け碁ってのは……まぁ、碁の勝った方に負けた方がお金を払うみたいなもんかな」
「……へぇ」
「まぁ、お金だと不健全だし。今回は勝った方の言うことを一つ聞くとか、そんなんでどう? あまりにも突拍子もないものはなしにして」
「……いいんじゃねぇの。オレ、負けるつもりなんてないし」
三谷は不敵に笑うと、闘志を燃やしてヒカルを見つめるのであった。
そして見事に中押し負けを喫した三谷は、ヒカルに言われて冒頭のように二人の創立祭デートに連行されることになったのである。
(くそっ、マジで地獄じゃねぇかっ!)
彼の忘れられない一日は、こうして始まったのであった。
同中の人は同小って、わりとありますよね。というか普通。
……だと思いたいです。