進藤ヒカルと藤崎あかりの逆行物語   作:藤嶺芳樹

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逆行 中学生編
第一話


 

小学校を無事卒業し、葉瀬中へと入学したヒカルとあかり。

とは言っても二人の生活はあまり変わることもなく、研修会に出ては白星を積み上げていく。4月の終わりにはヒカルは1組1位の座を伊角から勝ち取っており、あかりも4位の位置にいた。

 

 

「マジでオマエら強えな。あっという間に抜かしやがって」

 

 

研修会も終わり、後は帰るだけという時間。

和谷がヒカルとあかりにそう声をかけると、二人は照れたように笑う。ここだけ見たら全然強そうに見えないのに、とは多くの人が思っていることだった。

 

 

「オマエら、毎日の碁の勉強どうしてる?」

「どうしてるって?」

「例えばオレは九星会っていう囲碁の塾に通ってるんだよ」

 

 

ヒカルの疑問に、伊角が答えた。

 

 

「オレ以外にも結構通ってるヤツはいるかな。たまに九星会出身のプロも来るから勉強になるし、レベルも高いと思う」

「へぇ。……和谷は?」

「オレは森下九段の弟子にしてもらってる。学校終わったら師匠んち行って、ちょっと碁をみてもらうんだ」

(まぁ、そういう感じで勉強するのが普通だよな)

 

 

ヒカルがそう考えていると、和谷がさらに続ける。

 

 

「オマエら師匠いないって聞いたし、どうしてんのかなと思ってさ」

「えぇっ? あかりちゃんと進藤って、師匠いないの?」

「わわっ」

 

 

そこに奈瀬も話に入ってきた。

もちろん、あかりに抱きつきながらだが。

 

 

「えっと。私にとってはヒカルが師匠なんだけどね」

「あー、わかるわ。進藤、超強いもんね」

「それに碁の勉強も、毎日ヒカルと打ってるくらいだよよ。ねぇ、ヒカル?」

「まぁ、そうだな」

「確か藤崎、前もそんなことを言ってたな」

 

 

伊角の言葉に、うんと頷くあかり。それを聞いて、和谷は考え込む。

 

 

(上にいこうと思ったら、才能より努力より、とにかく強い人に一局でも多く打ってもらうこと。これが一番だ)

 

 

そしてヒカルの方をチラッと見た。

 

 

(進藤ははっきり言って異常なほどに強い。オレとの最初の対局も、この前の伊角さんとの対局も指導碁だった。藤崎はそんな強い進藤と毎日打っている……)

 

 

思わず唾を飲み込む和谷。

あかりは1組に来たばかりよりも、確実に強くなっていた。1組4位という結果を残しており、プロ試験では間違いなく強敵になるだろうと予想される。ヒカルに至っては、敵になれるのかも怪しい。

だからこそ、迷いが生じた。

 

 

(……この二人を師匠の研究会に誘うべきか?)

 

 

森下の研究会に顔を出している院生は、現在和谷のみ。これは強力なアドバンテージである。

これをヒカルに、特にあかりに差し出すのは躊躇われた。

 

 

(……)

 

 

和谷が葛藤している間も、時間は待ってくれない。

結局その日は、声にして誘うことができなかった。

 

 

(……次の研修日までに考えておこう)

 

 

和谷はホッとする一方で、胸をチクッと刺すような痛みを感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森下の研究会にて。

 

 

「……」

「どうしたんだよ、和谷? 元気ないじゃん」

「冴木さん。……いや、なんでもないです」

「ふーん。まぁ、いいけどさ。それよりも来月の若獅子戦、和谷も出るんだよな?」

「まぁ、そうっすね」

「じゃあ、当たるかもしれないな。そんときはよろしくな」

「冴木! 塔矢門下には絶対負けるなよ!」

「いや、師匠。芦原さんはそんな楽には勝たせてくれないですよ」

「そこを何とかせい!」

「……トホホ」

「……」

「和谷くん、本当にどうしたんだい? 調子でも悪いの?」

「……。いえ。白川さん、大丈夫です。……あの、冴木さん」

「? 何だ、和谷?」

 

「院生で、とんでもなく強いヤツがいます。若獅子戦の優勝候補筆頭の、化物みたいなヤツが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、塔矢家にて。

 

 

「ふむ。確か芦原くんは、今年の若獅子戦に出るのだったね?」

「? えぇ、出ますよ。ライバルは同期の倉田さんと、あとは冴木くんくらいかと思いますけど」

「ふっ、そうかね」

「? 名人、随分と楽しそう……というか、おもしろそうですね」

「……確か緒方くんは、若獅子戦の日に手合いはなかったかな?」

「まぁ、その日は特に何もありませんが」

「ふむ。なら、その日は芦原くんの激励に行くといい」

「えっ!? いや、それは勘弁して欲しいんですけど」

「ほぅ。それはどういう意味だ、芦原?」

「いや、緒方さんに来られたら緊張しちゃいますって!」

「……本来なら私が行きたいところなのだが、生憎手合いでね」

「!? いや、塔矢先生に来られたら卒倒しますよ!」

「もちろん芦原くんの応援もあるが、もう一つ目的がある」

「ほぅ。名人が行きたいほどの何かが、そこにあると?」

「……え?」

 

「院生の中に、台風の目どころか台風そのものみたいな少年がいるはずだ。二人で見てくるといい」

 

 

 

 

 

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