ゾイド Wild flowers~風と雲と冒険と~第二期 作:尾久出麒次郎
カミルは何度も呼び掛けるが返事がなく、やがて遺跡を改装した地下工場の入り口から爆炎が何度も噴き出し、轟音と共に崩落してやがて陥没して崩れて土煙に包まれた。
「ジャベリンさん! ジャベリンさん! 返事してください!」
返事が来ない。一〇分以上呼び掛けたが、無駄なのは明白だった。
カミルはシルヴィアから降りるとオメガも降りてきて後ろに付き従う。丘から見下ろしてゾイドの残骸が死屍累々な光景が広がり、その奥には崩壊して土煙が上がる遺跡を見つめると、リリアがシルヴィアの横で停止してクリスも反対側に停止する。
「カミル君! ジャベリンさんは!?」
ヘルガがリリアから降りて駆け寄りながら訊いてくると、カミルは一瞥して首を重く横に振った。ヘルガは両手を口元に当てて動揺の表情を見せる。
「嘘、そんな……あんな綺麗な人が」
「あいつ、最初から決めてたのかもしれないな――」
フジワラが歩み寄って達観した口調で言いながらシガレットを取り出し、オイルライターで点火して溜め息と一緒に紫煙を吹かす。
「――復讐を果たしたからって、奪われたものや死んだ家族や友人が戻って来るわけがないし……復讐を果たすまでの間に色んなものを捨てて来た、残るのは……虚しさだけだ」
そう言ってフジワラはシガレットを口に咥えた瞬間。
「誰がそう決めたのかしら?」
「えっ? うわぁぁぁぁぁーっ!!」
アンニュイに俯いていたフジワラの耳元で艶やかな声で囁いたのは、いつの間にかヘルメットを脱いだパワードスーツ姿のジャベリンだった。いつの間にいたんだ!? カミルはヘルガと呆然と見つめてフジワラは困惑する。
「ジャ、ジャベリン! 無事だったのか!」
「当たり前でしょ! あんたに一二〇〇エウロペポンド返して貰ってないんだから!」
この分だと大丈夫だとカミルはホッとすると、ヘルガも安堵の笑みになる。
「よかった……ジャベリンさんが無事で」
「うん、でもこれからどうするんだろう?」
カミルはフジワラの言葉が気になって思わず口にすると、ジャベリンは憑き物が落ちたかのような爽やかな笑みになる。
「決まってるじゃない! あたしまだ三八よ……人生はこれから! 復讐を終えて――」
ジャベリンは一歩踏み出して、両腕と体を伸ばして大空に向かって叫ぶ。
「――ああぁぁぁぁスッキリした!! これで心置きなく生きられるわぁぁぁぁっ!」
そして爽やかな笑みで振り向いて礼を述べる。
「カミル君、ヘルガちゃん、ありがとうね……フジちゃんお礼に借金一一〇〇ポンドにまけてあげる」
「気にするな、あんたには色々と世話になってるからな……先に一〇〇ポンド返しておく――」
フジワラは五〇ポンド紙幣を二枚ジャベリンに渡す。
「――すまんがジャベリン、ヘルガ、ちょっとカミルと二人だけで話したい。席を外してくれないか? オメガ、お前もだ」
フジワラの言葉が通じたのかオメガは不満げに鳴く。
「あら、男と男の話し? いいわよあたしはオネエだし」
ジャベリンは「オネエ」という言葉を強調する。何を話したいんだろう? カミルはフジワラに「ついてこい」と踵を反して歩きだし、カミルはその背中について行く。
連れていかれた場所はライトニングサイクスのクリスの後ろ足の陰で向き合う形になると、フジワラは訊いた。
「単刀直入に訊くぜカミル、お前が連れてるヘルガの正体……わかってるんだよな?」
カミルは思わず一歩後退りしそうになったが、今更隠し通せるものじゃない。
「……はい、わかってます」
「ヘルガがアーカディア王国の王女だってことを……な」
「はい、ですけどセリーナ王女は今アーカディアの首都アーカナにいますし……ヘルガは自分のことをセリーナ王女の半身とか表裏一体の存在とか言ってました」
カミルは廃墟となったソーアシティでゴジュラス乗りのPMC社長に啖呵を切った時のことを思い出す。フジワラは頷くとZiフォンを取り出しながら言う。
「実は一昨日……一緒に仕事した後、こっそりヘルガの顔写真を撮らせてもらった――」
画面は顔認証するアプリのものだった。
「――それで報道写真やネットニュースの映像からサンプリングしたセリーナ王女とヘルガの顔を照合してみた結果……九九・九九パーセント一致した」
フジワラの言葉にカミルは思わず戦慄する、ヘルガとセリーナ王女は同一人物でこの世に同じ人間が二人存在するということになる。
「やはりヘルガとセリーナ王女は双子の姉妹?」
「いや、確実に本人だ……他の顔認証アプリも試してみたが同じ結果だ。どれも整形や双子でも誤魔化すことができない程の精度だ」
「じゃあ一緒に旅をしてるヘルガの正体は……」
「俺にもわからん……得体の知れない存在だということは確かだ……こいつは放っておくわけにはいかないぜ」
「……放っておくつもりはありません」
カミルは一種の気味の悪さを感じながらも決意を新たにした表情で頷くと、フジワラは苦笑する。
「まぁそうだろうな……ヘルガの正体は旅を続けていればいずれわかりそうだしな」
フジワラの言う通り、旅を続けていればきっと正体はわかるはずだ。
その頃、ジョエルはスカウトサーバル・マリンに乗ってムダルラ共和国の国境に向けて南下していたが、夥しい数のソルダットアントたちの残骸で死屍累々の光景が広がり、その中に紛れ込むようにブラックライモスやレブラプターの残骸があってどれもコックピットを潰されていた。
「生きてる奴は……いなさそうだな」
恐らくは数の暴力で押されてなす術もなかったのだろう、ジョエルは一瞬目を閉じて黙祷を捧げるとセレナから通信が入る。
『ねぇちょっとこれ見て、この足跡……シルヴィアじゃない?』
『えっ!? どこどこ?』
アヤメリアがコックピット内で首を横に振るのがモニターで見え見えだ、その間にセレナはタッチパネルを操作する。
『アヤメリアの足元よ、データリンクで送るわ……他にもグスタフやディバイソンにシールドライガーの痕跡があるわ』
『ヘルガの三獣士ってことね……セレナ、ケーニッヒウルフの足跡は?』
『あるわ、シルヴィアと一緒よ……やっぱりムダルラ方面に向かってるわ』
ジョエルは送られてきたデータがMFDに表示されると、タッチパネルで足跡を選択すると別れて行動したことがわかった。
「ハロルドさんたち……しばらく留まったんだ」
『もしかして、カミルとヘルガを逃がすため?』
アヤメリアは足跡を辿りながら推測すると、セレナは訊いた。
『二人ともどうする? この辺り探してみる? ハロルドさんたち……生きてるかどうかわからないけど……それともこのまま二人を追いかける?』
ジョエルは選択を突きつけられる。
あまり悩んでる暇はない、どうする?