進藤ヒカルと藤崎あかりの逆行物語   作:藤嶺芳樹

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第二十六話

 

2月終わりの土曜日ーー

 

 

「まさかこんなに早く上がって来るなんてな……」

「そりゃあ、手合い全て勝ってたらそうなるけどさ」

「前代未聞のスピード昇級でしょ、こんなの」

「それがしかも二人もだぜ」

「……まじでとんでもないヤツらだな。特にーー」

 

 

日本棋院の六階で、1組の院生達がある二人のことを噂していた。そしてちょうど、その噂の二人がエレベーターか下りてくる。

無論、ヒカルとあかりである。

向けられた視線に、それが1組のメンバーのものだとわかった二人は笑顔で返した。

 

 

「今日から1組なんで、よろしく」

「よろしくお願いします」

「……ようこそ1組へ」

 

 

伊角が代表して、笑顔でそう告げる。他の1組メンバーも笑顔で、しかし気持ちは引き締めた。

彼らにも意地がある。2組で全勝したからなんだというのだ。これからの相手は自分達1組なのだ、と。

この二人に初黒星をつけてやると皆が意気込む中、一人の人物があかりへと抱きついた。

 

 

「待ってたよ、あかりちゃん! 一緒に頑張ろうね!」

「明日美さん! はい、よろしくお願いします!」

 

 

奈瀬である。奈瀬は最初に二人が来たときからあかりを気に入っており、それ以降もあかり、ついでにヒカルによく絡んでいたのだ。なので、ヒカルとあかりは多少1組メンバーと面識がある。

話は戻るが、院生の中で女子の比率は非常に少なく、ましてや1組は奈瀬しかいなかったのだ。そこにライバルではあるが、あかりが上がってきたのである。奈瀬は嬉しさを爆発させていた。

そんな二人のやり取りをヒカルがほっこり見ていると、奈瀬はからかうようにヒカルを見てくる。

 

 

「なになに? 進藤もハグされたいの? してあげようか?」

「……奈瀬にハグされてもなぁ」

「はぁ!? なによそれ!? なんの不満があるのよ!?」

「ヒカル、ひどーい」

「いや、そんなこと言われても……」

「やっぱりあかりちゃんのハグじゃないとダメなんだ! うわーん!」

「よしよし、明日美さん。泣かないで」

「いや、嘘泣きすんなし。あかりも乗るなよ」

「えへへ」

 

 

三人のやり取りを見て聞いて、1組のメンバーの表情が和らぐ。

ちなみに、ヒカルに対して未だに嫉妬の感情を持っている者は、この場にはほとんどいなかった。

確かにヒカルとあかりは一緒にやって来るし、一緒に帰っていく。昼飯も二人で一緒に食べている。これだけ見ればムカつくだろう。

だが二人が打つ碁を見れば、そこに確かに感じるものがあるのだ。この二人は自分達と同じで、本当に囲碁が好きで。そしてプロ棋士を目指しているのだな、と。

少なくとも碁に対して真摯であるならば、彼らはライバルであり仲間である。それがほとんどの者の共通認識であった。

 

 

「じゃあ、部屋に入るか。藤崎は今日オレとだよな。よろしく」

「あっ、はい! よろしくお願いします、伊角さん!」

「オレは和谷だな。よろしく、先輩」

「……ノヤロォ。先輩なんだからさんをつけろ、さんを」

「んー。和谷は和谷って感じなんだよなぁ」

「……上等だ。初黒星をつけて、呼び方変えさせてやる!」

「じゃあ、オレに勝つまでは和谷って呼ぶからね」

 

 

この日。

無敗を続けていた少女は、1組1位の前に初黒星を喫した。

そしてもう一人の少年は、無敗の記録をさらに塗り替えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道。

 

 

「あー、悔しい! やっぱり伊角さんって強いなぁ」

(ーーですね。あの者、かなりの実力者に思えました)

「でも、その伊角さんに一目半差。しかも午後の相手には勝ってたし。あかり、かなり強くなってるよ」

「……そうかな?」

(ーーそうですよ! あかり、自信を持ってください!)

「……。ありがとう、佐為さん」

「あかり、今日もウチで検討していく?」

「うん! 行きたい!」

「じゃあ、決まりだな。佐為もよろしく」

(ーーえぇ、もちろんです。あのような面白い碁の検討、胸が躍りますよ!)

「あと私、検討の後に佐為さんに打ってもらいたいかな」

(ーーわーい、対局対局!)

「……。……そっちもそろそろ動き始めないとなんだよなぁ」

「?」

(ーー?)

 

 

 

 

 

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