進藤ヒカルと藤崎あかりの逆行物語   作:藤嶺芳樹

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いつもよりちょっと長いです。


第二十五話

 

(くそっ……。コイツも強いっ!)

 

 

打ち始めて数十手であるが、三谷は加賀の強さを痛感していた。少なくとも、自分よりは高みにいるのは確かである。

三谷の手に、加賀はノータイムで石を打ち込んだ。

 

 

(ぐっ。痛いところに打たれたっ!)

 

 

思わず、三谷の手が止まる。悪くなってしまった状況に対してどうにか活路を見出だそうと長考するがーー

 

 

「考えたって、無駄無駄! さっさと打てよ!」

「くそっ!」

 

 

急かされるようにして打った手が好手になることはない。相手のペースにはまり、確実に差が広がっていく。

 

 

(オレより強いヤツがこの先間違えるとは思えない……。ここまでか……)

「負け、ました……」

「ふんっ! 次はてめぇだな」

 

 

結果は中押し。三谷の投了の言葉を聞き、加賀は扇子を開いてヒカルを再び睨み付けた。

端から自分など眼中になかったことに、三谷は悔しさで唇を噛む。

 

 

(くそ……。オレだって、碁には少し自信があったのに……。チクショウが……)

 

 

ヒカルと場所を代わるために、三谷は席を立つ。その肩に、ポンっと手を置かれた。

 

 

「三谷」

「……何だよ?」

「オマエ、強くなるよ」

「あぁ?」

 

 

ふざけてんのか、と言いたくなる。この前ヒカルに負け、たった今目の前の男に負けたのだ。何の嫌味だろうか。

 

 

「少し荒いけど、下地はできてる。あとは強いヤツと打って、勉強すればいいとこいくと思うぜ?」

「……」

「まぁ、見とけよ」

 

 

そう言うと、ヒカルは椅子に腰を下ろす。そして加賀が碁石を片付けようとする前に、碁笥から白石を一つつまみ、盤面に打ちつけた。

 

 

「……。何の冗談だ?」

「……。そっちの番だぜ?」

「っ! オマエ! さっきソイツが投了したこの盤面から始めようっていうのか!?」

 

 

加賀が驚きの声をあげる。三谷も、筒井も、驚きで目を丸くした。唯一普段通りなのはあかりくらいである。

 

 

「そんな無茶な!? キミ、加賀の強さは今の対局でわかったろ!?」

「ははっ、こりゃ傑作だ! まさか自分から真冬のプールに飛び込みたいヤツがいるなんてな!」

 

 

加賀は黒石を握ると、先程よりも強く盤面に打ち付ける。

 

 

「一度言った言葉は取り消せねぇぞ、小僧!」

「……」

 

 

加賀の言葉に、ヒカルは無言で返す。否、集中しているのだ。

白の反撃が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんだ、コイツは!?)

 

 

打ち始めてすぐは加賀にも余裕があり、軽口を叩くなどしていた。だが、最早そんな余裕などない。

まず第一に、碁を打つ雰囲気が違った。小憎らしい小学生は鳴りを潜め、悠然としている。こちらが煽っても睨み付けても全く動じない。いや。動じないからこそ、その落ち着きがかえって恐ろしかった。

そして第二にーー

 

 

(ぐっ、踏み込んできた石を利用されて黒地が減っちまった)

 

 

ありえないほど強かった。

加賀自身、碁よりも将棋が好きで得意な部分もあるが、これでもかなりの実力はあると自負している。塔矢アキラにこそ敵わなかったが、その囲碁教室では二番を常に取り続けていたのだから。

 

 

(くそっ、そっちの白石にも逃げだされたか!)

 

 

だが、この少年の力はそれを遥かに凌駕していた。塔矢アキラがかわいいと思えてしまうほどに。

先程まで持っていた貯金は、すでに使い果たしてしまった。というよりもーー

 

 

(ダメ、だな。完全に捲られちまった……)

「……。ありません」

「ありがとうございました」

 

 

対局が終了する。

その対局を、筒井は信じられないような目で、あかりはニコニコ笑顔で見ていた。そして三谷はーー

 

 

(すげぇ……)

 

 

目を輝かせていた。

自分では思いもつかなかった手の数々。それらを駆使しての華麗な逆転劇に、興奮するなという方が無理があった。

 

 

(もうダメだと思ってた碁がこんな形で甦るなんて……。オレも、進藤みたいに強くなればこんな風に……。強くなりたいっ! いや、なるんだ!)

「筒井、学ラン脱げ」

「えっ?」

 

 

三谷が新たに決意を立てていると、加賀が落ち着いた声で筒井に話しかけた。というか、脱がせた。

それをヒカルに投げ渡す。

 

 

「筒井。団体戦のメンバーが決まったぜ」

「えっ」

「オレに、オマエに、コイーー」

「オレはパス」

 

 

加賀の言葉をヒカルが遮る。加賀は頬を引きつらせた。

しかしこれには正当な理由がある。

 

 

「実はオレ院生なんだよね。だから大会とか出れないんだ」

「キミ院生なんだ! 道理で強いわけだ!」

(いや、院生レベルじゃなかったと思うが……)

「だからさーー」

 

 

筒井に心の中でツッコミをいれる加賀の前で、ヒカルは渡された学ランを三谷に渡した。

 

 

「最後のメンバーは三谷で」

「……。はぁ!?」

 

 

一瞬、三谷の時が止まった。そしてすぐにすっとんきょうな声を出す。机の向こうで、加賀も微妙そうな顔をした。

 

 

「オレはオマエの実力をもっと見たいから、団体戦出ようと思ったんだがな。オマエが出ないならオレもーー」

「先輩。集団の目に晒されながら土下座、やります?」

「よっしゃ、筒井! 大将は任せろ!」

 

 

加賀が筒井の肩を組む。そこに待ったをかけたのは筒井と三谷。

 

 

「待てよ、加賀!小学生を参加させるなんてーー」

「どうせ部員なんか一人も集まってないんだろ? よかったな。大会参加で部ができるぜ!」

「……」

「いや、待てって! オレはまだやるなんてーー」

「あ? オマエはオレに負けたよな? 冬のプールとどっちがいいんだ?」

「……」

 

 

一瞬で二人は黙らされた。

そして加賀に押しきられるようにして、三谷の大会参加が決まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてこれは、とある小学校の廊下での会話。

 

 

「おはよう、三谷」

「げっ。進藤」

「なんだよ、げって。……そういえばこの前どうだったんだ? 応援行きたかったんだけど、流石に小学生じゃ中学の大会は行けないと思ってさ。教えてくれよ」

「……。まぁ、初戦は全勝して」

「うんうん」

「二戦目はまぁ、筒井さんだけ負けて」

「うん」

「決勝は筒井さんだけ勝った」

「えっ。決勝ってきっと海王だろ? すげーな」

「そうだな。俺なんて全然歯が立たなかったし……。でも……」

「?」

「いや、すごく楽しかったんだよな」

「へぇ」

「部活って……。団体戦っていいもんだな」

「……」

「オレ、葉瀬中行ったら囲碁部入るわ。んでまた大会に出る」

「!」

「進藤は部活入れても大会には出れないんだろ? かわいそうなヤツ」

「うっせぇ!……オレも葉瀬中だし、たまには打ちに行ってやろうか?」

「! いいのかよ?」

「まぁ、時間が合えばな。指導碁でも、何だったら賭け碁でもいいぜ」

「ざけんな。二度と賭け碁なんてやるかよ。碌なことになりゃしねぇ」

 

 

 

 

 




修さんファン、ダケさんファンの皆さん、ごめんなさい。
彼らは出番がありません。
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