ゾイド Wild flowers~風と雲と冒険と~第二期   作:尾久出麒次郎

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第一四話、その4

 カミルは何機目かのソルダットアントを潰すと、フジワラが叫ぶ。

『カミル! 左にレッドホーンだ! 前に向かって跳べ!』

 左!? 思わず左を向いた瞬間、目の前までレッドホーンが突撃してきて横っ腹にど突かれ、そのまま右に数十メートル突き飛ばされて転倒、そのまま砂煙を上げて地面に擦り付けられる。

「うぉわぁぁぁぁぁぁっ!!」

 今のは凄く痛い! 衝撃に耐えながらシルヴィアを立て直そうとする間、フジワラがモニター通信越しに叫ぶ。

『ヘルガ! 群がってくる敵を撃て! 立て直すカミルを援護するぞ!』

『了解!』

 ヘルガは返事と同時に追撃してくるレッドホーンは撃ち抜いて致命傷を与えると、クリスが止めを刺す。

『カミル君、大丈夫!?』

 ヘルガはモニター通信越しに心配した声を上げると「大丈夫」と言って、損傷状態をチェックしながら立ち上がらせる、ゾイド乗りというのは本当にマルチタスクを短時間の間にこなさなければならない!

 目の前の敵を相手に操縦しながら周囲の敵への警戒は勿論、指揮官の指示を聞きながらMFDに表示される情報を取捨選択しながら広い視野と頭の回転の速さが要求される。

『よし、立ったな! 損傷は?』

「軽微です!」

『よし体勢を立て直せ! おいジャベリン! まだか!?』

 フジワラが叫ぶと雑音混じりでジャベリンの返事が返ってきた。

『ちょっと急かさないでよ! せっかちな男は嫌われるわよ!』

『さっさと爆破して帰って来い! こっちはルクスのギャング連中に狙われてるんだ! アルバラードまで逃げねぇとヤバいんだよ!』

『ビービー弱音を吐くんじゃないわよ! 踏ん張りなさい! もうすぐ中央制御室なんだから……って……あらやだぁ……見つかっちゃったわ』

『なに見つかってんだこの大馬鹿野郎!!』

 ジャベリンとの無線のやり取りでフジワラが罵倒すると、ジャベリンはキレた。

『うるせぇっ!! 黙ってプランBに移せやボケェッ!!』

 野太い声が怒鳴り声が響き、危うく操縦する手元が狂いそうになってモニター越しにヘルガが「ビクッ!」と座席から飛び上がりそうになったが、かなりヤバい! 見つかったらしい。

 

 

 前後左右から突撃銃や短機関銃の銃口を向けられ、サーマルゴーグルを装着した私兵部隊長らしき男が歩み寄って来た。

「そのまま動くな、光学迷彩をしてるのはわかってる。解除して両手を頭の後ろにやれ」

「はいはいわかってるからそんな物騒な道具、下ろしなさいよ」

 ジャベリンは渋々光学迷彩を解除して、両手を頭の後ろにやる。

「どうやって見つけたのかしら?」

「以前からここを嗅ぎ回ってるのはわかっていた」

 部隊長らしき男はサーマルゴーグルを外し、バラクラバを被ってるせいで目がより鋭く見える。すると銃口むけた私兵たちをゆっくり掻き分け、アンダーボスを引き連れてシガンダが嫌らしい笑みを見せながら現れた。

「おめぇだな? 以前からここに何回も出入りして嗅ぎ回ってたのは?」

「ええそうよ……あんたたちがここで化学兵器を作ってるって聞いたからね」

 ジャベリンはシガンダを睨みながら言う、ようやく見つけたわよ! 最悪あんたを地獄に道連れにしてあげるから覚悟なさい! ジガンダはきっとこれから目を覆いたくなるような手段で自分を痛め付け、惨殺すると考えてるだろう。

「困るんだよな商売の邪魔をしてくれちゃ……VZガスを欲しがってるお客さんに迷惑がかかるし、うちの信用にも関わる」

「そのひん曲がった商売のせいで、真っ直ぐに生きてる人たちの人生壊してるの、わかってるのかしら? あんたはその商才でコンドームを売るべきだったのよ!」

「へっ……親父もお袋も兄も姉も弟も妹も、み~んな朝から晩まで安い金で働かされてその金もクソ高い税金に、クソ高い保険料という名の税金で毟り取られて絞り取られて干物のようになって死んだ……壊されるくらいなら壊すほうになった方がずっといいぜ!」

 こいつは心底腐っているがお喋りで助かったと微笑むと、遺跡全体が振動するとアンダーボスが口にする。

「なんだ? 外のゾイドが攻撃してきたのか?」

 ご明察! だがシガンダの私兵も馬鹿じゃない半分は何事かと天井を見回して残り半分と部隊長は動揺する様子もなく銃を向けている。でも砲撃じゃないのよねこれが、ジャベリンが身構えた瞬間、凄まじい振動とぶち破られる轟音と共に侵入してきた。

「な、なんだ!?」

 動揺するシガンダにアンダーボスも振り向くと、雄叫びを上げながら遺跡内にライガーゼロ・シルヴィアが高級車やクレーン車、タンクローリーを薙ぎ倒しながら殴り込み(カチコミ)してきた。

「ライガーゼロだと!?」

 さすがの部隊長も驚きを隠せず、怖じ気づいた私兵たちが悲鳴や怒号を上げながら持ってる銃を撃ちまくる。たちまち耳をつんざく警報が鳴り響いてシルヴィアが急停止するとその場で雄叫びを上げて遺跡内に反響してたまらずほぼ全員が耳を塞いだ。

 その隙がジャベリンにとって最大のチャンスとなった。銃口がライガーゼロに向いたと判断した瞬間、音も立てず跳躍した。

「おい! あの野郎が逃げたぞ!」

 ジガンダが気付いた時には既に手遅れだった、タンクの上にジャンプしたジャベリンはチェストパックから素早くソードオフ(※銃身とストックを切り落として全長を短くした違法改造)したヘリックのホームディフェンス・マニュファクチャリング社製水平二連散弾銃――HM24を取り出した。

 

 

 数十秒前。

 ジャベリンの怒号が耳の奥底まで響き渡った後、フジワラは無線越しに叫ぶ。

『カミル! 俺たちが援護する! 迷わず遺跡に殴り込め!』

「は、はい! 行くぞオメガ! シルヴィア!」

 カミルは遺跡に向かってシルヴィアを走らせる、ジャベリンが言ってたプランBとは誰かが地下工場に侵入して暴れ回れというのだ。危険はないかジャベリンに訊いたが、不敵で艶やかな笑みで言った。

 

――男は度胸、遠慮はいらないわ……派手に暴れなさい!

 

 敵ゾイドの残骸を避け、攻撃をかわし、地下工場に向かって走らせる間フジワラがヘルガに指示を飛ばす。

『ヘルガ! レーザーで目標を指示するから撃て!』

『了解!』

 クリスのレーザー目標指示装置から放たれる不可視光レーザーで敵ゾイドに照射し、ヘッドギアを被ったリリアがそれを頼りに狙いを付けて、跳びかかってきたソルダットアントを撃ち抜いて爆砕させる! さすがヘルガとフジワラさんだ!

 地下工場の入り口となって降りてるシャッターへ減速することなく、前足を閃かせる。

「ぶち破れ! シルヴィア! ストライクレーザークロー!!」 

 カミルの叫びと共にシルヴィアは高さ約二〇メートル弱のシャッターをぶち破って殴り込み! 内部の格納庫に侵入すると、内部に残ってるのは整備中のゾイドと三分の一を占める工場設備だ。

 シルヴィアは五〇口径機関銃を撃つテクニカル払い飛ばし、悲鳴を上げながら銃を乱射する私兵を容赦なく踏み潰し、組織の幹部用の高級車を撥ね飛ばしてスクラップにする。

 工場設備前で急停止して耳をつんざくような雄叫びを上げると、カミルは無線で呼び掛ける。

「ジャベリンさん! 大丈夫ですか!?」

『あたしは大丈夫よ! ちょっとの間派手に暴れてあいつらの気を引いてちょうだい! 自爆装置が作動したら警報やアナウンスが流れるからその時に脱出するのよ!』

「わかりました!」

 カミルは瞬時に工場内で動いてる重火器を搭載したテクニカルに跳びかかって勢いよく踏み潰す、ルクスの時もそうだったがカミルは五〇口径機関銃の必要性を痛感した。

 

 

 予定通りはカミルという少年はシルヴィアを駆って逃走に使われそうなゾイドを引き裂き、クレーン車やトラックをなぎ倒して、逃走しようとする高級車を幹部とその運転手ごと踏み潰し、そして工場施設を破壊して少なくない構成員や私兵を巻き込んで下敷きにする。

「可愛い顔してえげつないことするわねあの子」

 ジャベリンは独り言を呟きながら制御室に向かってるジガンダの姿が見えると、瞬時に追いかけて光学迷彩をONにしてジャンプ!

 着地した場所は完成品の保管場所らしく物流倉庫にも見える。

 シルヴィアが破壊したパレットラックから崩れ、扉が空いたコンテナから円柱状ステンレス缶が大量に転がっており、その一つが、ジャベリンの目の前にゆっくりと転がってきた。

「あら、なにかしらこれ?」

 妙に気になってステンレス缶の上のレバーを回して引くと中には野球ボールより小さいサイズでガラスの容器に封入された緑の液体がぎっしりと入っていた、警報が鳴り響く中、ジャベリンは一つ取り出してみると間違いないVZガスだ。

「やだぁ……VZガスじゃない」

「いたぞ! 撃て撃て!」

 背後から部隊長の怒号が聞こえた瞬間、慌ててVZガスの一つをポケットに入れる。

 そして散弾、拳銃弾、ライフル弾等様々な銃弾の嵐が襲ってくる! そのうちの一発が腰にある光学迷彩のバッテリーを貫いてしまった。

「ちょっとやだもう丸裸じゃない!」

 ジャベリンは悪態吐きながら光学迷彩が解除されると振り向いて後ろに向かって跳躍! 空中でレッグホルスターからサイドアームのガストン拳銃を取り出して構える。右手にガストン、左手にHM24を構えてステンレス缶に向けて全弾をぶっ放すと容器に収納されたVZガスが漏れだした。

 するとたちまち構成員や私兵、部隊長にアンダーボスが銃を落として一斉に苦しみだして呻き声を上げて阿鼻叫喚の地獄絵図となって中には苦しみから逃れようと、拳銃で自分の頭を撃ち抜く者もいた。

「もがいてもいいのよ……苦しみは、長く続かなきゃね」 

 ジャベリンはリロードしてガストン拳銃をホルスターに戻しながら言う。VZガスのガラスカプセル一個だけで半径数百メートル以内の人間を殺せるのだ、制御室に侵入するとジガンダがいた。

「くそっ……くそっ……早く……早く金を!」

 制御室の隅にある金庫を開けて現金と貴金属をボストンバッグに詰め込んでいて、その隙に音を立てないように忍び込んで中央制御室にあるパネルに一際目立つ黄色と黒の枠で囲まれた操作パネル、その内側にタイマーとガラスのカバーで覆われた赤いボタン。

 ジャベリンは躊躇うことなく操作パネルで時間を設定して躊躇うことなくカバーを開けて赤いボタンを押した瞬間、更にけたたましい警報と共に共通言語(Zinglish)のアナウンスが流れる。

 

『The self destruct sequence has been activated. Repeat, the self destruct sequence has been activated. This sequence may not be aborted.(自爆装置が作動しました。繰り返します、自爆装置が作動しました。停止することはできません)――』

 

「だ、誰だ! 自爆装置を押した奴は!?」

 気付いたジガンダが狼狽しきった表情で金ぴかに装飾されたガストン拳銃をジャベリンに向け、ジャベリンも同時にHM24を構えた。

「あたしよ……ベルドニア共和国ソルアニア市の町ルチアから来たわ!」

「なんだその町は? 行ったことないし聞いたことないし知らねぇよ!」

「一〇年前……あんたたちのVZガスで死滅した町よ! 死者一〇八人、生き残った負傷者五万人の多くが今も! ガスの後遺症や心の傷に苦しめられてるわ!」

 ジャベリンはHM24を握る手に力が入る。

「その中にはあたしの娘や妻、両親に祖父母! そしてあたしを愛し、受け入れてくれた町の人々が大勢いるわ! その瞬間まで、精一杯真っ当に生きてきた人たちの命を、人生を、愛する人を奪ったことに悔恨の念はないのかしら?」

 悔恨や罪の意識があるかを問う、だが次の瞬間にはジガンダは返事の代わりに発砲。

 ジャベリンは殺気を読み取ってあっさりとかわし、ジガンダは下卑た声を上げながら撃ちまくる。

「あるわけねぇだろ! 俺たちがやったんじゃねぇ! 客が勝手にしたこと! 知るわけねぇっ!」

「訊いたあたしが馬鹿だったわ、あんたの弾当たるわけないわ!」

「クソッ! クソッ! なんで当たらねぇんだ!」

 ジガンダは近距離で撃ちまくるが、ジャベリンはパワードスーツのアシストを受けながら銃弾をかわす。視線と引き金をかける指に銃口は勿論だが、それ以上に殺気を読めばかわすのは難しくない。

 ジャベリンはジガンダが放つ一五発以上の銃弾をかわして懐に飛び込み至近距離からHM24の銃口を拳銃を持つ右手に当てて引き金を引くと、コインを詰めた散弾をぶっ放して跡形もなく右手を吹き飛ばす。

「あああああぁぁぁぁっ!! 手がぁぁぁぁっ!! 手がぁぁぁ……た、頼む! 金なら全部やるから……なんでもするから! 助けてくれ!」

 ジガンダは醜い悲鳴を上げて尻餅付き、泣きながら必死で命乞いをする。

「あら、なんでもするのね?」

 ジャベリンはそう言うと壊れた人形のように何度も首を縦に大袈裟に振る。

「それなら――」

 ジャベリンは片膝着いて左手で無理矢理を口を顎が外れる寸前まで開ける。

「あがががが……は……はひをふふ」

「――こいつで全てを奪われた人たちの怒り、苦しみ、悲しみ、痛みを――」

 ジャベリンは艶やかな声でVZガスのガラスカプセルをポケットから取り出し、それをジガンダの口の中に押し込み、そして雄叫びを上げながら全てを込めた魂の拳を下顎に叩き込む。

「――思い知れぇぇぇーっ!!」

 ジガンダの口の中に入ったガラスカプセルは粉々に砕け、VZガスの液体がジガンダの喉の奥を通って食道や気道を溶かしながら胃腸と肺にまで到達する。

 ジガンダは想像を絶する苦痛に満ちた呻き声を上げ、目玉が飛び出す寸前まで見開きながら血涙を流して、全身をバタバタと激しく痙攣させる。

「とどめはやらないわ……存分に苦しんで地獄に墜ちなさい、さようなら」

 バタバタともがき苦しむジガンダを背にしてジャベリンは制御室を出ると、カミルの必死な声が耳に入る。

『ジャベリンさん! 僕は脱出しました! ジャベリンさんも脱出して下さい! ジャベリンさん! ジャベリンさん!』

「みんな……終わったわよ……安心して天国で暮らしてね」

 ジャベリンは両親や祖父母に友人知人、そして愛する妻と二人の娘の笑顔を思い浮かべながら立ち尽くす、鳴り響く警報やアナウンスが遠くで聞こえるような感覚に身を委ねて。

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