ゾイド Wild flowers~風と雲と冒険と~第二期   作:尾久出麒次郎

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第一四話、その2

 ラマタウンに到着してカミルはシルヴィアを「CARRIE」とペイントされたガンタイガーでよく見ると両頬に三三八(約八・六ミリ)口径の中型機関銃を装備している。

 隣に駐機して降りるとそこでようやく顔を合わせることになった。

「初めまして、あたしはジャベリン、ジャベリン・フィッシャーよ。ジャベリンって呼んでちょうだい! この可愛い仔猫ちゃんはキャリーよ、よろしくね!」

 ジャベリン・フィッシャーは艶やかな口調でウィンクする。

 身長一八〇センチ後半の白人で背中まで長い金髪に艶やかで濃いメイクを施してるが、無駄のない鍛え抜かれた筋骨隆々で素肌にびっしりとタトゥーが彫られ、その上に前開きピンクのノースリーブを着ており、両耳には派手なイヤリングに両手には派手な指輪を身に付けていた。

「カミル・トレンメルです」

「ヘルガ・カミシロ・シュティーアです」

 それぞれ自己紹介するとジャベリンは怪訝な表情で舐め回すように見つめる。

「まぁ二人とも随分若いこと、場所を変えてお話ししましょう」

 ジャベリンに促されてラマタウンにあるメルヴィルコーヒーに行き、そこでジャベリンは単刀直入に訊いた。

「それであなたたち、見たところまだ学生でしょ? どうしてゾイドに乗って旅してるの? それにヘルガちゃん、あなたアーカディア王国のセリーナ王女にそっくりね……もしかしてあなたたち……駆・け・落・ち?」

 ジャベリンは艶やかな眼差しと微笑みで訊くとヘルガは頬を赤らめながら目を逸らし左右の人差し指の先をツンツンさせる。

「ああ……あの……駆け落ちだなんて……そんな、でもそうじゃないんですんですよ」

「ヘルガ、僕が話すよジャベリンさん実は――」

 カミルはマゼランでアーカディア王国を目指して旅するヘルガと出会い、彼女を狙うPMC崩れの盗賊を守るため冒険して一度は彼女と別れ、恋心を抱いたカミルはヘルガを追ってガリンに行って再会、クーデターに巻き込まれてヘルガを護衛してた三獣士とはぐれて二人っきりになってしまったことを話した。

「カミル君あなた……バァァァァァァッカじゃないの!? 人殺して国にいられなくなったからってこの子を追いかけるなんて!! それも上手く隠しておけばパタゴニアの学校に行けたのに! 本物の大馬鹿者の親不孝者よ!!」

 ジャベリンはテーブルを勢いよく叩いて立ち上がって大声で捲し立て、周囲の客が一斉に視線を向ける。我に返ったジャベリンは「オッホン」と咳き込んで座る。

「まっ……過ぎたことはしょうがないわ。あたしもそうだけど同じ人間として事をやって命を奪った以上、その人たちの分まで恥ずかしくない生き方をすることね」

 その人たちの分まで生きる。カミルには考えもしなかった、祖父を殺した強盗を散弾銃で射殺したあの日からもう既に直接間接問わず大勢の命を奪った、チャトウィンで助けられなかった母子の分まで生きるのか。

「その人たちの分まで……生きる」

 呟いたヘルガも例外ではない、彼女も苦い表情で腰に巻いてるデューティーベルトに下げてあるマシンピストルのホルスターストックにそっと手を触れる。

 するとジャベリンは微笑んで励ます。

「そんな暗い顔しないの……あたしもあんたたちも、覚悟してこの道に選んだでしょ? なら楽しんで行かなきゃ損よ、そ・ん」

 ジャベリンはそう言ってウィンクするとヘルガはゆっくりと微笑んで「はい」頷くと、ジャベリンも口角を上げて艶やかに微笑むと、囁くように訊く。

「と~こ~ろ~で~あなたたちの関係は? 恋人同士で付き合ってるの?」

 改めて訊かれるとカミルはドキッとする。本当ならヘルガと一線を超えてもおかしくない出来事に何度も出くわしてる。

 最初はソーア山で一緒に温泉に入り、一緒にテントで一緒の寝袋で寝た時、二度目はガリンの独立記念祭でヘルガと一緒に二人きりになった時、ルクスで一緒のベッドに入ったりしてイヴァーナさんに知られたら殺されると思わず末恐ろしくなる。

 ジャベリンの問いヘルガは仄かに頬を赤らめ、色っぽく微笑みながら頷く。

「はい、旅をしていろんな子たちと必ず会いに行くって約束を交わして……本当に会いに来てくれたのは……カミル君だけだったんです」

 そう僕だけだった、その意味を無駄にしたくない。

 そして僕自身もヘルガと約束した、必ずヘルガをアーカディア王国に送り届け、そしてヘルガを王女の身分から救い出すことを。

「僕も、ヘルガと約束したんです……必ず救い出すことを」

「あらあら、どんな約束かは訊かないことにしておくわ……ヘルガちゃんの方、何か大きな秘密を握ってそうだし知ったら長生きできそうにないわ」

 ジャベリンは両手を上げてカミルを一瞥して言うと、マグカップのコーヒーを飲むがそれは即ち、自分が長生きできないかもしれないから覚悟しておけと言ってるようにも聞こえた。

 沈黙が数秒流れる、それを破ったのはヘルガだった。

「……ところで、ジャベリンさんはどうしてあそこに?」

「端的に言うと情報収集よ、あそこにはBC兵器の地下密造工場があるのよ」

 ジャベリンの「BC兵器」という言葉にカミルは思わず背筋が凍り付き、ヘルガも戦慄して恐怖に満ちた表情になって訊く。

「BC兵器……まさか生物化学(BC)兵器?」

「そうなのよ、あそこは化学兵器の神経ガスを専門に密造してる組織の地下工場があるの……それを犯罪組織やテロリスト、反政府軍を中心に売り捌いてるわ――」

 神経ガス――つまり毒ガスだ、地球の西暦と呼ばれた時代に以前から使用されて条約でも使用が禁止されてる大量破壊兵器の一種だ。ジャベリンはポケットからZiフォンを取り出して操作する。

「――それも、凶悪な殺傷能力を持つVZガスよ。ほんの少しでも吸い込んだり皮膚に付着したりしたら最期、血管を通って一瞬で全身に行き渡って皮膚は焼け爛れ、化学反応で血液が猛毒液となって全身を激しい痙攣と激痛が襲い、血管や内蔵、神経をドロドロにジワジワと溶かされて一生分どころか来世の分の苦痛を一時間に凝縮されて死ぬわ……あたしの住んでいた町の人々はそれで死んだの」

 ジャベリンはZiフォンを見せる、画面には共通言語(Zinglish)の電子新聞記事だ。

「これ……一〇年前の新聞?」

 カミルは口にする、日付は一〇年前のもので記事には北エウロペ中部にあるベルドニア共和国ソルアニア市近郊の町ルチアという小さな町がVZガスによるテロで一〇八人が死亡、数万人がVZガスの被害を受けたと言う。

「気さくでユーモラスな町長さん、ダンディでセクシーなバーのマスター、可愛いお花屋さんのお兄さん、紅茶カフェのキュートで優しいお姉さん、綺麗で気立てのいい妻に愛おしい娘、みんなあたしを愛してくれたわ。そんな素晴らしい人たちがVZガスに苦しめられて……死んだのよ、こんな理不尽があっていいはずがないわ。生き残った罪悪感と後遺症に苦しんでる人たちが今も大勢いるの」

「確かテロ組織の首謀者はへリック海軍特殊部隊に射殺されたって聞きました」

 ヘルガが言うとジャベリンは静かな怒りを込めて頷く。

「そうよ。でも密造した組織は健在よ……あいつらは罪のない人たちの命を糧に私腹を肥やすことしか頭にないわ、だからあたしは奴らを……全力で叩き潰す!」

 最後の一言にカミルは思わずたじろぎそうになるが、聞いてしまった以上このまま彼と別れるなんてできない。バン・フライハイトだったらきっと義憤に駆られて、行動に移してただろう。

 カミルはヘルガに視線を向けると目が合うと、ヘルガの眼差しは放っておけないというものでカミルは頷く。

「ヘルガ、僕たちも一緒にやろう……放って置いたらまた犠牲が出る」

「うん、助けてくれたお礼もしてないしね。ジャベリンさん、うまく行くかわかりませんけど一緒に戦います」

 ヘルガは頷くとジャベリンは安堵して嬉しそうな表情になる。

「あらまぁ二人ともありがとう! それじゃあ今から装備の隠し場所で準備して助っ人も呼ぶからついてらっしゃい!」

 ジャベリンに促されてメルヴィルコーヒーを出るとジャベリンは道中でZiフォンを取り出して電話をかけ、艶やかな女性のような口調で話す。

「もしも~し? あたしよ、あ・た・し! フジちゃんあなた今どこにいるの? ……あら~そこからなら一時間で来れるよね?……ええっ~!? 来れないのどうして~? ……あらそう~それじゃああたしが肩代わりしたポーカーの借金、今すぐ返してちょうだい! ……つべこべ言わずに今すぐ来るか返しに来い!!」

 最後の台詞だけ低くて吼えるような声でカミルは思わずヘルガと一緒に「ビクッ!」とたじろぐ。所謂オネエと言う人は本気で怒ったりキレたりすると、屈強な男でもたじろぐほど怖いって聞いたがどうやら本当らしい。

 

 ジャベリン・フィッシャー(38)

 傭兵兼賞金稼ぎ、素肌にピンクのチョッキに金髪に金色の鎖にピアスと派手で人懐っこいオネエに見えるが目的のためなら手段は選ばないと公言している。好みのタイプは年下の可愛い男の子、本気を出すと攻撃的な本性を露にする。故郷をBC兵器で壊滅させられたため、化学兵器に対するトラウマを抱えており、毒ガスや細菌兵器には激しい憎悪を抱いている。

 搭乗機:ガンタイガー(キャリー) 武器:HM24

 一人称:あたし イメージCV:津田健次郎

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