ゾイド Wild flowers~風と雲と冒険と~第二期   作:尾久出麒次郎

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第一三話、その4

 その後は襲撃もなくバンゴラ国境の難民キャンプに到着し、荷物の積み降ろし作業をカミルとヘルガは手伝い、フジワラは周囲を警戒を担当してルクスに戻るとすぐにリペアショップに向かって損傷したへリックのセイバーリング社製の赤いキャップから極東のポートフューチャー社製の青いキャップに交換。

 幸いマルティネス夫人が積み降ろし手当てのおかげで赤字は何とか免れ、タルタル運輸に戻る頃には日も暮れていた。

 

 タルタル運輸の事務所に入って応接室に入るとフジワラ、ヘルガ、マルティネス夫人が仕事終わりのコーヒーを飲みながら談笑している、ヘルガはカミルを見るなり安堵した表情を見せる。

「あっ、お疲れカミル君、お金は足りた?」

「うん、積み降ろし手当てのおかげでギリギリ足りたよ」

 カミルは安堵した表情で頷くと淹れたてのコーヒーが入ったマグカップをマルティネス夫人が差し出す。

「はいお疲れさん、ヘルガから色々聞いたよ。話すことがあるからそこに座って」

「あっはい、ありがとうございます」

 カミルは熱々のコーヒーが入ったマグカップを受け取ると、マルティネス夫人に促されてソファーに座ると、向かいにマルティネス夫人が座りってその後ろにフジワラがスマートアイにタッチしたかと思えばソファーに寄り掛かる。

「あなたたち、アーカディア王国を目指して旅をしてるんだよね? カミルはマゼランから来てガリンでクーデターに遭って命からがら逃げてきたんだよね?」

「はい、他にヘルガの護衛が三人いましたけど……国境ではぐれてしまって――」

 カミルは視線をマグカップの中にある黒いコーヒーに視線を落とす、脳裏にモニター通信越しに見たハロルド、ヨハン、イヴァーナの三人の顔が思い浮かべる。

「――僕は三人にヘルガを託されたんです、必ずアーカディア王国に送り届けることを」

 カミルは決意を言葉にすると、マルティネス夫人は首を縦に小さく振る。

「君の決意はよくわかったわ、旅に危険が付き物だから……私も若い頃冒険の旅をしていたからね、三つのことをルールとして守って欲しいの……生きて冒険の旅を終えるためにね」

 マルティネス夫人は死線や修羅場を潜り抜けてきた人にしか出せない眼差しになり、人差し指を立てる。

「一つ、危険は可能な限り避けること、少しでも感じたら逃げてね……余計なことに首を突っ込むなんて愚の骨頂よ」

「俺も人のこと言えねぇが、それで命を落とした奴らを何人も見てきたからな」

 フジワラが目を伏せて補足する。カミルには言うまでもない、著名な旅人が風土病や感染症、この前のチャトウィンのようなクーデターや紛争、内戦で命を落とした者も多くいる。

 マルティネス夫人は中指を立てて手をVの字にする。

「二つ、自分を特別な人間だと思わないことね。いくら強力なゾイドに乗っていても降りてしまえば普通の人間に変わりないからね、刃物で斬られれば血が出るし、病気になれば寝込むし、銃で撃たれれば死ぬ」

「それにお前はオーガノイドにお姫様を連れている。だからそれを狙う輩が多くいることを忘れるな」

 フジワラが鋭い眼差しで補足する、まるで密かに狙ってるかのように見えたのは気のせいだろうか? そして薬指を立てた。

「三つ、何が起きても、どんなに追い詰められても、最後の瞬間まで生きることを諦めないことよ」

「特に戦場ではな、最後の瞬間まで諦めないという意志で初めて生き残れるかどうかの五分五分になる」

 フジワラはそう言うとソファーに寄り掛かるのをやめてマルティネス夫人に告げる。

「それと(あね)さん、俺はしばらくルクスを――いやムダルラを出る」

「なにやらかしたの? フジワラ」

「今朝、カミルを連れてきた帰りに死体の山を築いちまったからな。カミル、ヘルガ、お前らも出た方がいいぞ、この辺のギャングたちのお尋ね者になるのも時間の問題だ」

 フジワラの言う通りだ。今朝カミルはヘルガとギャングを複数人射殺した、もうルクスにはいられないと思いながらヘルガと顔を合わせる。

「私たちも街を出ようか」

「そうしよう。マルティネスさん、今日はありがとうございました」

 カミルも頷いてすぐにマルティネス夫人と挨拶する。

「どういたしまして、必ず生きてアーカディアに辿り着くんだよ!」

 マルティネスの言葉には力強さを感じ、モーテルに戻ってルクスを出る支度をした。

 

 

 月が綺麗な夜になるとフジワラはクリスに乗ると郊外へと向かい、途中までカミルとヘルガと一緒にルクス西の郊外に出ると、フジワラは別れを告げる。

「それじゃあ俺はそろそろここで……カミル、ヘルガ、お前らとは近いうちにまたどこかで会える気がするぜ」

 素直にそんな気がしていてカミルはモニター通信越しに頷いてお礼を言う。

『はい、ありがとうございました!』

『フジワラさんもお気をつけて!』

 セリーナ王女と瓜二つのヘルガもお礼を言うフジワラは「じゃあな」と言ってモニター通信を切り、進路を北西へと取ってライガーゼロとケーニッヒウルフから離れる。

「それじゃ行こうぜ相棒!」

 フジワラに応えるかのライトニングサイクスのクリスは甲高い声で鳴き、平原地帯を疾走する。あの二人が南エウロペ大陸まで辿り着けるだろうか? 王女を連れた旅人でしかもオーガノイドを連れてる、当然ながらそれを狙う輩もいるだろう。

 そろそろいいかもな、フジワラはクリスの速度を落として自動操縦に切り替えるとポケットからZiフォンを取り出して操作する、自動車の運転でやると自殺行為だがゾイドは生き物だ。障害物は自動で避けてくるし、場合によっては停止する。

 フジワラは顔認識アプリを起動させてこっそりスマートアイで録画しておいたヘルガの顔をダウンロードさせて、昨日のうちに動画サイトのZiPMからダウンロードしたセリーナ王女のニュース映像と照合させる。

「さぁ……あのお姫様は本物か?」

 数秒程度の時間が長く感じる。こいつの精度は本物だ。整形や双子で誤魔化すのも不可能に近い、そしてZiフォンの画面に《MATCH》と表示された。

「……やはりヘルガとセリーナ王女は同一人物か」

 フジワラは微笑む、このままあの二人を放っておくつもりはなかった。

 

 

 ガリン共和国の首都チャトウィン紛争は二四時間足らずで終わったが双方に多くの犠牲者が出ており、特にチャトウィン市内で起きた保守派による虐殺はジョエルを最高に胸糞悪い気分にさせ、凄惨な光景にアヤメリアは泣き出し、セレナは物陰で食べた物を何度も戻していた。

 それから二日、それぞれのゾイドを用いて瓦礫の撤去やトレーラーの牽引等、チャトウィンの復興の手伝いで報酬を貰い、落ち着きを取り戻したジョエルはテントの中で座り、アヤメリアとセレナに問う。

「それで、ラオの話しによればあいつらはムダルラ方面に向かったらしい。このまま追いかけるか? それともマゼランに尻尾巻いて逃げ帰るか?」

「今更戻る気ないわ! カミルを取っ捕まえるまでは! 訊きたいこと山ほどあるからね!」

 気丈なアヤメリアが言うとセレナは頭の中を妄想でいっぱいにしてるのか、興奮気味だ。

「そうそうラオの話しは凄いディープだったよね、特にソーア山で一緒に温泉入って裸で一緒のテントで一緒の寝袋で寝ちゃった話しなんて! きっと……きっと……カミルとヘルガはそれ以来毎晩ベッドの中でウェヒヒヒヒ……」

 セレナは濃厚な桃色の妄想をしてるのか涎を垂らし、鼻血をだらだらと垂らしながら女の子とは思えないほどの気持ち悪い笑い方をする。

「うわあああああセレナ、止血止血!」

 アヤメリアはあわててポケットティッシュを取りだし、セレナの鼻を押さえた。

「……次の行き先はムダルラ共和国だな、あそこもあまり治安がよろしくないし気を付けないとな、ラオも親父と絶縁してへリックに亡命しちまったし……今頃、ニューへリックシティだろうな」

 ジョエルは立ち上がる、あの後ラオは衆人環視の前で首相である父にコンパウンドボウを突きつけて、罵詈雑言を浴びせた。

 

――このクソ親父!! あんたのせいであたしもみんなも人生滅茶苦茶よ!! あんたが保守派にクーデター唆したこと、知ってるんだからね!!

 

 なんでも保守派にクーデターを唆したらしい、ラウン首相の失脚は免れないだろう。

 その後帰国する留学生やへリック人を迎えに来たネオタートルシップに乗り、もうこの国に未練も何もないと言い捨ててハウンドソルジャーと一緒にニューへリックシティへと旅立ってしまったのだ。

 のんびりしてる時間はない、すぐにでもチャトウィンを出て追いかけないと! 長い冒険の旅になりそうだし下手すればカミルの奴、次会った時にはヘルガのお腹を大きくしかねないからな。

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