デート当日、進藤家。
ヒカルは持っている服の中でもマシだと思われる服を着ると、下へ降りていく。そこにはニンマリと笑う美津子の姿があった。テーブルでは、父親の正夫が新聞を読んでいる。
「あらヒカル、もう出るの?」
「うん、そろそろ行くよ。早く行きすぎても迷惑だろうから、もうちょっとだけしたらね」
「そう。まぁ、楽しんできなさいな!」
それだけ言うと、美津子は洗濯物を持って二階へと上がっていった。その足取りは軽い。
前の世界含め、昔から美津子はあかりのことを娘のように可愛がっていた。そんなあかりが自分の息子とデートをするのが、おそらく嬉しいのだろう。
(オレよりテンション高いじゃん)
(ーーまぁまぁ。嫁姑の仲が悪いより良いではありませんか)
(……そりゃ、そうだけどさ)
「ヒカル」
ヒカルが佐為と話していると、正夫から声をかけられた。手招きもされたので、そちらに近づく。
「どうしたの、父さん?」
「これからあかりちゃんとデートなんだろ?」
「え? まぁ、そうだけど……」
「これを使いなさい。軍資金だ」
「!」
小声とともに渡されたユッキーの紙を見て、ヒカルは目を見開く。そして正夫は、再び新聞を広げながらつぶやいた。
「母さんからは服のお金しかもらってないだろ。それで、あかりちゃんとご飯を食べたり、好きなものを買ってあげなさい」
「父さん……」
「しっかりエスコートするように」
「……うん、ありがとう。行ってきます」
お礼を言って家から出ていくヒカルを、正夫はにこやかに見送った。
「……見てたわよ。かっこつけちゃって」
「いやぁ。最近のヒカルは急に大人びてきたしね。そういうのも必要かと思ったんだよ」
「……まぁ、わかるわよ」
「小学生とはいえ、買い物デートだ。かっこ悪いところは見せられないしね」
「ふふっ、確かにそうね」
「だろ? ……それより母さん、一つ相談があるんだが」
「なによ」
「その……。お小遣いを前借りしたいんだけど」
「……」
「楽しかったー!」
時刻は夕暮れ。土手沿いの帰り道。
右手は服が入った袋を持ち、左手はヒカルの右手とつないでいるあかりは満足そうに声をあげた。
午前の服屋での服選びから始まったデートは、昼食でラーメンを食べ、午後はウィンドウショッピングを楽しみ、そして今帰宅の運びとなっている。
正夫のアドバイス通り、服屋では自分のもの以外にあかりのものも買った。最初は遠慮して断っていたあかりだったが、ヒカルがプレゼントしたいと言うと、最終的には嬉しそうに笑って受け取ってくれた。その笑顔だけで、渡した価値があるというものである。
「ヒカルはどうだった?」
「楽しかったに決まってるだろ」
「なら良かった!」
ヒカルの答えにご満悦なあかり。
そんなあかりの様子を見て、ヒカルは歩みを止めた。あかりが不思議そうにこちらを見つめてくる。
「どうしたの、ヒカル?」
「……実はあかりに渡したいものがあって」
つないでいた手を放すと、左手に持っていた袋の中から目的のものを探す。そしてそれを見つけると、あかりへと差し出した。
それはペアリング。千円ちょっとで買えるような、安物である。それを見たあかりは、大きく目を開いた。
「オレ達がこの世界に来てから三ヶ月。いろいろあって、こんな風なデートとかもあんまりなかったしさ」
「……」
「周りからはバカップルって言われてるけど、この世界では告白なんてまだしてなかったし」
「……」
「あかりがオレのことを好いてくれてるのはわかるし、オレもあかりのことを好いてるけど、ちゃんと言葉にしなくちゃなって。形にしなくちゃなって、そう思ってさ。まぁ、指輪なんてまだ買えないから、ペアリングになっちまったわけだけど」
「……」
「あかり」
ヒカルがあかりの名前を呼ぶ。
「進藤ヒカルは藤崎あかりが好きです」
「!」
「この世界でも、オレのパートナーになってください」
「……はいっ!」
あかりはペアリングを受け取ると、そのままヒカルに抱きつく。
そうしてここに正真正銘の碁バカップル、碁夫婦が生まれたのであった。
本当は。
家に帰ってペアリングを見てニヤニヤしているあかりちゃんとか。
二人の邪魔をしないように、わざと土手の草むらを歩いている佐為とか。
そんなのも書きたかったんですが、こんな形になりました。
これで小学生編は終了です。