進藤ヒカルと藤崎あかりの逆行物語   作:藤嶺芳樹

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第三話

 

「ヒカル、入るわよ?」

 

 

部屋にノックの音が響き、次いで美津子の声が部屋の外から聞こえた。ヒカルの返事を待たず、ドアが開かれる。

 

 

「学校には連絡しておいたからね。それと、リンゴ剥いてきたから食べなさい。まぁ、食欲はないかもしれないけどね」

「……。ありがと」

 

 

近くの机の上に、リンゴの載った皿とお茶の入ったコップを置く美津子。ヒカルはベッドの上で微動だにせず、お礼を口にした。

そんなヒカルの様子を特に気にすることもなく、世間話をするように美津子は言葉を続ける。

 

「それと、あかりちゃんーー」

「っ!?」

 

 

先ほどまで考えていた少女の名前を聞き、ビクッとなるヒカル。

幸いにも、その様子を美津子に見られることはなかった。

 

 

「ーーのお母さんにも、今日はヒカルが一緒に学校に行けないって伝えておいたわよ」

「……。そっか、ありがと」

 

 

美津子の言葉に、そう返すヒカル。

そういえばこの時期はあかりと登校してたんだっけ、とヒカルは思い出した。明日から学校に行くなら、この時代のあかりと一緒にということになるだろう。

 

 

(かたや、幼馴染みと結婚した記憶のある、中身35歳のおっさん小学生。かたや、そんな記憶が全くない純真な小学生。……うまく振る舞える自信ねぇな。だいたい、小学生の頃って何の話してたっけ?)

「でもね……」

 

 

複雑な心境で考え事をしていたヒカルだったがーー

 

 

「あかりちゃんも、今日学校休むそうなのよ」

「……えっ?」

 

 

美津子の言葉に、ヒカルの思考が止まる。

先ほど電話で聞いた内容を、美津子は続けて話した。

 

 

「なんでも体調が良くないんですって。昨日までは普通だったそうなんだけれど、急に。あかりちゃんのお母さんも心配してたわ。熱もないそうなのだけど。……ヒカルの症状と似てるのかもしれないわね」

 

 

美津子は何ともなしにしゃべっているが、その一方でヒカルは自分の動悸が再び速くなっていくのを感じた。

 

 

(あかりも休み? オレと同じ、このタイミングで? 熱とかじゃなく? ……。……いや。いやいや。そんな都合のいい展開、あるわけないだろ普通。そんな……)

「ねぇ、母さん。その……あかりのお母さん、他に何かあかりのこと言ってなかった?」

 

 

急にベッドから起き上がって尋ねてくるヒカルに、美津子は一瞬きょとんとした。それから少し考えるようにしーー

 

 

「えっと。学校を休むって言い出す前はかなり慌ててたみたいで、落ち着かない様子だったみたい。あかりちゃんらしくないというか。それと……」

 

 

言おうか言わまいか迷っている様子の美津子だったが、ヒカルの真剣な表情を見て先を続けた。

 

 

「その、かなり泣いたみたいなの。理由はわからないけど、あなたの名前を呼びながら。……ねぇ、ヒカル。何か心当たりないの?」

 

 

前の世界で、あかりが泣いている姿をヒカルはほとんど見たことがなかった。結婚する前もした後も、辛いこと悲しいことがあっても。気丈に振る舞い、笑顔で励ましてくれる女性だった。

そんな、自分の愛した女性が泣いたのだという。

 

 

「ーーねぇ、母さん」

 

 

自分と同じように、過去に来たあかりかもしれない。そんなことはなく、何の記憶もないこの世界のあかりかもしれない。そうかもしれないという希望も、違うかもしれないという恐怖もある。

けれどーー

 

 

「……ちょっと今から、出かけてきてもいい?」

 

 

今すぐあかりに会いに行く、という選択肢以外、ヒカルにはなかった。

 

 

 

 

 

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