【完結】とある原典の霊媒作家(ゴーストライター)   作:大根ハツカ

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序 章 原作改変 Original_Hero.

 

 

 ロンドン西部、ヒースロー空港。

 神裂火織(かんざきかおり)はイギリス最大の空港に訪れていた。

 飛行機に乗る事が目的ではなく、誰かの出迎えや見送りでもない。むしろ、目的はその逆。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……まさか、永久囚人に指定されていた()が、このタイミングで脱獄するとは」

 

 彼女がそう呟くと、耳元にある携帯電話から返事が戻ってきた。電話の先にいるのはイギリス清教の最大主教(アークビショップ)、ダイアン=フォーチュン。

 

『別に不思議なことじゃないわね。あの日、クロウリーズ・ハザードによって「清教派」だけに限らず、イギリスの防衛機構は全てが停止したわ。特に、あのガキが処刑塔(ロンドンとう)で暴れた影響が大きいわね』

 

 とある事件の際、上条当麻(かみじょうとうま)はアレイスター=クロウリーの策略によって処刑塔(ロンドンとう)へ移送され、脱走の過程で様々な魔術的なアイテムを幻想殺し(イマジンブレイカー)で破壊した。

 例えば、分厚い鉄扉や鉄格子、果ては永久不滅と思われた石積みの壁までもがくり貫かれた。その中にはロンドン全体を覆う三重四色の最結界のコアもあり、とある囚人を押さえつけていた拘束具の要すら存在した。

 

「確認をします。相手は未だ生き続ける『()()』の魔術師にして、表世界にすら知名度のある()()有名作家。間違いないですね?」

『そうよ』

 

 とフォーチュンは答える。

 

『加えて言うなら、わたしという生きた魔道書の「原典(オリジン)」を作る理論を生み出したのも彼よ』

「……‼︎」

 

 このダイアン=フォーチュンはかつて実在した『黄金』の魔術師、本物のダイアン=フォーチュンそのものではない。

 その正体はローラ=スチュアート……大悪魔コロンゾンが用意したイギリスの防衛機構、形の変えた魔道書の『原典(オリジン)』。タロットカードについた見えない傷より生まれた、ダイアン=フォーチュンの再現体である。

 

「あなたを始めとした『黄金』の魔術師を再現し、防衛機能に特化した魔道書の『原典(オリジン)』を作成したのはコロンゾンでは?」

『万象の自然分解を司る悪魔が、自然に風化することのないタロットカードなんて作ろうとするわけがないでしょ』

「……」

『つまり、理論は元からあったのよ。コロンゾンは既成の魔術を悪用しただけ。()は魔術師よりも魔導師に近いそうよ。まあ、わたしは会ったことないんだけど』

 

 信じがたい話だが納得はできる。

 ()が永久囚人に指定された理由は、()が執筆した魔道書にある。魔道書を量産した上に表世界に広め、()()()()()()()()()()()男だ。科学サイドはおろか、魔術サイドの常識すら通用しない。

 

『でも、本人の戦闘力は大したことないって聞いてるわ。だからこそ、あなたよ。世界に二十人といない「聖人」。わたしには及ばないけど、あなたなら──』

 

 フォーチュンの言葉が途切れる。

 

(……? 電波……いえ、それはあり得ません)

 

 単純な電波状況の問題ではない。神裂は携帯電話で会話をしていたのではなく、その裏面に貼り付けたシール状の通信型霊装によって音を伝達していたのだ。

 通信型霊装に耳を近づけると、微かにざざざざざ、とノイズが聞こえてくる。

 つまり、術式を妨害されている。

 しかも、術者である神裂にすら一切悟らせることなく。

 

(これは……ッ⁉︎)

 

 ざざざザザザザザざざざざざざざザザザザザザザザザザざざざざざざざざざざざざざざザザザザザザザザザザザザザザザざざざざざざざざざざざざざざザザザザザざざざざざ‼︎‼︎‼︎

 次第にノイズが大きくなる。

 慌てて通信の術式を切断する。

 

 

「おー、神裂火織じゃん。本物だー」

 

 

 思考が途切れる。

 突如、後ろから声が聞こえた。

 コツコツと音を立てて青年は呑気に歩く。

 それだけだった。

 派手な登場ではなく、魔術の気配もない。

 ただ。

 声が聞こえただけ、それだけだった。

 

 ドグンッッッッ‼︎‼︎‼︎ と心臓が脈打つ。

 意味不明の恐怖で、全身が粟立つ。

 

 青年は見た目だけなら未成年の東洋人と言っても通用しそうだが、実際には百歳を超えたジジイである。

 囚人服に黒いサングラス、真っ白な髪という目立つ容姿で、神裂がその青年の接近を見逃すのはあり得ない。隠れていたにせよ、瞬間移動のような方法にせよ、脅威であることは間違いない。

 何よりも、この恐怖はなんだ⁉︎

 

「……あなたが霊媒作家(ゴーストライター)ですね?」

「えー、その呼び方まだ続いてたの? いや、別にいいけどさ。アレイスターみたいに食人鬼とか呼ばれるよりマシだし」

 

 今にも逃げ出したくなる足を抑え、油断なく相手を視界に入れる。

 手が小刻みに震えるが、警戒を怠らず七天七刀を握り締める。

 

 その青年は沢山の女性を侍らせていた。

 百人を超える女性たちは一人一人が派手な格好をしている。

 騎士を思わせる格好をした金髪の美少女、着物の上にジャンパーを着た東洋人の少女、薄い鎧を装着した金髪の剣士、ゲームキャラのようなレイピアを持った剣士、冷たい雰囲気を纏った女子高校生、霊槍を携えた女子中学生。一人ずつ特徴を述べるだけで、日が暮れてしまう。

 

 全ての女性が特殊な衣装を着ているのにも関わらず、魔術的な記号は存在しない。特殊ではあるが魔術的ではない。

 本職のメイドが日本のメイド喫茶を見た時の感想に近い。何処かコスプレのような印象を受ける。

 

「私はあなたと会ったことはありませんが、何処で私の名前を?」

「そーだね、対面したことはないよ。ぼくが一方的に知ってただけ。……いや、ぼくの弟子とは会ったことがあったんだっけ?」

「弟子……?」

「オーレンツ=トライス」

 

 青年は名前を告げた。

 神裂火織の記憶に一人の男が浮かび上がる。神裂が以前倒した魔術師の名前である。

 しかし、その魔術師との戦闘はほんの一瞬で終わっている。その上、記憶はその場にいた魔術結社「明け色の陽射し」首領、レイヴィニア=バードウェイとの戦闘に塗りつぶされている。

 率直に言って、こんな大物の弟子とは思えないような実力の魔術師であったはずだ。

 

「ぼくが直接作った弟子じゃなくて、ぼくの書いた写本越しに会話しただけの弟子なんだけどね」

「わざわざ私の前に姿を現したのは、弟子の仇打ちのためですか?」

「まさか、そんな訳ないよ。オーレンツくんは面白い子だったけど、そこまで仲良かった訳でもないしね。ぼくは原作キャラを見に来ただけさ」

 

 意味深な言葉に惑わされるな。

 異様な雰囲気に呑まれるな。

 相手はまだ何もしてない。

 魔術の片鱗も見せていない。

 ならば、魔術を使う暇すらなく相手を制圧してみせろ。

 

「……原作キャラとやらは分かりませんが、私が目的ならば既に達成されたでしょう。一刻も早く帰っていただきます」

 

 神裂もただ突っ立って、相手の話を聞いていただけではない。

 鋼糸(ワイヤー)を手繰り、魔法陣を描く。

 三次元的に描かれたのは禁糸結界(きんしけっかい)、認識を他へ移す魔術。

 即席のため、僅かな間だけ周辺数メートルを立ち入れないようにする人払いとしか働かないが、その一瞬で全てを終わらせる‼︎

 

 

 轟‼︎‼︎‼︎ と。

 音速の限界を突き破り、規格外の攻撃が放たれる。

 

 

 まさに一瞬だった。

 声すら出さず、瞬きの暇すら与えず、超音速の抜刀が霊媒作家(ゴーストライター)を斬り裂く。

 それこそは神裂火織の奥義、『唯閃』。

 全次元切断術式を有するカーテナ=オリジナルとさえ打ち合える、空間すら切断する必殺の抜刀術。

 

 『唯閃』は霊媒作家(ゴーストライター)の顔面に直撃し、細い体を大袈裟に吹き飛ばす。

 

 ……()()()()()()()()()()()

 

 

「な……ッ⁉︎」

「あーあ、せっかく手に入れたグラサンが台無しだよ。どうしてくれんのさ」

 

 のそりと青年は起き上がる。

 当然のように傷などない。それどころか、骨すら折れていない。「天使の力(テレズマ)」が篭った水翼すら両断した『唯閃』を受けてなお、当たり前のようにそこに立っている。サングラスしか気にかけていない口振りや、大袈裟に吹っ飛ばされた振る舞いも含め、遊ばれているような感覚すら覚える。

 

「一体何が……ッ⁉︎」

「きみはもう知ってるだろう? オーレンツ=トライスは不死を目指す魔術師だった。その為に作り上げたのが原典(オリジン)アーマー。『原典(オリジン)』の防御機能を人体に装備させ、人体を不滅にする魔術理論」

「それは失敗したはずですッ‼︎ 高純度の魔術知識の『汚染』は、プロの魔術師でさえチラリと見ただけで気絶しかねない代物ですよ⁉︎ そんなものを身に纏ってたらッ、外的要因の前に己の内側から滅ぼされるに決まって……ッ⁉︎⁉︎⁉︎」

 

 そこで神裂火織は気づく。

 その解は既に存在している。

 

「なら、『汚染』のない防御機能だけに特化した『原典(オリジン)』を作ればいい。ぼくの手に掛かれば、魔道書の執筆なんてちょちょいのちょいだからね」

「……『黄金』の魔術師達のオリジナルか‼︎‼︎」

 

 ダイアン=フォーチュンを始めとした、イギリスの防衛装置であった『原典(オリジン)』。防衛機能特化型であり、知識を伝達して『汚染』することのない魔道書。その原形となる理論を確立したのは目の前の彼だ。

 そこまで考え、青年を囲む女性達の正体に思い当たる。

 つまり、彼女たちもダイアン=フォーチュンと同じ。自律型の『原典(オリジン)』。彼が執筆した百を超える魔道書。

 

「さて、ネタバラシも終わったことだし、ここらできみには退場して貰おう」

「…………ッッッッ⁉︎」

 

 突如、背中から螺子が生える。

 気配なく現れたスーツ姿の女性が、そのマイナス螺子を神裂の背中に螺子込(ねじこ)んでいた。実体が無いのか、痛みはない。

 しかし、全身から力が抜けていく。

 『聖人』としての身体能力だけでなく、人として当たり前のステータスさえマイナスになる。

 

(ネジ……⁉︎ いえ、釘として考えるならば、神の子を貼り付けにした際に手足に打ち付けた聖釘……対聖人に特化した魔術……?)

「何考えてるか知らないけどさ。もしかして、ぼくの書いた本を読んだことない? マイナス螺子で螺子伏(ねじふ)せるとなれば、答えは一つに決まってるでしょ……」

 

 青年は一冊の魔道書を手に取った。

 それこそは彼が執筆(盗作)した本の一つ。

 『異世界の知識(物語)』が描かれた魔道書。

 即ち。

 

 

西()()()()著書、『()()()()()()()』盗作。『却本作り(ブックメーカー)』引用」

 

 

 神裂の記憶に残ったのはそこまでだった。

 強烈な虚脱感が彼女の意識を奪う。

 

「……思ったよりも弱かったなー。それとも、ぼくの魔術(チート)が強すぎたかな。チェインはどう思う?」

『…………』

「いやいや、ちゃんときみのお陰だと思ってるよ。流石だね、『不可視の人狼』」

『…………』

「本当だってば。ぼくの勢力(ハーレム)はみんなが最強で誇らしいよ」

 

 神裂を背後から奇襲したスーツ姿の女性は何も答えない。彼女たちは(CV)を持たない。それは彼女たちが書籍という音の無い媒体から構成されていることが関係している。

 無言の女性たちの中で、青年は独り言のように会話する。

 

「『聖人』がこの程度なら、学園都市の連中も大したことないのかなぁ。原作主人公は期待外れじゃないといいけど……」

 

 『聖人』を瞬殺した青年は、()()の瞳を輝かせて呟く。彼の手には日本行きの飛行機のチケットが握られていた。

 

 

「始めようぜ、上条当麻。ぼくはこの物語(せかい)を終わらせる。きみを主人公(ヒーロー)の座から引き摺り下ろしてやる」

 

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