その後ヒカルは、若獅子戦2日目でも旋風を巻き起こしていた。プロの芦原と落合に両方中押し勝ちで勝利し、決勝進出を決める。そしてその決勝の相手は冴木であった。
さて、そんな対局を次の日曜日に控えた平日。すべての授業が終わった放課後の時間。葉瀬中の理科室にヒカルとあかり、そして三谷と筒井の姿があった。
「……負けました」
「ありがとうございました」
「……本当に進藤くん強いね! 五子置いても全然歯が立たないや」
ヒカルと対局して負けた筒井は、悔しそうにしながらも笑顔でヒカルを褒め称える。力を出しきることができて、満足げではあった。
「……ありません」
「ありがとうございました」
「……藤崎、また強くなってね?」
「えへへ、そうかな?」
そしてもう一つの対局、あかりと三谷の対局も終わる。
三谷の言葉に、あかりは素直に嬉しそうに微笑んだ。
「くそっ。藤崎、もう一回だ!」
「うん、いいよ!」
「じゃあ、筒井さん。オレらももう一局打つ?」
「そうだね。また五子でお願いできるかな?」
「了解」
小学生のときの宣言通り、三谷は葉瀬中囲碁部へと入部した。そしてヒカルとあかりもそれぞれの事情は筒井に伝え、それに続くように入部した。筒井はそれでも大層喜んでいたが、三谷には一つ不満がある。
「やっぱりあと1人、部員が欲しいよな」
「……そうだね。6月の大会、フルメンバーで出れればいいんだけど」
団体戦。
現状、大会に出れる面子は三谷と筒井のみ。三将を不戦敗という形で出ようと思えば出れるが、三谷はそれも何か違う気がしていた。
(3人で共通の敵に向かって挑んでいく、あの感じ。緊張感、高揚感……。やっぱ3人で、やりたいよなぁ)
三谷はそう思い、ため息をつく。
そんな三谷に、何とはなしにヒカルが話題を振った。
「そういや三谷」
「何だよ?」
「オレ、風の噂でオマエのクラスに碁に興味を持ってるヤツがいるって聞いたぜ」
「本当か!?」
ヒカルの言葉に、思いっきり食いつく三谷。筒井も目を丸くしていた。
「まぁ、噂だけどな」
「誰だ!? その興味のあるヤツってのは!?」
今にも掴みかかりそうな三谷に、ヒカルはその名前を告げる。その名前を聞いて、あかりはとても懐かしい気持ちになっていた。
前世でヒカルと三谷が喧嘩別れをしたその日に三谷に連れて来られたその少年は、2人が部からいなくなってしまった後も部を辞めることなく3年まで頑張っていた。碁がよくわからなかった自分や久美子にも根気よく、丁寧に教えてくれた少年である。そんな彼が囲碁部に来てくれるのは、とても嬉しいことだと思った。
翌日の三谷の教室。朝の会が始まる前。
三谷は、緊張しながらもすでに登校していた少年、夏目洋介に話しかける。
「えっと。夏目だよな? ちょっと時間いいか?」
「? 三谷くんだよね? どうしたの?」
今まであまり話したことのない人物から話しかけられ、夏目は不思議そうな顔をした。
「実は夏目が碁に興味があるって聞いたんだけど」
「えっ? ……えっと、確かに夏休みに少し勉強してみようかとは思ってたけど。誰がそんなことを?」
「例のバカップルから」
「……いや、何で? ボクその人達と面識ないんだけど」
怪訝そうな夏目だが、三谷は別のことに気を取られていた。それは夏目の言葉に出てきた、碁を勉強してみようという一言。
(情報源は相変わらず不明だが、夏目が碁に興味を持っているのは本当だった! これを逃す手はない!)
「あのさ、夏目。一つ頼みというか、相談なんだけどさ」
「?」
「実はーー」
その日。初心者ではあるが、5人目の部員が囲碁部に入った。部員達のあまりの歓迎ぶりに、夏目の方が目を白黒させていたが。
こうして葉瀬中囲碁部は、6月の大会に向けて始動していくのであった。
帰り道。
「……あかりは良かったのか?」
「良かったって何が?」
「ほら。前と同じように夏目は囲碁部に入ったわけじゃん?」
「うん! 嬉しいよね!」
「だからその……。前と同じように津田とか誘わなくていいのかなって?」
「……。うーん。でも、大会に出れないのに誘うのはちょっと……」
「そっか」
「でも心配しなくて大丈夫だよ! 部活は違くても久美子とは仲良くやってるし」
「うん」
「それにこの前、金子さんとも話したんだから!」
「へぇ、何の話をしたんだよ?」
「えっと。ヒカルのどこが好きなのか? とか。いつから付き合ってるのか? とか」
(恋バナかよ!? 意外!)
金子さんは恋バナを聞くけど興味なさげに「ふーん」とか言って、でも実際はかなりそういう話に興味があると勝手に思ってます。
それと津田さんファン、金子さんファンの皆さん、ごめんなさい。
たぶん出番、ないです。