6月の海王中にて。第4回北区中学夏期囲碁大会が行われていた。
葉瀬中のメンバーは筒井に三谷、そして夏目である。
「うぅ。緊張するなぁ」
「大丈夫だよ、夏目くん。落ち着いて打とうね。それと、まずは碁を楽しむことが大切だから」
夏目を励ます筒井の声を聞きながら、三谷は1人拳を握りしめた。そして4ヶ月前を思い出す。
(4ヶ月前のオレは、海王の三将相手に手も足も出なかった。力が足りなかった)
正直、悔しかった。相手は三歳上だとしても、やはり負けるのは心にくるものがある。
そして、もう一つ悔しかったこと。それは副将戦。
副将の筒井は海王相手に終盤まで粘り、相手のポカではあるがミスを誘って勝ちを収めていた。どうしてそれを、そのときの自分はできなかったのだろうかと。
大将の加賀よりも、少ない石数で投げてしまった。強いヤツには勝てないと、早々に諦めてしまった。後悔したのは、自分の対局が終わって筒井の闘いを見たとき。筒井が勝ちを収めたとき。
(……あんな思い、二度としてたまるか。今度は最後まで食らいついてやる)
奥の席で最終確認であろうか、部員達と碁を打っている海王の生徒達を見つめて、闘志を燃やす。心を奮い立たせる。
(短い期間だが、やることはやってきた。棋力もだいぶ上がった)
ヒカルにボコボコにされ続け。
あかりにも軽くボコボコにされ。
正直涙が出そうになったが、それでもそれらは決して無駄ではなかった。
前日には、あの加賀に互先で勝ちを収めたのだから。
(海王と当たるのは二回戦。まずは一回戦、しっかり勝つ。そしてその次に……。待ってろよ、海王……)
海王中囲碁部顧問の尹は、二回戦の相手である葉瀬中のメンバーの二人を覚えていた。副将に座る黒髪の少年は、前回の冬期大会でこちらが負けた少年。そして大将戦に座る少年は、前回は三将戦に座っていた少年のはずである。
実力に関して言えば2人には悪いが、海王の生徒の方が何枚も上手という印象であった。だが、その印象は2人の打ち始めの碁を見てガラリと変わる。
(……この2人、前回より遥かに強くなっている!?)
三将の子は初心者なのであろう。青木が厳しく攻めると、慌てたように手拍子で受けてしまっている。碁の始めたてによくあるヤツだ。
問題は大将と副将の2人。まずは副将。
(久野の相手……筒井くんといったか。ヨセはうまいが、序盤中盤が甘いという感じだった。だが、ここまで久野相手に我慢して、離されずについていっている。これは油断すると、終盤にひっくり返されるぞ)
久野は余裕を持って打っているが、相手の本領は終盤なハズだ。前回の二の舞にならないことを祈りたい。
そして大将。
(岸本の相手……三谷くん。負けていると手に元気がなくなって崩れていく、まさに子どものような碁という印象を受けたがーー)
もはや、そんな印象はない。
まず気迫が違う。どんな相手にも食らいついていってやるといった気概を感じる。
そして、間違いなく腕も上がっていた。元院生の岸本にはまだまだ及ばないが、久野とは良い勝負をするかもしれない。
(まさか4ヶ月でここまで成長するとは。これだから、子どもというのは侮れない)
中学囲碁部で、現在最強は海王とされていた。
部員、設備、環境。確かにどれをとっても一流の自負がある。
(だが、それも変わっていくかもしれない。新しい波が、もしかしたら来るのかもしれないな)
まぁ、今日は勝ちをもらうけれどね。
そう心の中で宣言して、尹は2つの対局に目を落とすのだった。
上で触れていませんが、一応3ー0で海王勝ちの予定です。
三谷くんは、さらに燃えていくことでしょう。
あと勝手な都合なのですが、明日の投稿を持って更新頻度が下がると思います。
それでもよろしければ、またこれからもお付き合いください。
よろしくお願いします。