ゾイド Wild flowers~風と雲と冒険と~第二期 作:尾久出麒次郎
藤原啓治さんを偲んで……。
第一三話、王女を連れた旅人
午後八時を回ったルクス市内のゾイド駐機場でハインツ・ルビン・フジワラはライトニングサイクスのクリスを駐機場に止めて降りる。
「さて……今日は奮発してステーキにでもするか」
地元警察から特別報奨金を貰って上機嫌なフジワラは無駄なく鍛えた筋肉質の体格に東洋人の血を引く顔立ちに黒髪、無精髭、青いバンダナをかけて三白眼に左目に三点留めの
多種多様な人種や老若男女の人混みを掻き分け、地元の人やこの辺りで活動するゾイド乗りたちが利用するダイナーへと歩く、手頃なワンプレートからボリューム満点のステーキまで扱ってる店だ。
店内に入るとドアベルが鳴り、馴染みの年配のウェイターに迎えられる。
「いらっしゃいませミスターフジワラ、空いてるお席にご案内しますね」
夕食の時間帯ということもあって混んでるが空いてる席もある。いつものL字型のカウンター席に座ると、そこは店内が一望できる席でフジワラは何となく店を利用する顔ぶれも覚えていた。
「今日は黒ビールとサーロインステーキをそうだな……一二オンス(約三四〇・二グラム)頼む」
「かしこまりました、少々お待ちください」
フジワラの好物は故郷のニクス大陸から直輸入し、ルドルフ・ゲアハルト・ツェッペリン三世もこよなく愛するガイロス産高級黒ビールと、ここの主人が焼くステーキだ。
そうして夕食を楽しんでるとドアベルが鳴り、ここでは見かけない男女が二人入ってきた、明らかにお腹を空かせた表情で二人ともエウロペ人にしては肌は白くて一〇代半ばだ。
「ん? 見かけない二人だな……」
旅行客やバックパッカーにしては若すぎるし、学校を卒業してる年齢とは思えない。ゾイド乗りかもとフジワラは二人を観察する。
男の子の方は美少年と言っていい程の顔立ちだ。羽織ってる上着の隙間からショルダーホルスターに納められた自動拳銃が一瞬見えたし、そこそこ死線を潜り抜けていて穏やかに見えるが鋭い眼差しだ。
女の子の方は自分と同じ東洋人の血を引いてるのか長い黒髪だ、白いブラウスにロングスカートと上品な出で立ちでいい所のお嬢様に見えるが、履いてるのはゾイド乗りたちがよく履いてるショートブーツだ。
「セリーナ王女に似ているな……いや、瓜二つと言うべきか?」
ネットのニュースで見たことのある顔だ。この前、アーカディア王国のアトレー前国王の葬儀の時、人目を憚らず棺に縋り付いて泣いていたセリーナ王女にそっくりだ。
二人を視線で追うと、丁度正面を向いた先の相席で向かい合う形に座る。よっぽどお腹を空かせていたのか、メニューを取ってしばし見るとすぐにウェイターを呼んで注文した。
フジワラが食べ終えてもう一杯黒ビールを飲んでくつろいでると、ウェイターが台車に二人分のステーキを二人の席に運ぶ、どちらもかなりボリューミーだ。
「二人とも食べ盛りの一〇代か」
見たところ一三オンス(約三六八・五グラム)と二〇オンス(約五六七グラム)で、相当お腹空いてたんだろうと思いながら見るとなんと、後者は女の子の方だった。
「おいおい嘘だろ? 食い切れるのか?」
酔いが回り始めたハインツも思わず酔いが醒める程で、男の子の方も驚きを隠せない様で周りの客もドン引きするか開いた口が塞がらない様子でしかもセリーナ王女そっくりの女の子は残さずペロリと平らげてしまった。
「ほほぅ……こいつはちょっと放っておくわけにはいかないな」
フジワラは思わずにやける、二人が食べ終えて店を出る頃にはフジワラは二人に興味津々になって愛用のスマートアイを左目に装着した。
「ああ美味しかった、あんなに食べたのいつ以来かな?」
ヘルガは満足そうにお腹を擦ると、カミルは思わず妊婦さんみたいだと思いながら苦笑する。
「ヘルガは凄いね、前から食べる方だとは思ってたけど」
「うん、イヴァーナに見られたら叱られるわ。また隠し事が増えちゃったね」
「う、うんそうだね」
ヘルガは悪戯っぽく微笑むとカミルは思わず頬を赤くして微笑み、そのまま繁華街を歩いてデートみたいだと心拍数が上がる。
因みにオーガノイドのオメガは目立ちすぎるうえにモーテルに置いていくわけにもいかない、なので少し離れた場所や上空を飛んでいざとなればすぐに呼べるようにしてる。
ルクスはそこそこ大きな町で、繁華街は人で賑わっていて公園の広場に行くと露店や屋台もあり、それこそ食料品や日用品、玩具や護身・防犯用品にスポーツ用品の名目で銃や補修部品、弾薬が売られていた。
一際目を引くのは広場の三分の一を使用した輸送型モルガを改造した露店商の店で、値段も良心的な物だった。
カミルは弾薬を買っておこうと店主に注文する。
「すいません、この四五口径の二三〇グレイン(※約一四・九グラム)ホローポイント弾一箱と一二番ゲージの00バック弾とスラグ弾を一箱ずつ下さい」
「かしこまりました。すぐにご用意いたします」
どこか気品のある
店主が注文の品を用意して、カミルは財布から代金を用意して払う間にヘルガはジッとある商品を見つめていた。
「ヘルガ? 何を見てるの?」
「あ……うん、ちょっとね」
ヘルガが見ていたのは地球移民の一派である冒険商人が私物として持ち込んだクラシックな自動拳銃のコピー品だった。
店主は目を光らせて微笑み、早速勧めてきた。
「お目が高いですね、それはガイロス製のマウゼルMP96。通称ブルームハンドル或いはシュネルフォイヤーなんて呼ばれています。地球移民が持ち込んだモーゼルミリタリーという古式拳銃のコピー改良した物ですが、旅のお供にお勧めです。このモデルはスタンダードな九ミリ口径でホルスターストックやフルオート機能も付いております。今なら二〇連マガジン五つと弾薬一〇〇発、マガジンポーチ付きのデューティーベルトをサービスしますよお嬢さん……いいえ、お姫様」
その鋭い眼差しで微笑む商人にヘルガは微かに表情が強張り、カミルも思わず戦慄して全身の体毛が逆立ち、そして確信した。この人は僕たちのことを知ってるとカミルは声を尖らせた。
「お姫様って……知ってるんですか? 僕たちのことを」
「ええ勿論です、数ヶ月前から北エウロペ南部で三人の従者を連れて旅をするセリーナ王女と瓜二つの少女がいるという噂を……マゼラン、ガリン、ダイナスで商いをしてる私の仲間からお聞きしました。申し遅れました
オブライエンという男の口から出る言葉からは一切の嘘がないような気がすると、カミルは不思議と信じていいような気がする。
するとヘルガは柔らかくも貫くような眼差しでオブライエンの正体を見破る。
「オブライエンさん……ブリタニアの方ですね?」
「……左様でございます。よく見抜きましたね」
「
「鋭いですねお姫様、このルクスは治安がいいとは言えません。スラムもすぐそこにありますから身を守る武器は欠かせません、いかがでしょうか?」
ヘルガはオブライエンに勧めらるカミルは直感的に駄目だと、すぐ行動に移してヘルガの手首を取ってその場を後にする。
「いいえ、結構です。またの機会に! 行くよヘルガ!」
「ええっ!? う、うん……」
ヘルガは驚きの表情を見せるが、対照的にオブライエンは微笑みながらその背中を見送る。
「またのご利用をお待ちしております」
もしまた会ったら何か買うかもしれない、だけど……ヘルガに銃を持たせるなんてきっとイヴァーナさんも納得しない。
人を銃で撃ったり、命を奪うというのはどういうことか?
それはカミルもよく知ってる。祖父を殺した強盗の背中に引き金を引いた時の感触、ウルスラを助けたりジョエルを守るためにナイフで盗賊を刺し殺した時の感触が今でも生々しく残ってるし、鮮明に覚えてる。
あんな思いをヘルガにさせたくないし、させてはいけない。
「ねぇカミル君、どうしたの? ねぇカミル君ってば!」
ヘルガの声でようやくカミルは立ち止まって気が付いたら広場を出て暗い公園の中に二人で立っていて、ヘルガは怪訝な表情でカミルを見つめていた。
「どうしたのカミル君、何か変よ」
「ヘルガ……ごめん、君には――」
銃を持たせたくないし撃たせたくないと言おうとハッキリ告げようとした時だった。
「よぉ、お二人さん。せっかくのデートなのに痴話喧嘩かい?」
「こんばんわ~夜の公園は危ないよ~なんせ俺たちみたいな奴らがいるからね」
外灯の光が当たらない暗い場所から前後に二人、地元の――それも同い年か少し年上くらいの男たちが四人、その目は悪意に満ちていてカミルは一目でヤバイと思った。
「観光に来てるのかい? ルクスの刺激的な体験させてやろうかお二人さん?」
「ねぇねぇ彼女、痴話喧嘩するくらいなら俺たちと遊ぼうぜ」
完全に囲まれた。カミルは神経を研ぎ澄ますとショルダーホルスターに納めてるGF45Lを意識する。四人の男はそれぞれ片手を後ろにやって何かを隠してる、おそらくナイフか拳銃でも持ってるんだろう。
カミルはヘルガを後ろにやって渡さないという意思表示をするため、ゆっくり瞬きする。
その瞬間、こいつらを一人残らず地の果てまで追いかけて殺す、ヘルガを守るためではない。理由もなく殺すという殺気と共に冷たい口調になる。
「ヘルガに近づかないでくれ、そして僕たちのことは放っておいてくれないか?」
四人の表情が微かに動揺してるのが見えたその瞬間、重い銃声が響いて一発がチンピラの一人の足下に跳弾する。
暗闇の中から強力なオートマチックマグナム拳銃を構えた男が歩み寄ってきた。
「おいガキども、そいつは俺の獲物だ……手ぇ出すなら次は誰か一人に当てるぞ」
ヘルガと同じ東洋系だろう、そして訛りのある共通言語でヘルガはぼそっと呟く。
「ニクス方面のガイロス訛り……ガイロス人?」
東洋系ガイロス人の男はスマートアイを装着して無精髭に青いバンダナ、躊躇いのない鋭い眼差しでへリックのガリルアーモリー社製の四四口径マグナム自動拳銃――GM44を右手で構えてる。
あの距離でオートマグをギリギリで外せるのか?
いや、たまたま当たらなかった可能性もあるが同時に一瞬のチャンスで、カミルはショルダーホルスターからGF45Lを素早く抜いて構えて四人を揺さぶりをかける。
「いや三人だ。この距離なら俺でも二人を素早く当てられる」
四人組は表情を強張らせると、カミルはハンマーをコック。
ガイロス人の男もそれを見逃さずに「ヒュー」と口笛を吹く。
「ほほう、それなら俺も二人撃ち抜けるぜ……変な動きをした瞬間に一人、構えて引き金を引く前に一人だ」
男は両手でGM44を両手で構えると、四人組のリーダー格の男は苦虫を噛み潰したかのような表情で舌打ちして捨て台詞を吐く。
「チッ……ずらかるぞ! 覚えてろよ!」
それを合図に他の三人も挑発しながら逃げていった。
「へっ……自分より弱い奴にしか相手にできねぇ小悪党どもが」
ガイロス人の男はGM44を下ろすとカミルは警戒を解かずにGF45Lを向ける。
「銃を下ろせ、俺は敵じゃない。俺は……フジワラ。ハインツ・ルビン・フジワラだ」
「……カミル・トレンメル」
カミルはゆっくりGF45Lを下ろしならコントロールレバーを下げてデコッキングすると、フジワラもGM44をホルスターに戻す。
「見かけない顔だな、しかもアーカディアのセリーナ王女を連れているな……拐ったのか?」
フジワラは冗談混じりな笑みで言うとヘルガは前に出て首を横に振る。
「いいえ、私はヘルガ・カミシロ・シュティーアです」
「そうか、よろしくヘルガ、カミル……二人ともゾイド乗りだよな?」
フジワラは微笑みながら言い当てる、言い逃れはできないと感じたカミルは「……はい」とだけ頷く。
「誤魔化しが通じないと見たな、素直で結構だ……場所を変えて近くの店で話そう」
解説
ハインツ・ルビン・フジワラ(28)
傭兵兼賞金稼ぎ兼盗賊、筋肉質の体格に黒髪、青いバンダナに無精髭、左目に
搭乗機:ライトニングサイクス(クリス)
戦術:高速で撹乱しながらの一撃離脱が得意。
武器:GM44
一人称:俺 イメージCV:藤原啓治
オブライエン(未公開)
禿頭に無精髭、燕尾服にシルクハット姿に杖で旅先で姿を見せているブリタニア人の武器商人。元特殊空挺部隊の出身で「コンドームからホエールキング級までご用意します」をモットーに活動しており、普段は露店を開いて日用品から旅の必需品に銃火器を売買している死の商人でその気になればホエールキングやホバーカーゴやCAS、荷電粒子砲も用意すると豪語している。
搭乗機:モルガ(ジュリア)
イメージCV:山路和弘 イメージアクター:ジェイソン・スティサム
マウゼルMP96
冒険商人の私物だったブルームハンドルをガイロス帝国の物好きたちがコピーして改良を加えた自動拳銃で口径は世界標準で出回ってる9mm口径。装弾数一〇、一五、二〇発マガジン使用、そのクラシックな見た目から愛好家向けに今も生産されている。ヘルガの銃はフルオート機能付きセレクティブファイアモデルでホルスターストックを使用している。
ガリル・アーモリーGM44
44口径マグナム弾を使用する超大型自動拳銃で装弾数は8発、世界最強クラスの威力を持つ大型自動拳銃で打撃力、貫通力ともに最強クラスで短機関銃並の重量を持つが専用のオクタゴン・アタッチメントを装着すればダット・サイトを装着したり反動を抑制できるが16㎝全長が伸びてしまう。その際の射程は拳銃としては破格の一二五メートル。
装弾数が一発減らして更に口径の大きい50口径モデルのGM50も存在する。
スマートアイ
眼帯型多機能ゴーグルで複数のメーカーから発売されている。高精度な望遠機能やカメラは勿論、動画の録画機能を持ち、赤外線暗視装置機能や顔やゾイドやその機体番号の認識システム機能を搭載、フジワラはガイロス製カール・ヴァイス社のスマートアイを使用。
モデルはM○S4のソリ○○アイ