進藤ヒカルと藤崎あかりの逆行物語   作:藤嶺芳樹

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第五話

 

話はヒカルがあかりの家を訪れる少し前に遡る。

あかりは自分の部屋に引きこもり、ベッドの上で体育座りをしていた。膝を自分の顔に当て、現状について考え込む。

 

 

(一体何が起きたんだろう? どうしてこうなっちゃったの?)

 

 

考えてみるが、答えがわかるわけもなかった。

今朝あかりが眠りから目を覚ますと、いつもの日常と異なっていることにすぐに気がついた。

 

 

(ヒカル……?)

 

 

左手にいつもの感触を感じなかった。ヒカルが自分より早く起きることは滅多にない。不思議に思いながらも体を起こしーー

 

 

「えっ……」

 

 

意識が一気に覚醒するのを感じた。

見覚えのある、懐かしい自分の部屋。しかしなぜこんな所にいるかは覚えがなかった。

慌てて起き上がり、そしていつもとは違う視線の高さに混乱する。あかりはテーブルの上に置いてあった手鏡を急いで取り、それを覗き見てーー

 

 

「う、嘘……。これ、ゆ、夢だよね……?」

 

 

鏡に映る自分の姿を見て、愕然とした。若い、というよりも幼い姿。少なくとも、36歳の自分ではないのは確かである。悲鳴をあげなかったのは奇跡と言えるだろう。

 

 

(何? 何これ、どういうこと!? わけがわからないよ!?)

 

 

フラフラした足取りであかりが一階に下りると、そこにはあかりの家族が全員いた。父と母と姉が、全員が昔の若い姿のままで。少し前に老衰で亡くなった愛犬の姿さえそこにある。

あまりにありえない光景に、あかりはショックを受けた。

 

 

(いやっ! いやっ!)

 

 

挨拶をする余裕もなく。

壁にかけられているカレンダーを見て。朝の情報が流れてくるテレビを見て。

そこでようやく、あかりは自分が過去に来てしまったのだということを理解することができた。いや、理解させられたというべきか。

 

 

(……。あぁ……っ)

 

 

あかりの瞳から、勝手に涙があふれてくる。

前の世界であかりが最後に泣いたのは、飼っていた愛犬が亡くなったときだった。その愛犬は今、あかりの足元をフラフラしている。

唐突に泣き出したあかりを見て、慌てたのは家族だ。特に父親が。

どうした、と聞いてくる家族に、あかりは泣きながら首をフルフルと振って応える。そうすることしかできなかった。

 

 

(あぁ……。ヒカルぅ……ヒカルぅっ!)

「ヒカルぅ……。ヒカルぅ……」

 

 

心の中で、愛する人の名前を叫ぶ。それが現実の声として、嗚咽と共に溢れた。

もう二度と、一緒に時間を過ごしてきた彼に会えないのだと思うと涙が止まらない。

 

 

(会いたい! 会いたいよぉ、ヒカル……っ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(はぁ、これからどうしよう)

 

 

場面は戻ってあかりの部屋。

しばらく取り乱していたあかりだったが、多少は落ち着きを取り戻していた。もちろん、ショックは完全に抜けてはいないが。

相変わらず体育座りをしたまま、これからのことを考える。

 

 

(何もする気が起きないけど、流石に明日から学校は休めないよね。それに……。それに、この世界のヒカルとも向き合わなくちゃ、ね。……。うぅ……)

 

 

心の中で決心しつつも、また涙がじわりと溢れてくる。精神が若干、小学生に引っ張られているのかもしれない。

さらに落ち込んだ様子のあかりに、階下にいる彼女の母から声がかけられた。

 

 

「あかりー!」

(お母さん……?)

 

 

今日は休みなさい、と温かく声をかけてくれた母。そんな母が自分を呼んでいることを不思議に思いつつ、部屋の扉を少し開けた。

先ほどよりも鮮明に、母の声が聞こえる。

 

 

「ヒカルくん、来てくれたから上がってもらうわねー!」

「ふぇっ!?」

 

 

あかりから変な声が洩れた。

 

 

 

 

 

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