進藤ヒカルと藤崎あかりの逆行物語   作:藤嶺芳樹

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第七話

 

若獅子戦優勝。

それがどれだけすごいことなのかを、もちろん美津子と正夫は正しく理解していなかった。だが、若手のプロにも勝ったというヒカルの話を聞いて驚き、目を白黒させてはいたが。

そしてその報告を受けた平八はというと。大きくあんぐりと口を開け、しばらく放心状態であった。だが、その意味を徐々に理解すると喜びを爆発させる。

そんな平八の案で、土曜の夜にささやかなお祝いの場が設けられることとなった。

 

 

「しかし、本当にヒカルは碁の天才だな!」

 

 

お酒が良い感じで入った平八は、上機嫌で寿司を口にするヒカルを見てそう言った。同じくほろ酔い状態の正夫と美津子も、ヒカルに声をかける。

 

 

「そうだな。プロに勝つくらいなんだから、才能があるんだろう」

「だいぶ熱心にやってるなとは私も思ってたけど、まさかそんなに強いなんてね」

「まぁね!」

 

 

三者に褒められてヒカルは自信ありげにそう返した。そして今に至るまでに計画し、考えてきたことを口にする。

 

 

「それはそうと、父さん。実は前からずっと欲しかったものがあって、優勝祝いに買ってもらえたらって思うんだけど……」

「? 何が欲しいんだい、ヒカル?」

「……パソコン」

「「「パソコン!?」」」

 

 

ヒカルの答えに、3人が驚きの声をあげた。

それはそうであろう。この時代のパソコンは高級品であり、20万は軽く超える代物である。小学生に与えるには過ぎたオモチャだ。

 

 

「パソコンが欲しいって……いったい何に使うのよ?」

「まずは棋譜をまとめたいかな。あかりと指した対局とかすげぇあるんだけどさ、それを後で見返すときに紙でまとめるよりパソコンでまとめた方が良いんだよね」

 

 

美津子の問いに、ヒカルは答える。

 

 

「あと、インターネットを使って世界中の人と碁が打ちたいなって」

「世界中のって……今はそんなことができるのか?」

「うん。ワールド囲碁ネットっていうのがあって、そこにアクセスすれば打てるって聞いた。絶対勉強になると思うんだ」

「……」

 

 

ヒカルの言葉に、正夫は考える。思ったよりもしっかりとした理由であった。

 

 

(確かにすごい大会で優勝したみたいだし、ヒカルには何かお祝いの物を買ってはあげたい。……けど、20万円かぁ)

「なんだ、正夫。買ってやればいいじゃないか」

 

 

考え込んでいる様子の正夫に、平八がヒカルにとっての援護射撃を放つ。

 

 

「いや、父さん。そうは言ってもパソコンなんて高価な物だしーー」

「値段なんて気にしとるのか? ならワシが買ってやろうか?」

 

 

何気ない平八の言葉。

それに焦ったのは、美津子であった。

 

 

「待ってください、お義父さん! お義父さんにはこの前も高価な碁盤を買ってもらったばかりですし、そこまでしてもらうわけには……!」

「いや、美津子さん。ワシはヒカルに期待をしてるんだ。そういったことをしたいんだよ」

 

 

平八としてはかわいい孫に期待をかけている分、そういったことをしたいのだ。しかし、美津子としては義父にまた安くないお金を使わせてしまうのは恐縮ものである。

 

 

「でもーー」

「だがーー」

「……。はぁ……。いいよ、父さん。ウチで出すから」

 

 

平八と美津子が押し問答をしていると、ようやく正夫が言葉を遮った。そしてヒカルの方を向き、再度確認する。

 

 

「ヒカルはパソコンで、さらに碁の勉強をしたいんだね?」

「うん」

「パソコンは勉強する上で、必要なんだよね?」

「うん。絶対必要」

「……なら、しょうがないか。母さん、いいよね?」

「……あかりちゃんのためにもなるなら、良いんじゃない?」

「っ!」

 

 

キラキラした目をするヒカルに、正夫は少し困ったように笑いながらーー

 

 

「ヒカル。オレと母さんからの、お祝いだ。今度一緒に買いに行こう、大切に使えよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒカルの部屋。

 

 

「やった。これで……」

(ーーヒカル? ご両親に何を頼まれたのですか?)

「えっ? ……そりゃあ、良いものだよ」

(ーー良いもの? 具体的にはどういった?)

「……秘密」

(ーーえぇ!? なぜ!? なぜですか、ヒカル!?)

「うるさいなぁ。それより今日は対局しないのか?」

(ーーわーい、するー!)

 

 

 

 

 

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