ゾイド Wild flowers~風と雲と冒険と~第二期 作:尾久出麒次郎
数時間後、ルクス郊外東三〇キロ地点。
カミルはシルヴィアのコクピット内で外の風景と
草原地帯を進むゾイドコンボイの編成は支援物資を積み、細かい仕様が異なるグスタフMRAP四機に多数の大型トラックやトレーラーで構成され、周囲には護衛の戦闘ゾイドが警戒しながら進んでる。
ハッキリ言って遠くからでも目立つし街道の両側はミューズ森林地帯で、小型ゾイドやテクニカルが隠れる場所が無数にあるからいつ襲ってきてもおかしくない。
『私は~荒野の~運び屋さ~♪』
マルティネス夫人はモニター通信越しにエウロペ大陸に古くから伝わる「運び屋の歌」を熱唱している、ヘルガは興味津々で訊く。
『それなんていう歌なんですか?』
『運び屋の歌よ、著名な行商人で運び屋のムンベイ・メ・ジャバルが仕事中によく歌ってた歌なの――』
マルティネス夫人は饒舌にヘルガに話す。
ムンベイ・メ・ジャバルは二度目のデスザウラー戦後、運び屋に戻りその後、運び屋仲間と運送会社を設立して何ヵ国も回って復興事業に貢献、エウロペ運送協会の会長も勤め、その活躍を讃えてエウロペ大陸の国々の国境を簡易な手続きで通過するための協定であるジャバル協定の名前にもなったのだ。
『――私たちの会社も、運送協会に加入していてね。その気になれば――』
マルティネス夫人が何かを喋ろうとした瞬間、コクピット内に警報が鳴り響いて一同に緊張が走る。MFDを見ると複数の反応が出てる。マルティネス夫人の「TARU TARU」とペイントされたグスタフMRAP――社名にもなってるタルタルには高度な地雷探知機や爆発物探知機を装備してる、おまけに一番前を走ってるから敵に狙われやすい!
『全機来るぞ! カミル、撃ち漏らして近づいてきた奴を潰せ!』
フジワラがモニター通信で叫ぶとライトニングサイクスのクリスが先行し、頭部の機関砲を連続でバースト射撃する。どこに撃ってるんだ? そう思った瞬間、派手な爆発が起こり、火柱が上がってセンサー反応が消える。
いや、それ以上の数――反応を免れたIEDまで撃ち抜いて正確に爆発させてカミルは思わず感心する。
「凄い……どうしてわかるんだ?」
『経験と勘だ、地雷やIEDは隠す場所がだいたい決まってるんだよ! 来るぞ!』
フジワラの言う通り山の斜面に面した道路からテクニカルやガントラックが現れ、機関銃にロケット砲や無反動砲を走りながら撃ってくる。カミルはショックカノンのトリガーを引くが的が小さいうえに動きも速いから当たらない!
クソッ! シルヴィアにも機関砲――いや五〇口径(一二・七ミリ)機関銃があれば! カミルは焦りを感じてると、右隣にハンマーロックのパイロットが右肩の機関砲を撃ちながら言う。
『こっちにソルダットアントが出た! 小物は任せろ!』
「あっ、はい!」
カミルは森の中から出てきたソルダットアントが四機現れる、ガリンで嫌というほど相手にしてきた奴だ。しかも四機ともポイズンニードル付きで、シルヴィアも思わず唸る。
カミルはショックカノンを撃って先頭の一機を倒すと数秒だけイオンターボブースターを噴射して飛び越え、後ろの一機を踏み潰して左右の二機に襲いかかる。
どちらをやるか迷うがそこは経験豊富なシルヴィアに任せればいい、判断が速くて的確だ。
シルヴィアは左の一機を前足で叩き潰してそのまま残りのソルダットアントに跳びかかって仕留める、ゾイドコンボイの列に戻ると盗賊のテクニカルが大型トラックの一台に取り付こうとしてる!
「させるか!」
カミルは叫ぶがどうすればいい!? 考えるより先にシルヴィアが右前足で直接踏み潰す! カミルの右手はムズムズすような嫌な感触を感じた、銃座にいた奴は八五トンの巨体に踏み潰されてミンチになったに違いない。
「もう一台!」
カミルは躊躇いを振り払うように叫びながらもう一台のテクニカルを前足で蹴飛ばすと、テクニカルは宙を舞い、荷台の機関銃手はそれ以上に舞って固い岩場に叩き付けられた。
「次!」
カミルは次のターゲットを探して立ち止まると、無線で誰かの叫び声が響く。
『RPGィィィィーッ!!』
どこだと思った瞬間、弾ける音と同時にコックピット内が直に激しく揺さぶられる。
「うわぁっ!!」
カミルはたまらず悲鳴を上げ、たちまち警報と共にMFDに左目の上に損傷箇所が表示される。軽微だがもう少し下だったら左目を貫いてコックピットの中で炸裂して一瞬でミンチにされてたかもしれない。
カミルはゾッと背筋を凍らせながら、飛んで来た方向を見るとバックブラストの煙が漂いその近くにランチャーを持った男が全速力で走ってる。この距離なら!
「跳べ! シルヴィア!」
カミルが叫ぶとシルヴィアは吼えながらバンカーに逃げ込もうとする男に向ける跳びかかり、右前足で叩き潰す! くっ、素手で虫を踏み潰してるみたいだ! カミルは歯を食い縛って堪えながら逃げ込もうとしたバンカーにショックカノンを撃ち込む。
明らかにオーバーキルだが、帰りに体勢を立て直されたら溜まったものじゃない! ヘルガもモニター通信で言ってくる。
『カミル君、相手が歩兵でも気を付けて! どんな強力なゾイドに乗ってても、コックピットを撃ち抜かれたら終わりよ!』
『ヘルガの言う通りだ、キャノピー式だったら今頃お前はミンチだぞ。相手が生身の人間でも容赦するな、躊躇わず踏み潰せ!』
フジワラの言う通りだ、歩兵にとってゾイドは巨大な脅威だがゾイドにとって歩兵も実は厄介な相手なのかもしれない。
「たった今身を持って知ったよ……」
カミルはそう言ってシルヴィアを走らせながら次のターゲットを探す、なるべく手近な奴に絞っていけ。一人で戦ってるわけじゃないんだ、MFDを見ると地雷は粗方反応は消えたがまだIEDが残ってる可能性がある。
湖畔を横切ると難民キャンプまであと二〇キロ、するとどこかで大きな爆発音がコックピット越しでも聞こえ、カミルは聞こえた方向に回頭すると一番前を走ってるグスタフMRAP――マルティネス夫人のタルタルの近くで土煙が上がっていた。
「今のは!?」
『
フジワラの言う通り、マルティネス夫人は動じる様子もない。
『こんなのグスタフからすれば派手なクラッカーよ! だけど探知機の反応もなかったから気を付けて、あんたたちが喰らったらバラバラよ! 私より前に出ない方がいいわ!』
『俺たちは足の速さがウリだから難しい、だが言う通りにするしかない! 俺もできるだけ爆弾や地雷を処理する!』
フジワラがモニター通信でみんなに言うとコックピット内に警報が鳴る、MFDのレーダーが後方に大型ゾイドの反応を示してる。
カミルはシルヴィアをゾイドコンボイの進行方向の反対側に向けると、森の中から大型の巨大蛇型ゾイドが現れた。
『あれは……ビッグボアよ!』
ヘルガがモニター通信で叫ぶ。
セブタウンで戦ったニシキヘビ型ゾイドのレティックピュトンとよく似たブリタニア製のアナコンダ型ゾイド――ビッグボアだ! レティックピュトンが陸軍の陸戦奇襲用に対して、ビッグボアや海軍や海兵隊で運用する水陸両用強襲型だ。
巻き付き攻撃こそできないが、胴体にハリネズミの如く火器を装備してる。
数百年前の地球の戦争で使われた装甲列車のようだ! ビッグボアは止まれと言わんばかりに威嚇して胴体の多数のビーム砲や火砲、ミサイルやロケット砲をゾイドコンボイに向ける。
『止まれ! そしてゾイドやトラックから降りろ!』
外部スピーカーからパイロットの声が響くと、マルティネス夫人が無線で叫ぶ。
『全車全機止まるな! 進め! フジワラ!』
『任せろ! ヘルガ、俺についてこい! カミル!
「了解」
カミルはヘルガと分散することになったが、彼女なら大丈夫だろう。こっちにはいざという時にはオメガがいる。
いきなり分散行動することになったが、彼なら大丈夫だと信じてヘルガはフジワラのライトニングサイクスに目を向ける。
ハインツのライトニングサイクス――クリスが一八〇度反転すると背中のブースターを点火して急加速! 速い! ヘルガもリリアをスライディングターンさせて急加速させると凄まじいGで思わず悶えそうになる。
「くぅ!」
フジワラのクリスはたちまち最高速度に達したから、リリア以上にコックピット内は凄まじいGがかかってるに違いない。だがフジワラは表情一つ変えずにモニター通信越しに叫ぶ。
『砲撃来るぞ避けろ!』
リリアはマルチディスチャージャーを斜め前に向けてチャフと煙幕を噴射、レーダーロックを撹乱しながら接近。
ビッグボアは胴体の火器をクリスに向けて撃ちまくるが、それを軽やかに残像が見えるほどのスピードで全弾かわす。
『遅い遅い!』
爆風をものともせず隙間を走る抜けながらクリスは背中のパルスレーザーライフルを正確に何発も当てる。凄い! あんなに動きながら当てるなんて今の私では無理だ!
ヘルガは技量の差を感じてるとクリスはビッグボアの最小射程の内側に侵入した瞬間、大きく跳躍! 背後に回り込み、着地してすぐにスライディングターンして背中のパルスレーザーライフルを無防備な背中に撃ち込み、手痛い一撃を与えたフジワラが叫ぶ。
『今だ! 止めを刺せ!』
ヘルガは両肩のミサイルポッドを展開して赤外線ロックオン、ミサイルを一〇発を発射。
全弾ビッグボアの頭部から尾にかけて満遍なく命中して追い討ちをかけると、口腔内の歯に電磁エネルギーを集中させてビッグボアの首に狙いを定めて跳びかかった。
「エレクトリックファンガー!!」
ヘルガは叫んでコールすると同時にリリアはビッグボアの首に噛み付き、電磁エネルギーを浴びたビッグボアは断末魔の悲鳴を上げる。
装甲式キャノピーの目に当たる部分の光が消えると、事切れたかのように崩れ落ちた。
『いい腕だお姫様、無駄な動きも少ない』
『感心してる場合じゃないよフジワラ! こっちにも現れた! レティックピュトンよ!』
マルティネス夫人がモニター通信越しに叫ぶと、フジワラは舌打ちする。
『チッ! こいつは後門か!』
ヘルガはモニター通信で叫ぶ。
「カミル君!」
『オメガァァァァッ!!』
返事の代わりにカミルが叫ぶ! ゾイドコンボイ先頭の方に目をやると青白い光が見えてフジワラも驚きを隠せない様子だった。
『やはりあれが……オーガノイドの合体か』
レティックピュトンと対峙するとカミルはオメガを呼んで合体。
オメガと合体したシルヴィアのエンジン音がより甲高いものになり、青白い光を放ちながら雄叫びを上げる。
前門のレティックピュトンに後門のビッグボア、後門は倒したが逃げるのは駄目だ。
今こうしてる間にも、救援物資を待ってる人たちが待ってる! だからタルタルを先頭とするゾイドコンボイは止まれない、カミルは迷うことなく正面からレティックピュトンに跳びかかる。
「ぐっ! 凄い……」
カミルは強烈なGに苦悶の表情になる、速度計の数値が一瞬で跳ね上がる。
一撃で決めろ! カミルはシルヴィアを全速力で加速させるとレティックピュトンは一瞬、尻込みしたが口腔内のマグナムカノンを向けると同時にシルヴィアを左にずらし発砲と同時に回避する。
そこだ! 次弾装填まで二~三秒、十分だ! 頭部強制冷却システムを展開して両前足の爪にエネルギーを集中し、首もとを狙って跳びかかる。
「ストライクレーザークロー!!」
シルヴィアの右前足の爪がオメガの力によって増強され、太い首を軽々と切り落とした。
小型ゾイドならバラバラに粉砕するほどの威力だ、これならゴジュラスの首どころか胴体も真っ二つにできるかもしれない。そう考えながら着地すると、地面に違和感を感じた。
「!?」
違和感を感じたのは左後ろ足だ! 次の瞬間、シルヴィアも感じたのかヘッドスライディングの要領で姿勢を低くしながら離れると同時に爆発! 地雷!? カミルはそう感じながら気が遠くなりそうなGに晒された。
『カミル君! 大丈夫!?』
「……うん……僕は……大丈夫!」
ヘルガの声がなかったら失神していた、それほど強烈なGであと一瞬シルヴィアが跳ぶのが遅かったらバラバラに吹き飛んでたに違いない。カミルはMFDを見て損傷具合をチェックするフジワラからモニター通信が入る。
『大丈夫かカミル、損傷具合は?』
「左後ろ足――特に膝関節から下、外側のキャップ三ヶ所の損傷が大きい」
カミルはMFDを見ながら言うと同時にシルヴィアの左後ろにライトニングサイクスのクリスが土煙を上げながら急停止。
『そのまま動くな、見せてみろ』
フジワラはそう言いながらクリスの頭を下げる、コックピット内のフジワラが損傷箇所をチェックしてるようだが、まるで匂いを嗅いでるみたいだ。
『左後ろ足の膝関節から下、外側のキャップの損傷が大きいな……他は自己修復で何とかなるが、キャップは交換だな。メーカーはヘリックのセイバーリング社製だが安くていい質のいい社外品がある……まだ暫く動けるが、交換しないとそのうち足が分解するぞ』
『じゃあ私がカミル君の傍にいるから、難民キャンプで荷物を降ろしたらルクスに戻ってリペアショップね』
モニター通信越しのヘルガは渋い顔をする、ゾイドの維持・修理・整備・補給の費用は旅するゾイド乗り共通の悩みだ。仕事中に受けた損傷の修理費用を報酬で払ったら僅かしか残らないのがいい方で赤字になるのも珍しくない。
『ゾイド乗りってのは収入も大きいけど支出も大きいから大変だよね。難民キャンプまでもう少しだから頑張って! 荷物の積み降ろし手作業だから、あっちで手伝ってくれたら手当て付けて上乗せして渡すわ!』
マルティネス夫人は苦笑しながらも然り気無く上乗せの条件を口にしてくれた。
ビッグボア
ブリタニア連邦製の大型アナコンダ型ゾイド、レティックピュトン同様長い体を持つゾイド。こちらは水陸・強襲用・海軍の重武装型。隠密性と機動性は劣るがその分胴体に火器を多数搭載しており、どこにでも行ける装甲列車のように運用する。武装バリエーションも豊富水中での静粛性に優れるためブリタニア海軍
実は産地が異なるだけで同じ野生ゾイド、陸軍と海軍の不仲で別々で使ってることにしてる。
全長45メートル 全高6.0メートル 重量80.7トン 陸上最高速度時速140キロ 水中最高速度75ノット
武装
ブリタニア・ロイヤル・システムズ社製音波砲又はブリタニア・ロイヤル・システムズ社製35.7インチマグナムカノン
ヘレフォード・エレクトロニクス・コーポレーション社製Eシールドジェネレーター
ブリタニア・ロイヤル・システムズ社製中口径ビーム砲及び対艦ミサイルユニット
レーザーファング